平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉

文字の大きさ
上 下
40 / 72

40話 契約

しおりを挟む
 ずっと山しか見えない風景が一変した。

 視界が大きく開け巨大な川に行き当たった。

 道に武器をもった守衛が二人いた。

 「すいません、ここを通りたいのですが」

 「帰れ帰れ、」

 気だるそうに守衛が言った。

 「ここを通らずにトツリバー村にはいけません」
 
 「なんだてめえ、トツリバーにいきてえのか。通行書を見せな」

 「通行書はないです。レンジャーですので通行できるはずですよ。もし
 災害などで通行できないのであれば、地区長の証明書を見せてください」

 「あー、レンジャーさんかい、通りな」

 守衛の二人は道をあけた。

 しばらく行くと、大きなつり橋があった。

 それを渡ろうとした時である。

 ヒュン!ヒュン!

 オレ達の上に無数の矢が降り注ぐ。

 ドーン!

 大きな火柱が立って矢はすべて焼け尽きた。

 シャンティーリーの魔法だ。

 「ぎゃー!逃げろー!」

 遠くの方で無数の声が聞こえた。

 俺達は気にせず橋を渡った。

 橋を渡りきるとウエノーという立て札があり、けっこう大きな村が広がっていた。

 
 「てめえか、この卑怯者め」

 筋肉隆々の巨漢がオレの前に立ちはだかった。

 「だれ?」

 「殺戮王ユルゲン様だ!忘れたとは言わせねえぞ!」
 
 「知りません」

 「この卑怯者め!魔法強化禁止の大会で魔法防御全開で、手に鉄骨入れてズルでオレに大怪我させやかって!

 てめえのせいで、オレは士官学校に入学できずに人生が狂っちまったんだ!」

  思い出した!

 「あ!オレの乳首触って、手をはたかれて骨折して入院した奴だ!」

  それを聞いてうちの女の子たちがコソコソ話をしている。

 ボンベイ
 「……うわっ」
 オソロシア
 「変質者」
 黒足猫
 「きもい」
 シャンティーリー 
 「タケシ、お前、バイだったのか!」


 「てめえ、誤解されるような言い方するんじゃねえええええええ!」

 ユルゲンが怒鳴った。

 「はあ」

  「オレは士官学校に入ってトップで卒業して将来はナニワの軍司令官になれる実力のあるエリート
 だったんだ!お前に怪我をさせられたせいで、オレは士官学校に入れなかったんだ!」

 「だったら、次の年入学すればよかったじゃないか」

 「お前みたいなクズ野郎を先輩と呼べるか!」

 「ちっさ」

 「なんだと、テメエ!」

 ユルゲンはイキリ立った。

 でもおかしい。こんな小物に軍の精鋭がヤラレるわけがない。

 「あのさあ君、手をはたかれて骨折するような子がオレと戦っても怪我するだけだから
 止めといたほうがいいよ。保護してあげるから今のうちに悪の組織から逃げなよ。

 よかったら、軍の食堂とか清掃とか安全な後方で働けるよう上司に相談してみるからさあ」

 「てめえの情けなんていらねえ!オレは誇り高き殺戮王ユルゲン様だぞ!」

 「王ってさ、家臣がいるんだよ、君、家臣いるの?」

 「うっせえ!うっせえ!うっせえ!お前にオレの本当の姿を見せてやる。
 オレは世界最強の殺戮王だあああああああー!」

 ユルゲンの体から黒いオーラが浮かび上がる。

 すると、ユルゲンの体が見る間に青黒く変色した。

 「ぎゃははははは!見たかこの偉大なる姿を。オレは悪魔と契約することによって
 このアークデーモンの肉体を手に入れたのだ。アークデーモンにかなう人間などいない。

 オレはついに、世界最強となったのだああああああー!」

 「あーやっちゃった」

 オレはボンベイの方を見る。

 「えーと、モンスターでも改心したら命を助けてよかったんだっけ?」

 「モンスターは契約できますが、悪魔はダメです。絶対改心しませんので」

 「絶対殺さなきゃだめ?」

 「はい」

 「絶対に、絶対?」

 「はい、絶対に絶対です」

 「はーっ」

 オレは深いため息をついた。

 「くくくっ、そんなに怖いか?てめえはオレの前にひざまずけ。そうすればお慈悲で楽に死なせやる。
 怖いか、怖すぎて立ち尽くし、ひざまづくこともできんか、ははははは、虫けらめ。
 粉々に打ち砕いてやるぜえええええええー!」

 ユルゲンは拳を振り上げて飛び上がった。


 ブウン!

 オレが右の平手をを振るうと、衝撃波でユルゲンの体が粉々に砕け散った。

 もしかして、レンジャーはこいつにやられたのだろうか。
 しかし、ヤマトの精鋭なら、こいつくらいは倒せたはずだ。
 おかしい。

 俺はクビをかしげながら前に進んだ。

 そこから川沿いの道を進んだが、川はウネウネと蛇のようにまがりくねり、その川幅はしだいに
 大きくなっていった。

 そして、まるで胃袋のように巨大な湖となっていた。

 その先へとしばらく進むと酷い崖崩れの痕があった。
 砂防ダムを作っていれば人の命が救えたものを。


 もうすこし歩いて橋を渡った辺りに小さな集落があった。

 そこでオソロシアが小声でトイレに行きたいと言った。

 山の中なら茂みでさせるのだが、ここでは人目がある。

 村人に聞いてみると、この先の丘を登ったところに公衆トイレがあるという。

 とりあえず、そこまで行ってみた。

 山の小道をあがっていくと、急に視界がひろがった。

 オソロシアは村人の公衆トイレの場所を聞いて走っていった。

 その公衆トイレの向こうに大きな教育施設があった。

 こんな山の中にも教育施設があるのか。

 なんでも、ここは古代の遺跡があって、観光地となっているそうだ。

 それは知らなかった。

 その教育観の裏手に墓碑がいくつか立っていた。


 かなり立派な石の囲いがある墓の前にはカツマサ・クスノキという表札が立っていた。

 なんでもドラゴンを倒した古代の英雄らしい。

 その近所にいくつか五輪塔が立っていた。

 これは地元の人の普通の墓かなと思ったら、立て札が立っていた。

 ノブモリ・サクマ


 ノブモリ・サクマ?

 オレはしばらく考えた。聞いたことがある。

 佐久間信盛!

 知ってる。

 大河ドラマで見た。

 織田信長の軍団長の大名だ。

 たしか、織田信長軍団筆頭!


 その墓がなぜここに。

 しかも、ちっさ!

 ものすごく小さい。

 ふつうの墓とかわらない。

 あー時代を騒がせた大物も没落すればこんな感じか。

 なんか物悲しい気分になった。

 
 オソロシアが帰ってきたので、俺達は川沿いの道に戻ることにした。

 その時である。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!

 無数の矢がオレ達に向かって飛んでくる。

 ブウン!

 オレが手のひらを横に振るうと大量の矢はその風圧ですべて吹き飛んだ。

 ああ、この技が軍に所属している時代に使えていれば、多くの同胞の命を失わずに済んだのに。

 「てめえ、クソレンジャーごときが、この密林王ゴング様の縄張りを荒そうたあいい度胸だ。

 楽に死ねると思うなよ!」

 なんか、すごくガラが悪そうな丸坊主で顔に入れ墨をしたオッサンが馬車にのって怒鳴っている。

 「てめえら、やっちまえ!」

 叫ぶと部下が百人ほど、手に手に槍かこん棒をもって突進してくる。

 ブウン!

 オレが平手を振るると、その衝撃波だけで百人の盗賊たちの体はバラバラになった。

 「ひ、ひい!」

 ゴングは真っ青になった。

 「チ、チクショウ! 先生!先生おねがいします!」

 ゴングが叫ぶと幌馬車の中からゴソゴソと女が這いだしてきた。


 「あ~あ」

 女はあくびをする。

 「先生、お願いします」

 女はノソノソと歩いて前にでる。

 オレも前に出ようとするがそれをオソロシアが遮る。

 「おい、自分ばっかイイかっこすんなよ、オレにも出番を回してくれよ」

 「あ、ああいいよ」

 「じゃあ、いくぜーえええええ!」

 オソロシアが突進する。

 すると黒足猫が目を見張る。

 「こいつ、ヤバいぞ、気をつけろ」

 黒足猫が走り出す。

 「ん?この獲物はオレのもんだぜ」

 オソロシアは振り返って黒足猫に言った。

 「あぶない!よそ見すんな」

 「ん?」

 オソロシアが振り返った場所に、その女はいた。

 ふっと女は軽くオソロシアの口に自分の口を重ねる。

 オソロシアがひっくり返る。

 ブウン!

 黒足猫がこん棒を振るう。

 すんでの処で女はこん棒をよける。

 ひゅん、と人差し指で黒足猫の頬をなでる。

 「な、あ、逃げろ!にげろー!」

 叫んで黒足猫がひっくり返る。

 ドウン!


 その女がいたところに巨大な火柱があがる。

 「やったか!」

 トントン

 誰かがシャンティーリーの肩を叩く。

 振り返るシャンティーリーの頬に女の人差し指がムニっと当たる。

 シャンティーリーがひっくり返る。

 「私はそんな手には乗らんぞ!」

 叫びながらボンベイが日本刀で女に切りかかる。

 「やってみろよ、私には完全魔法防御の結界があるのだ」

 「やめろ、ボンベイ!よけろ!」

 オレは叫んだ。

 女は、ボンベイの目の前まで来てパチンとボンベイのオデコを人差し指ではじこうとしたが、
 ボンベイは素早く退きながら女のアゴを掌底で殴りつけた。

 女の膝がガクッと落ちてひっくり返る。

 しかし、殴った側のボンベイも後ろにひっくり返って気絶した。

 「ふーっ」

 頭を振りながら女が起き上がった。

 「すごいね、この

 女はボンベイを見下ろして言った。
 そしてオレを見てニンマリ笑う。


 ヒュッ

 オレの前に来た。

 オレは飛びのいた。

 ビュン

 後ろに来た。

 オレは素早く退く。

 「逃げてばっかじゃ倒せないよ」

 耳元でささやかれた。

 ブウン

 オレは平手を振って衝撃波を起こした。

 女は後ろに飛びのく。

 「すごいね、物理でそれはすごい」
 
 その時である。

 「う~ん」

 頭を振りながら黒足猫が起き上がった。

 「私の攻撃を受けて意識を取り戻すとはバケモノか!
 もう一度おとなしくお寝んねしときな!」

 女は拳を振り上げて黒足猫に突進した。

 ブウン!

 黒足猫目掛けて拳を振り下ろす、

 ハムッ

 黒足猫が大口をあけて女の拳に噛みつく。

 じゅるじゅるじゅるじゅる!

 けたたましい音がして何かが黒足猫の口の中に吸い込まれていく。

 「なっ!こいつ、エンドレスマウスだと、暴食か!」

 ズボッツ!

 女は黒足猫の口から拳を引き抜いて後ろに飛びのいた。

 「別に糖なんて使わなくたって、お前らごとき、私の一撃で粉々に砕け散る!」

 叫びながら女はオレに向かって突進する。

 オレは女の顔に向かって右ストレートの張り手を突き出す。

 「クロスカウンター!」

 叫びながら女は右フックをオレの顔面に打ち込んできた。

 しかし、オレの張り手が女の顔にぶつかった途端、女は後ろに吹っ飛んだ。

 そのまま女の体は盗賊団の頭であるゴングの上半身に当たり、

 ゴングの体はちぎれて後ろに吹き飛んだ。

 女はゴロゴロゴローッと後ろに十回転くらい転がったあと、ピコッとおきあがった。

 「うわっ、すげーパンチだなあ、こんなパンチ生まれて初めてだ」

  女は周囲を見回す。

 「ありゃ、雇い主死んじゃってるじゃーん。雇い主が死んだら別に戦う意味ねえしなあ、だり~」

 女はオレに背を向けて歩き出した。

 「おい、君、名前を教えてくれないか」

 「マモーナス。今回はアンタの勝ちって事にしといてやるよ」

 そう言いながら、マモーナスは手をヒラヒラと振ると、どこかへ歩いていった。

しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...