平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉

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34話 葛城とプルプル君

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 時のたつのは早いもので、あっという間に1年が過ぎた。
 1年たつと新入生が入ってくる。

 今年の新入生は毛色の変わった者が多かった。

 スライムや魔物。バケモノ。

 実は1年目はそいつらは書類選考で落とされていたらしい。

 ただ、その事実を知ったヤマトのエミリー王女が魔物を差別するなと訴え、
 市民運動が起こった。

 結果、魔物の入学が許された。

 しかも、化外の地と言われているキシューの山奥から大量のバケモノが進学してきた。
 ヤマトは元々ナニワの属領であった縁がある。だが、キシューは完全な外国だ。

 しかし、どういう訳か、キシューの学生には留学補助金が月16万P支払われていた。

 1か月十分に暮らしてお小遣いが残る金額だ。

 平和になり、魔物へのアレルギーも無くなって来たのだろう。

 しかし、外国の、しかも魔物に貴重な技術を流出させてよいものであろうかとの
 疑問は残った。

 ナニワ国内では入学反対運動も起こったが、そういう運動を起こした者は騎士の家柄であろうと
 逮捕され、投獄されていった。

 とはいえ、入学してしまえば、大切な同窓生だ。

 オレは彼らを歓迎した。

 ある日、狂犬のグランツが仲間の不良と一緒になって新入生を蹴り倒していた。

 「おい、何やってる」

 オレは驚いて走り寄った。

 「何もクソもねえよ、こいつ顔を隠してるけど土蜘蛛なんだぜ!」

 グランツが言った。

 「土蜘蛛がどうした」

 「昔、近隣の村を襲って女をさらっていった悪魔の子孫なんだ!」

 「ちがう!土蜘蛛は前からここに居たんだ。お前らが勝手にボクらの土地を奪ったんだ!」

 「嘘つけこの悪魔が!」

 グランツがまた新入生を蹴り倒す。

 やめろよ!

 オレはグランツの前に立ちはだかる。

 「うっせえ!」

 グランツは思いっきりオレの顔を蹴り倒す。

 ゴキッツ!

 あ!

 グランツの足がねじ曲がった。

 「がはああああああ!」

 転げまわるグランツ。

 「何かごめんね~」
 オレはグランツを担いで保健室に行った。

 グランツを運んだあと、オレは新入生のところへ帰っていった。

 新入生はうずくまって泣いていた。

 「君ダイジョブだった?」

 オレは新入生の顔を覗き込んだが、顔にも仮面をつけていた。

 「ううううう……せんばい、ありがどうごさいまず……うううううう」

 なんかむっちゃ泣いてる。


 「怪我は無かった?保健室いこうか?」

 「ほげんじつ、先輩がいるのでこわいです」

 「あ~、わかったよ、じゃあ寮のお部屋まで連れて行ってあげるね」

 「あい……うううううう、ぐずっ」

 新入生は立とうとしたが、足をくじいたみたいで立てない。


 「あー足くじいたんだね。部屋までオンブしていってあげるよ」

 「そんな、先輩にそこまでしてもらえないです」
 
 「いいって、気にするなよ」

 「どうして、どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」


 「困っている人がいたら助けるのが当たり前!」

 オレは胸を張った。

 「せんばい、かっごいいです……ううううう」

 後輩はまた泣いた。

 「えーと、君名前何だっけ」

 「葛城土雲かつらぎつちぐもです」

 「あ~いい名前だねえ、綺麗な名前だ」

 「そんなごとないです、この名前のせいで土蜘蛛だってばれたし」

 「いいんだよ、いまに強くなって先輩たちを見返してやんな。最初は誰でも弱いもんさ」

 「せんばいでもですか?」

 「ああそうだねえ、不良に殴られてぶっ倒れるくらい弱かったよ、あはははは」

 俺は軽い声で笑った。

 寮の部屋に担いでつれていってあげると、葛城はペコペコと頭を何度もさげていた。

 腰が低い子だなあ。

 部屋を出ると、そこには頭が骸骨のアンデットが立っていた。

 「あ、君、ここの部屋?」

 「我が名はクロイツ・オルフェルト!我が至高の君主を侮辱したる罪、万死に値する!闇に滅せよ!」

 その骸骨はオレに向かって手をかざした。


 ボウ!

 黒い炎が顔に当たる。

 「いてっ!」

 「あれ~?」

 骸骨はクビをかしげる。

 ボウ!ボウ!ボウ!

 何度も打つ。

 「あの~葛城くん、何か部屋の前に人がいるんだけど君の知り合いかなあ」

 オレが大声で言うと、バン!と勢いよくドアが開く。

 「何やってんだよお前!」

 「は~?」

 骸骨はクビをかしげる。

 「だーかーらー!この人はオレの命の恩人なんだよ!」

 「そうですか、では、今より至高の君主を侮辱した輩を討伐に参ります」

 「やめろよ!」

 「あー……」

  なんとなくオレは理解した。

 「あの~君、異世界転生者?」

 「そうです」

  オレは骸骨に向かって指をさす。

 「初回限定LR?]

 「そうです!」

 「あ~」

 「何でこんな感じになっちゃったわけ?これ、何?」

 「自分、事前登録じゃないんっすわ。それで、その代わりといっちゃなんですが、
 メイキングがパワーアップされてて、自分でキャラメイキングできるようになったんすわ。
 そんでね、スゲーオレ、アニメーション学院中退なんすよね、プライドっていうか、
 そういうのあるじゃないすか、カワイイ女の子とかつくって、こっち来て、
 きゃ~かつらぎくん、絵、うま~いとか言われたいじゃないっすか。でもね、
 筆じゃないんすよ」

 「え?」

 「ここのシステム、ペンタブ無いんっすわ、マウスで描けとかいわれちゃってさ、
 そんなの無理ゲーじゃないっすか、いままでずっとペンタブでやってきたのによお」

 「はあ」

 「ほんでね、やっぱ女の子の顔、グチャグチャになっちゃったんすよ、そんなの
 笑いものじゃないっすか」

 「あ、いや、もっと自分に自信もったほうがいいよ」

 「あんたに何が分かるんっすか!?」
 
 「あ、ごめん」

 「そんでね、そんでね」

 「はいはい」

 「顔グチャグチャなんすよ。どうしようかって泣きながら女神様に相談したら、
 テンプレの骸骨、顔にはめこんどきゃいいんじゃねって言われて、頭骸骨にしたんっすわ。
 そんで、頭骸骨で女の子って、これはダメだなと思って男にしたんすわ」

 「色々大変だねえ」

 「もう、カンベンしてほしいっすわ」

 そこに、騒ぎを聞きつけた寮長の先生がかけつけてくる。

 「これはどうしたことかね」

 「あ、いえ、これ、初回限定のLRなんです」

 「なに?他所で買ってきたフィギアだと!」

 「いや、初回限定だって言ってるでしょ!転生するときね、女神さまがね!」

 「だから、魔導士会で買った魔導人形なんだな!」

 「だれも、そんな事いってないっすよ」

 「うむ、そうなんだな、認めたな」

 「みとめてないっすよ」

 「だから、分かったと言ってるだろ!」

 先生が怒っている。

 「なんすか、これ?」

 葛城が救いを求めるようにオレを見た。

 「あ、いや、だから、ガチャだとか、女神様にパラメーター調整してもらったとか、

 そういう話はこっちの世界では禁則事項なんだわ、だからこっちのNPCに何いっても別の言葉に
 変換されちゃうんだよ」

 オレはそう説明した。

 「なんすかー、それ、最悪じゃないっすかー」

 「この魔導人形はお前が卒業するまで学校で預かっておきます!」

 そう言って、先生はクロイツ・オルフェルトの首根っこを引っ張って持って行ってしまった。

 「なんですか?先輩もLR取り上げられちゃったっすか?」

 「いや~オレの場合はヒューマンタイプを選んだからね。ノンヒューマンだと引っかかるんじゃないかなあ
 運営かみさまに今度会った時、バグじゃないか確かめてみたら?」

 「そんな~バグでスタートダッシュのLR取り上げられちゃったら、どうしようもないっすよ~」

 葛城はその場にへたり込んでしまった。

 「まあ、学園生活はそれだけじゃないから。地道に経験値積んでいこうよ、ね」

 オレは葛城の背中をさすってなだめた。

 学校に行って靴箱をあける。

 バサバサバサ

 靴箱から大量のラブレターが落ちる。

 自分の部屋に持って行って読んだら「タケシ様すき!すき!」という内容満載だった。
 うわー、下級生からモテモテだな。

 あとでオソロシアに見つかって全部燃やされた。



 
 「パソコンウオーズがでーたぞ!こいつは激しいシミュレーション!
 のめりこめる!のめりこめる!のめりこめる!のめりこめる!」

 窓の外から一年生がトラックを走らされている風景が見える。

 一年前、オレもやらされたなあ。

 葛城がフラフラになっているのが見えた。
 そら、鎧着てるからな。バカだなあ。

 そんなに顔見られるのがイヤなのか。

 あとで聞いてみると、ウイザード(魔導士)なのに戦士科に入学したらしい。
 なにやってんだ、あいつ。

 放課後、学校の校庭で草むしりをしていたら、葛城が来た。

 「何?」

 「今日から緑化委員になりました!よろしくお願いします!」

 「あーたぶん、君に一番むいてないと思うよ」

 「それでも、先輩と一緒に活動したいので!」

 あ、かわいい事言ってくれるじゃん。

 で、


 やっぱりあんまり役に立たなかった。

 夏になると、日射病で倒れて保健室に運ぶことになったし。

 鎧を脱げといっても絶対脱がない。

 でも、そのおかげで、ウイザードなのに、すごく戦士としてのスキルが熟達し、
 体力もついたらしい。

 授業のトラック一周でもフラフラしなくなった。


 しばらくすると、葛城が友達を連れてきた。

 「こんちわ、タケシ先輩、こいつ、友達のプルプルっす!」

 「こんにちわ~」

 オレは挨拶した。

 スライムはプルプルしていた。

 どうも、行軍部に入りたいらしい。

 「あの、うちの部は荷物もって行軍するんだけど、スライムの子、ダイジョブ?」

 「大丈夫っす!」

 葛城は即答した。

 スライムはプルプルしていた。

 予想通り、スライムにリュック背負わせたら、消化されてしまった。

 移動も遅いし。

 「おい、早くしろ!」

 シャンティーリーがイライラして叫んだ。

 「まあまあ」

 おれはシャンティーリーをなだめた。

 先輩から見て、後輩はグズグズしているように見える。
 でも、自分たちは最初はそうだったんだ。

 オレ達は創部メンバーだから上はいなかったけど、
 後輩にとって先輩はすごく怖い存在だろうと思う。

 優しく指導してあげなければならない。

 世界最強のモンゴル騎馬隊は指揮官を一番体力がない者に任せたという。

 それは、一番優秀な体力のある者に指揮官をまかせたら、大量の脱落者が出て、
 戦力が減退してしまうからだそうだ。

 プルプル君は歩みは遅かったが、その消化力は大きな強みだ。

 

 プルプル君が歩いたあとは、雑草が消化されてその後しばらく、雑草が生えなかった。

 「プルプル君、いつも雑草が生えないようにしてくれてありがとうね」

 オレはプルプル君にお礼を言った。
 プルプル君はプルプルしていた。


 今年も運動会。

 みんなでかけっこ、騎馬戦、棒倒し。

 そして文化祭。

 今年のお神輿のモデルはプルプル君にした。
 
 葛城がものすごく綺麗に色塗りをした。

 先輩のアメリカンカールとかに、色塗りにムラが出ているとかダメ出しをしていた。

 この日ばかりは葛城がヒーローだった。

 
 みんなで作った水色のプルプル君を見て、プルプル君はプルプルしていた。
 たぶん、喜んでいるんだろうと思った。

 夜中に学校に宿泊、夜遅くまでバカ話をした。

 次の日、また今年もスパゲティー屋をして、夜にはキャンプファイアー。

 自分が一生懸命作ったお神輿が焼かれるのを見て葛城は涙ぐんでいた。


 その次のバレンタインデー
 靴箱に行くと、靴箱パンパンにチョコレートがいっぱい詰め込んであった。

 トントン

 誰かオレの肩を叩く。

 振り返ると満面の笑みのオソロシア。

 隣に黒足猫。

 「黒足猫GO!」

 オソロシアが叫ぶ。

 「ありがちょー!」

 チョコレートは全部黒足猫がもっていった。

 「はい!」

 黒足猫がハート型のチョコレートを差し出す。
 中にピーナツが入ったチョコレートだった。

 「タケシあーん」

 オソロシアはチョコレートのパッケージをはがして、
 割って、オレに差し出した。

 ハムッ

 オレはチョコを口に入れた。

 甘くて美味しかった。



 



 
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