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36話 信頼の理由
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プルプル君のお世話は、彼がスタートアップガチャで引き当てたLRのソーダプリンがやっている。
葛城やプルプル君は事前登録組ではないので、オレみたいに事前登録キャラはもらえていない。
オレが黒足猫をもらったようにスタートアップガチャLRの子を貰っていた。
ただし、事前に女神様に相談すればキャラクターをオーダーメイドできるらしい。
そうはいっても、素人が3Dの造形を構築するのは至難の業だ。
プルプル君の場合は、容姿はテンプレートから選び、付属品や洋服はセミオーダーしたらしい。
名前も自分で決めたようだ。
名前の由来はお母さんが昔作ってくれたゼラチンにソーダを混ぜて固まらせたプリンのようなもので、
これをプルプル君の家ではソーダプリンと呼んでいたらしい。
このソーダプリンという名前は彼にとってバブ味の象徴らしい。
そうした思いが込められているが故に、ソーダプリンは徹底的にプルプル君を甘やかし、
ごはんもいつもソーダプリンがスプーンで食べさせていた。
プルプル君の予定では、スライムとして転生したあとに、ドラゴンを食べて最強になり、
そのあと、カワイイ人間の女の子を食べて、美人に変身して
大活躍する予定だったそうだ。
しかし、転生した場所は街中でドラゴンはおらず、美少女を食べれば殺人罪で死刑、
死体を食べたら死体損壊罪でこれも重罪らしい。
まあ、最初からドラゴンがいるような場所に転生させられたら、普通ドラゴンに殺されて
終わりだけどね。
街中に転生されるほうが親切設計だ。
とにかく、人間を食べることができなかったので、ずっとスライムのままだ。
それで、人生設計が大きく狂ってしまったらしい。
行軍部に1年生のハインツ・グランデという男の子が入部してきた。
この子は一般入試で入って来た子だが、試験でトップだったらしい。
学費免除の奨学生になっている。
去年はちなみにボンベイが一位だったらしい。
このハインツが何でかわからないが無茶苦茶葛城を慕っている。
葛城に憧れて行軍部に入ったということだった。
どうにも腑に落ちない。
何でそんなに葛城の事を尊敬しているのか。
しかし、ふと気づいた。
これ、もしかしてNPCなんじゃないか。
もしかしてじゃなくてもNPCだ。
オレの事なんかを無条件でオソロシアやボンベイが慕ってくれるように。
葛城も転生者なんだから無条件に慕うキャラクターが出てきてもおかしくない。
そし、葛城に付属するキャラクターであるなら気をつけなければならない。
優秀で何の欠点もない人格。
しかし、転生者に付随するキャラクターにはそれぞれ違った欠点がある。
この欠点を転生者は抑制しながらコントロールしていかねばならない。
転生者自体は最強の属性、傲慢。
この属性を暴走させないために、常に謙虚にしておかねばならない。
葛城は今のところ驚くほど謙虚なので、そこは問題ないとして、
新しくキャラクターが付随してきたら、葛城自身がその事に心をくだかなくてはならなくなる。
まったく下っ端の時は自分の事だけ考えていればいいが、下の者が出てきたら、
下の者とどう接するかに時間のリソースの多くを割く事になる。
生活する上において、肉体的疲労や苦痛は努力で克服することができる。
しかし、人間関係はそうはいかない。ただガムシャラにやっていればいいものではないことを
葛城にも教えておかねばならない。
今まで葛城は一番末端であったので自分さえ努力しておけばよかった。
これからはそうでないことを教えなければならない。
その点、プルプル君は余計な事をしないので安心できた。
それでも、一方的に葛城だけに説教をすれば、葛城が自分だけ叱られたと思って
落ち込んだりヤル気をなくしたりするかもしれない。
オレは葛城とプルプル君を呼びだして、下級生との接し方、心得を教えた。
ある時、行軍が終わってから、オレはお茶を沸かして、オソロシアたちにふるまった。
あと、塩気が入っているクラッカーも。
「みんなのおかげで良い行軍が出来た」
と感謝した。
ハインツの事は葛城に任せていた。
葛城はハインツに水を貰って飲み干していた。
そのあと
「あ~疲れた」
と言ってぐた~と休んでいた。
オレはみんながいなくなったあと、個室に葛城を呼び出した。
「葛城君、いままでオレに付き従って部を盛り上げてきてくれた事に
心から感謝している。
ただ、行軍が終わったあとでは、まず自分の部下であるハインツ君に
お水を勧めてあげてほしい。部下は自分から言い出せないだろう。
人には性格がある。自分から水を要求する子もいれば、我慢する子もいる。
ハインツ君は我慢する子だと思う。だから、そこは気をつかってあげてほしい」
「え~いや、大丈夫っすよ、ハインツとボクは親友なんで、そういう
細かい気づかいはかえって邪魔なんで」
「そうか、じゃあ君の判断に任せるが、つねにハインツ君に対する尊重と思いやりをわすれずにね」
「それだとボクがハインツ君に思いやりを持ってないみたいな言い方ですね」
「いや、そういう意味じゃない、すまなかった、オレの思いこみだったかもしれない」
オレは頭をさげて部屋を出た。
たしかに、ハインツは葛城にいいように使われていても、いつも笑顔で葛城にくっ付いていた。
やはりそこは葛城に付随した存在なので、オレみたいな部外者が立ち入る問題ではないのか。
部下の部下まで目をやると、心配でたまらなくなる。そこは自分流を押し付けるのではなく、
部下を信じて、その裁量にまかせるべきなのだろう。そうでないと、部下のメンツをつぶすことになる。
それは最悪の手だ。
それからしばらくたってからの事だ。
バチン
廊下の向こで何か音がした。
ちょっと悪い予感がする。
「おい、クモ野郎、お前生意気なんだよ」
「ボクは先輩に何もしてませんが?」
「オレにじゃねえよ、学年で一番頭がいい白人のハインツ様に対して何偉そうにしてんの?」
「いや、後輩だし、彼が自主的にやっていることで」
「お前、クモだよな、クモが何やってんの、過去に人間食っといて反省しねえの?
土下座しろよ」
「ボクは食べてません」
「お前の先祖が過去にやったこといってんだよバーカ!」
オレは慌てて止めに入ろうとした。
その瞬間、葛城の前にハインツが飛び出してきた。
「やめてください、私は葛城先輩を尊敬しているのです」
「葛城のどこに尊敬する要素があんの?やめろよ、おまえエリートなんだから。こんなクモ、
絶対士官になんかなれねえよ」
「葛城先輩は素晴らしい方です。私にも思いやりをもって接してくださります。
殴るなら私を殴ってください」
「分かったよお、じゃあ、一発殴らせろや」
「はい」
これはさすがにまずい、一旦は躊躇したがオレはハインツの前に割って入った。
が、
グランツはハインツを殴らなかった。
ボコッツ!
鈍い音がして葛城がふっとんだ。
「へへへ、ざまあみろ、クモ野郎が」
グランツはハインツの後ろに居た葛城を殴り倒したのだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおー!」
オレの後ろで大きな叫び声が聞こえる。
振り返るとハインツの目が真っ赤になっていた。
ハインツの拳がグランツに向かっているのがスローモーションに見えた。
ヤバい、グランツが殺される。
一瞬の事でオレは思わずハインツの腕を払いのけてしまった。
やばい!殺した!
オレはゾッとした。
ビイイイイイイイイイイイン!
オレに払いのけられたハインツの手が小刻みに振動している。
「逃げろグランツ!」
オレはハインツの前に立ちはだかった。
「うおおおおおおー!」
ボコッツ!
ハインツに腹を殴られた。
ゲホッツ!
オレは吹っ飛ばされ、校舎の壁にぶつかった。
ベキッツ
校舎の壁に大きな穴が開いた。
オレはその中からはい出す。
「ゲホッ、ゲホッ、逃げろグランツ!」
オレはせき込みながら必死に叫んだ。
「お、おう!」
グランツは逃げ出した。
「ぐおおおおおおおおおー!」
叫びながらハインツが追いかける。
その横からオレがタックルをくらわせた。
ハインツが学校の柱を打ち抜いて隣の教室の壁にたたきつけられる。
壁に大きなヒビが入った。
「ううううう」
唸りながらハインツが起き上がる。
「ごめん」
オレはハインツの腹に平手の一発をくらわした。
「ぐごっ、あうう」
ハインツは呼吸困難に陥り、その場に倒れた。
やっぱりそうだった。
ハインツはバーサーカーだった。
あとで葛城に話を聞いた。
葛城はハインツからバーサーカーだという事を打ち明けられていた。
葛城は、涙を流しながらハインツを抱きしめ、
「ハインツはボクが守るからダイジョブだよ。一生の友達だからね」と言ったそうだ。
ああ、そりゃ、懐くわな。
それにオレにも話できないわけだ。
オレが浅はかだった。
グランツはこの騒動で停学3か月。
この時期の停学3か月は致命的だ。
これで留学は決定したようなものだった。
ハインツと葛城は休学1か月。
これは内申書の通知に記載されない。
葛城にとってはちょっと痛手だがハインツにとっては
リカバリーできる範囲内での処分だ。
ただ、可哀そうなのは、それまでキャーキャー言って
ハインツを追いかけまわしていた女の子たちが
ハインツに寄り付かなくなったことだ。
ああ、ハインツは孤独だったんだなあと分かった。
事件があってからしばらくして、
誰か魔法の先生がいないか学校側から尋ねられた。
いままでは戦略論を教えていた忍ちゃんが兼業していたが、
いまは忍ちゃんがいない。
魔法が使えない先生がとにかく理論だけ教えている状況らしい。
真っ先に思いついたのはミルセラだが、ミルセラは今は、魔法が使える体ではない。
理論は教えられても実践は教えられない。
悩みに悩んで色々聞いてみた結果、茶虎に相談したところ、
ドスエ軍の将軍を紹介された。
ドスエ軍将軍殺生石玉藻だった。
えー
玉藻の家の住所を聞き、紹介状を持ってきた。
先に茶虎が手紙を出しているので、先方は知っているはずだ。
伏見という駅馬車駅で降りたがまったく場所は違っていた。
伏見駅ではなく伏見稲荷駅だった。
それで家を訪ねていく。
「ごめんください」
「はい、ようおこし~」
家の中から物腰柔らかな声が聞こえた。
「まあまあ、遠路はるばるよおおこしやす、しんどかったでしょう。中でブブ付けでも食べていきなはれ」
「あ、すいません、帰ります」
「帰らんでもええよ」
玉藻が突っ込みを入れてくれた。
「ほうほう、魔法の先生ねえ、私は無理よ、魔法は軍の機密とかもあるし。
ほんでも近所の知り合いさんのお願いやしねえ、知ってる方紹介しますわ」
「よろしくお願いします」
殺生石玉藻は紹介状を書いてくれた。
葛城やプルプル君は事前登録組ではないので、オレみたいに事前登録キャラはもらえていない。
オレが黒足猫をもらったようにスタートアップガチャLRの子を貰っていた。
ただし、事前に女神様に相談すればキャラクターをオーダーメイドできるらしい。
そうはいっても、素人が3Dの造形を構築するのは至難の業だ。
プルプル君の場合は、容姿はテンプレートから選び、付属品や洋服はセミオーダーしたらしい。
名前も自分で決めたようだ。
名前の由来はお母さんが昔作ってくれたゼラチンにソーダを混ぜて固まらせたプリンのようなもので、
これをプルプル君の家ではソーダプリンと呼んでいたらしい。
このソーダプリンという名前は彼にとってバブ味の象徴らしい。
そうした思いが込められているが故に、ソーダプリンは徹底的にプルプル君を甘やかし、
ごはんもいつもソーダプリンがスプーンで食べさせていた。
プルプル君の予定では、スライムとして転生したあとに、ドラゴンを食べて最強になり、
そのあと、カワイイ人間の女の子を食べて、美人に変身して
大活躍する予定だったそうだ。
しかし、転生した場所は街中でドラゴンはおらず、美少女を食べれば殺人罪で死刑、
死体を食べたら死体損壊罪でこれも重罪らしい。
まあ、最初からドラゴンがいるような場所に転生させられたら、普通ドラゴンに殺されて
終わりだけどね。
街中に転生されるほうが親切設計だ。
とにかく、人間を食べることができなかったので、ずっとスライムのままだ。
それで、人生設計が大きく狂ってしまったらしい。
行軍部に1年生のハインツ・グランデという男の子が入部してきた。
この子は一般入試で入って来た子だが、試験でトップだったらしい。
学費免除の奨学生になっている。
去年はちなみにボンベイが一位だったらしい。
このハインツが何でかわからないが無茶苦茶葛城を慕っている。
葛城に憧れて行軍部に入ったということだった。
どうにも腑に落ちない。
何でそんなに葛城の事を尊敬しているのか。
しかし、ふと気づいた。
これ、もしかしてNPCなんじゃないか。
もしかしてじゃなくてもNPCだ。
オレの事なんかを無条件でオソロシアやボンベイが慕ってくれるように。
葛城も転生者なんだから無条件に慕うキャラクターが出てきてもおかしくない。
そし、葛城に付属するキャラクターであるなら気をつけなければならない。
優秀で何の欠点もない人格。
しかし、転生者に付随するキャラクターにはそれぞれ違った欠点がある。
この欠点を転生者は抑制しながらコントロールしていかねばならない。
転生者自体は最強の属性、傲慢。
この属性を暴走させないために、常に謙虚にしておかねばならない。
葛城は今のところ驚くほど謙虚なので、そこは問題ないとして、
新しくキャラクターが付随してきたら、葛城自身がその事に心をくだかなくてはならなくなる。
まったく下っ端の時は自分の事だけ考えていればいいが、下の者が出てきたら、
下の者とどう接するかに時間のリソースの多くを割く事になる。
生活する上において、肉体的疲労や苦痛は努力で克服することができる。
しかし、人間関係はそうはいかない。ただガムシャラにやっていればいいものではないことを
葛城にも教えておかねばならない。
今まで葛城は一番末端であったので自分さえ努力しておけばよかった。
これからはそうでないことを教えなければならない。
その点、プルプル君は余計な事をしないので安心できた。
それでも、一方的に葛城だけに説教をすれば、葛城が自分だけ叱られたと思って
落ち込んだりヤル気をなくしたりするかもしれない。
オレは葛城とプルプル君を呼びだして、下級生との接し方、心得を教えた。
ある時、行軍が終わってから、オレはお茶を沸かして、オソロシアたちにふるまった。
あと、塩気が入っているクラッカーも。
「みんなのおかげで良い行軍が出来た」
と感謝した。
ハインツの事は葛城に任せていた。
葛城はハインツに水を貰って飲み干していた。
そのあと
「あ~疲れた」
と言ってぐた~と休んでいた。
オレはみんながいなくなったあと、個室に葛城を呼び出した。
「葛城君、いままでオレに付き従って部を盛り上げてきてくれた事に
心から感謝している。
ただ、行軍が終わったあとでは、まず自分の部下であるハインツ君に
お水を勧めてあげてほしい。部下は自分から言い出せないだろう。
人には性格がある。自分から水を要求する子もいれば、我慢する子もいる。
ハインツ君は我慢する子だと思う。だから、そこは気をつかってあげてほしい」
「え~いや、大丈夫っすよ、ハインツとボクは親友なんで、そういう
細かい気づかいはかえって邪魔なんで」
「そうか、じゃあ君の判断に任せるが、つねにハインツ君に対する尊重と思いやりをわすれずにね」
「それだとボクがハインツ君に思いやりを持ってないみたいな言い方ですね」
「いや、そういう意味じゃない、すまなかった、オレの思いこみだったかもしれない」
オレは頭をさげて部屋を出た。
たしかに、ハインツは葛城にいいように使われていても、いつも笑顔で葛城にくっ付いていた。
やはりそこは葛城に付随した存在なので、オレみたいな部外者が立ち入る問題ではないのか。
部下の部下まで目をやると、心配でたまらなくなる。そこは自分流を押し付けるのではなく、
部下を信じて、その裁量にまかせるべきなのだろう。そうでないと、部下のメンツをつぶすことになる。
それは最悪の手だ。
それからしばらくたってからの事だ。
バチン
廊下の向こで何か音がした。
ちょっと悪い予感がする。
「おい、クモ野郎、お前生意気なんだよ」
「ボクは先輩に何もしてませんが?」
「オレにじゃねえよ、学年で一番頭がいい白人のハインツ様に対して何偉そうにしてんの?」
「いや、後輩だし、彼が自主的にやっていることで」
「お前、クモだよな、クモが何やってんの、過去に人間食っといて反省しねえの?
土下座しろよ」
「ボクは食べてません」
「お前の先祖が過去にやったこといってんだよバーカ!」
オレは慌てて止めに入ろうとした。
その瞬間、葛城の前にハインツが飛び出してきた。
「やめてください、私は葛城先輩を尊敬しているのです」
「葛城のどこに尊敬する要素があんの?やめろよ、おまえエリートなんだから。こんなクモ、
絶対士官になんかなれねえよ」
「葛城先輩は素晴らしい方です。私にも思いやりをもって接してくださります。
殴るなら私を殴ってください」
「分かったよお、じゃあ、一発殴らせろや」
「はい」
これはさすがにまずい、一旦は躊躇したがオレはハインツの前に割って入った。
が、
グランツはハインツを殴らなかった。
ボコッツ!
鈍い音がして葛城がふっとんだ。
「へへへ、ざまあみろ、クモ野郎が」
グランツはハインツの後ろに居た葛城を殴り倒したのだった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおー!」
オレの後ろで大きな叫び声が聞こえる。
振り返るとハインツの目が真っ赤になっていた。
ハインツの拳がグランツに向かっているのがスローモーションに見えた。
ヤバい、グランツが殺される。
一瞬の事でオレは思わずハインツの腕を払いのけてしまった。
やばい!殺した!
オレはゾッとした。
ビイイイイイイイイイイイン!
オレに払いのけられたハインツの手が小刻みに振動している。
「逃げろグランツ!」
オレはハインツの前に立ちはだかった。
「うおおおおおおー!」
ボコッツ!
ハインツに腹を殴られた。
ゲホッツ!
オレは吹っ飛ばされ、校舎の壁にぶつかった。
ベキッツ
校舎の壁に大きな穴が開いた。
オレはその中からはい出す。
「ゲホッ、ゲホッ、逃げろグランツ!」
オレはせき込みながら必死に叫んだ。
「お、おう!」
グランツは逃げ出した。
「ぐおおおおおおおおおー!」
叫びながらハインツが追いかける。
その横からオレがタックルをくらわせた。
ハインツが学校の柱を打ち抜いて隣の教室の壁にたたきつけられる。
壁に大きなヒビが入った。
「ううううう」
唸りながらハインツが起き上がる。
「ごめん」
オレはハインツの腹に平手の一発をくらわした。
「ぐごっ、あうう」
ハインツは呼吸困難に陥り、その場に倒れた。
やっぱりそうだった。
ハインツはバーサーカーだった。
あとで葛城に話を聞いた。
葛城はハインツからバーサーカーだという事を打ち明けられていた。
葛城は、涙を流しながらハインツを抱きしめ、
「ハインツはボクが守るからダイジョブだよ。一生の友達だからね」と言ったそうだ。
ああ、そりゃ、懐くわな。
それにオレにも話できないわけだ。
オレが浅はかだった。
グランツはこの騒動で停学3か月。
この時期の停学3か月は致命的だ。
これで留学は決定したようなものだった。
ハインツと葛城は休学1か月。
これは内申書の通知に記載されない。
葛城にとってはちょっと痛手だがハインツにとっては
リカバリーできる範囲内での処分だ。
ただ、可哀そうなのは、それまでキャーキャー言って
ハインツを追いかけまわしていた女の子たちが
ハインツに寄り付かなくなったことだ。
ああ、ハインツは孤独だったんだなあと分かった。
事件があってからしばらくして、
誰か魔法の先生がいないか学校側から尋ねられた。
いままでは戦略論を教えていた忍ちゃんが兼業していたが、
いまは忍ちゃんがいない。
魔法が使えない先生がとにかく理論だけ教えている状況らしい。
真っ先に思いついたのはミルセラだが、ミルセラは今は、魔法が使える体ではない。
理論は教えられても実践は教えられない。
悩みに悩んで色々聞いてみた結果、茶虎に相談したところ、
ドスエ軍の将軍を紹介された。
ドスエ軍将軍殺生石玉藻だった。
えー
玉藻の家の住所を聞き、紹介状を持ってきた。
先に茶虎が手紙を出しているので、先方は知っているはずだ。
伏見という駅馬車駅で降りたがまったく場所は違っていた。
伏見駅ではなく伏見稲荷駅だった。
それで家を訪ねていく。
「ごめんください」
「はい、ようおこし~」
家の中から物腰柔らかな声が聞こえた。
「まあまあ、遠路はるばるよおおこしやす、しんどかったでしょう。中でブブ付けでも食べていきなはれ」
「あ、すいません、帰ります」
「帰らんでもええよ」
玉藻が突っ込みを入れてくれた。
「ほうほう、魔法の先生ねえ、私は無理よ、魔法は軍の機密とかもあるし。
ほんでも近所の知り合いさんのお願いやしねえ、知ってる方紹介しますわ」
「よろしくお願いします」
殺生石玉藻は紹介状を書いてくれた。
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