70 / 72
2章
19話 吉野の戦い
しおりを挟む西吉野から進軍してくる魔王軍を下市口で迎え撃つ隠者ピエールの軍隊。
「徹底的に魔王軍を叩きのめしてやるぜ!」
ゴリアテは大はしゃぎしている。
そこに、ゴリアテが名付けた中年の元王立騎士団の騎士たち、チビ、デブ、ハゲがやってきた。
「やあ、ゴリアテ、今日でもう俺達はゴリアテとは会えないかもしれないから、
本名を教えておくよ」
チビがそう言った。
「何気弱な事いってやがんだ。このゴリアテ様がいるかぎり、そんな事は絶対ありえねえよ!」
ゴリアテは言った。
チビは真剣な表情でゴリアテを見る。
「事前の打ち合わせ通り、ゴリアテは最後方に居て、俺達に霧状の蜜を噴霧しつづけてくれ。
それがエネルギー補給になる。それをしてもらえないと、俺達は本当に死ぬことになるから」
「そんな事心配してたのかよ、ダイジョブだ、まかせとけや」
ゴリアテは胸を張る。
「まあ、何だ、別にオレはチビでもいいんだが、本名も知っておいてほしいってだけなんだが」
「いいよべつに、言いてやるよ、言って見なよ」
「オレの名はエミッヒ」
チビが言った。
「オレはレオナルド」
デブが言った。
「私はジョフロワだ」
ハゲが言った。
「なんか難しい名前だなあ、そんなの覚えられないよ」
「いままで通り、チビでいいよ」
チビはニヤリと笑って言った。
「おうよ!」
ゴリアテは満面の笑みで答えた。
「おーい、ゴリアテ・サンザヴォワール!そろそろ後方に下がってくれ」
遠くから隠者ピエールが叫んだ。
「フルネームで呼ぶなよ、恥ずかしいじゃねえか!」
ゴリアテが怒鳴る。
「ははははは」
チビとデブとハゲが笑った。
ゴリアテが振り返る。
そして手を差し伸べた。
「ありがとう、あんたらはオレを生まれてはじめて人間として扱ってくれた。嬉しいぜ、
オレたち、友達だよな」
「当たり前だ!」
「友達だよ」
「これからもずっと友達だ」
チビとデブとハゲがぎゅっとゴリアテの手を握った。
「おーい、はやくー!」
ピエールが叫ぶ。
「うっせえな、わかってるよ!」
そう言ってゴリアテは駆けだした。
ゴリアテはピエールの乗っている馬の後ろのに乗って後方にひきのく。
敵の前衛はスケルトン部隊。
敵としてさほど手ごわくはなかったが、ピエールは意図的にジリジリと撤退していった。
大阿太の辺りに待機していた予備兵力が、炊事の支度をした鍋や釜や皿や食材を
ひっくり返して、ピエール軍が狼狽して撤退している姿を演出する。
そこまで撤退してきた軍と予備兵力が交代して、スケルトン軍と交戦する。
先に戦っていた部隊は後方に撤退して軽食と水の補給をする。
そこに前衛部隊が撤退してくる。
福神に駐屯していた部隊は、福神に防衛陣を構築するが、
スケルトンの後ろからアークデビルの大軍がやってくるのを見て。
「ぎゃー!」「アークデビルだー!」
と叫びながら逃げ出した。
魔王軍はその逃げる後ろを追って、
福神方面から薬水方面に進路をとった。
その姿を遠方から視認したピエールは強く拳を握りしめる。
「よし、かかったぞ!」
福神から薬水に向かう道は周囲を山に囲まれ、軍は縦に細長く進軍しなければならない。
その道が楠水で左右に大きく広がる。
そこにピエールは弓隊と魔法部隊を配置していた。
空からアークデビルの大軍が黒雲のようにせまってくる。
「閣下、攻撃命令を!」
下士官の一人が焦って叫ぶ。
「まだだ」
ピエールは制止する。
「兵士たちは生唾を飲む」
「まだ…まだだ……」
本当に、アークデビルの顔の表情が確認できるくらいまで魔王軍は接近してきた。
「打てー!」
ビエールは叫ぶ。
ピエール軍は矢を一斉射撃する。
後方の山からは大量の魔法の火の玉が飛来する。
ドドーン!
瞬く間にアークデビルの群れに魔法の火の玉と矢の雨がふりそそぐ。
アークデビルたちは蜘蛛の子を散らすように散開した。
「突撃ー!」
チビとデブがスケルトンの歩兵部隊に突っ込む。
チビとデブの猛攻で敵のスケルトン部隊が総崩れになる。
「やったぞ!」
デブが叫ぶ。
ザン!
デブのクビが中に舞う。
デスナイトが剣を横に振りぬいたのだ。
「レイナルドー!!!」
チビが叫ぶ。
「クソが!」
チビは素早くデスナイトのクビを叩き切る。
後方からデスナイトの大軍が迫りくる。
「防御陣!」
チビが叫ぶ。
槍と盾を持った部隊が前面に前進しデスナイトの攻撃を押し返そうとする。
チビは自分の体にヒール薬をぶちまけた。
「ゴリアテ!補給!」
チビが叫ぶ。
「おう!」
ゴリアテは蜜の霧を噴霧する。
「おお!出来たいじゃねえか!すげえぜ!」
チビが叫ぶ。
「あたりまえよ!」
ゴリアテが叫ぶ。
「オールヒーラー!」
ハゲが叫び、防衛隊の傷を癒す。
「発射!」
ゴリアテが蜜を発射する。
これで魔王軍との攻防は一進一退の状況となった。
「闇に滅せよ!」
遠くから叫び声が聞こえた。
黒い炎がゴリアテに向かって飛んでくる。
「う、うああああああー!」
ゴリアテが叫ぶ、
「危ない!」
ハゲがゴリアテの前に立ちはだかる。
バウッ!
ハゲの体が黒い炎に包まれる。
一瞬にしてハゲに体が白骨化した。
「はげえええええー!」
ゴリアテが叫ぶ。
「ピエール閣下!撤退してください!ここは私が守ります!」
チビが叫ぶ。
「敵は、敵はどこだ!」
ピエールは周囲を見回す。
敵の本隊がもう一つの間道、今木北方面から進軍してくる。
その先頭に敵将 クロイツ・オルフェルトがいた。
「しまった!陽動作戦だ。重坂方面に撤退する!」
ピエールが叫んだ。
ピエール軍は南に撤退を開始する。
それを追うクロイツ・オルフェルト。
「うおおおおおお!させるかあああああー!」
横合いからチビが突撃してきてクロイツ・オルフェルト
に切りかかる。
ガン!
クロイツ・オルフェルトの拳の一振りでチビは粉々に砕け散る。
それを見てピエールは立ち止る。
「ゴリアテ、逃げろ!」
ピエールは叫んだ。
「え?何いってるんだよ、お前も一緒に逃げるんだよ!」
「いままでよく付き合ってくれた。これ以上私のわがままにお前をつきあわせるわけにはいかない。
お前は逃げろ。さらばだ!」
ピエールはクロイツ・オルフェルトに向かって突進する。
ゴリアテは大きく目を見開いた。
「いやだよ!オレまた独りぼっちになっちゃうよ!独りぼっちはいやだよ!!!」
ゴリアテはピエールを追いかける。
驚いてピエールは振り返る。
「おい、なにやてる、逃げろ!」
クロイツ・オルフェルトはゴリアテに向かって手を広げる。
「闇に滅せよ!」
「あぶない!」
ビエールはゴリアテにとびついて、おおいかぶさる。
ピエールは目をつぶる。
一瞬訪れる静寂。
「あれ?」
ピエールは顔をあげた。
ピエールの前に一人の士官がたちはだかっていた。
「いままでよく頑張りましたね」
それは友内健詞だった。
「タケシ……君はタケシなのか?」
ピエールは呆然とタケシを見上げる。
「あれえ?」
クロイツ・オルフェルトはクビをかしげる。
タケシはクロイツ・オルフェルトに突進する。
「闇に滅せよ!闇に滅せよ!闇に滅せよ!闇に滅せよ!」
叫びながらクロイツ・オルフェルトは突進する。
いくつもの黒い炎がタケシにぶつかってはねかえされる。
「しねええええええええー!」
クロイツ・オルフェルトが拳をふりあげる。
バン!
タケシの突き押しでクロイツ・オルフェルトが粉々に砕け散る。
「おお!やったぜ!」
ゴリアテが喜んでたちあがる。
その時である。
ブウン!
デスナイトの剣が空を切る。
ザン!
空中に舞う生首。
ドスン!
デスナイトのクビが地上に落ちた。
「いっちょ上がり」
鋼鉄のこん棒を手に持った黒足猫が二やrと笑った。
「あっぶねー、もうちょっとで死ぬとこだったよ」
ゴリアテが目をぱちくりさせる。
「いっくぞおおおおおおー!」
ハルバードを振りかざしてオソロシアが突進する。
ズドーン!ズドーン!
あちこちに火柱があがり、アークデーモンが撃ち落とされる。
「このシャンティーリーを忘れるな!」
シャンティーリーが火炎の柱をいくつも打ち立てた。
バシュッ!バシュッ!
ボンベイがスケルトンを切り砕く。
ビュン!
矢が飛んできてピエールの頭に直撃する。
「うわっ!」
ピエールは驚いて頭に手を当てる。
「あれ、キズが全部なおっている」
「大丈夫でしたか!」
茶虎が治癒の矢を放ったのだった。
「おーいーでーまーせー!」
アメリカンカールが叫んでマジックロッドを振りかざす。
すると、そこら中に散乱したデスナイトやスケルトン、アークデビルの死体が起き上がって、
魔王軍に襲い掛かった。
これで、完全に大勢は決した。
ピエール軍は勝ったのだ。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる