平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉

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31話 各個撃破

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 「お前ら、どうするつもりだ!」

 オレとオソロシアと黒足猫が学校の総務局の先生に呼び出されて怒られた。

 意味が分からない。

 「何の事ですか?」

 「お前、学校に入学するとき、入学案内書を読んでいないのか」

 読んでなかった。

 「えっと、何の事でしたっけ?」

 「学校に入学したとき、学校の組織業務に所属するよう、自分で選択しなきゃいけないだろ。

 あとはお前らだけだぞ」

 「茶虎は何処に入ったんですか?」

 「風紀委員だ」

 「アメリカンカールは?」

 「新聞委員だ」

 「シャンティーリーは?」

 「応援委員」

 「ボンベイは?」

 「生徒会委員」

 うわー。

 黒足猫が冊子を見ている。

 「給食委員」

 「よし決定。おい、タケシとロシアンブルーはどこにいくんだ」

 オソロシアはチラチラとオレを見ている。

 ああ、オレと一緒の所に行きたいからオソロシアは今までどこにも行かなかったんだ。

 オレはちょっと切なくなった。

 

 なんか楽なのがいい。

 前に行ってた王立の学校は雑用は全部使用人がしていた。
 そのありがたさが身に染みる。
 
 のんびりしたい。

 オレの頭の中にのんびりお花に水をやっている映像がうかんだ。

 「緑化委員」
 「オレも!」


 オレの言葉に続き、間髪入れず、オソロシアが答えた。

 
 「こんにちわ!今日から緑化委員会にお世話になります!」

 オレは顧問の先生に元気よく挨拶した。
 
 「あん?」

 ジャージを着た女の先生が振り返る。

 試験の体力測定の時、絡んできた先生。

 はい、はずれー

 「なんだお前」

 「緑化委員会に入りました」

 「そうか」

 「で、他の先輩たちとかは……」

 「お前らだけだ」

 「ですよね~」

 「私はリリカだ。じゃあ今から学校の北側の森の雑草全部刈ってこい」

 思ったのと違った。

 オレとオソロシアは黙々と雑草を狩り、樹木の枝も伐採し、
 グランドの横に運んで天日干しした。

 数日たつと、かなり大きな山になったので、
 周囲にバケツの水を置いて、先生監視のもと、火をかけて焼いた。

 大量の灰が出来た。

 たしか灰って消石灰と混ぜると石鹼になるんじゃなかったっけ。

 実は、学校の風呂では頭を洗うものとしてパスタのゆで汁を使っていた。

 パスタのゆで汁が無い時は、小麦粉を水でゆでて、それをシャンプーとして使う。

 軍に居たときは、ちゃんと石鹼を使っていたが、石鹼は高級品だ。

 一般兵士はこれと同じものつかってたんだろうなとシミジミ思う。

 しかし、ゆで汁はネバネバしている上に腐りやすい。腐ると異臭を放つ。

 本当に苦労していた。

 たしか、ナニワの王立学校に居たときは牛のラードを使った固形石鹸を使っていたが、
 あれは高級品で庶民は使えない。

 軍で使っていたものが樹木の灰と消石灰を混ぜたものだった。

 先生の許可を得て大きなタライに水を入れ、そこに灰を入れてかき回す。

 それでしばらく放置して上澄み液を大きな釜に入れて煮沸して水を蒸発させる。

 それに消石灰を混ぜて、水に溶かして、また煮込んで水を蒸発される。

 それで、出来上がり。

 ちょっとオソロシアを見ると、髪の毛がバサバサだったので、お湯で頭を洗ってやることにした。
 どうも、オソロシアもパスタのゆで汁で頭を洗うのがイヤで、こちらに来てから頭を
 お湯だけで洗っていたようだ。

 オレがオソロシアの頭からお湯をかけようとすると、オソロシアはビクッとした。

 ちょっとずつ注意深くかけたんだけど、オソロシアは「ニャウッ!」
 と声を出してクビをすくめた。

 どうもイヤそうだ。

 よく聞いてみると、頭にお湯をかけられるとき、目をつぶるのが怖いらしい。

 いままで頭を横に傾けて、目に水が入らないようにして頭を洗っていたらしい。
 器用だなあ。

 オレは、近所の街の皮職人に頼んで、革でオソロシア用の
 シャンプーハットを作ってもらった。

 オソロシアの頭にそれをかぶせて頭に灰汁石鹼をかけて、お湯を流す。

 「おお!目があけられるぜ!」

 オソロシアはむっちゃ喜んでいた。

 灰汁石鹼で洗うと、ぼさぼさだったオソロシアの髪の毛がさらさらヘアーになった。

 作った灰汁石鹼は学校の女子風呂においてもらうことになった。

 草を刈った場所に大きなスペースが出来たので、お花を植えたいと思ったが、
 実用植物でないと、学校から苗の購入許可が下りないらしい。

 先生の命令でムクロジの木を植えることになった。

 ムクロジの実を乾燥したものにドリルで穴をあけ、羽をつけたものが羽根つきの羽根として
 つかわれるらしい。

 羽根つきは、軍のスポーツ競技の一つとして取り入れられていた。

 あとムクロジの実の皮はすりつぶすと石鹼のかわりになるらしい。

 それだけでは味気ないので、椿オイルが取れるという名目で椿も申請。
 あと、緊急食糧という名目で桑も申請した。
 桑と椿の申請も許可された。

 購入はこれくらいしかできない。

 でも、近所で芙蓉や酔芙蓉を植えている村人が居たので、
 少し枝を貰うことにした。

 芙蓉は赤花芙蓉、白芙蓉、芙蓉、酔芙蓉などの種類があるが全部手に入れて、

 枝を切って、土に挿し木した。

 芙蓉は挿し木で根が生える。


 あと、アジサイも挿し木で根が生える。


 その他にゼラニウムもよく挿し木で根がつくそうだから貰ってきた。

 「これやる」

 そう言って、黒足猫がもらってきたのはベビーサンローズというプニプニした多肉植物だ。

 これも、よく根がつくそうなので、もらってきた。


 キレイなお花畑ができるのが楽しみだ。

 お花を貰いに村を回っていると、若い家族が兵隊にとられて戦死してしまった家から
 自分がもっている放置して草だらけになっている畑の草刈りもしてほしいと
 要望があった。

 そのかわり、狩った草や木は全部あげるという。

 オレもオソロシアもけっこう力が有り余っていたので、

 近隣の過疎農家の畑や山の草刈りも引き受けた。

 木などをむやみに切り倒すと自然破壊になるのではないかと思っていたが、
 実は、杉など針葉樹林の葉にはヒノキチオールという殺菌成分が入っていて、
 土の上に落ちると、そこにいる小さな虫や微生物を殺してしまうそうだ。

 このため、地中の微生物の働きが衰え、土が痩せて土砂崩れの原因になるらしい。

 だから雑木林は重要で、スキなどの針葉樹はあるていど間引いて切り倒してやったほうがいいそうだ。

 あと、平原なども人間が何百年もかけて人工的に作ったもので、

 そこを放置していると、すぐに大きな木が生えてきてしまう。

 それを放置しておくと、やがて草原は森となり、そこに住んでいた野ネズミや野ウサギがいなくなり
 それを餌にしていた鷹や隼もいなくなって、今まで里山として存在していた自然環境が
 くずれてしまうそうだ。

 人間もまた自然環境の一員なのだなあと思った。
 
 ちょっと遠くの耕作放棄地の草刈りに行っていたので、
 少しだけ模擬戦の授業に遅れてしまった。

 こっそりと、順番待ちの列に並ぼうとしていると教官の忍ちゃんに見つかってしまった。

 「あら、遅かったわね、何してたの?」

 「すいません、草刈りにちょっと遠くまで行ってたので」

 「ああ、緑化委員やってたわね。タケシは植木を植える仕事をしてるなら、こんな話を知ってる?
 桜の下には死体が埋まっているって話」

 「ああ、聞いたことがあります」

 「あれってどういう意味か分かる?」

 「いや、何かの比喩表現だと思ってたんですけど、サクラの精霊が男だとかなんとか」

 「そうじゃなくて、本当に死体が埋まっているのよ」

 「え~」

 「昔は川の堤防を作る時、人柱といって人間を埋めたの。そのあと、堤を強化するため
 木を植えたのね。木の根がひろがって堤が強化されるから。
 その時にあえて桜を植えたの。桜は水をあげなくても雨天だけで育つし、
 花がキレイだから大勢が花見に来て、堤が踏み固められて堤が強化されたの。
 花見の習慣というのは、そういう堤を踏み固めて決壊させないための作業だったのよ。
 そして、人間が埋まっている上に植えられた桜は人間の養分を吸って、他の桜より
 より大きく成長してるの。みんな、花見に来たとき、ああ、あの大きな桜の下には
 死体が埋まっているんだ。と花見をしながら話をしたから、その話が今に残っているのよ」

 「へ~でも、どうして人間を埋めるとか無駄な事したんでしょうね。迷信ですかね」

 そういうと忍ちゃんがニンマリ笑った。

 「違うわ、戦略論よ」

 「戦略論ですか?」

 「ええ、生きた人間を埋めて殺して犠牲にすることによって、その地域の宗教団体の僧侶たちは
 民衆に呟くのよ。この人はあなたたちを守るために死んだのです。あなた達は生まれながらにして
 罪を内在しているのよ。良心の呵責を持ちなさい。後ろめたい気持ちになりなさい。
 申し訳ないと思うなら、私たち宗教家が供養してあげますから、私に供養祭の費用を毎年払いなさい」

 「あ!」

 「宗教団体が生活するために人々の良心の呵責を利用するのよ。正義を叫んで
  働かずに人から金を貰って生活する勢力は、皆この戦略を使うわ。これも一つの生き残り戦略なのよ」

 「よく勉強になります」

 「さあ、お勉強になったところで、隊列に戻りなさい」

 「はい」

 今回の模擬戦は、三人ずつ並んで、カゴの中の布袋で中にモミガラが入ったボールを
 相手に当てて、10発当てられたら死亡認定。
 
 先に全員死亡させたほうが勝ち。

 オレとオソロシアと黒足猫が組になった。

 みんな色々考えて、玉を投げる役、後ろで玉を渡す役に分ける組、

 カゴを持つ役と投げる役をわける組、

 地上に分散して玉を置いて玉を投げるなど、
 みんな今までならった戦略論を生かして作戦を構築した。

 オレ達は、みんな片手で玉をある程度持ち、各自が自由に動く作戦。

 たたし、全員で一番右の奴から一斉に攻撃してゆく。

 最初に一番右に並んでいた奴を第一目標。

 そいつを死亡させたら第二目標、次に第三目標。

 この攻撃目標は決して変更しない。

 一度に一人で持てる玉の数は10個は持てないので7個持つ。

 一人で完全に一人を倒せないけど、複数で当てて複合的に倒す。

 できれば二人目までは手持ちの玉で倒す。
 
 最後の一人になったら、たった一人残った敵をけん制しながら玉を補充して
 3人がかりで残りの一人を倒す。

 これでオレ達は優勝した。

 「先生!こいつら汚いです」

 「卑怯だよ~こんなの~」

 他の組から文句が出た。

 「ハイ!ハイ!ハイ!」

 忍ちゃんが手をパチパチ叩いた。

 「文句言うんじゃないわよ、タケシの戦い方こそ、正しい戦い方なのよ。
 各個撃破。まず、一番弱い奴を全員で集中攻撃して倒す。そして、数において優位をとって、
 最終的に自分よりも強い相手を数で圧倒して倒す。これが戦場でのセオリーよ。
 はい、ここテストで出ます!覚えておきなさい」

 そういうと忍ちゃんはオレのほうを見てニヤリと笑った。

 「あなた、さすがね、こんな戦略をどこで習ったの?」

 「あ……あの~オンラインゲームで……」

 「は?」

 「オンラインゲームで一番最初にヒーラーを倒しとかないと、せっかく倒した敵を
 復活されて、酷い目にあったりしたので。最初に全員でヒーラーを集中攻撃して
 倒した経験からです」

 「オンラインゲーム?知らない士官学校ね。どこかの傭兵学校みたいなもの?」

 「あ……まあ何かそんな感じのものです」

 「まあいいわ、みなさん、タケシはすごいわ、見習うように、はい拍手」

 「わ~パチパチパチ」

 みんなオレを羨望の眼差しで見て拍手した。

 いや、オンラインゲームやってる人なら、みんなやっている事なんだけど。

 オレは冷や汗が出た。
 




 
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