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曖昧な事実

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「おーい、フグ太郎!!」
思ったよりも小さな声になってしまったが、クローゼットに向かって叫ぶ。
「あんな事を言ったまま、私を放置する気なの?」
それはさすがに勘弁して欲しい。なんと言うか、凄く未来に対して不安になってきたからだ。フグは幸運をもたらすとか言われてるはずなのになんて事。
「ちゃんと説明してよ」
もう一度クローゼットの扉を開けるとフグ太郎がさっきいた場所に居ない。
「ええか、嬢ちゃん」
「ひっ」
上から声が聞こえたかと思うとフグ太郎はクローゼットの上の物置にいた。
「わしはな、そんな呼んでほいほいくるもんやないねん」
「じゃあ、私に変なこと言わないでよ····」
「まぁ、ご最もやな」
「そうでしょ」
「嬢ちゃん良いな、これから一つだけ忠告や」
「何?」
「三回や、三回あんたがこの世界の遥以外の住人と触れると」
コンコンという音が聞こえる。
「はーい」
「みみー、楓に連絡するからこっちに来て」
「分かった」
「それで三回触れると?·····フグ太郎どうしたらいいの。教えて」
上を見上げると、フグ太郎はまたさっきのように固まってる。何で、さっきははるくんが来たから止まったと思ったのに。まただ。
「えっ、ちょっと。何でっ!?」
フグ太郎のキーホルダーを掴み腹を押すと目がとび出た。
「ぶっ!!」
思わず笑ってしまったけど、そんな場合ではない。やっと少しだけ、この世界についてや、さっきのはるくんの覚悟を決めるという意味。そして、昨夜届いた謎の葉書が繋がりそうな場面だと言うのに。
「フグ太郎!!しっかりして!」
何度も腹を押し目を飛びだたさせるが、フグ太郎は動かない。
「甘エビ?巻貝?生きてないフグには何が好物なのか分からない。虎模様のミドリフグちゃんー!」
仕方ない、近くにあったバッグに忍ばせて私はフグ太郎ごと部屋を出ることにした。
「はる、お待たせ」
そそくさと小走りでリビングへ向かう。
「可愛いね、このワンピース」
ふふと笑う。
「うん、このワンピース可愛いね」
何となく嫌な気持ち。はるくんが、手放しで褒めてくれないことにもやもやする。
「みみ、今保留にしてるから。ほら、話して?」
そう言われ、携帯電話を渡されドキドキしながら相手が話すのを待つ。
「ん」
はるくんが、ボタンを何故か押した。
「あっ、ありがとう!」
保留のボタンを押しっぱなしにしていたようだ。
「どういたしまして」
「もしもし、安藤です」
恐る恐る口を開く。この電話の向こうには楓先輩が居る。しかも待っててくれている。何を話そう。ただ、会いたいだけと言ったら呆れられるだろうか。それとも、笑ってくれるだろうか。そんなことを瞬時に考えながら応答を待つ。
「·····もしもし、夏野です」


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