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第十六話 中学生か!
しおりを挟む涼子は鑑識課の原寒に対して、
現場の遺留品の中で、落ちていた髪の毛をすべてDNA鑑定するように依頼した。
そして丸子力也、比企万里郎の髪の毛、
警察署に保管されていた生出布崇のへその緒の鑑定と照合を依頼した。
ここで部屋の中からこれら各人のDNAがでなかったからといって、
その部屋に入らなかった証拠にはならないが、出れば少なくとも中に入った証拠にはなる。
できうるかぎり被疑者を刺激しない形であとの二人の女性被疑者、
ナウシカアーとイオカステのDNAも入手できないか、
涼子は考えを巡らせた。しかし、情報を得るためには結局鑑取りしかない。
そして鑑取りには足を使うしかない。
徹底して二人の女性の周囲で聞き込みを行うことにした。
涼子は赤と黄色とピンクの花がちりばめられた花柄のワンピースを着て
ピンク色の毛糸のポシェットを持ち、ノーメイクで霞を待った。
しばらくすると霞は黒地に銀のラメの入った女性用のゴム紐ズボンの上に、
ヒョウ柄でお腹から胸にかけて大きなヒョウの刺繍がついたたシャツを着てやってきた。
「何だお前、その格好は」
「大阪のおばちゃんのグローバルスタンダードだよ!」
霞は胸をはった。
「 いや、ここ神戸だし、そんな格好の人いないよ」
「そっちこそ、中学生か!」
霞は言い返す。
「う、うるさいな、高校生の時の私服だよ、
少しでも目立たないほうがいいかと思って。
とにかく聞き込みに行くぞ」
涼子と霞はその場で一旦分かれてバラバラに聞き込みを開始した。
「あのお伺いしたいことがあるのですが」
涼子がそう言って警察バッジを出すとそのたびに「
あら、お嬢さん高校生かと思ったわ」
と言われて、顔を赤く染めながら聞き込みを続けた。
何人か話を聞いて回っているとき、ある主婦が涼子に近づいてきて、
眉をひそめながら涼子の耳元に口を近づけていきた。
「あのね、これは本当は誰にもいいたくないんだけどね、本当は言いたくないのよ」
「はあ」
「どうしようかしら、こんな事言っちゃだめよね、
誰かに聞かれても私が言ったって絶対言っちゃだめよ、あなた以外には誰にも言った事ないんだから」
「はあ」
「やっぱりやめようかしら、どうしてもって言うならお話してもいいけど」
「無理ならいいです」
「あら、そんな事言ってないじゃない、そんなに聞きたいなら、
ここだけの話ね。来栖さんの奥様、
子供をおろしたことがあるらしいわよ、
外から見てたら夫婦仲良さそうだったけど、
実は仮面夫婦だったのかしら。そりゃあね、
あまりにも奥様とご主人の年齢が離れすぎてますものね、
絶対に財産目当てだって近所の奥様が言ってらしたわ。
ご主人、あのお年だと、
きっと他に作られたお子様も大きくなってるでしょうし、
財産相続でもめると嫌だからご主人がおろさせたのかしら。
結婚される前はご主人の会社の社長さんと連れ添っていらっしゃったんでしょ、
前のご主人が亡くなられてすぐ、次は専務さんと再婚だなんて、
ほんとうに節操の無い女だって、みんな言ってるわ。
私はそんなの個人の自由だってかばってあげたのよ。
だって遠路はるばる日本に来て、かわいそうじゃない、
自分を美人だって鼻にかけているのかもしれないけど、
美人じゃなきゃ、そんなどこの馬の骨とも分からない女が拾って貰えるわけないわよねー。
あ、私が言ってるんじゃないわよ、近所の奥さんがそう言ってたの、本当よ」
「はあ」
こちはら「はあ」と言って頷いているだけで何でも話してくれるので、
女性への聞き込みは楽だ。
しかし、嘘、誇張、紛らわしいがふんだんに混ざっていることがあるので注意が必要だ。
しばらくして霞と合流したが、
霞の方もで涼子と同じような情報を入手してきた。
霞のほうでイオカステが病院に入っていくのを
見たという証言を入手したので、涼子たちはその病院に行くことにした。
「なんか、男の身勝手で堕胎させられちゃうなんて、イオカステさんかわいそうだね」
さびしげに涼子がつぶやいた。
「まあ、男がやらせたのか、自分でやったのかわかんないけどね」
「子供が欲しいって言っていたのに、そんなはずあるわけないだろ」
「生出布崇とか丸子力也とか若いピチピチしたイケメンが周囲にいるんだよ。
種付けは若いイケメン、経済扶助は金
持ちのおっさん。最高じゃん」
平然とした顔で霞は言った。
「お前はいつもドライだねえ」
「スーパードラーイ!」
霞は叫びながらブイサインをした。
涼子はリアクションすら起こす気力もなかった。
病院に到着し、イオカステの担当になった医師に話しを伺うと、
状況は思いの外複雑だった。
実は、来栖王司がイオカステに堕胎を命じたわけではなかった。
来栖は、イオカステが妊娠したのが分かると、
妊婦の腹に針をさして羊水を採取する胎児のダウン症検査のさい採取された遺伝子を調査して、
本当に自分の子供かどうかDNA鑑定をするように要求したのである。
イオカステは一旦その要請を受け入れてDNA検査が行われたが、
その判定結果を夫に見せず、イオカステは独断で子供を堕胎してしまった。
このため、病院で激怒した来栖王司がイオカステの顔を殴打し、騒ぎになったという。
話を聞いて涼子は陰鬱な表情で肩を落とした。
「そうですか、今後の捜査に必要になるので、
その遺伝子情報を警察に提供していただけないでしょうか」
「了解しました。協力します」
医師は承諾し、遺伝子情報を提供した。
涼子はその情報を鑑識課の腹寒に渡し、
子供の父親がこちらが保有している被疑者のDNAの誰かに該当するか、調査を依頼した。
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