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2章
2話 ドスエの戦法
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南から生暖かい風が吹いてきた。
殺生石は眉をひそめた。
瘴気くさい風が吹いてきよるなあ。
「やめろ~放せ~!」
縄に縛られた覆面をかぶった男が引っ立てられてきた。
「どないしやしたんどすか」
「はい、敵の密偵かと」
「や~化け物の密偵とかモノ好きやねえ、被り物はがし」
殺生石の命令で兵士が仮面を外す。
「あら~まだ子供やないの、少年兵とかいうやつ?」
「はい、どうしましょうか」
「そやねえ、片足のクルブシを潰して、あと指をペンチで切って相手陣営の近くに捨てときなはれ」
「はっ」
兵士はペンチを取り出して少年兵の人差し指に当てる。
「やめろー!」
少年兵は叫ぶ。
「やめよし」
殺生石が制止する。
「はっ、いかがしましょうか」
「両手の親指を切りなはれ。そしたらモノが掴めんようになるさかいに。他の指はええ。時間の無駄や」
「恐れながら、何故殺さぬのですか?」
「半殺しにしといたほうが相手に経済的ダメージが与えられるやろ」
「さすがでございます」
「その程度、自分で考えな」
「恐れ入りまする」
「ぎゃー!やめろー!」
少年兵が暴れるが、ドスエの兵士は躊躇なく少年兵の両手の指を切断、足のクルブシを
ハンマーで叩き割った。
「うがああああ、痛いいいいいいい、ああああがああああああ、痛い、痛いよお」
少年兵はのたうちまわる。
「お~、お可哀そうに、可哀そうやから少しでも痛いの楽にしてさしあげますえ」
そういうと、殺生石はのたうちまわる少年兵に手をかざした。
「は~い、は~い、あなたをこんなひどい目にあわせたのは魔王軍です~。
あなたは善良で崇高なドスエ軍を陥れるために魔王軍があなたの指を切り落とし、
それをドスエ軍の仕業だと言うよう、魔王軍に命令されたのです~」
殺生石がそう言うと少年兵の表情が恍惚となる。
「あ~そうです~ボクは魔王軍に指を切り落とされました~、善良で罪もない
ドスエ軍を陥れるために、ボクは魔王軍に自作自演で指を切り落とされたのです~」
少年兵は口からヨダレをたらし、ビクン、ビクンとケイレンしながら気持ちよさそうな表情をした。
「ほほほ、やっぱりキョウタナベから南には猿しか住んでおへんのやねえ、
猿の餌付けは簡単でよろしいわ」
殺生石はそう言うとニタニタと笑った。
そこにキツネの将校が寄ってくる。
「殺生石閣下、こないな事したら、相手陣営が人権侵害や言うて、プロパガンダに
使うんやおまへんやろか」
「つこたらよろしいねん。だいたい、少年兵つことる時点で、あっちが
児童福祉法違反や。ドスエのイメージダウンをはかるために
自分とこの村の子供の指を切断して宣伝に使うた言うて、マスコミに情報ながしたら
カウンタープロパガンダになりますのや。マスコミには美人どころのメギツネあてごうて、
たっぷりハニートラップしとりますさかいに」
「や~いつもながら殺生石閣下はお人が悪うとざいますなあ」
「いえいえ、あんさんほどでは、ほほほほ」
「はははは」
キツネと殺生石は楽し気に笑った。
そこに伝令が駆けつける。
「魔王軍はウジ方面からフシミに向かって進軍中。
途中の村を襲撃中です」
「ほうかいな。そしたら魔導士部隊を二尾木幡線道路つこうて、敵の側面に回りこませて
分散隊形で村で略奪しとる魔王軍に魔弾を撃ちこみなはれ。長距迫撃砲弾で山越えでいきなはれ。
直射砲弾攻撃したらこっちの位置がバレるさかいに、あくまでも山越えでな」
「はっ、して、近隣の村には退避命令をだしまひょか」
「アホかいな、退避命令とか出したらこっちの動きがバレる。ほっときなはれ」
「はっ!」
伝令の兵士は去った。
そこにイワシミズ方面からの伝令が駆けつける。
「魔王軍の進軍を確認。近隣住民を即時退避させた。
貴君も即時近隣住民に避難命令を出されたし」
「はい、よろしゅうおたのもうします」
殺生石は伝令に笑顔で答えた。
援軍は帰ってゆく。
「近隣住民に退避命令を出したと言っておられました。放置してよろしいんどすか?」
キツネの副官が尋ねる。
「イワシミズの右佐はんは天下随一の戦上手、スキにさせといたらよろしいねん。
あんまりどこも動かんかったら相手も怪しむ」
「ほんでも、あっちが逃げて、こっちが逃げんかったら相手葉は不審に思いまへんやろか」
「戦場は常に霧の中。普通であれば情報の30%も把握できんもんや。今入って来た
伝令の情報も事実誤認かもしれへんし。多少行動に誤差があっても相手も気にしまへん」
「そういうものでっしゃろか」
「まあ、偉そげなこと言いはって、あんさん、よう勉強しはっとるんやねえ」
殺生石がそうと言うと、キツネの将官はハッと目を見開き下を向いた。
「失礼いたしました」
「気にせんでええよし」
殺生石は薄ら笑いを浮かべた。
ドスエ軍は木幡に陣を敷いていたが、そこに魔王軍のブルーチーズが突っ込んでくる。
「魔弾打てー!」
殺生石が叫ぶ。
ブルーチーズ目掛けて魔弾の集中砲火が飛んだ。
しかし、魔弾はことごとく跳ね返された。
「はははは!私に魔法攻撃など効くと思ったか!このドスエの弱兵め!」
叫びながらブルーチーズが突っ込んでくる。
その後ろからデスナイトの軍団が突撃してくる。
「イケー!」
殺生石が叫び、キツネの兵隊たちが突撃する。
しかし、次々とブルーチーズのハンマーに蹴散らされてゆく。
「こらあかん!撤退や!」
殺生石は逃げ出す。
キツネたちは「ギャー!」「わー!」と悲鳴を上げながら、六地蔵方面に逃げてゆく。
そこから墨染通りにキツネたちが殺到する。
逃げるキツネたちをブルーチーズはまるで紙を破るような手軽さでハンマーでつぶしてゆく。
そしてブルーチーズが藤森の辺りまで到達した時である。
「神隠し!」
大声で殺生石が叫ぶ。
ヒュン!
ブルーチーズは六地蔵まで戻された。
「ははは、バカめ、こんなものはただの時間稼ぎだ!」
ブルーチーズは嘲り笑った。
「狐火!」
殺生石が叫ぶと桃山与五郎町の民家に隠れていたキツネの魔導士たちが宇治川の対岸の
桃山根来や桃山伊賀を進軍中のデスナイトやゾンビ軍にキツネ火の火炎放射を一斉にくらわせた。
第一撃をくらわせたあとは向島まで撤退して、そこから連続してキツネ火の火炎放射を
川向うに降り注がせた。
乾燥した死体のデスナイトは派手に燃え、ゾンビも体の油に引火してパチパチと音を立てて焼けた。
しかも
、藤森に残されたデスナイトやゾンビたちは指揮官であるブルーチーズがいる方向に向かって
自動的に突進してゆき、自ら業火に飛び込み炭となっていった。
そこにブルーチーズが突っ込んでくる。
「ははは!炎攻撃など効くと思うか!」
全速力で炎の中に突っ込み、そこを突破する。
「神隠し!」
ヒュン!
ブルーチーズはまた六地蔵まで戻された。
「なにくそおおおおー!」
またブルーチーズは前に突進する。
ヒュン!
「そんなもの効くかあああああー!」
ヒュン!
「マトモに戦わせろおおおおおー!」
ブルーチーズは怒り狂ってハンマーを振り回した。
そこに黒マスク率いる人間の村人とアークデビルの混成部隊が到着した。
「待たせたな、あとは任せろ!」
黒マスクが叫んだ。
「それ、鉄棒部隊行け!」
キツネの指揮官が叫ぶ。
するとキツネの軍隊は手に手に工事で使う直径1センチほどの鉄の棒を手に手にもって、
人間とアークデビルの軍隊に投げ始めた。
1メートルほどの鉄の棒は矢よりも重く、村人の鎧の隙間にザクザクと刺さった。
アークデビルも上半身裸である。
体中にザクザク鉄棒が刺さった。
「うわー!」
「ぎゃー!」
悲鳴が聞こえる。
バスッ!
黒マスクの頭にかぶった袋にも鉄棒があたってマスクがふっとんだ。
その下にある顔は狂犬のグランツだった。
「正体がバレちゃしかたがねえ、このグランツ、魔王様のためにひと肌脱ぐとするか!」
ヒュン!
グランツの頭に鉄棒が当たる。
カン!
鉄棒は跳ね返された。
「こんなもの効かねえんだよ」
ズドドドドドドド
グランツの後方から土煙があがる。
白銀の鎧に身を固めた、うさ耳の筋肉質の男たちの軍団が後ろから迫ってきていた。
「我ら右佐軍団、ただいま参上!」
一番前の、ウサギの顔をした男が叫んだ。
「あ?なんだてめえ、ふざけてんのか?」
グランツは眉を不均等に歪めて威嚇した。
男たちは剣を振りかざし、次々と魔王軍の人間とアークデビルを切り倒してゆく。
「なめてんじゃねえぞ!誰だてめえは!」
グランツが叫ぶ。
「我は右佐分威羅ここに推参!」
「ぶっ殺す!」
グランツは分威羅に突っ込む。
ブウン!分威羅は横に剣を振るう、それはグランツの頭にマトモにヒットする。
ガツン!
グランツは吹っ飛ぶ。
しかし、すぐに立ち上がった。
「けっけっけ、オレは悪魔アイドルーなんだ。そんなもん効かねえんだよ」
それでも分威羅は何度もグランツに突っ込み、剣で切り倒す。
そのたびにグランツは立ち上がる。
分威羅は周囲のアークデビルと人間が完全に討伐されたことを確認すると、
宇治川のほうに走り出した。
「待て!逃がさねえぞ!」
グランツは激高して分威羅を追いかける。
「ぴょーん!」
分威羅はものすごい跳躍力で宇治川をひとっとびで飛び越えた。
それに続き、うさ耳の筋肉質の男たちぴょーん!ぴょーん!と叫びながら
一気に宇治川を越えていった。
「待てこらあああああー!」
ブルーチーズもそれを追う。
「てめえら全員ぶっ殺す」
川向うからバフ!バフ!と狐火を当てて挑発してくるキツネの魔導士部隊に向かって、
ブルーチーズと狂犬のグランツは突進する。
川は浅く、底が見えている。
こんな川は簡単に渡れるのだ。
が、急にブルーチーズと狂犬のグランツの足が川の真ん中辺りで止まる。
対岸の川岸に殺生石が現れる。
「どないどすか、コールタールの味は」
「なんだと!私の足の筋力をもってすれば、こんなもの!」
ブルーチーズが先に進もうとするが、足を動かせば動かすほど、体が沈んでいく。
「川の底に大きうて深い穴を掘って、コールタールを流し込んだのや。到底人の足がつかん
くらいの深さまでな」
「なんの、これしき!」
グランツが叫ぶ。
「ほな、やりなはれ」
殺生石が言うと、キツネたちが鉄筋の棒をグランツとブルーチーズにヒュンユン投げる。
それはグランツとブルーチーズの服に刺さって、オモリとなり、よけいに
グランツとブルーチーズはコールタールの沼にはまっていく。
「やめろ!やめろおおおー!死ぬのは怖くない、だが!マトモに戦わせろ!戦って戦死させろ!
名誉の戦死を!」
ブルーチーズが叫ぶ。
「ほほほ、悪魔アイドルーとか人間種になったのがアダになったねえ、アンデットやったら
死なんかったのに、残念でしたべろべろべ~」
殺生石は舌をペロペロだしておちょくった。
「せめて、せめて名誉ある死を!殺してくれ!殺してえええええ!」
ブルーチーズが叫ぶ、
「嫌どす」
そう言って殺生石は背を向けた。
「いやああああ、しにたくないいいい、しにたくないいいいい」
グランツは喚きながらコールタールに沈んでゆく。
キツネの将官が殺生石にお茶を差し出す。
それを殺生石がずずずずーっと飲む。
「あ~人の不幸でお茶がうまいどすえ」
殺生石が満面の笑みを浮かべた。
グランツとブルーチーズはコールタールの沼に沈んでゆき、窒息死した。
魔王の軍団も全滅した。
殺生石は眉をひそめた。
瘴気くさい風が吹いてきよるなあ。
「やめろ~放せ~!」
縄に縛られた覆面をかぶった男が引っ立てられてきた。
「どないしやしたんどすか」
「はい、敵の密偵かと」
「や~化け物の密偵とかモノ好きやねえ、被り物はがし」
殺生石の命令で兵士が仮面を外す。
「あら~まだ子供やないの、少年兵とかいうやつ?」
「はい、どうしましょうか」
「そやねえ、片足のクルブシを潰して、あと指をペンチで切って相手陣営の近くに捨てときなはれ」
「はっ」
兵士はペンチを取り出して少年兵の人差し指に当てる。
「やめろー!」
少年兵は叫ぶ。
「やめよし」
殺生石が制止する。
「はっ、いかがしましょうか」
「両手の親指を切りなはれ。そしたらモノが掴めんようになるさかいに。他の指はええ。時間の無駄や」
「恐れながら、何故殺さぬのですか?」
「半殺しにしといたほうが相手に経済的ダメージが与えられるやろ」
「さすがでございます」
「その程度、自分で考えな」
「恐れ入りまする」
「ぎゃー!やめろー!」
少年兵が暴れるが、ドスエの兵士は躊躇なく少年兵の両手の指を切断、足のクルブシを
ハンマーで叩き割った。
「うがああああ、痛いいいいいいい、ああああがああああああ、痛い、痛いよお」
少年兵はのたうちまわる。
「お~、お可哀そうに、可哀そうやから少しでも痛いの楽にしてさしあげますえ」
そういうと、殺生石はのたうちまわる少年兵に手をかざした。
「は~い、は~い、あなたをこんなひどい目にあわせたのは魔王軍です~。
あなたは善良で崇高なドスエ軍を陥れるために魔王軍があなたの指を切り落とし、
それをドスエ軍の仕業だと言うよう、魔王軍に命令されたのです~」
殺生石がそう言うと少年兵の表情が恍惚となる。
「あ~そうです~ボクは魔王軍に指を切り落とされました~、善良で罪もない
ドスエ軍を陥れるために、ボクは魔王軍に自作自演で指を切り落とされたのです~」
少年兵は口からヨダレをたらし、ビクン、ビクンとケイレンしながら気持ちよさそうな表情をした。
「ほほほ、やっぱりキョウタナベから南には猿しか住んでおへんのやねえ、
猿の餌付けは簡単でよろしいわ」
殺生石はそう言うとニタニタと笑った。
そこにキツネの将校が寄ってくる。
「殺生石閣下、こないな事したら、相手陣営が人権侵害や言うて、プロパガンダに
使うんやおまへんやろか」
「つこたらよろしいねん。だいたい、少年兵つことる時点で、あっちが
児童福祉法違反や。ドスエのイメージダウンをはかるために
自分とこの村の子供の指を切断して宣伝に使うた言うて、マスコミに情報ながしたら
カウンタープロパガンダになりますのや。マスコミには美人どころのメギツネあてごうて、
たっぷりハニートラップしとりますさかいに」
「や~いつもながら殺生石閣下はお人が悪うとざいますなあ」
「いえいえ、あんさんほどでは、ほほほほ」
「はははは」
キツネと殺生石は楽し気に笑った。
そこに伝令が駆けつける。
「魔王軍はウジ方面からフシミに向かって進軍中。
途中の村を襲撃中です」
「ほうかいな。そしたら魔導士部隊を二尾木幡線道路つこうて、敵の側面に回りこませて
分散隊形で村で略奪しとる魔王軍に魔弾を撃ちこみなはれ。長距迫撃砲弾で山越えでいきなはれ。
直射砲弾攻撃したらこっちの位置がバレるさかいに、あくまでも山越えでな」
「はっ、して、近隣の村には退避命令をだしまひょか」
「アホかいな、退避命令とか出したらこっちの動きがバレる。ほっときなはれ」
「はっ!」
伝令の兵士は去った。
そこにイワシミズ方面からの伝令が駆けつける。
「魔王軍の進軍を確認。近隣住民を即時退避させた。
貴君も即時近隣住民に避難命令を出されたし」
「はい、よろしゅうおたのもうします」
殺生石は伝令に笑顔で答えた。
援軍は帰ってゆく。
「近隣住民に退避命令を出したと言っておられました。放置してよろしいんどすか?」
キツネの副官が尋ねる。
「イワシミズの右佐はんは天下随一の戦上手、スキにさせといたらよろしいねん。
あんまりどこも動かんかったら相手も怪しむ」
「ほんでも、あっちが逃げて、こっちが逃げんかったら相手葉は不審に思いまへんやろか」
「戦場は常に霧の中。普通であれば情報の30%も把握できんもんや。今入って来た
伝令の情報も事実誤認かもしれへんし。多少行動に誤差があっても相手も気にしまへん」
「そういうものでっしゃろか」
「まあ、偉そげなこと言いはって、あんさん、よう勉強しはっとるんやねえ」
殺生石がそうと言うと、キツネの将官はハッと目を見開き下を向いた。
「失礼いたしました」
「気にせんでええよし」
殺生石は薄ら笑いを浮かべた。
ドスエ軍は木幡に陣を敷いていたが、そこに魔王軍のブルーチーズが突っ込んでくる。
「魔弾打てー!」
殺生石が叫ぶ。
ブルーチーズ目掛けて魔弾の集中砲火が飛んだ。
しかし、魔弾はことごとく跳ね返された。
「はははは!私に魔法攻撃など効くと思ったか!このドスエの弱兵め!」
叫びながらブルーチーズが突っ込んでくる。
その後ろからデスナイトの軍団が突撃してくる。
「イケー!」
殺生石が叫び、キツネの兵隊たちが突撃する。
しかし、次々とブルーチーズのハンマーに蹴散らされてゆく。
「こらあかん!撤退や!」
殺生石は逃げ出す。
キツネたちは「ギャー!」「わー!」と悲鳴を上げながら、六地蔵方面に逃げてゆく。
そこから墨染通りにキツネたちが殺到する。
逃げるキツネたちをブルーチーズはまるで紙を破るような手軽さでハンマーでつぶしてゆく。
そしてブルーチーズが藤森の辺りまで到達した時である。
「神隠し!」
大声で殺生石が叫ぶ。
ヒュン!
ブルーチーズは六地蔵まで戻された。
「ははは、バカめ、こんなものはただの時間稼ぎだ!」
ブルーチーズは嘲り笑った。
「狐火!」
殺生石が叫ぶと桃山与五郎町の民家に隠れていたキツネの魔導士たちが宇治川の対岸の
桃山根来や桃山伊賀を進軍中のデスナイトやゾンビ軍にキツネ火の火炎放射を一斉にくらわせた。
第一撃をくらわせたあとは向島まで撤退して、そこから連続してキツネ火の火炎放射を
川向うに降り注がせた。
乾燥した死体のデスナイトは派手に燃え、ゾンビも体の油に引火してパチパチと音を立てて焼けた。
しかも
、藤森に残されたデスナイトやゾンビたちは指揮官であるブルーチーズがいる方向に向かって
自動的に突進してゆき、自ら業火に飛び込み炭となっていった。
そこにブルーチーズが突っ込んでくる。
「ははは!炎攻撃など効くと思うか!」
全速力で炎の中に突っ込み、そこを突破する。
「神隠し!」
ヒュン!
ブルーチーズはまた六地蔵まで戻された。
「なにくそおおおおー!」
またブルーチーズは前に突進する。
ヒュン!
「そんなもの効くかあああああー!」
ヒュン!
「マトモに戦わせろおおおおおー!」
ブルーチーズは怒り狂ってハンマーを振り回した。
そこに黒マスク率いる人間の村人とアークデビルの混成部隊が到着した。
「待たせたな、あとは任せろ!」
黒マスクが叫んだ。
「それ、鉄棒部隊行け!」
キツネの指揮官が叫ぶ。
するとキツネの軍隊は手に手に工事で使う直径1センチほどの鉄の棒を手に手にもって、
人間とアークデビルの軍隊に投げ始めた。
1メートルほどの鉄の棒は矢よりも重く、村人の鎧の隙間にザクザクと刺さった。
アークデビルも上半身裸である。
体中にザクザク鉄棒が刺さった。
「うわー!」
「ぎゃー!」
悲鳴が聞こえる。
バスッ!
黒マスクの頭にかぶった袋にも鉄棒があたってマスクがふっとんだ。
その下にある顔は狂犬のグランツだった。
「正体がバレちゃしかたがねえ、このグランツ、魔王様のためにひと肌脱ぐとするか!」
ヒュン!
グランツの頭に鉄棒が当たる。
カン!
鉄棒は跳ね返された。
「こんなもの効かねえんだよ」
ズドドドドドドド
グランツの後方から土煙があがる。
白銀の鎧に身を固めた、うさ耳の筋肉質の男たちの軍団が後ろから迫ってきていた。
「我ら右佐軍団、ただいま参上!」
一番前の、ウサギの顔をした男が叫んだ。
「あ?なんだてめえ、ふざけてんのか?」
グランツは眉を不均等に歪めて威嚇した。
男たちは剣を振りかざし、次々と魔王軍の人間とアークデビルを切り倒してゆく。
「なめてんじゃねえぞ!誰だてめえは!」
グランツが叫ぶ。
「我は右佐分威羅ここに推参!」
「ぶっ殺す!」
グランツは分威羅に突っ込む。
ブウン!分威羅は横に剣を振るう、それはグランツの頭にマトモにヒットする。
ガツン!
グランツは吹っ飛ぶ。
しかし、すぐに立ち上がった。
「けっけっけ、オレは悪魔アイドルーなんだ。そんなもん効かねえんだよ」
それでも分威羅は何度もグランツに突っ込み、剣で切り倒す。
そのたびにグランツは立ち上がる。
分威羅は周囲のアークデビルと人間が完全に討伐されたことを確認すると、
宇治川のほうに走り出した。
「待て!逃がさねえぞ!」
グランツは激高して分威羅を追いかける。
「ぴょーん!」
分威羅はものすごい跳躍力で宇治川をひとっとびで飛び越えた。
それに続き、うさ耳の筋肉質の男たちぴょーん!ぴょーん!と叫びながら
一気に宇治川を越えていった。
「待てこらあああああー!」
ブルーチーズもそれを追う。
「てめえら全員ぶっ殺す」
川向うからバフ!バフ!と狐火を当てて挑発してくるキツネの魔導士部隊に向かって、
ブルーチーズと狂犬のグランツは突進する。
川は浅く、底が見えている。
こんな川は簡単に渡れるのだ。
が、急にブルーチーズと狂犬のグランツの足が川の真ん中辺りで止まる。
対岸の川岸に殺生石が現れる。
「どないどすか、コールタールの味は」
「なんだと!私の足の筋力をもってすれば、こんなもの!」
ブルーチーズが先に進もうとするが、足を動かせば動かすほど、体が沈んでいく。
「川の底に大きうて深い穴を掘って、コールタールを流し込んだのや。到底人の足がつかん
くらいの深さまでな」
「なんの、これしき!」
グランツが叫ぶ。
「ほな、やりなはれ」
殺生石が言うと、キツネたちが鉄筋の棒をグランツとブルーチーズにヒュンユン投げる。
それはグランツとブルーチーズの服に刺さって、オモリとなり、よけいに
グランツとブルーチーズはコールタールの沼にはまっていく。
「やめろ!やめろおおおー!死ぬのは怖くない、だが!マトモに戦わせろ!戦って戦死させろ!
名誉の戦死を!」
ブルーチーズが叫ぶ。
「ほほほ、悪魔アイドルーとか人間種になったのがアダになったねえ、アンデットやったら
死なんかったのに、残念でしたべろべろべ~」
殺生石は舌をペロペロだしておちょくった。
「せめて、せめて名誉ある死を!殺してくれ!殺してえええええ!」
ブルーチーズが叫ぶ、
「嫌どす」
そう言って殺生石は背を向けた。
「いやああああ、しにたくないいいい、しにたくないいいいい」
グランツは喚きながらコールタールに沈んでゆく。
キツネの将官が殺生石にお茶を差し出す。
それを殺生石がずずずずーっと飲む。
「あ~人の不幸でお茶がうまいどすえ」
殺生石が満面の笑みを浮かべた。
グランツとブルーチーズはコールタールの沼に沈んでゆき、窒息死した。
魔王の軍団も全滅した。
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※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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