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2章
12話 チビ、デブ、ハゲ
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森の中で倒した熊の解体処理はピエールの部下のハゲとチビとデブがやった。
ゴリアテは血の生臭さを嫌って手を出さなかった。
同行したプルトン騎士団のメルコとサラマンドラもまったく手を出さなかった。
当然プルトンも。
彼らがどうしてピエールと同行しようと言ったのかピエールは理解した。
プルトン騎士団は戦いは強いが雑用はしない。
殺した野獣の処理もモンスターの処理もしない。
プルトンはべらぼうに強かったが、あまりランクは上がっていない。
それは、無数の敵を倒してきていながら、ギルドへの報告が面倒で放置しているからであることが分かった。
彼らとしては自分たちはより高位のモンスターを倒せるので、そちらは楽にレベルアップが
できるからいいだとというつもりなのだろう。
ピエールの部下のハゲとデブとチビはその態度をあまり好ましく思ってない様子だが、
不審な表情でプルトン騎士団の連中を見ているとピエールが手を下に下げるジェスチャーをして
ハゲとデブとチビをなだめた。
「ふわ~あ」
サラマンドラが大あくびをした。
どうも熊退治に飽きて居ているようだ。
「もう熊とか動物相手ではあまりレベルも上がらなくなってきましたね。
もう少し上位のモンスターがいる場所に行きませんか」
プルトンが言った。
「え、ええ」
ピエールが答えた。
藤林長門から教えられた場所を踏み超えてて先に進むテンプル騎士団。
ゴツッ
「いてっ!」
サラマンドラが結界の壁にぶち当たった。
サイカギルドが初心者が踏み越えないように設定した結界だ。
「ねえ、プルトン様、これ壊していいですか」
不満そうな表情でサラマンドラが言う。
「ああ、いいぞ」
こともなげにプルトンが言った。
「あ」
ピエールは思わず声を出した。
「なにか?」
プルトンがピエールを見る。
「いいえ」
本来、結界は初心者を守るためにある。
だから、それを壊すことは初心者を危険にさらすことになるのだ。
だから、それを壊すことはやってはいけないことだ。
しかし、初心者が壊せないから結界であって、どうせサラマンドラは結界を
壊すことはできないだろう。
だから、ここでプルトン騎士団との関係を悪化させるより
静観したほうがいいとピエールは考えたのだ。
ガシャンン!
サラマンドラは結界を簡単に叩き割った。
ピエールは唖然としたが、初心者に壊せる結界なら、その先にいる
モンスターも大したことがないのだろう。
しばらく歩くがモンスターは全然出てこない。
そこから、もう少し先に行くと周囲に霧がただよってきた。
「何もいませんよ~退屈だなあ」
一番先頭を行っているサラマンドラが言った。
ピエールはゾクッと何かの気配を感じた。
何だこの圧倒的な力は。
絶望的な死の匂い。
まずい、引き返さねば全滅する!
ピエールの予感がそう言っていた。
「プルトンさん、ヤバいですよ、すごい力が迫っている」
ピエールは青ざめた表情でプルトンに言った。
プルトンは不思議そうにクビをかしげる。
「そうですか?私は何も感じませんが」
「いや、何かすごい圧倒的な力が迫っています。
ここは初心者には無理だ。引き返しましょう」
ピエールがそう言った瞬間。
ブウン!
巨大は青緑の拳がサラマンドラの頭の上から降ってきた。
「あぶない!よけろ!」
ピエールが叫ぶ。
ビュン!
サラマンドラがハンマーを横に振るう。
ゴキッツ!
鈍い音がして周囲に血の匂いが散乱する。
「ぐぎゃああああああああー!」
地を揺るがすような野太い喚き声が周囲に反響する。
生臭い息のに匂いとともに生暖かい突風が吹き荒れて、霧が吹き飛ばされた。
体調10メートルはあろうかというサイクロプスが一つ目を血走らせてこちらを
睨んでいた。
ズドーン!
サイクロプスがひっくり返る。
サイクロプスの緑色の血が周囲に川のように流れている。
いったい何が起こった?
こんなハイレベルのモンスターが初心者に倒せるわけがない。
「エナジードレイン!」
メルコがサイクロプスに向けて手を広げて叫んでいた。
分かったぞ!メルコは相手のレベルを下げるエナジードレインが使えるのだ。
それでサイクロプスのレベルを最低まで落としてサイクロプスを倒したのだ。
「エナドレとかいらないって、こんな低位のモンスター!」
サラマンドラはそう叫んで飛び上がると、サイクロプスの頭にハンマーを打ち下ろした。
サイクロプスの頭が砕け散る。
サイクロプスは死んだ。
「わりい!あんまりモンスターのレベルが低すぎて気配を感じなかった!」
サラマンドラはそう言ったが、ピエールにはそうは思えなかった。
サイクロプスはものすごく強いモンスターだ。
それがレベルが低すぎて感知できないことなどありえない。
ただ単にぼんやりしていて見逃したのを負け惜しみで言っているのだろうと
ピエールは思った。
カン!カン!カン!カン!カン!
ものすごい勢いでレベルが上がっていく。
ゴリアテは20、デブ、チビ、ハゲは10、なんと、ピエールも1レベルアップした。
ほんとうに何年ぶりのレベルアップだろう。
こんな調子でメルコとサラマンドラのコンビでこの地域に居るサイクロプスを大量に倒した。
ゴリアテのレベルは50を超え、チビ、デブ、ハゲのレベルは60を超えた。
これは、本来であれば、人間の中でも至高の存在と言われるほどのレベルアップであった。
「ねえ、プルトン様あ、こんな低位のモンスターばっかり、つまんないよ~」
サラマンドラが愚痴を言った。
「そうはいってもな、人間を同行している。これ以上のレベルの敵だと
ファイアーブレスやポイズンブレスを吐く敵が出てくる。
全体攻撃が出てくるモンスターに遭遇したら、連れている人間が全滅して私の信用が
下がってしまうではないか」
「ちぇっ」
サラマンドラがつまんなそうにソッポを向いた。
「これ、失礼ですよ、サラマンドラ」
メルコが注意する。
「はーい、ごめんなさいプルトン様」
メルコがプルトンに謝罪した。
「うむ、許そう」
プルトンは寛容に許した。
プルトンはピエールの方を見る。
「そろそろ帰りませんか、ピエールさん。これだけレベルが上がれば、
あなたのお連れの方たちも人間世界では無敵レベルでしょう。
人間相手ならこれ以上レベル上げをする必要もないはずですが」
プルトンはそう言った。
「え?あ、はい」
ピエールは少し口ごもった。
本当は、ピエールが対峙するのは人間ではないのだ。最強のモンスターなのだ。
だから、本当であればもっとレベルをあげて、最高位の100まで上げたいところだが、
プルトンの連れている魔法使いのメルコ、どれだけすごい魔導士であったとしても
すでに人間の限界を超える数のエナジードレインを打ち続けている。
おそらく、これ以上打ち続けると死んでしまうほどの消耗をしているのだろう。
プルトンはその事を知っていて、帰ろうと言っているに違いない。
「どうしました、もう少し居ますか?」
「いいえ、帰りましょう」
ピエールは答えた。
「おい、メルコ、サラマンドラ、もう帰るぞ」
プルトンは叫んだ。
それを聞いてメルコはキョトンとしてプルトンを見た。
「え?まだ準備運動にもなっていませんよ、まだ90%くらい魔法が残っているのに」
「人間を連れているのだ。無理はできない」
「ちっ」
メルコが舌打ちをした。
「どうした」
プルトンが問う。
「いえ、何でもありません」
メルコが答えた。
「おい、サラマンドラもいくぞ」
「え~、あ、は~い、プルトン様~」
サラマンドラは媚びたように言った。
あれだけの事をして、魔力も力も残っているはずがない。
主人を心配させまいと、わざとカラ元気を出しているのだと
ピエールは思った。
なんといじらしいことか。
プルトンが人間を連れてきているのだと言っている言説も、
自分たちは超人的な力を持っているのだという意味だと解釈した。
実際、サイクロプスが倒せる人間など超人としか言いようがないからだ。
ピエールはプルトン騎士団に好感を持った。
ギルドに帰ると、新しい依頼が来ていた。
これはサイカギルド全体に交付されているものであって、
キシューに構築されつづある地下売春窟の壊滅が目標であり
依頼主はキシュー王であった。
ランクは幕内以内。
ピエールのファミリアは今回のレベルアップによってギリギリサイカギルドの
幕内にすべりこむことができた。
どうやらナニワ民国の人身売買組織がキシューで人さらいをしていた下部組織を
破門にし、そのため、ナニワ民国に誘拐した女性たちを運び込むことができず、
キシューで地下売春窟を作ろうと暗躍しようとしていようであった。
そんな事が定着してしまったらキシューの治安が乱れてしまう。
そこで王が掃討作戦を開始したのだ。
しかし、既存の正規軍ではどこに地下売春窟があるのか分からない。
そのためにサイカギルドに依頼が来たのだ。
ギルドではすでに上級ファミリアが敵の組織構成員をしらべあげていた。
組の構成員は全員40歳以上。
組のシノギで食い詰めた者たちの寄せ集めのようだった。
最近は法律が厳しくなり、反社会勢力の構成員はキシューでは家も買うことができない。
そういう状況で若い者がまったく入ってこない状態になってしまっているようだった。
長年裏社会で暗躍し、スキルはかなり高い先頭集団。
しかし、殺しや抗争で活躍する場所もなく、女に売春をさせて生活の糧を得る。
彼らにとっては零落した状態であったのだろう。
年齢は高いとはいえ、ほとんどSSR以上、LRも存在するほどの組織だ。
ピエールの配下のチビ、デブ、ハゲのうち、チビはシーフのスキルを持っていた。
元近衛師団の隊員には珍しいが、実はたたき上げのレンジャー出身で、
将来忍者にクラスチェンジするためにシーフスキルを磨いていたそうだ。
敵のアジトに侵入するのにシーフのスキルは便利なので、
ピエールのファミリアが先発侵入部隊に選ばれた。
人売りに扮して、女性を売春窟に売りに行くという手筈だ。
オトリには女性では最強クラスのプルトン騎士団のサラマンドラが選ばれた。
人身売買の証明書である割符は、上級ファミリアが人さらいを捕まえて、取り上げていた。
チビがそれを受け取り、チビ、デブ、ハゲが売人、ピエールが馬車の御者に扮装して
サラマンドラを縄で縛って馬車の後ろに積み、地下売春窟の場所に向かった。
場所は事前に人売りを拷問して吐かしている。
とある郊外のレンガ作りの洋館の前で馬車は止まる。
木で作られた扉をコンコンと叩くと扉に設置された小窓が開く。
チビはそこから割符を渡す。
「よし」
扉が開いた。
デブとハゲが縄で縛られ猿ぐつわをされ、目隠しされたサラマンドラを馬車から運び出す。
「おい、割符を持ってきた奴、お前ひとりだけで中に入れ」
「オレは無理だ、足が悪くてこんな重い女ははこべん」
チビが言った。
たしかにサラマンドラは筋肉質で体が大きい。
「チッ」
門番が舌打ちをした。
「しかたねえな、とっとと入れ」
ピエールも運ぶのを手伝おうとしたが、警備の男が立ちはだかった。
「お前は入るな」
しかたなくピエールは外で待つことになった。
門を入ると、そこにはもう一つ鉄の扉があり、その両開きの扉をあげると、
その奥に開けた大広間があった。
そこの上段の会からは金持ちや貴婦人が下を見て見物している。
皆、オペラグラスを持ってチビ、デブ、ハゲを見物していた。
チビ、デブ、ハゲの前にはトマホークを担いだ巨漢の処刑人、
アラブ風の短剣を持った男、紫の服を着た魔法使いの女が立っていた。
その奥には檻に入ったアークデビルが三匹、唸り声をあげながらこちらを睨んでいる。
アラブ風の黒いひげが生えてターバンを巻いた男が前に進み出る。
「愚か者どもよ、跪いて許しを乞え。さすれば一撃で楽に死なせてやる」
「これはどういう事だ」
怪訝そうな表情でチビが言った。
「お前らは俺達の組を潰しに来たアサシンだってことはとうに知ってるんだよ。
組の組織を舐めるな。お前たちには死んでもらう」
そう言うと男はカッと目を見開いた。
「前置きはいい、さっさと来い」
チビは言った。
「なんだと、俺達は全員、上位のSSRだぞ!お前ら幕内ふぜいが話しができる相手ではない。
さっさとひれ伏せ!」
男は大声で叫ぶ。
「うるせえ、早くこい」
「ゴミの分際で、なぶり殺しにしてやる」
男は短剣を振りかざしてチビに突進する。
ザン!
チビが手刀で男のクビを吹き飛ばす。
「な!」
魔法使いの女が慌ててデブとハゲに手をかざす。
シュッ!
ハゲがナイフを投げてそれは、魔法使いの額に的確に当たる。
「うおおおおおおおおお!」
処刑忍風の屈強な筋肉質の男がデブに突進する。
ズドン!
デブの拳が筋肉質の胸部を貫く。
「ゲホッツ!」
上の階でその光景を見ていた金持ち風の連中がざわつきはじめる。
「はやく!はやくアークデビルをはなて!」
組の者たちは慌ててアークデビルが閉じ込められた扉の鍵を開く。
アークデーモンたちがそこから飛び出してチビ、デブ、ハゲに突進してくる。
デブがそこにころがっていたトマホークを拾い、アークデビルに突進する。
「はああああああーっ!」
ドスッ!
デブはアークデビルの頭を叩き割る。
チビはナイフを拾い上げ、
拳を振り下ろして来るアークデビルを素早く避けながら、アークデビルのクビを切り裂いた。
「ぐおおおおおおおー!」
アークデビルがハゲに向かって拳をふりあげる。
ハゲはアークデビルに向かって手の平を向ける。
「サンダーボルト!」
激しい電撃が飛び、アークデビルは黒焦げになった。
チビは後ろに飛びのき、サラマンドラのロープをナイフで切った、
サラマンドラは自分で目隠しと猿ぐつわをはずす。
「はあ?一匹くらいの残しといてくれよ、くそっ!」
そう言うと、自分の後ろにあった鉄の扉をガツン!と殴り倒した。
すると鉄の扉はまるで紙でできているかのようにへしゃげて吹っ飛んだ。
その向こうにあった木の扉も足で蹴破る。
「おい、おまえら、入ってこい!」
サラマンドラが声をかけると、後ろに隠れて居たギルドの連中がどっと
売春窟になだれ込込んだ。
ゴリアテは血の生臭さを嫌って手を出さなかった。
同行したプルトン騎士団のメルコとサラマンドラもまったく手を出さなかった。
当然プルトンも。
彼らがどうしてピエールと同行しようと言ったのかピエールは理解した。
プルトン騎士団は戦いは強いが雑用はしない。
殺した野獣の処理もモンスターの処理もしない。
プルトンはべらぼうに強かったが、あまりランクは上がっていない。
それは、無数の敵を倒してきていながら、ギルドへの報告が面倒で放置しているからであることが分かった。
彼らとしては自分たちはより高位のモンスターを倒せるので、そちらは楽にレベルアップが
できるからいいだとというつもりなのだろう。
ピエールの部下のハゲとデブとチビはその態度をあまり好ましく思ってない様子だが、
不審な表情でプルトン騎士団の連中を見ているとピエールが手を下に下げるジェスチャーをして
ハゲとデブとチビをなだめた。
「ふわ~あ」
サラマンドラが大あくびをした。
どうも熊退治に飽きて居ているようだ。
「もう熊とか動物相手ではあまりレベルも上がらなくなってきましたね。
もう少し上位のモンスターがいる場所に行きませんか」
プルトンが言った。
「え、ええ」
ピエールが答えた。
藤林長門から教えられた場所を踏み超えてて先に進むテンプル騎士団。
ゴツッ
「いてっ!」
サラマンドラが結界の壁にぶち当たった。
サイカギルドが初心者が踏み越えないように設定した結界だ。
「ねえ、プルトン様、これ壊していいですか」
不満そうな表情でサラマンドラが言う。
「ああ、いいぞ」
こともなげにプルトンが言った。
「あ」
ピエールは思わず声を出した。
「なにか?」
プルトンがピエールを見る。
「いいえ」
本来、結界は初心者を守るためにある。
だから、それを壊すことは初心者を危険にさらすことになるのだ。
だから、それを壊すことはやってはいけないことだ。
しかし、初心者が壊せないから結界であって、どうせサラマンドラは結界を
壊すことはできないだろう。
だから、ここでプルトン騎士団との関係を悪化させるより
静観したほうがいいとピエールは考えたのだ。
ガシャンン!
サラマンドラは結界を簡単に叩き割った。
ピエールは唖然としたが、初心者に壊せる結界なら、その先にいる
モンスターも大したことがないのだろう。
しばらく歩くがモンスターは全然出てこない。
そこから、もう少し先に行くと周囲に霧がただよってきた。
「何もいませんよ~退屈だなあ」
一番先頭を行っているサラマンドラが言った。
ピエールはゾクッと何かの気配を感じた。
何だこの圧倒的な力は。
絶望的な死の匂い。
まずい、引き返さねば全滅する!
ピエールの予感がそう言っていた。
「プルトンさん、ヤバいですよ、すごい力が迫っている」
ピエールは青ざめた表情でプルトンに言った。
プルトンは不思議そうにクビをかしげる。
「そうですか?私は何も感じませんが」
「いや、何かすごい圧倒的な力が迫っています。
ここは初心者には無理だ。引き返しましょう」
ピエールがそう言った瞬間。
ブウン!
巨大は青緑の拳がサラマンドラの頭の上から降ってきた。
「あぶない!よけろ!」
ピエールが叫ぶ。
ビュン!
サラマンドラがハンマーを横に振るう。
ゴキッツ!
鈍い音がして周囲に血の匂いが散乱する。
「ぐぎゃああああああああー!」
地を揺るがすような野太い喚き声が周囲に反響する。
生臭い息のに匂いとともに生暖かい突風が吹き荒れて、霧が吹き飛ばされた。
体調10メートルはあろうかというサイクロプスが一つ目を血走らせてこちらを
睨んでいた。
ズドーン!
サイクロプスがひっくり返る。
サイクロプスの緑色の血が周囲に川のように流れている。
いったい何が起こった?
こんなハイレベルのモンスターが初心者に倒せるわけがない。
「エナジードレイン!」
メルコがサイクロプスに向けて手を広げて叫んでいた。
分かったぞ!メルコは相手のレベルを下げるエナジードレインが使えるのだ。
それでサイクロプスのレベルを最低まで落としてサイクロプスを倒したのだ。
「エナドレとかいらないって、こんな低位のモンスター!」
サラマンドラはそう叫んで飛び上がると、サイクロプスの頭にハンマーを打ち下ろした。
サイクロプスの頭が砕け散る。
サイクロプスは死んだ。
「わりい!あんまりモンスターのレベルが低すぎて気配を感じなかった!」
サラマンドラはそう言ったが、ピエールにはそうは思えなかった。
サイクロプスはものすごく強いモンスターだ。
それがレベルが低すぎて感知できないことなどありえない。
ただ単にぼんやりしていて見逃したのを負け惜しみで言っているのだろうと
ピエールは思った。
カン!カン!カン!カン!カン!
ものすごい勢いでレベルが上がっていく。
ゴリアテは20、デブ、チビ、ハゲは10、なんと、ピエールも1レベルアップした。
ほんとうに何年ぶりのレベルアップだろう。
こんな調子でメルコとサラマンドラのコンビでこの地域に居るサイクロプスを大量に倒した。
ゴリアテのレベルは50を超え、チビ、デブ、ハゲのレベルは60を超えた。
これは、本来であれば、人間の中でも至高の存在と言われるほどのレベルアップであった。
「ねえ、プルトン様あ、こんな低位のモンスターばっかり、つまんないよ~」
サラマンドラが愚痴を言った。
「そうはいってもな、人間を同行している。これ以上のレベルの敵だと
ファイアーブレスやポイズンブレスを吐く敵が出てくる。
全体攻撃が出てくるモンスターに遭遇したら、連れている人間が全滅して私の信用が
下がってしまうではないか」
「ちぇっ」
サラマンドラがつまんなそうにソッポを向いた。
「これ、失礼ですよ、サラマンドラ」
メルコが注意する。
「はーい、ごめんなさいプルトン様」
メルコがプルトンに謝罪した。
「うむ、許そう」
プルトンは寛容に許した。
プルトンはピエールの方を見る。
「そろそろ帰りませんか、ピエールさん。これだけレベルが上がれば、
あなたのお連れの方たちも人間世界では無敵レベルでしょう。
人間相手ならこれ以上レベル上げをする必要もないはずですが」
プルトンはそう言った。
「え?あ、はい」
ピエールは少し口ごもった。
本当は、ピエールが対峙するのは人間ではないのだ。最強のモンスターなのだ。
だから、本当であればもっとレベルをあげて、最高位の100まで上げたいところだが、
プルトンの連れている魔法使いのメルコ、どれだけすごい魔導士であったとしても
すでに人間の限界を超える数のエナジードレインを打ち続けている。
おそらく、これ以上打ち続けると死んでしまうほどの消耗をしているのだろう。
プルトンはその事を知っていて、帰ろうと言っているに違いない。
「どうしました、もう少し居ますか?」
「いいえ、帰りましょう」
ピエールは答えた。
「おい、メルコ、サラマンドラ、もう帰るぞ」
プルトンは叫んだ。
それを聞いてメルコはキョトンとしてプルトンを見た。
「え?まだ準備運動にもなっていませんよ、まだ90%くらい魔法が残っているのに」
「人間を連れているのだ。無理はできない」
「ちっ」
メルコが舌打ちをした。
「どうした」
プルトンが問う。
「いえ、何でもありません」
メルコが答えた。
「おい、サラマンドラもいくぞ」
「え~、あ、は~い、プルトン様~」
サラマンドラは媚びたように言った。
あれだけの事をして、魔力も力も残っているはずがない。
主人を心配させまいと、わざとカラ元気を出しているのだと
ピエールは思った。
なんといじらしいことか。
プルトンが人間を連れてきているのだと言っている言説も、
自分たちは超人的な力を持っているのだという意味だと解釈した。
実際、サイクロプスが倒せる人間など超人としか言いようがないからだ。
ピエールはプルトン騎士団に好感を持った。
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これはサイカギルド全体に交付されているものであって、
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依頼主はキシュー王であった。
ランクは幕内以内。
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破門にし、そのため、ナニワ民国に誘拐した女性たちを運び込むことができず、
キシューで地下売春窟を作ろうと暗躍しようとしていようであった。
そんな事が定着してしまったらキシューの治安が乱れてしまう。
そこで王が掃討作戦を開始したのだ。
しかし、既存の正規軍ではどこに地下売春窟があるのか分からない。
そのためにサイカギルドに依頼が来たのだ。
ギルドではすでに上級ファミリアが敵の組織構成員をしらべあげていた。
組の構成員は全員40歳以上。
組のシノギで食い詰めた者たちの寄せ集めのようだった。
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そういう状況で若い者がまったく入ってこない状態になってしまっているようだった。
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しかし、殺しや抗争で活躍する場所もなく、女に売春をさせて生活の糧を得る。
彼らにとっては零落した状態であったのだろう。
年齢は高いとはいえ、ほとんどSSR以上、LRも存在するほどの組織だ。
ピエールの配下のチビ、デブ、ハゲのうち、チビはシーフのスキルを持っていた。
元近衛師団の隊員には珍しいが、実はたたき上げのレンジャー出身で、
将来忍者にクラスチェンジするためにシーフスキルを磨いていたそうだ。
敵のアジトに侵入するのにシーフのスキルは便利なので、
ピエールのファミリアが先発侵入部隊に選ばれた。
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人身売買の証明書である割符は、上級ファミリアが人さらいを捕まえて、取り上げていた。
チビがそれを受け取り、チビ、デブ、ハゲが売人、ピエールが馬車の御者に扮装して
サラマンドラを縄で縛って馬車の後ろに積み、地下売春窟の場所に向かった。
場所は事前に人売りを拷問して吐かしている。
とある郊外のレンガ作りの洋館の前で馬車は止まる。
木で作られた扉をコンコンと叩くと扉に設置された小窓が開く。
チビはそこから割符を渡す。
「よし」
扉が開いた。
デブとハゲが縄で縛られ猿ぐつわをされ、目隠しされたサラマンドラを馬車から運び出す。
「おい、割符を持ってきた奴、お前ひとりだけで中に入れ」
「オレは無理だ、足が悪くてこんな重い女ははこべん」
チビが言った。
たしかにサラマンドラは筋肉質で体が大きい。
「チッ」
門番が舌打ちをした。
「しかたねえな、とっとと入れ」
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「お前は入るな」
しかたなくピエールは外で待つことになった。
門を入ると、そこにはもう一つ鉄の扉があり、その両開きの扉をあげると、
その奥に開けた大広間があった。
そこの上段の会からは金持ちや貴婦人が下を見て見物している。
皆、オペラグラスを持ってチビ、デブ、ハゲを見物していた。
チビ、デブ、ハゲの前にはトマホークを担いだ巨漢の処刑人、
アラブ風の短剣を持った男、紫の服を着た魔法使いの女が立っていた。
その奥には檻に入ったアークデビルが三匹、唸り声をあげながらこちらを睨んでいる。
アラブ風の黒いひげが生えてターバンを巻いた男が前に進み出る。
「愚か者どもよ、跪いて許しを乞え。さすれば一撃で楽に死なせてやる」
「これはどういう事だ」
怪訝そうな表情でチビが言った。
「お前らは俺達の組を潰しに来たアサシンだってことはとうに知ってるんだよ。
組の組織を舐めるな。お前たちには死んでもらう」
そう言うと男はカッと目を見開いた。
「前置きはいい、さっさと来い」
チビは言った。
「なんだと、俺達は全員、上位のSSRだぞ!お前ら幕内ふぜいが話しができる相手ではない。
さっさとひれ伏せ!」
男は大声で叫ぶ。
「うるせえ、早くこい」
「ゴミの分際で、なぶり殺しにしてやる」
男は短剣を振りかざしてチビに突進する。
ザン!
チビが手刀で男のクビを吹き飛ばす。
「な!」
魔法使いの女が慌ててデブとハゲに手をかざす。
シュッ!
ハゲがナイフを投げてそれは、魔法使いの額に的確に当たる。
「うおおおおおおおおお!」
処刑忍風の屈強な筋肉質の男がデブに突進する。
ズドン!
デブの拳が筋肉質の胸部を貫く。
「ゲホッツ!」
上の階でその光景を見ていた金持ち風の連中がざわつきはじめる。
「はやく!はやくアークデビルをはなて!」
組の者たちは慌ててアークデビルが閉じ込められた扉の鍵を開く。
アークデーモンたちがそこから飛び出してチビ、デブ、ハゲに突進してくる。
デブがそこにころがっていたトマホークを拾い、アークデビルに突進する。
「はああああああーっ!」
ドスッ!
デブはアークデビルの頭を叩き割る。
チビはナイフを拾い上げ、
拳を振り下ろして来るアークデビルを素早く避けながら、アークデビルのクビを切り裂いた。
「ぐおおおおおおおー!」
アークデビルがハゲに向かって拳をふりあげる。
ハゲはアークデビルに向かって手の平を向ける。
「サンダーボルト!」
激しい電撃が飛び、アークデビルは黒焦げになった。
チビは後ろに飛びのき、サラマンドラのロープをナイフで切った、
サラマンドラは自分で目隠しと猿ぐつわをはずす。
「はあ?一匹くらいの残しといてくれよ、くそっ!」
そう言うと、自分の後ろにあった鉄の扉をガツン!と殴り倒した。
すると鉄の扉はまるで紙でできているかのようにへしゃげて吹っ飛んだ。
その向こうにあった木の扉も足で蹴破る。
「おい、おまえら、入ってこい!」
サラマンドラが声をかけると、後ろに隠れて居たギルドの連中がどっと
売春窟になだれ込込んだ。
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
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取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
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24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
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本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
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※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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