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2章

9話 社会正義

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 森の中で鉄鍋を火にかけ、石虎がグツグツとキノコを煮込んでいる。

 「キノコって楽しいよね、毒キノコが入ってたら当たって死ぬから」
 鍋の中を覗き込みながら石虎が言った。

 「だね」
 藤林長門が答える。

 「何でキノコ食べて死ぬかわかる?」

 「そりゃ、毒キノコが美味しいからだよ」

 「そうだね、普通毒ってピリッと辛くて毒だって分かるけど、毒キノコは美味しい。
 だから分からない。最初から人間を殺しにかかっている。自分を食べさせて。
 まるで藤林みたい」

 「拙者は毒じゃないよ」

 「だね」

 「うん」

 藤林はいきなり刀を抜いてブウンと石虎の顔に向かって振るった。

 バサッと石虎の横髪が落ちる。

 石虎はそれを拾って火に投げ入れる。

 「マムシ来るといいね」

 藤林が言った。

 「マムシおいしいもんね」

 石虎が言った。

 次の日、寝ている石虎の近くに小さな青大将が来ていた。

 「まだちっこいね」

 石虎が青大将を覗き込む。

 「もう少し大きくなってから食べよう」

 藤林が言った。

 「そうだね」

 石虎が頷いた。

 鍋に水を入れて、念入りにたき火址を消化した上に土をかぶせて、その上に石を置いた。



 ピエールと遭遇した帰り、藤林と石虎は森で一泊してギルドに帰った。

 ギルドに帰った藤林は、手から蜜を出してピエールを昏倒させかけた事をギルドに報告した。

 これで二度目である。

 一度目は相手を昏倒させて、病院に担ぎ込ませた。それで蘇生するのに莫大な金がかかった。
 今回はピエールがふらついただけで済んだ。

 「藤林は正直だね」

 石虎が言った。

 「正直に報告しとかないと、あとでもめ事になったとき、ギルドがケツ持ちしてくれないからね」

 藤林が言った。


 藤林の報告が終わるとギルドの事務員が藤林に次ぎの仕事を告げた。

 「幕内でお客様がお待ちです」

 藤林と石虎が行くと、そこにはプルトン騎士団のハインツ・グランデが居た。

 「すまないがご主人様が飼っているペットが死んでね。埋葬してほしいんだ」

 「種類は?」
  藤林が問うた。

 「大型犬が一匹、中型犬が一匹、猫が一匹」

 「ご供養は精霊流しがいいですか?流しビナがいいですか?」

 「土葬で」

 ハインツがそう言うと藤林が眉をひそめた。

 「土葬はやっておりません。どうしてもという場合は鳥葬という形になっております」

 「土葬で」

 ハインツは繰り返した。

 「精霊流しか流しビナでお願いします。それ以外でしたら他で」

 
 「ふう」

 ハインツが短くため息をついた。

 「死者の魂を鎮魂したいとプルトン様が仰せなのです。雲散霧消してしまうのは……」

 「ではご自分で始末してください」

 「分かりました、精霊流しで」

 「はい、わかりました。ペットの御遺体を回収に参りますので、場所をご指定ください」

 「場所はこちらです」

 ハインツは地図を渡した。

 藤林は地図を受け取り、石虎と一緒に幕内を出た。

 藤林は馬車を用意して自ら馬車を引いた。

 「ねえ、鳥葬ってやったことなんだけど、何?」
 石虎が聞く。

 「死体をみじん切りにして、煮込む。そのあとすりつぶしてニワトリや牛の餌として食わせる。
 そのフンは肥料として畑に撒く。

 畑に撒いたクソから遺体の痕跡を見つけ出す魔導士もいるので、最近じゃめったにやらない。
 うちでも断ってる」

 「土葬って?」

 「素人はすぐ土葬にしろと言う。だが、山は木の根がはびこってて、掘れるもんじゃない。
 掘っても浅いと熊や山犬が掘り出して食べる事があるし、掘り返して木の根が張ってない
 柔らかい土は大雨の時に崩れて流さるし、土石流が起こったらすぐに掘り返される。
 すぐ見つかる。人数を使って掘っても
 大人数にその場所が知れるし、掘ったあとは通る人にすぐ分かるので、隠したことに
 ならない。だから絶対にやらない」


 「えーと、どっちが精霊流しで、どっちが流しビナだっけ?」

 「精霊流しはミンチにして魚の餌だ。一番安上がりだ。流しビナは、細切れにして煮込んで、
 酸で溶かして地下の下水に流す。酸で溶かすのが一番証拠が残りにくい」


 「ああ、そうか。いつも死体を粉々にした生ペーストにするのが多いのは、値段が安いんだね」

 「そうだよ」

 藤林は答えた。

 藤林はハインツに教えられた場所、農家の納屋に到着し、そこの村人に案内され、
 頭が砕かれた男二人、女一人の死体を引き取り、ファミリア直営のブタミンチ牧場に向かった。

 「なあなあ、これ楽しいやつじゃん」
 石虎が言った。

 「何が?」

 「頭パーン!って」

 「ああ」

 「吹っ飛ばしてたのしいやつ。やりたいなあ」

 「服が汚れるからだめ。飛び散った肉片拾い集めるのにどれだけ末端のNさんが
 苦労するか分かってんのか。特に暗殺の時は厳禁だ」

 「血が出ないと興奮しねえじゃん、クビの骨折ってゴキッとかさ、殺した気がしねえべさ」

 「我らのお世話をしてくださるNの皆さんのご苦労もおもんばかってこそのプロの仕事だ」

 「そんな事いって、金貨見せられたら欲かいて蜜だしてしまうくせに」

 「あ、それはごめん」

 「いや、こっちも言い過ぎた。ごめんっちょ」

 二人は後ろに3人の死体を乗せた馬車に揺られながら進んでいった。

 そこで死体を粉々に砕き、タルに入れて海に持って行って海に流した。

 いつも通り、ウマヅラハゲが沢山よってきて、肉を美味しそうにたべていた。

 帰り道、赤黒いローブをかぶった二人ずれが馬に乗ってすれ違った。

 すれ違いざまに一人が藤林の頭に手を向ける。

 「サンダーぼ……」

 パーン!

 石虎がそいつを殴り倒して、上半身が粉々に砕け散る。

 「あ~あ」
 
 肉片をいっぱい体に浴びた藤林が気だるそうに呟いた。

 「くそがっ!」
 

 もう一人が踵をかえして馬で逃げようとするが

 石虎が一頭の馬の頭を手刀で切り倒し、もう一頭の太腿にかみついて股肉をむしり取った。

 ヒヒーン!

 馬はいななきをあげてひっくりかえる。

 石虎はその頭を足で踏みつぶす。

 「ひ、ひい!」

 走って逃げようとする男のローブをひっぱって、石虎は引きずり倒す。

 暴れる男に馬乗りになって両手をおさえ、石虎はニンマリと笑いながら藤林を見る。

 「ねえ、兄タン、オデ、ごいつ殺ぢていいが?」

 「拙者はお主の兄ちゃんではない。それと、どっかに居そうなアホの怪力キャラの口真似やめろ」

 「うん、やめた」

 そう言って石虎は大口をあけた。

 「あー面倒臭いなあ」

 藤林は懐からキャラメルを出して、包み紙をとって、石虎の口にそれを放り込んだ。

 ムチャムチャ

 嬉しそうに石虎がそれを食べた。

 藤林は馬車から降りて、馬車馬の手綱を近くの木に結び付けてた。

 「さて、お主はどちらの手の者かなあ」

 「言うかボケ!」

 悪態をつく男。

 藤林は懐から針を出して、石虎に押えられている男の爪と肉の間に、ゆっくりと、
 ぐりぐりと針を刺してゆく。

 「ぐはあああああ、やめおろおおおおお!ころせせええええ!ころせえええええ!」

 男はのたうちまわる。

 「あ、ずるーい、石虎もやる~」

 うらやましそうに石虎は頬をふくらました。

 「あとでね」

 藤林は言った。

 「ああああ、ががががが、言う、言うからやめてくれ」

 「言うな!」

 男の言葉を藤林は即座に制止した。

 「はあ?」

 男は怪訝そうに藤林を見た。

 「今から拙者が言う内から正しいものだけ目を閉じろ。さすれば、
 お前は生きて帰っても雇い主の秘密を言ったことにはならぬ。
 せめてもの温情だ」
 
 男は沈黙したまま藤林を凝視した。


 「キューシュー極道会」

 男は藤林を見ている。

 「北の将軍様」

 男は藤林を見ている。

 「金持ちジャック」

 男は目をつぶる。

 ボン!

 男の頭が破裂した。

 「あ~人身売買かあ」

 藤林がつぶやいた。

 「何で、わざわざ面倒な事したの?」

 「コイツが名前を言う前に頭が破裂する魔法がかけられていたから」

 「そうなんだ、藤林っち頭いい」

 「それより、掃除しよう」

 「え~Nにやらせりゃいいじゃん」

 「たまには裏方さんの苦労を知れ。自分で掃除しろ」

 「は~い」

 石虎はしょんぼりしながら肉片を拾い集めた。

 そのうち、退屈して、死体の手の指の関節を一本ずつ折りはじめた。

 「はいはい、早く掃除する」

 「あーん」

 石虎が大きく口をあける。

 「あーもう」

 藤林は石虎の口にキャラメルを放り込んだ。

 ムチャムチャ。

 石虎は嬉しそうにした。

 藤林と石虎は二つのと馬の死体二つを馬車にのせて今来た道を引き返した。

 「プルトン騎士団は面倒臭いの殺しちゃったね。こっちはいいとばっちりだよ」

 石虎が言った。

 「そうだね」

 藤林が言った。

 「プルトン騎士団って、何で人買いの連中殺したんだろ。興味ない?」


 「興味ない」

 「あっそ」

 藤林と石虎は馬車に揺られて進んでいった。


 工場に戻ると、また肉をミンチにしてもらって、タルに入れて海にばらまいた。

 「今日はウマズラハゲさん、大喜びだね」

 「そうだね」

 石虎はうれしそうに。
 藤林は無表情に肉によってくるウマズラハゲを眺めた。

 藤林と石虎がギルドに帰ると、マゴが手招きしている。

 幕内に呼ばれた。

 幕内のテーブルとイスがあるところへ行くと、
 僧の装束の頭が丸坊主で大きな数珠をクビからかけた男が椅子に座っていた。

 「誰このハゲ」

 石虎が言った。

 「下間雷錬しもつまらいれん殿だ」

 「あ、売春屋で一番強いやつだ」

 石虎が指さして言った。

 「売春屋言うな」

 藤林がたしなめた。

 「ごめん、悪徳金融業が本職だったね」

 「悪徳言うな、庶民の味方高利息金融業と言え」

 「あ、そっか、本職はゆすりたか……」

 藤林が石虎の口をふさぐ。

 「もごもごもご」

 「今回拙僧がこちらに参ったのはほかでもない。社会正義の事である」

 「ぷっ」

 藤林が笑いをかみ殺した。

 「お前らいいかげんにしろよ」

 マゴがたしなめた。

 「本来、このキシューでは人身売買が禁止されているにも関わらず、
 公然と人さらいがまかりとおっている。このような不正は許されない」

 頼錬が胸を張っていった。

 「貴殿がナニワの鴇田でやっているのは?」

 藤林が眉をひそめる。

 「拙僧らがやっているのは慈善事業の料理組合である」

 「あっそ」

 「ところで、このキシューで無理矢理さらわれてきた婦女子を埋田や二本橋などの民家で 
 無許可で性的行為をさせておる悪徳業者は許しがたきものである。
 社会の治安のためにも、道徳を守るためにも、これら悪の組織に鉄槌をくらわせねばならぬ」

 
 拳を握りしめて頼錬は吐き出すように言った。

 頼錬の言葉にマゴは深く頷く。

 「うむうむ、商売がた……、いや、社会悪を懲らしめるために、我らも正義の運動に参加すべきだと
 思ってな。特に我らのファミリアの中でも正義感の強い二人に来てもらったという訳だ」

 マゴはそう言った。

 「特にといっても残りこの二人しかいないけどな、うちのファミリア」

 白けた顔で石虎が言った。

 
 



 

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