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2章
8話 レベル上げ研修
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ゴリアテは、手からあふれ出る蜜を直接人を殴って注入するしかできなかった。
霧状に噴射するとかできなかった。
まずは、蜜を飴玉くらいの大きさに分断してばらまいて、一度に多数に吹き付ける練習から。
飴玉一つでも喰らうと頭がクラクラして1日何も食べたくなるカロリー量だった。
噴射して蜜がカラになって、ゴリアテが好きなものを与えて。
ゴリアテはピザを食べたり漫画を読んだり、ゲームをしたり、寝たり、ケーキを食べたり、
安上がりではあったが、興味の対象がコロコロ変わって、それをいちいち集めるのが面倒だった。
ギャンブルが好きで、隊員とギャンブルをさせるのだが、弱くてすぐに負けて癇癪を
起こすと蜜が出ない。
隊員が勝ったぶんの金は回収してまたゴリアテに渡す。
外でギャンブルをしようとして抜け出そうとするが、そんな事をしたら
どうせカモにされることがわかるってるので止めた。
しばらくすると薬の禁断症状が出るので呪文のヒールやヒール薬で治癒する。
家に閉じ込めておくと、ストレスが溜まって怒鳴って暴れるので、
ピクニックに連れていったりした。
最初はピクニックを嫌がっていたが、運動をする素養はあったので、
しだいに慣れてゆき、山登りをして腹が減ったところで食べるオニギリが
美味しいと言い出して以降は自分でも進んでピクニックに行くようにした。
元々は酒とギャンブルと女浸りの生活で金が無くなると人を襲って
警察に捕まり監獄に入れられていたようだが、
人は殺さなかったのですぐに出てきていたようだ。
口で大げさな事を言っていたわりには、けっこう小物だった。
最初はずっとっピエールの部下の隊員に悪態をついていたが、
ギャンブルでわざと負けてもらうようになってからはご機嫌となり、
チビ、デブ、ハゲ、出っ歯、アゴヒゲ、などあだ名をつけて呼んでいた。
ゴリアテにはストレスを与えると蜜を出さなくなるので、
掃除、洗濯、ごはん作りなどはこれらピエールの部下がやっていた。
自分は何もしなくていいものだから、ゴリアテはしだいに
自分が特別扱いされているのだと思うようになってきて、
雑用をこなすピエールの部下を見下してバカにするようになった。
それでも、戦場では大事な空腹抑止役となることは分かっているし、
これが強欲の性格の特徴だと分かっているので、隊員も文句は言わなかった。
「おう、チビ、デブ、ハゲ、俺は軍略の天才の天才軍人なんだ。だから
隊長はオレを特別扱いしてくれるんだ。戦場ではオレが守ってやるからな、
お前ら心配するなよ」
ゴリアテは大威張りで隊員たちに言っていて。
そのうち、ゴリアテは軍事教練がやりたいと言っていたが、
負かしてストレスを与えると蜜を出さないので、格闘教練では
みんな、わざと負けてやっていた。
それが楽しいのか、ゴリアテはしだいに格闘教練ばっかりやるようになっていった。
それで蜜を沢山出すようになり、蜜を拡散する技術も向上していったので、
みんな喜んで協力していた。
そうやって、自分が一番強いと思い込むようになると、
ゴリアテは次第にギャンブルもやらなくなったし、薬も必要なくなった。
みんなでおだてて、「兄貴!兄貴!」と持ち上げてやると、調子にのるので、
みんなでチヤホヤしていやると、粗暴な行いも少なくなっていった。
ただ、隊長のピエールより自分が強いと思い込むと暴走するので、ビエールだけは、
容赦なくゴリアテを叩きのめした。
しかし、捻挫したり擦り傷があると、ピエール自らがヒール薬を塗ってやって治療してやったので、
ピエールが愛情をかけてくれていることはゴリアテも分かっているようだった。
「ピエールの兄貴!兄貴は最高だぜ!兄貴はオレを腐ったゴミ溜めから引きずりだしてくれたんだ!」
ゴリアテは食事の時、目を輝かせてピエールにそう語った。
そう言われるたびにピエールの表情は曇って作り笑いをしていた。
ただ、鈍感なゴリアテにはそれが作り笑いだと分かっていなかった。
ピエールは王を守るためにゴリアテを全滅必至の戦場に連れていこうとしている。
それが温情ではないことは自分でも分かっているだけに、ゴリアテの笑顔が辛かったのであろう。
「ピエール閣下、ゴリアテをキシューの冒険者ギルドに連れて行ってはいかがでしょう。
短期間でレベルを上げるにはそれが一番です。雑用と訓練では限度が知れています。
それに、実際にモンスターを見せておかないと本番で使い物にならないかもしれません」
ゴリアテからチビと呼ばれている軍人がピエールに提案した。
「しかし、もしモンスターとの戦闘でなにかあったら……」
ピエールは渋った。
「大丈夫ですよ、俺達が隊列を組んで守ります」
デブと呼ばれている軍人が言った。
「多少レベルが高いモンスターを相手にし、ゴリアテは一番後方に置いておけば
レベルは上がるし安全です」
ハゲと呼ばれている軍人が言った。
「うむ、時間がないし、やってみるかな」
ピエールは決断した。
それにしても奇妙な事がった。
魔王軍は、間髪入れずすぐにヤマトに攻め込んでくるかと思いきや、
ヤマトもキシューも攻めてこなかった。
特にキシューは魔王の宮殿を突き止め、偵察隊が潜入するなど
魔王側を怒らせるような事をしているのに、潜入した偵察隊を全滅させただけで
キシュー自体には報復は行っていないようであった。
ピエールにはその理由が理解できなかった。
「あ、こんにちわー」
ピエールがサイカギルドに行くと、とても腰の低い鎧の男が声をかけていた。
「はい、こんにちわ」
「実は我々、新人研修でして、レベル1を二人連れているんですが、引率が私一人なんですよね。
そちらも新人の方のレベル上げ研修だとギルドのほうでお伺いしまして、
もしよろしければ合同研修していただけませんでしょうか。もちろん、
代金はお支払いします」
「あ、いいですが、ウチは新人一人になります。愛国十字騎士団のピエールと申します」
「私どもはプルトン騎士団ともうます。私はプルトン、連れは二人で
事情があって、今庭に居ます。新人のメルコとサラマンドラです」
「そうですか、では外に出ましょう」
ピエールはそう言ってギルドの外に出た。
「こんにちわー」
「こんちわー」
メルコとサラマンドラは挨拶をする。
なぜ新人が外にいるのか、理由はすぐに分かった。
メルコは背中に巨大な鎧を背負っている。
まるで羽のような薄い鎧で、どう考えても戦闘の邪魔になる。
もう一人は真っ赤な装束でハンマーを担いでいる。
力が強そうだ。
どちらも顔に
青いマスクをかぶっている。これって前が見えるのだろうか。
ピエールは女性二人を凝視してしまった。
すると、プルトンが頭をかきながら申し訳なさそうに説明をはじめる。
「あ、この仮面ですか?これ私もかぶってますけど、中からは見える魔法仕様なんですよね。
ほら、最近キシューでは女性の誘拐とか多発してるじゃないですか、うちの子は美人なんで、
まだレベルが低くて抵抗力がないうちに盗賊とかに狙われたらまずいので」
「それは、おっしゃる通りですね」
ピエールは微笑んだ。
「おい、待ちな」
体に入れ墨を入れたイカツイ禿げ頭の男がギルドの建物から出て
コチラに走ってきて大声をあげた。
「はい、なんでしょう」
プルトンが振り返る。
「最近、ものすごい強力な吸血鬼がウチの棟梁のファミリアに討ち取られたが、
自動反撃モードに移行してために、その場に放置された。その後、誰かにその 吸血鬼が
持ち去られたんだが、まさか、そのデカい鎧の女がそれじゃないだろうな」
「何言ってるんですか、そんなわけないでしょ」
「じゃあ、その不自然な背中の鎧は何だ?吸血鬼の羽根だろ」
「違いますよ、ただの飾りです」
「じゃあ、その背中の飾り、もぎ取ってもいいよな、ただの飾りなんだから」
「やめてくださいよ、高いんだから」
「やめねえよ」
男が手を伸ばそうとする。
「やめろ!」
後ろから厳しい声がする。
禿げ頭の男は驚いて振り返った。
「こ、こりゃ、マゴの旦那!」
「この女の名前表示はメルコドラクリアだ。オレが戦った吸血鬼の名前は
ガリガリソーダだった。こいつは別人だ」
「す、すいやせん、旦那」
ハゲ頭の男はスゴスゴとその場を去った。
「迷惑かけてすまなかったな、プルトン」
「いえ、お助けいただいて助かりました。
この子たちまだレベル1ですんで、ちょっと攻撃されてもヤバいので」
「おう、大切に育てなよ」
マゴは満面の笑みを浮かべた。
そして、ピエールを見た。
「なんで、あんたみたいな最強クラスがこんな所に来てるんだい。
あんたならどっかの王国の騎士団長に応募したらすぐに受かるレベルだろ。
ちょうど兵庫で騎士団長を探してるみてえだが、よかったら就職紹介してやろうか」
「申し訳ありません。もう就職先は決まっているので。それに、今回は
新人研修です」
「そうかい、そりゃわるかったな、じゃあな」
マゴはそう言うとニコニコしながらその場を立ち去った。
最初は野犬。その次はスライム。
その次は洞窟スライム。
ゴリアテと女の子たちのレベルは面白いように上がっていった。
しかし、レベ16くらいになると急にあがらなくなる。
「もうちょっとレベルが高いところに行ってみるか」
ピエールはもうちょっと山奥にある洞窟に向かった。
洞窟の中から誰か歩いてくる。
「楽勝だったね」
「まあこの程度ならな」
それはサイカギルドの藤林長門と石虎だった。
「こんにちわ、まだモンスターは残っていますか?」
「いるけど、ドラゴンの母子は殺さないでね。
根絶やしにしたら、次に遊びにこれないから」
石虎が言った。
「分かりました」
ピエールが前に進む。
その次に御供のチビとデブとハゲが進む。
ドン!
チビとデブとハゲは見えない壁に阻まれて中に入れなかった。
「え?なんですかこれは」
チビが当惑する。
「え?」
ピエールが驚いて振り返る。
藤林が振り返る。
「ここの洞窟はサイカギルドでレベル60以上じゃないと入れないよう
結界がほどこしてあります。それ以下で入っても死ぬだけなので」
「え!?お二人とも60以上なんですか!?」
ピエールは目を丸くする。
「お前バカなの?レベル60以下じゃ忍者にクラスチェンジできないじゃん」
石虎が言った。
「これ、言葉が悪い」
「はーい」
石虎は素直に返事をした。
石虎は手を出す。
「ん?」
「素直にお返事したでしょ」
「ああ」
藤林は懐から飴玉を取り出して、石虎にあげる。
石虎はそれを口に放り込んで、ガリガリ噛み砕いた。
臼歯に飴が張り付いたのか石虎は口をあけて人指し指で
歯をほじっていた。
「この辺りに初心者に適した狩場はありますか?」
「いかほどのレベルか」
「16程度」
「う~ん」
藤林はしばし考える。
「すこしレベルは高いですがあるにはあります」
「そこをお教えいただけないでしょうか」
藤林は手の平を出す。
「ああ、失礼」
ピエールは懐から金貨を一枚だした。
藤林の手の平からじんわり蜜がにじみ出す。
ピエールは藤林の手の平の上に金貨を置く。
その時に少し手に蜜が付く。
ピエールがグラッと足をよろつかせる。
「これは失礼」
藤林が謝罪した。
「いえ、大丈夫ですよ」
笑顔でピエールは答えながら指をハンカチで拭いた。
「そのハンカチを私にください」
藤林が言った。
「どうしてですか?」
「普通の人間がその蜜に触れれば脳の血管が切れて死にます」
「それを私に対して出したのですか?」
「いえ、まさか金貨をいただけるとは思いもよらず、つい欲がでました、申し訳ない」
「いいんですよ、はい」
ピエールはハンカチを藤林に渡すと、藤林はキレイに手をハンカチで拭くと、それを
石虎に渡した。
「うま~」
石虎はそれを口の中にほうりこんで、ムチャムチャと食べた。
「こいつが居てくれて助かります」
藤林が言った。
藤林はクマノの森をピエールに紹介した。
ピエールたちが森の奥に入っていくと、巨大なヒグマがピエールに突進してきた。
ドスッ!
ピエールの拳がヒグマの腹を貫く。
「ぐおおおおおー!」
ヒグマが苦しんで転がりまわる。
「トドメを!」
ピエールが叫ぶとゴリアテとメルコがナイフで、サラマンドラがハンマーでヒグマにとどめを刺した。
霧状に噴射するとかできなかった。
まずは、蜜を飴玉くらいの大きさに分断してばらまいて、一度に多数に吹き付ける練習から。
飴玉一つでも喰らうと頭がクラクラして1日何も食べたくなるカロリー量だった。
噴射して蜜がカラになって、ゴリアテが好きなものを与えて。
ゴリアテはピザを食べたり漫画を読んだり、ゲームをしたり、寝たり、ケーキを食べたり、
安上がりではあったが、興味の対象がコロコロ変わって、それをいちいち集めるのが面倒だった。
ギャンブルが好きで、隊員とギャンブルをさせるのだが、弱くてすぐに負けて癇癪を
起こすと蜜が出ない。
隊員が勝ったぶんの金は回収してまたゴリアテに渡す。
外でギャンブルをしようとして抜け出そうとするが、そんな事をしたら
どうせカモにされることがわかるってるので止めた。
しばらくすると薬の禁断症状が出るので呪文のヒールやヒール薬で治癒する。
家に閉じ込めておくと、ストレスが溜まって怒鳴って暴れるので、
ピクニックに連れていったりした。
最初はピクニックを嫌がっていたが、運動をする素養はあったので、
しだいに慣れてゆき、山登りをして腹が減ったところで食べるオニギリが
美味しいと言い出して以降は自分でも進んでピクニックに行くようにした。
元々は酒とギャンブルと女浸りの生活で金が無くなると人を襲って
警察に捕まり監獄に入れられていたようだが、
人は殺さなかったのですぐに出てきていたようだ。
口で大げさな事を言っていたわりには、けっこう小物だった。
最初はずっとっピエールの部下の隊員に悪態をついていたが、
ギャンブルでわざと負けてもらうようになってからはご機嫌となり、
チビ、デブ、ハゲ、出っ歯、アゴヒゲ、などあだ名をつけて呼んでいた。
ゴリアテにはストレスを与えると蜜を出さなくなるので、
掃除、洗濯、ごはん作りなどはこれらピエールの部下がやっていた。
自分は何もしなくていいものだから、ゴリアテはしだいに
自分が特別扱いされているのだと思うようになってきて、
雑用をこなすピエールの部下を見下してバカにするようになった。
それでも、戦場では大事な空腹抑止役となることは分かっているし、
これが強欲の性格の特徴だと分かっているので、隊員も文句は言わなかった。
「おう、チビ、デブ、ハゲ、俺は軍略の天才の天才軍人なんだ。だから
隊長はオレを特別扱いしてくれるんだ。戦場ではオレが守ってやるからな、
お前ら心配するなよ」
ゴリアテは大威張りで隊員たちに言っていて。
そのうち、ゴリアテは軍事教練がやりたいと言っていたが、
負かしてストレスを与えると蜜を出さないので、格闘教練では
みんな、わざと負けてやっていた。
それが楽しいのか、ゴリアテはしだいに格闘教練ばっかりやるようになっていった。
それで蜜を沢山出すようになり、蜜を拡散する技術も向上していったので、
みんな喜んで協力していた。
そうやって、自分が一番強いと思い込むようになると、
ゴリアテは次第にギャンブルもやらなくなったし、薬も必要なくなった。
みんなでおだてて、「兄貴!兄貴!」と持ち上げてやると、調子にのるので、
みんなでチヤホヤしていやると、粗暴な行いも少なくなっていった。
ただ、隊長のピエールより自分が強いと思い込むと暴走するので、ビエールだけは、
容赦なくゴリアテを叩きのめした。
しかし、捻挫したり擦り傷があると、ピエール自らがヒール薬を塗ってやって治療してやったので、
ピエールが愛情をかけてくれていることはゴリアテも分かっているようだった。
「ピエールの兄貴!兄貴は最高だぜ!兄貴はオレを腐ったゴミ溜めから引きずりだしてくれたんだ!」
ゴリアテは食事の時、目を輝かせてピエールにそう語った。
そう言われるたびにピエールの表情は曇って作り笑いをしていた。
ただ、鈍感なゴリアテにはそれが作り笑いだと分かっていなかった。
ピエールは王を守るためにゴリアテを全滅必至の戦場に連れていこうとしている。
それが温情ではないことは自分でも分かっているだけに、ゴリアテの笑顔が辛かったのであろう。
「ピエール閣下、ゴリアテをキシューの冒険者ギルドに連れて行ってはいかがでしょう。
短期間でレベルを上げるにはそれが一番です。雑用と訓練では限度が知れています。
それに、実際にモンスターを見せておかないと本番で使い物にならないかもしれません」
ゴリアテからチビと呼ばれている軍人がピエールに提案した。
「しかし、もしモンスターとの戦闘でなにかあったら……」
ピエールは渋った。
「大丈夫ですよ、俺達が隊列を組んで守ります」
デブと呼ばれている軍人が言った。
「多少レベルが高いモンスターを相手にし、ゴリアテは一番後方に置いておけば
レベルは上がるし安全です」
ハゲと呼ばれている軍人が言った。
「うむ、時間がないし、やってみるかな」
ピエールは決断した。
それにしても奇妙な事がった。
魔王軍は、間髪入れずすぐにヤマトに攻め込んでくるかと思いきや、
ヤマトもキシューも攻めてこなかった。
特にキシューは魔王の宮殿を突き止め、偵察隊が潜入するなど
魔王側を怒らせるような事をしているのに、潜入した偵察隊を全滅させただけで
キシュー自体には報復は行っていないようであった。
ピエールにはその理由が理解できなかった。
「あ、こんにちわー」
ピエールがサイカギルドに行くと、とても腰の低い鎧の男が声をかけていた。
「はい、こんにちわ」
「実は我々、新人研修でして、レベル1を二人連れているんですが、引率が私一人なんですよね。
そちらも新人の方のレベル上げ研修だとギルドのほうでお伺いしまして、
もしよろしければ合同研修していただけませんでしょうか。もちろん、
代金はお支払いします」
「あ、いいですが、ウチは新人一人になります。愛国十字騎士団のピエールと申します」
「私どもはプルトン騎士団ともうます。私はプルトン、連れは二人で
事情があって、今庭に居ます。新人のメルコとサラマンドラです」
「そうですか、では外に出ましょう」
ピエールはそう言ってギルドの外に出た。
「こんにちわー」
「こんちわー」
メルコとサラマンドラは挨拶をする。
なぜ新人が外にいるのか、理由はすぐに分かった。
メルコは背中に巨大な鎧を背負っている。
まるで羽のような薄い鎧で、どう考えても戦闘の邪魔になる。
もう一人は真っ赤な装束でハンマーを担いでいる。
力が強そうだ。
どちらも顔に
青いマスクをかぶっている。これって前が見えるのだろうか。
ピエールは女性二人を凝視してしまった。
すると、プルトンが頭をかきながら申し訳なさそうに説明をはじめる。
「あ、この仮面ですか?これ私もかぶってますけど、中からは見える魔法仕様なんですよね。
ほら、最近キシューでは女性の誘拐とか多発してるじゃないですか、うちの子は美人なんで、
まだレベルが低くて抵抗力がないうちに盗賊とかに狙われたらまずいので」
「それは、おっしゃる通りですね」
ピエールは微笑んだ。
「おい、待ちな」
体に入れ墨を入れたイカツイ禿げ頭の男がギルドの建物から出て
コチラに走ってきて大声をあげた。
「はい、なんでしょう」
プルトンが振り返る。
「最近、ものすごい強力な吸血鬼がウチの棟梁のファミリアに討ち取られたが、
自動反撃モードに移行してために、その場に放置された。その後、誰かにその 吸血鬼が
持ち去られたんだが、まさか、そのデカい鎧の女がそれじゃないだろうな」
「何言ってるんですか、そんなわけないでしょ」
「じゃあ、その不自然な背中の鎧は何だ?吸血鬼の羽根だろ」
「違いますよ、ただの飾りです」
「じゃあ、その背中の飾り、もぎ取ってもいいよな、ただの飾りなんだから」
「やめてくださいよ、高いんだから」
「やめねえよ」
男が手を伸ばそうとする。
「やめろ!」
後ろから厳しい声がする。
禿げ頭の男は驚いて振り返った。
「こ、こりゃ、マゴの旦那!」
「この女の名前表示はメルコドラクリアだ。オレが戦った吸血鬼の名前は
ガリガリソーダだった。こいつは別人だ」
「す、すいやせん、旦那」
ハゲ頭の男はスゴスゴとその場を去った。
「迷惑かけてすまなかったな、プルトン」
「いえ、お助けいただいて助かりました。
この子たちまだレベル1ですんで、ちょっと攻撃されてもヤバいので」
「おう、大切に育てなよ」
マゴは満面の笑みを浮かべた。
そして、ピエールを見た。
「なんで、あんたみたいな最強クラスがこんな所に来てるんだい。
あんたならどっかの王国の騎士団長に応募したらすぐに受かるレベルだろ。
ちょうど兵庫で騎士団長を探してるみてえだが、よかったら就職紹介してやろうか」
「申し訳ありません。もう就職先は決まっているので。それに、今回は
新人研修です」
「そうかい、そりゃわるかったな、じゃあな」
マゴはそう言うとニコニコしながらその場を立ち去った。
最初は野犬。その次はスライム。
その次は洞窟スライム。
ゴリアテと女の子たちのレベルは面白いように上がっていった。
しかし、レベ16くらいになると急にあがらなくなる。
「もうちょっとレベルが高いところに行ってみるか」
ピエールはもうちょっと山奥にある洞窟に向かった。
洞窟の中から誰か歩いてくる。
「楽勝だったね」
「まあこの程度ならな」
それはサイカギルドの藤林長門と石虎だった。
「こんにちわ、まだモンスターは残っていますか?」
「いるけど、ドラゴンの母子は殺さないでね。
根絶やしにしたら、次に遊びにこれないから」
石虎が言った。
「分かりました」
ピエールが前に進む。
その次に御供のチビとデブとハゲが進む。
ドン!
チビとデブとハゲは見えない壁に阻まれて中に入れなかった。
「え?なんですかこれは」
チビが当惑する。
「え?」
ピエールが驚いて振り返る。
藤林が振り返る。
「ここの洞窟はサイカギルドでレベル60以上じゃないと入れないよう
結界がほどこしてあります。それ以下で入っても死ぬだけなので」
「え!?お二人とも60以上なんですか!?」
ピエールは目を丸くする。
「お前バカなの?レベル60以下じゃ忍者にクラスチェンジできないじゃん」
石虎が言った。
「これ、言葉が悪い」
「はーい」
石虎は素直に返事をした。
石虎は手を出す。
「ん?」
「素直にお返事したでしょ」
「ああ」
藤林は懐から飴玉を取り出して、石虎にあげる。
石虎はそれを口に放り込んで、ガリガリ噛み砕いた。
臼歯に飴が張り付いたのか石虎は口をあけて人指し指で
歯をほじっていた。
「この辺りに初心者に適した狩場はありますか?」
「いかほどのレベルか」
「16程度」
「う~ん」
藤林はしばし考える。
「すこしレベルは高いですがあるにはあります」
「そこをお教えいただけないでしょうか」
藤林は手の平を出す。
「ああ、失礼」
ピエールは懐から金貨を一枚だした。
藤林の手の平からじんわり蜜がにじみ出す。
ピエールは藤林の手の平の上に金貨を置く。
その時に少し手に蜜が付く。
ピエールがグラッと足をよろつかせる。
「これは失礼」
藤林が謝罪した。
「いえ、大丈夫ですよ」
笑顔でピエールは答えながら指をハンカチで拭いた。
「そのハンカチを私にください」
藤林が言った。
「どうしてですか?」
「普通の人間がその蜜に触れれば脳の血管が切れて死にます」
「それを私に対して出したのですか?」
「いえ、まさか金貨をいただけるとは思いもよらず、つい欲がでました、申し訳ない」
「いいんですよ、はい」
ピエールはハンカチを藤林に渡すと、藤林はキレイに手をハンカチで拭くと、それを
石虎に渡した。
「うま~」
石虎はそれを口の中にほうりこんで、ムチャムチャと食べた。
「こいつが居てくれて助かります」
藤林が言った。
藤林はクマノの森をピエールに紹介した。
ピエールたちが森の奥に入っていくと、巨大なヒグマがピエールに突進してきた。
ドスッ!
ピエールの拳がヒグマの腹を貫く。
「ぐおおおおおー!」
ヒグマが苦しんで転がりまわる。
「トドメを!」
ピエールが叫ぶとゴリアテとメルコがナイフで、サラマンドラがハンマーでヒグマにとどめを刺した。
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※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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