トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

アールグレイ

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電話越しの彼

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「楓先輩·····」
懐かしい声が電話越しに聞こえる。
「うん、お久しぶり。今から言う事だけは必ず覚えてて」
ゆっくり諭すようにでも、安心させるように言葉を告げる楓先輩。
「分かりました」
ゴクリと唾を飲み込みその言葉を待つ。
「俺はこの世界の住人じゃないんだ。だから、安心して」
はるくんとは、また違った笑い声が電話越しに聞こえる。
「え、それって····」
私と同じってこと?中身だけ入れ替わって身体がこちらの世界のままだと言うことだ。
「今日来るんだろう?その時に話すよ」
「分かりました」
「じゃあ、切るよ。この間のカフェに居るから」
「はい、では」
ツー、ツーという音がなり、はるくんに携帯電話を返す。
「みみ、何か凄く緊張してたみたいけど上手く話せた?」
はるくんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「ありがとう、少し緊張したけど大丈夫だよ」
だけど、内心はそれどころじゃない。今楓先輩に言われたこととフグ太郎に言われたこと。その二つの話に完全に心が囚われている。
「みみ、やっぱりこの可愛い洋服にはアレンンジが必要だと思うんだ」
そう思っていた矢先、急に私の髪に触れてきて指で髪を梳いてくる。
「このままでも十分可愛いんだけど、もっと可愛くしたいからちょっと待っててくれている?」
「え、あの、はるっ」
後ろを振り返った時にはもう姿が無く、洗面台の方に向かっているであろう彼。
「お待たせしました」
「あっ、うん。大丈夫だよ」
「じゃあ髪を梳くから横向いてね」
そう言うと、はるくんは優しく私の髪に櫛を通して撫でるように髪を梳いていく。
「みみの髪の毛サラサラしてるね」
「ありがとう」
「ふふ、三つ編みするね」
と、二つに三つ編みして完成かと思うと片方ずつぐるぐる巻きピンで留める。
「触ってみて?」
「凄い、シニヨンっ!!」
「流石だね、お団子ちゃんにしようと思って」
そう言うと後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「はる?」
「みみ、約束して?」
「何を?」
「危ないことはしないこと、そして、俺を頼ること」
「はる、分かった」
「本当に?」
「うん」
「はるを頼りにしてるよ」
彼の腕に片手を乗せて優しく握る。すると、頭を擦り寄せてきてはるくんの髪の毛が当たってくすぐったい。
「俺もみみを信じてるよ、よしよし。ほら、こっち向いて」
そう言われたので、言われたとおり振りむく。
「次はこれね」
と言って、化粧水、ファンデーション、グロス、リップ、アイライナー、シャドウ、マスカラなどが入ったポーチを開ける。
「え、まさか」
全部してくれると言うのだろうか。完全に今の私は娘みたいな立ち位置にいるのではと考える。友人の結婚式に成人式や行く前に美容室の人に綺麗にお化粧されてる気分。
「可愛いくしてあげる」
そう言ってはるくんはコットンに化粧水を載せて、私の頬に優しく触れてくる。そのあと、丁寧にベースメイクを終わらせた後に派手すぎない程度に、アイシャドウ、マスカラ、チーク、口紅、グロスを塗ってくれ化粧が完成した。
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