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39話 就職
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三年生の夏になると就職活動
ミルセラの相談でヤマト軍への就職口を紹介してもらった。
でも、ナニワの士官学校という微妙な状況なので、中々正規軍は難しい。
結局、ヤマトの南方にある山林のレンジャー部隊の受験となった。
キズー地方は数年前に大洪水の土石流で、大きな被害を受けた。
チェーン店のスーパーも撤退して、近所には郵便局しかない。
ヤマト本国からはほとんど志願者がいないが、ここでもよければ、ということで、
受験した。
ここまで手てこずったのはオダケンクン魔法院の仲間全員で就職したかったからだ。
なんとか面接をパスして、筆記試験。これは、けっこう軍事知識が多かったので
なんとかオレは合格できた。
ほかのみんなはけっこう楽勝だったようだ。
イコマーやナラーの正規軍士官の試験にくらべて、けっこう楽ではあった。
やっぱりナラーやイコマーの連中はエリートだったんだなあとシミジミとオレは思った。
これだけ大変な仕事なのに給料は安い。
不条理だなあ。
なんとか、全員内定をもらったが、アメリカンカールが大変そうだ。
夏休みは、戦略論の補修授業を受けまくっていた。
授業中寝てたからな。
秋になって体育祭。
3年生は棒倒しや騎馬戦とか怪我する可能性があるのはやらない。
パン食い競争とか小麦粉競争とか。
小麦粉競争は小麦粉の中に顔を突っ込んで、手を使わずに飴玉をさがして加えてゴールする競技。
アメリカンカールが顔を真っ白にして、みんなゲラゲラ笑っていた。
三年生の競技はみんなけっこう緩かったので余裕だった。
その後は文化祭。
今年のクラブは、二年生代表の葛城にお神輿や出し物はまかせた。
お神輿はハインツの頭だったけど、うまくできなくて、他のクラブの連中から
黄色電気クラゲとかいわれていた。
まあ、いいのだ。
出し物はお好み焼き。
俺達はほとんど食べるだけ。
ソーダプリンとガリガリソーダが大活躍したから大きな問題も起こらなかった。
そして、キャンプファイアー。
ハインツが炎を見て涙ぐんでいた。
1年生はハインツとガリガリソーダなんだけど、ガリガリソーダはプルプル君が卒業すると、
たぶん学校辞めちゃうような気がする。
そうするとハインツ一人になってしまうなあ。それが心配だった。
来年、新しく沢山新入部員が入ってくれればいいなけど。
俺達が作った行軍部、汗だくになって草引きした緑化委員会。
すべてがいい思いでだった。
これが、ほんとうのオレの学校生活だ。
前世では、いきって、授業も適当にしか受けてなかった。
クラブにも入らず、青春だ!とか言ってる連中を「くっさ」とか陰で思っていた。
だが、オレにとって、今が本当の青春なんだ。
青春万歳!
プルプル君はプリンソーダとガリガリソーダに囲まれて幸せそうだった。
プルプル君にちょっとだけ前世の事を聞いてみた。
実は前世ではソフトのプログラム開発をしていたらしい。
死因は過労と夜更かしによる心臓麻痺。
家に残してきた大量のエロゲが心残りだそうだ。
「え~プルプル様の御先祖って偉大な魔導士なの~すっご~い!」
横に居たガリガリソーダが興奮して叫んだ。
この子たちには前世にプログラマーをやっていたという話は、
偉大なる魔導士と聞こえるらしい。
これは禁則事項だということだ。
そうこうしているうちに、あっという間に卒業年の2月になった。
学校に行くと、靴箱の中に大量のチョコレートが詰め込んであった。
あ、忘れてたバレンタインデーだったんだ。
トントン、
誰かがオレの肩を叩く。
振り返る。
オソロシアだった。
隣に黒足猫がいる。
ですよね~。
チョコは全部黒足猫がもってかえった。
オソロシアが自分のチョコを出して来る。
チョコレートのパッケージを向く。
だが、今年は違った。
なんと、オソロシアはチョコレートを自分の口にくわえて、
オレに顔をさしだしてきた。
え!?
むっちゃドキドキした。
こんなの恥ずかしすぎるよ。
でも、恥ずかしかったからオソロシアの口にチューはできなかった。
チョコの端っこだけかじっただけだった。
「なんだよも~」
オソロシアがぷ~っと頬っぺたを膨らませた。
そして、ついに卒業式
「やーっ!」
叫びながら征服の帽子をみんなで空にほうりあげた。
それが卒業の習慣。
卒業式では大勢の下級生の女の子がオレを熱い目で見ながら号泣していた。
卒業式会場を出ると、オレに女の子がむらがってきた。
「タケシ先輩、どうかお服のボタンをいただけないでしょうか」
「いいよ」
女の子がちがオレに群がってブチブチとあらゆるボタンをむしっていった。
横に居たオソロシアがぷ~っと頬をふくらましている。
ああ、卒業だ。
卒業してしまった。
3年間楽しかった。
この3年間、在学中はものすごく長く感じたけど、終わってしまえばあっという間だった。
卒業式が終わったあと、下級生有志の女の子たちが「タケシ先輩を囲む会」をやってくれた。
オレはお金払わずに、下級生たちが100人くらい集まってオレを歓迎してくれた。
人数が多すぎたので立食パーティーになった。
すげえな。
就職は4月1日から。
今回の囲む会を主催した女の子は、宴会の料理の用意でほとんどオレと話せなかったので、
もう一度、「タケシ先輩を囲む会」を4月1日までに開きたいといった。
「しかたないなあ」
オレは承諾した。
3月28日。
「タケシ先輩を囲む会」
集まったのは3人だけだった。
まあね1度はお義理だけど2度目はないわな。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
幹事の子は目に涙をためて何度も謝っていたが、オレはその子をなだめた。
でも、これで、オレといっぱい話せるから。
でも、人数が3人だと話すこともなく、淡々とご飯を食べておわった。
その後、二度と囲む会はなかった。
まあ、そんなもんだよね。
学校に居た頃は、よく後輩の女の子が、わざわざ郵便でラブレターを送ってきて、
それを見つけたオソロシアがそれをビリビリに破いて焼くのが習慣になっていたが、
卒業したら1通もラブレターは届かなかった。
まあ、あれは熱病みたいなものだったんだなあと思った。
結局のところ、同級生の狂犬のグランツは留年した。
3年になって3か月留年したらそうなるわな。
問題はアメリカンカールだ。
留年した。
バカだなあ。
でも、本人はケロッとしていた。
「オレは同じ職場に就職できなくて悲しいよ」
オレはそう言ったが、アメリカンカールは「そう」と言っただけだった。
「なあ、アメリカンカール、オソロシアたちと一緒に牛魔王女がリハビリしている病院に
お見舞いにいくんだけど、お前も行かないか?」
オレがそういうとアメリカンカールはキョトンといていた。
「何で?」
「何でって、仲間じゃないでしょ、同じ学校の所属でもないし、もう軍属じゃないし」
「いやいや、一緒に苦楽を共にした仲間じゃないか。組織とか関係ないだろ」
「そんなことないよ、今は関係ない」
「じゃあ、俺達も離れ離れになったら他人か?」
「最初から他人じゃん」
「まあな。
ごめん、オレが悪かった」
「嫌味?」
「いや、思い出した。オレが前世に居た頃も、女の子たちが一生友達だよ、とか言ってたけど、
卒業したら全然会わなくなってたよ。そんなもんだな」
「そうだよ」
アメリカンカールはケロッとそう言った。
オレ達がお見舞いに行くと、牛魔王女は涙をポロポロ流して喜んでいた。
「みんな、よく来てくれたな。あれ?アメリカンカールは?」
牛魔王女がキョロキョロした。
「あいつさ、勉強さぼりすぎて留年になったんだよ」
オレが言った。
「ははは、バカだなあ、今日は補習授業か」
牛魔王女は楽しそうに笑った。
補習授業はないけどね。それは言えなかった。
牛魔王女の処に行った後にミルセラの処に遊びに行った。
ミルセラもすごく喜んでいた。
自宅療養しながら治療は続けているが、まだ魔法は使えないようだった。
そこから自宅に戻って、その日はスリーリングスの自宅にみんなで泊まった。
アメショはチェリーブロッサムウイルで運送の仕事をすることになったので、
このスリーリングスの家はアメショに預けることにした。
みんなの温かい我が家だ。
レンジャー部隊に行くのはオレ、オソロシア、黒足猫、ボンベイ、シャンティーリー。
茶虎は筆記試験の成績が良かったので、レンジャー部隊本部付の事務職員となった。
本部に戻った時や、回復役が必要な過酷な任務の場合は、俺達と同行することもあるが、
基本、本部付だ。
といっても、本部に帰るといつも会う事ができるので、あまり寂しさは感じなかった。
事務職となったことで、ご両親、とくにお母さんは泣いて喜んでいたそうだ。
茶虎としても、時々はレンジャー部隊として出動できるので、まあ、それなりに夢がかなったこととなる。
ボンベイには本当に申し訳ないと思った。
オレを慕ってレンジャーに就職したが、正規軍の仕官としての誘いもあったのだ。
それでもオレと一緒に来てくれた。
感謝しかない。
もちろん、他の子たちも全員感謝している。
そして3月29日が終わった。
いままで、あっという間に時間がすぎたが、
この3月の1か月、何か異常に時間がたつのが遅いように感じる。
不思議だ。
3月30日。
移動日。
アメショがみんなを送ってくれた。
最終的な就職先はヨシノーという場所だった。
驚いたことに山には一面の桜が咲き乱れていた。
美しい場所だ。
駅馬車の
ヨシノーシュライン駅
の辺りは人家も多く、それほど田舎という風でもなかった。
自分の思っていたのは一面山肌でなにもないというものだ。
そういうことがなくてよかった。
レンジャーの隊長は太った人でオールバックだった。
「あー私がここの責任者のアクア・ランドと申します。
今後新入生の諸君におかれましては、よろしくお願いするものであります」
そんなしゃべり方だった。
見た目は怖そうだけど、実際は腰が低かった。
中堅の隊員からは慕われていて、よくパトロールに出ていた。
所長といえば普通、本部にずっといるものだが、根っからのレンジャーらしい。
机の前に座っていられない。
所長が居なくなると、女子事務員たちがお茶を沸かして、お菓子を食べてゲラゲラ笑っていた。
まあ、のんびりした職場のようでよかった。
が、それは大きな勘違いだった。
ここはあくまでもレンジャー本部。
オレ達のレンジャー部隊はトツリバーという川が流れる山の中まで遠征しなければならなかった。
そこに行くまでには山また山。
周囲には森林しかない道がずっと続いた。
途中でブラックフォール村という名前の村に到着した。
フラックホールではないフォールだ。つまり滝。
黒い滝の村という名前だ。
これ以上進めば日が暮れてしまう。
今日はこの村で停泊することになった。
この村で聞き込みをしたところ、
トツリバー流域でナニワ民国のマフィアがケシの栽培拠点を構築しようとしているらしい。
中央から見放され、生きるために多くの村人たちが奴隷労働に従事させられている。
そのあまりの過酷さからここまで逃げてきた者がいるようだ。
これは見逃しておけない。
この情報は先任のレンジャーにも伝えたというが、
先任のレンジャーは帰ってこなかったという。
その後、正規軍の精鋭部隊が追撃隊として派遣されてきたが、それも一人も帰ってはこなかったという。
ヤマト軍の精鋭部隊がマフィアごときに負けるわけはないので、きっとマフィアが大金を積んで
正規軍が買収されてしまったに違いないと村人たちは言っていた。
どうせ、こんなへき地の村は見捨てられるのだと言い、皆絶望していた。
ああ、こんな状況があるから、俺達みたいなのをヤマトは大量に雇ってくれたのか。
オレは理解した。
にしてもどれだけの大金を積んでくれるのだろう。
あと美人のハーレムかな。
そんなもので買収はされないけどね。
ミルセラの相談でヤマト軍への就職口を紹介してもらった。
でも、ナニワの士官学校という微妙な状況なので、中々正規軍は難しい。
結局、ヤマトの南方にある山林のレンジャー部隊の受験となった。
キズー地方は数年前に大洪水の土石流で、大きな被害を受けた。
チェーン店のスーパーも撤退して、近所には郵便局しかない。
ヤマト本国からはほとんど志願者がいないが、ここでもよければ、ということで、
受験した。
ここまで手てこずったのはオダケンクン魔法院の仲間全員で就職したかったからだ。
なんとか面接をパスして、筆記試験。これは、けっこう軍事知識が多かったので
なんとかオレは合格できた。
ほかのみんなはけっこう楽勝だったようだ。
イコマーやナラーの正規軍士官の試験にくらべて、けっこう楽ではあった。
やっぱりナラーやイコマーの連中はエリートだったんだなあとシミジミとオレは思った。
これだけ大変な仕事なのに給料は安い。
不条理だなあ。
なんとか、全員内定をもらったが、アメリカンカールが大変そうだ。
夏休みは、戦略論の補修授業を受けまくっていた。
授業中寝てたからな。
秋になって体育祭。
3年生は棒倒しや騎馬戦とか怪我する可能性があるのはやらない。
パン食い競争とか小麦粉競争とか。
小麦粉競争は小麦粉の中に顔を突っ込んで、手を使わずに飴玉をさがして加えてゴールする競技。
アメリカンカールが顔を真っ白にして、みんなゲラゲラ笑っていた。
三年生の競技はみんなけっこう緩かったので余裕だった。
その後は文化祭。
今年のクラブは、二年生代表の葛城にお神輿や出し物はまかせた。
お神輿はハインツの頭だったけど、うまくできなくて、他のクラブの連中から
黄色電気クラゲとかいわれていた。
まあ、いいのだ。
出し物はお好み焼き。
俺達はほとんど食べるだけ。
ソーダプリンとガリガリソーダが大活躍したから大きな問題も起こらなかった。
そして、キャンプファイアー。
ハインツが炎を見て涙ぐんでいた。
1年生はハインツとガリガリソーダなんだけど、ガリガリソーダはプルプル君が卒業すると、
たぶん学校辞めちゃうような気がする。
そうするとハインツ一人になってしまうなあ。それが心配だった。
来年、新しく沢山新入部員が入ってくれればいいなけど。
俺達が作った行軍部、汗だくになって草引きした緑化委員会。
すべてがいい思いでだった。
これが、ほんとうのオレの学校生活だ。
前世では、いきって、授業も適当にしか受けてなかった。
クラブにも入らず、青春だ!とか言ってる連中を「くっさ」とか陰で思っていた。
だが、オレにとって、今が本当の青春なんだ。
青春万歳!
プルプル君はプリンソーダとガリガリソーダに囲まれて幸せそうだった。
プルプル君にちょっとだけ前世の事を聞いてみた。
実は前世ではソフトのプログラム開発をしていたらしい。
死因は過労と夜更かしによる心臓麻痺。
家に残してきた大量のエロゲが心残りだそうだ。
「え~プルプル様の御先祖って偉大な魔導士なの~すっご~い!」
横に居たガリガリソーダが興奮して叫んだ。
この子たちには前世にプログラマーをやっていたという話は、
偉大なる魔導士と聞こえるらしい。
これは禁則事項だということだ。
そうこうしているうちに、あっという間に卒業年の2月になった。
学校に行くと、靴箱の中に大量のチョコレートが詰め込んであった。
あ、忘れてたバレンタインデーだったんだ。
トントン、
誰かがオレの肩を叩く。
振り返る。
オソロシアだった。
隣に黒足猫がいる。
ですよね~。
チョコは全部黒足猫がもってかえった。
オソロシアが自分のチョコを出して来る。
チョコレートのパッケージを向く。
だが、今年は違った。
なんと、オソロシアはチョコレートを自分の口にくわえて、
オレに顔をさしだしてきた。
え!?
むっちゃドキドキした。
こんなの恥ずかしすぎるよ。
でも、恥ずかしかったからオソロシアの口にチューはできなかった。
チョコの端っこだけかじっただけだった。
「なんだよも~」
オソロシアがぷ~っと頬っぺたを膨らませた。
そして、ついに卒業式
「やーっ!」
叫びながら征服の帽子をみんなで空にほうりあげた。
それが卒業の習慣。
卒業式では大勢の下級生の女の子がオレを熱い目で見ながら号泣していた。
卒業式会場を出ると、オレに女の子がむらがってきた。
「タケシ先輩、どうかお服のボタンをいただけないでしょうか」
「いいよ」
女の子がちがオレに群がってブチブチとあらゆるボタンをむしっていった。
横に居たオソロシアがぷ~っと頬をふくらましている。
ああ、卒業だ。
卒業してしまった。
3年間楽しかった。
この3年間、在学中はものすごく長く感じたけど、終わってしまえばあっという間だった。
卒業式が終わったあと、下級生有志の女の子たちが「タケシ先輩を囲む会」をやってくれた。
オレはお金払わずに、下級生たちが100人くらい集まってオレを歓迎してくれた。
人数が多すぎたので立食パーティーになった。
すげえな。
就職は4月1日から。
今回の囲む会を主催した女の子は、宴会の料理の用意でほとんどオレと話せなかったので、
もう一度、「タケシ先輩を囲む会」を4月1日までに開きたいといった。
「しかたないなあ」
オレは承諾した。
3月28日。
「タケシ先輩を囲む会」
集まったのは3人だけだった。
まあね1度はお義理だけど2度目はないわな。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
幹事の子は目に涙をためて何度も謝っていたが、オレはその子をなだめた。
でも、これで、オレといっぱい話せるから。
でも、人数が3人だと話すこともなく、淡々とご飯を食べておわった。
その後、二度と囲む会はなかった。
まあ、そんなもんだよね。
学校に居た頃は、よく後輩の女の子が、わざわざ郵便でラブレターを送ってきて、
それを見つけたオソロシアがそれをビリビリに破いて焼くのが習慣になっていたが、
卒業したら1通もラブレターは届かなかった。
まあ、あれは熱病みたいなものだったんだなあと思った。
結局のところ、同級生の狂犬のグランツは留年した。
3年になって3か月留年したらそうなるわな。
問題はアメリカンカールだ。
留年した。
バカだなあ。
でも、本人はケロッとしていた。
「オレは同じ職場に就職できなくて悲しいよ」
オレはそう言ったが、アメリカンカールは「そう」と言っただけだった。
「なあ、アメリカンカール、オソロシアたちと一緒に牛魔王女がリハビリしている病院に
お見舞いにいくんだけど、お前も行かないか?」
オレがそういうとアメリカンカールはキョトンといていた。
「何で?」
「何でって、仲間じゃないでしょ、同じ学校の所属でもないし、もう軍属じゃないし」
「いやいや、一緒に苦楽を共にした仲間じゃないか。組織とか関係ないだろ」
「そんなことないよ、今は関係ない」
「じゃあ、俺達も離れ離れになったら他人か?」
「最初から他人じゃん」
「まあな。
ごめん、オレが悪かった」
「嫌味?」
「いや、思い出した。オレが前世に居た頃も、女の子たちが一生友達だよ、とか言ってたけど、
卒業したら全然会わなくなってたよ。そんなもんだな」
「そうだよ」
アメリカンカールはケロッとそう言った。
オレ達がお見舞いに行くと、牛魔王女は涙をポロポロ流して喜んでいた。
「みんな、よく来てくれたな。あれ?アメリカンカールは?」
牛魔王女がキョロキョロした。
「あいつさ、勉強さぼりすぎて留年になったんだよ」
オレが言った。
「ははは、バカだなあ、今日は補習授業か」
牛魔王女は楽しそうに笑った。
補習授業はないけどね。それは言えなかった。
牛魔王女の処に行った後にミルセラの処に遊びに行った。
ミルセラもすごく喜んでいた。
自宅療養しながら治療は続けているが、まだ魔法は使えないようだった。
そこから自宅に戻って、その日はスリーリングスの自宅にみんなで泊まった。
アメショはチェリーブロッサムウイルで運送の仕事をすることになったので、
このスリーリングスの家はアメショに預けることにした。
みんなの温かい我が家だ。
レンジャー部隊に行くのはオレ、オソロシア、黒足猫、ボンベイ、シャンティーリー。
茶虎は筆記試験の成績が良かったので、レンジャー部隊本部付の事務職員となった。
本部に戻った時や、回復役が必要な過酷な任務の場合は、俺達と同行することもあるが、
基本、本部付だ。
といっても、本部に帰るといつも会う事ができるので、あまり寂しさは感じなかった。
事務職となったことで、ご両親、とくにお母さんは泣いて喜んでいたそうだ。
茶虎としても、時々はレンジャー部隊として出動できるので、まあ、それなりに夢がかなったこととなる。
ボンベイには本当に申し訳ないと思った。
オレを慕ってレンジャーに就職したが、正規軍の仕官としての誘いもあったのだ。
それでもオレと一緒に来てくれた。
感謝しかない。
もちろん、他の子たちも全員感謝している。
そして3月29日が終わった。
いままで、あっという間に時間がすぎたが、
この3月の1か月、何か異常に時間がたつのが遅いように感じる。
不思議だ。
3月30日。
移動日。
アメショがみんなを送ってくれた。
最終的な就職先はヨシノーという場所だった。
驚いたことに山には一面の桜が咲き乱れていた。
美しい場所だ。
駅馬車の
ヨシノーシュライン駅
の辺りは人家も多く、それほど田舎という風でもなかった。
自分の思っていたのは一面山肌でなにもないというものだ。
そういうことがなくてよかった。
レンジャーの隊長は太った人でオールバックだった。
「あー私がここの責任者のアクア・ランドと申します。
今後新入生の諸君におかれましては、よろしくお願いするものであります」
そんなしゃべり方だった。
見た目は怖そうだけど、実際は腰が低かった。
中堅の隊員からは慕われていて、よくパトロールに出ていた。
所長といえば普通、本部にずっといるものだが、根っからのレンジャーらしい。
机の前に座っていられない。
所長が居なくなると、女子事務員たちがお茶を沸かして、お菓子を食べてゲラゲラ笑っていた。
まあ、のんびりした職場のようでよかった。
が、それは大きな勘違いだった。
ここはあくまでもレンジャー本部。
オレ達のレンジャー部隊はトツリバーという川が流れる山の中まで遠征しなければならなかった。
そこに行くまでには山また山。
周囲には森林しかない道がずっと続いた。
途中でブラックフォール村という名前の村に到着した。
フラックホールではないフォールだ。つまり滝。
黒い滝の村という名前だ。
これ以上進めば日が暮れてしまう。
今日はこの村で停泊することになった。
この村で聞き込みをしたところ、
トツリバー流域でナニワ民国のマフィアがケシの栽培拠点を構築しようとしているらしい。
中央から見放され、生きるために多くの村人たちが奴隷労働に従事させられている。
そのあまりの過酷さからここまで逃げてきた者がいるようだ。
これは見逃しておけない。
この情報は先任のレンジャーにも伝えたというが、
先任のレンジャーは帰ってこなかったという。
その後、正規軍の精鋭部隊が追撃隊として派遣されてきたが、それも一人も帰ってはこなかったという。
ヤマト軍の精鋭部隊がマフィアごときに負けるわけはないので、きっとマフィアが大金を積んで
正規軍が買収されてしまったに違いないと村人たちは言っていた。
どうせ、こんなへき地の村は見捨てられるのだと言い、皆絶望していた。
ああ、こんな状況があるから、俺達みたいなのをヤマトは大量に雇ってくれたのか。
オレは理解した。
にしてもどれだけの大金を積んでくれるのだろう。
あと美人のハーレムかな。
そんなもので買収はされないけどね。
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追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
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そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
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但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
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調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
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更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
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少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
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