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不器用な愛

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「どう?」
今は肉じゃがを作っているのだけれど、なんと言うか玉ねぎが目に染みる。
「ううう、大丈夫です」
ゴーグルが欲しい、目が…目がぁあああ!!あの名作のように視界が塞がれている。
「みみ、目を瞑って玉ねぎ切ったら危ないよ。包丁貸して」
「大丈夫だよ、ありがとう!はる」
涙が止まらない、けど頑張らなくては。さっきあんな顔させてしまって。これも出来なかったらいよいよ楓先輩のところに次連れて行ってもらえないかもしれない。挙句の果てに元の世界の私は骨折してるみたいだし、本当にさっきの話が合っているとしたらあと6日以内にもう一度会えるように頑張らないといけない。
「手が動いてないみたいだけど、本当に大丈夫?」
「あっ、はっ、はい。大丈…!!」
ピュッと玉ねぎの汁が目に飛んできた。痛い、なんだこれは。目の中で落雷が。
「みみ、ちょっと目に入ったんじゃない。大丈夫?顔洗いに行こうか」
「ごめんなさい」
「大丈夫だよ、それより早くしないと危ないからね」
その後、顔を洗って何とか目はましになったけれど自室で休むことになった。
「何で今日起きた場所にまた眠ってるの、手伝わないといけないのに」
これじゃはるくんは、主夫だよ。あー、何たる失態。楓先輩に会うどころかベッドでお布団にくるまってるなんて。
「あっ、このぬいぐるみ可愛い」
ターコイズブルとーブルーのチェックになっていて目は紫色のうさぎのぬいぐるみが枕と枕の間に置いてあった。これは私のなのかな?それともはるくんのなのかな。後で聞いてみよう。このお部屋の掛け布団の色も青でなんと言うか物凄く落ち着く。ちょうどいい硬さの枕にふかふかの掛け布団。そして小窓からの光が心地よい。今は夕方の5時くらいだからだろうか。烏のなく声と子供たちのはしゃぐ声が窓越しに聞こえてくる。少し起き上がり外の様子を窓から眺める。黄色い帽子のランドセルを背負った男の子が棒を持っている男の子に追っかけられてる。足が後ろの子の方が早いのかすぐに追いつかれてじゃれている。
「ふふっ、可愛いな」
私ももっと早く楓先輩に会いたかった。そしたらこんな風にかけっ子とかできたかもしれない。まだ好きとも言えてないし、こんな状況になるなんて微塵も考えてなかった。お母さんが知ったらきっとまたあんたって子はどうしていつもそうなのよ!って怒られるに違いない。ただでさえ、塾代も高いのに挙句の果てに事故に遭うなんて怒ってるはず。早く戻りたい。でも、さっきは本当に驚いた。夫婦だからとはいえ、私の中身と思考は高校生。動揺しない訳がない。まだはるくんに抱き締められてる感覚が抜けない。生まれて初めてだった、男の人に抱きしめられたのもあんな風に優しくされるのも。今もこうしてお布団に寝るまではるくんは部屋を出なかった。
「優しい人…」
少し眠気が襲ってきて、窓から離れベッドに戻り、私は眠りに着いた。

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