トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

アールグレイ

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食事と彼

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「みみ、これからはもっと大切にする」
唇が離れたと同時に伝えられたその言葉。
「だから好きになって」
最後に長く角度を変えながらキスをされる。
肩と腰に腕を回して顔が近いままの状態で聞いてくる。
「今のみみに好きになって欲しい」
ぎゅっと抱きしめられた私の中で何かが始まった気がしたけれど、同時に何かが終わった。
「はるっ、離してっ」
私は楓先輩が好き。でも、流されてしまった自分も確かにここにいる。はるを両手で押し返そうとするけど駄目だった。それに嫌じゃなかった。
「こんなことすると思わなかったでしょ」
両手を持ち上げられて顔を近付けられて言葉を放つ。
「··········」
「あいつとはキスしないで」
「あいつって…」
「楓」
「俺とだけして、その代わり全部あげる」
「はる、落ち着いて」
「落ち着いてるよ、ただこれが本音なだけだよ」
「··········」
「さっきまでの威勢はどうしたの」
「はる、どうして?朝起きた時は協力してくれるって言ったのに」
「そう言わなかったらみみは俺と話す理由はあった?」
「無い…」
「でしょ、理屈的に考えてそれが一番早いと思ったんだよ」
「じゃあ、最初から会わせる気なんて」
「無かったよ」
「なっ、なんで·····そんな」
涙が零れてきた。どうしよう、どうしたらいいの。何で、何が起こってるの。分からない。
「まさかあの時会うとは誤算だった」
そのまま、腕を引かれてリビングの方へ連れて言われる。
「取り敢えず涙を拭いて」
言葉とは裏腹にティッシュで優しく涙をふき取ってくれた。
「酷いと詰ってもいいよ、後悔してないから」
「はるが後悔してなければ何してもいいの?」
何でこれは夢じゃないの。会いたい、先輩。楓先輩に会いたい。
「ある意味そうだね、みみにとってはエゴイストでしかないかもしれない」
「はる、私はあなたの気持ちがわからないことは無いけど、今の私には理解し難いよ」
再び涙が滲み机に染みを作る。
「明日、連絡を取るよ」
「え?」
予想外の展開に驚きを隠せない。声は本当に驚いていても、脳は直ぐに喜び暗黒の雨雲の中に一筋の光が入ったような気分だった。
「みみの大好きな楓先輩に」
「……」
寂しそうに目を細め子供をあやす様に頭を撫でる。男の人に頭を撫でられるのは初めてで女の人とは違う大きな手に戸惑いを覚えた。
「ご飯食べれそう?食べて欲しいな」
その場からはるくんが離れて、換気扇のゴオオオという音とガスコンロのスイッチが入る音がする。その後、何を食べたのかも覚えてないくらいに時は早く過ぎた。
「みみ、お風呂沸いたよ。先に入っておいで」
食事の後、今日あったことをぼんやり思い出しながらみみはソファに座って適当にテレビを眺めていた。
「うん、ありがとう」
立ち上がるとはるくんが私のパジャマと下着からタオルまで全て渡してくれた。
「どうかした?」
本当に悪意は無いらしく、目尻が少し下がった笑顔を向けてきて口元も柔らかく綻ぶ。
「ううん、ありがとう」
着替えを受け取りその場を去ろうとリビングから出ようとする。
「ああ、そうそう。一緒に入る?」
「なっ…」
「夫婦だからさ良いでしょう?」










    
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