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24話 金色の鎧
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ナニワ民国の軍はクジョーまで迫っていた。
ナラーの中枢に近い場所だ。イコマーまでもさして離れていない。
凄まじい電撃作戦だ。
ヤマト軍は先頭に赤羊主が立って、敵軍に突っ込み、敵を切って切って切りまくった。
その進撃はすさまじく、あっという間にナニワ民国軍は総崩れになった。
我々はどんどんナニワ民国軍を追い詰めていった。
逃げて、逃げて逃げまくるナニワ民国軍。
「おかしい……」
ミルセラは眉間に深いシワを寄せてつぶやいた。
「何がですか?」
「ナニワ民国軍が脆すぎる。よしんば、脆かったとしても
補強として近衛軍の鷹取師団が出てくるはずだ。来ないということは
オトリだ。ドスエ軍さえオトリであり、狙いはやはりタキクラーの食糧庫だ。
私はわが軍全員を連れてタキクラーに向かう。タケシはいざという時のために
赤羊主と行動を供にしてくれないか」
「分かりました」
ミルセラはオレたちの軍団全員を率いてタキクラーに向かった。
よほど警戒しているのだろう。そしてオレを最大限に信頼してくれている。
「ははは、見ろよこれを!」
赤羊主が大声で笑った。
赤羊主が指さした方向に大量の野戦用の鍋や釜、炊きかけのごはんが散らばっている。
あいつら、後方部隊が食事を取ろうとして、こっちの進軍が早すぎて、
メシも食わずに逃走した。この意味が分かるか?」
「あ、いや」
「シャリばてだよ」
ニタリと赤羊主が笑った。
「あ!ハンガーノックか」
人間はある程度以上、食事を取らずに運動し続けると、限界を超えて動けなくなる。
それはどんな最強の戦士でもモンスターでもそうだ。
辺りには夜の夕闇が迫っていた。
空はまるで血の色のように真っ赤に染まっていた。
「よし!今が最大のチャンスだ!一気に攻めるぞ!」
赤羊主は小躍りした。
「待ってくれ、夜間行軍は危ない。ここで駐屯しよう」
「何を言ってやがる!相手はシャリばてなんだ!待ち伏せなんてできねえ!
乱戦になれば、あいつらは動けねえ、戦えねえ。今対戦したら絶対に勝てるんだ。
相手にどんな猛将がいようとな!」
「うん、まあそれは道理だが、夜は何があるかわからない」
「それならお前だけここでメシ食ってろ!千載一遇のチャンスなんだ!じゃあな」
「待ってくれ、オレも行く」
俺達は撤退したナニワ民国の軍を追って進軍した。
道に点々とナニワ民国軍が捨てていった武器や鎧などが散乱している。
兜、鎧、剣、ん?なんか足りないような……。
何かもう一つ足りないような気がした。
敵はゴショーからゴットハッピーマウンテンに逃げ込んだ。
神の祝福の山か、悪い予感がする。
この前も、ここで得体のしれないものが出てきた。
狭い山道を縦長の隊列を組んで行軍した。
山の中に一本の真ん中に大木が立っている。
「なんだ、ありゃ?」
赤羊主はクビをかしげる。
周囲は真っ暗だ。
木の肌を削って何か書いてある。
「何て書いてあるんだ?暗くて見えねえ、誰か、明かりをもってこい!」
赤羊主が叫んだ。
兵士がタイマツに火をつけて持ってくる。
赤羊主が木を照らす。
字を読む。
「は?うんこプリプリ?なんだこりゃ」
そこには「うんこプリプリ脱糞と化した先輩」と書いてあった。
ヒュン!
矢が跳んでくる。
「うぐっ!」
兵士が倒れる。
「は?」
怪訝な表情で赤羊主が周囲を見回した。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
無数の矢が四方八方から飛んでくる。
「罠だ!すぐ消せ!」
おれは叫んだが、兵士たちはそれどこではない。
オレは飛んでくる矢を叩き落としながらタイマツの所までいって足でタイマツを踏みつけて火を消した。
その時である。
ボウン!
火の玉が天空から飛んでくる。
ドシン!
「ぎゃああああああー!」
兵士たちの悲鳴が聞こえる。
何個も、何個も火の玉がふりそそぐ。
「あ?」
唖然として突っ立っている赤羊主の頭の上にも火の玉が落下した。
ドシン!
「赤羊主!」
オレは叫んだがもう遅かった。
「ははは、もう手遅れだよ、みんな死んだ。君しか残ってないよ、さあどうするんだい」
紅蓮の炎に照らされながら江戸主水がゆっくりと歩いてくる。
「悪いな、前回は見逃したが今回は見逃せない。主水君は人を殺しすぎた」
「やってみなよ、出来るならね」
江戸主水はニヤリと笑った。
その直後、
バウン!
炎の玉が砕け散った。
驚いて後ろを振り返る江戸主水。
そこいは平然とした赤羊主が立っていた。
「バケモンなめんなよ」
「ば、ばかな!」
バコッツ!
赤羊主は江戸主水を殴り倒した。
「ぐはっ!」
江戸主水は鼻から血を飛ばして倒れた。
「弱っ!なんだこいつ」
「まあ、生身の人間だからね」
「はーっ、すまないねえ、アンタの軍を全滅させちまった」
「赤羊主が悪いわけじゃないよ、こんなの予測できないもん」
が、遠くから変な音が聞こえてくる。
「パフ!パフ!」
そのあとから変な声が聞こえてくる。
「ぱらりらぱらりら~ぶるんぶるん」
キコキコちょっと錆びかかった自転車のような音が聞こえてくる。
燃え盛る炎に照らされる、ちっさな三輪車。
そこにオレンジ色の中国服を着て頭に二つシニオンをつけた女の子が乗っていた。
パフパフ。
三輪車に金属製で後ろに黒いゴムがついているラッパをつけていて、それを手で揉んでいる。
揉むたびに、パフ!パフ!と間抜けな音がする。
「ふほほ~弱い者イジメはいけませんなあ、慶タン激おこプンプン丸だじょ~!」
なんかそんな事を言っている。
慶ちゃんは赤羊主のところまでやってきた。
「なんだ、このガキは」
「おい、すぐに降参しろ、三下」
慶ちゃんは言った。
「誰が三下だ、コラ!」
怒鳴りながら赤羊主は剣を横に振った。
剣の切っ先が慶ちゃんの三輪車のハンドルの上に付けてある金属製のラッパに当たって、
ガチンと音がした。
金属製のラッパはへしゃげた。
「ぴょーっ!」
慶ちゃんは目を丸くした。
「分かったか、クソガキ、ここはおめえみたいなガキが来るところじゃねえんだ。
とっとと帰って、ママのオッパイでも吸ってろ」
「ムカ着火ボルケーノ!」
慶ちゃんが平手をふりあげる。
「危ない!よけろ!」
「え?」
ブウン!
慶ちゃんが平手で張り倒すと赤羊主は粉々に砕け散った。
辺りに細かい肉片が紙吹雪のように舞い散る。
「よくも赤羊主をおおおおおお!」
オレは頭が真っ白になっていた。
オレは慶ちゃんに突進して殴りかかった。
「ドスコーイ!」
バコッツ!
慶ちゃんの突っ張りがオレの腹に食い込む。
ぐはっ!息ができねえ。
オレ、最強じゃなかったのかよ、
いや、無防備に敵のパンチ喰らっちゃまずい、
油断した、傲慢だった。
頭の中で思考が走馬灯のようにぐるぐる回った。
気がつけば、オレは空中に飛ばされていた。
「あ!うああああああああー!」
ドスン!
オレは地面に墜落した。
まだ生きている。
最強でよかった。
最強でなければ死んでいたような気がする。
ここはどこだ。
周囲を見回す。
シャクドという場所だった。
カシワラーやヤギーよりチェリーブロッサムウイルから遠い。
かなり遠い。
とにかく走って近くに軍の施設が無いか探して、
タカダーという町の軍の施設に駆け込んで馬を借りた。
そしてチェリーブロッサムウイルを目指す。
チェリーブロッサムウイルの軍関係者に聞くと、病院に
瀕死の重傷のアメリカンカールと茶虎が運び込まれたと聞いた。
アメショの馬車に乗せ、シャンティーリーが護衛を務めてここまで運んだらしい。
病院に行くと、病院の前でシャンティーリーが立ちすくんでいた。
オレの顔を見ると、無表情のままボソッと言った。
「ミルセラを見殺しんして自分たちだけで逃げた」
すると、そこにアメショが駆け寄ってきた。
「違うよ、ミルセラの命令でけが人を後方に運ぶ護衛を命令されたんだ。命令だよ!」
「一緒だ」
「一緒じゃない」
シャンティーリーとアメショが口論となった。
「そんな事してる場合か!」
オレが怒鳴ると二人ともシュンとなった。
「ごめん」
オレは頭をさげた。
「どうすればいい」
シャンティーリーがオレに問うた。
「まだミルセラは生きている。オレはそう信じている。
ミルセラを助けに行こう」
「うん、そうだね」
アメショが頷いた。
本当は、まだ子供のアメショを一緒に連れていきたくない。
しかし、ミルセラが負傷している場合、馬車で運びたい。
「すまない、一緒に来てくれ、アメショ、シャンテリーリー」
「うん」
「わかった」
二人はうなづいた。
タッカークーラーからハッセー教会へ。
ハッセー教会の上にある山道を登っていくと、血が川のように
流れていた。
その先に信じられないものを見た。
真っ二つに切り裂かれている龍公女の死体だった。
オレの一撃で貫けなかった鎧もキレイに切られている。
その先に進むと、異様な光景があった。
人間の死体がサラミのように薄切りにされて散乱している。
それが無数にあった。
これじゃ、誰が誰かわからない。
しばらく行くと、森の奥から声が聞こえてくる。
「うんしょ、うんしょ」
子供の声だ。
金色の鎧を着た子供が何か白い塊を運んでいる。
その子供は俺達を見ると目が真っ赤になった。
「忍ちゃんはボクが守る」
「その白い塊が忍ちゃんなのか」
「だまれ」
子供がそう言うと剣を横の振るう。
すると、ビュンと風が起こって、杉林の杉の上が合わせて数十本切れて吹っ飛んだ。
「まて!忍ちゃんを助けたくないのか!」
オレが怒鳴ると金色の鎧の子供の目から赤みが消えた。
「え?」
「オレは助けられる。この馬車を切り裂いたら助けられないぞ!」
「助けてくれるの?」
「ああ、まず事情を聞かせてくれ」
「ボクと忍ちゃんは戦ってたんだけど、金髪のオバちゃんが忍ちゃんをマホウで吹っ飛ばしたんだけど、
忍ちゃんが元にもどって、おばちゃんが怒って、食料倉庫の小麦粉を投げつけたんだ。
忍ちゃんは水分を吸収されて、ネチャネチャなカタマリになっちゃんったんだ。だから、
ボクはナニワのお国に忍ちゃんを連れてかえるんだ」
「わかった。オレたちの馬車で忍ちゃんをナニワまで連れてってあげるよ。」
「ありがちょー!」
金色の鎧の子供は喜んだ。
「正気か!こいつはアメリカンカールや茶虎に大怪我をさせ、ミルセラにも!」
シャンティーリーが怒鳴ったので、子供は身構える。
「冷静になれ。もし、ここでこいつと戦っても勝つとはかぎらない。
こいつが勝って、街に出てみろ。
ここからナニワまで大量の人を切り刻みながら、ゆっくりと歩いて帰っていくんだぞ。
罪もない民衆を殺戮することになる。それは、避けなければならないんだ」
「くそっ」
シャンティーリーは歯を食いしばった。
オレは金色の鎧の子に近づく。
金色の鎧の子は警戒してあとずさりする。
「大丈夫だよ、忍ちゃんを助けるためなんだ」
「う、うん」
オドオドしながら子供はうなづいた。
オレはベタベタする小麦粉の塊を担いで、馬車までもっていく。
「こいつ、怖いから置いてって」
子供はシャンティーリーを指さす。
「なんだと!」
シャンティーリーはイキり立つ。
「お願い!ヤマトの民衆を救うためなんだ!」
おれは平身低頭してシャンティーリーに謝罪した。
「仕方ないなあ」
シャンティーリーは馬車から降りた。
「申し訳ない、ふもとの村まで下りたら軍の馬に拾ってもらってくれ。
オレはそこにシャンティーリーを置き去りにしてアメショと小麦粉の塊と金色の鎧の子を
馬車に乗せ、またゴットハッピーマウンテンまで向かった。
そこには、慶ちゃんと年老いたナニワの兵たちがいた。
みんな年老いてくたびれていた。
「慶ちゃ~ん」
鎧の子は泣きながら馬車を飛び降り、慶ちゃんに駆け寄っていった。
「剣ちゃん!忍ちゃんは?」
「あれ」
剣ちゃんは馬車に乗っている小麦粉の塊を指さす。
「ぴょーっ!こいつらぶっ殺すよー!」
慶ちゃんは俺達に走り寄る。
「待って慶ちゃん!その人は忍ちゃんを助けてくれたんだよ!」
「マジで!?」
慶ちゃんは振り返る。
「うん」
「ほ~ん」
慶ちゃんはハナクソをほじってピンと指ではじく。
オレの服にそのハナクソが付く。
このガキ。
「ジイちゃんたち忍ちゃんを連れて帰るお」
「はい」
老人たちが忍ちゃんを馬車から運び出してかついで、自分たちの陣営に運んだ。
老人たちはみんな弓を持っていた。
弓を引いてオレ達に狙いをさだめている。
「手出し無用だよ!」
慶ちゃんがそう言うと老人たちは弓を下ろした。
「おんぶ~」
慶ちゃんが叫ぶと、
一人の老人が鎧を脱いで、慶ちゃんの前に後ろを向いてしゃがむ。
慶ちゃんはその背中にピトッと乗ると、すぐ「クカ~」とイビキをかいて寝てしまった。
「ばいばい」
剣ちゃんが手を振る。
オレとアメショは手を振って、その場を離れた。
三輪車も兵士たちが運んでもっていった。
ナラーの中枢に近い場所だ。イコマーまでもさして離れていない。
凄まじい電撃作戦だ。
ヤマト軍は先頭に赤羊主が立って、敵軍に突っ込み、敵を切って切って切りまくった。
その進撃はすさまじく、あっという間にナニワ民国軍は総崩れになった。
我々はどんどんナニワ民国軍を追い詰めていった。
逃げて、逃げて逃げまくるナニワ民国軍。
「おかしい……」
ミルセラは眉間に深いシワを寄せてつぶやいた。
「何がですか?」
「ナニワ民国軍が脆すぎる。よしんば、脆かったとしても
補強として近衛軍の鷹取師団が出てくるはずだ。来ないということは
オトリだ。ドスエ軍さえオトリであり、狙いはやはりタキクラーの食糧庫だ。
私はわが軍全員を連れてタキクラーに向かう。タケシはいざという時のために
赤羊主と行動を供にしてくれないか」
「分かりました」
ミルセラはオレたちの軍団全員を率いてタキクラーに向かった。
よほど警戒しているのだろう。そしてオレを最大限に信頼してくれている。
「ははは、見ろよこれを!」
赤羊主が大声で笑った。
赤羊主が指さした方向に大量の野戦用の鍋や釜、炊きかけのごはんが散らばっている。
あいつら、後方部隊が食事を取ろうとして、こっちの進軍が早すぎて、
メシも食わずに逃走した。この意味が分かるか?」
「あ、いや」
「シャリばてだよ」
ニタリと赤羊主が笑った。
「あ!ハンガーノックか」
人間はある程度以上、食事を取らずに運動し続けると、限界を超えて動けなくなる。
それはどんな最強の戦士でもモンスターでもそうだ。
辺りには夜の夕闇が迫っていた。
空はまるで血の色のように真っ赤に染まっていた。
「よし!今が最大のチャンスだ!一気に攻めるぞ!」
赤羊主は小躍りした。
「待ってくれ、夜間行軍は危ない。ここで駐屯しよう」
「何を言ってやがる!相手はシャリばてなんだ!待ち伏せなんてできねえ!
乱戦になれば、あいつらは動けねえ、戦えねえ。今対戦したら絶対に勝てるんだ。
相手にどんな猛将がいようとな!」
「うん、まあそれは道理だが、夜は何があるかわからない」
「それならお前だけここでメシ食ってろ!千載一遇のチャンスなんだ!じゃあな」
「待ってくれ、オレも行く」
俺達は撤退したナニワ民国の軍を追って進軍した。
道に点々とナニワ民国軍が捨てていった武器や鎧などが散乱している。
兜、鎧、剣、ん?なんか足りないような……。
何かもう一つ足りないような気がした。
敵はゴショーからゴットハッピーマウンテンに逃げ込んだ。
神の祝福の山か、悪い予感がする。
この前も、ここで得体のしれないものが出てきた。
狭い山道を縦長の隊列を組んで行軍した。
山の中に一本の真ん中に大木が立っている。
「なんだ、ありゃ?」
赤羊主はクビをかしげる。
周囲は真っ暗だ。
木の肌を削って何か書いてある。
「何て書いてあるんだ?暗くて見えねえ、誰か、明かりをもってこい!」
赤羊主が叫んだ。
兵士がタイマツに火をつけて持ってくる。
赤羊主が木を照らす。
字を読む。
「は?うんこプリプリ?なんだこりゃ」
そこには「うんこプリプリ脱糞と化した先輩」と書いてあった。
ヒュン!
矢が跳んでくる。
「うぐっ!」
兵士が倒れる。
「は?」
怪訝な表情で赤羊主が周囲を見回した。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
無数の矢が四方八方から飛んでくる。
「罠だ!すぐ消せ!」
おれは叫んだが、兵士たちはそれどこではない。
オレは飛んでくる矢を叩き落としながらタイマツの所までいって足でタイマツを踏みつけて火を消した。
その時である。
ボウン!
火の玉が天空から飛んでくる。
ドシン!
「ぎゃああああああー!」
兵士たちの悲鳴が聞こえる。
何個も、何個も火の玉がふりそそぐ。
「あ?」
唖然として突っ立っている赤羊主の頭の上にも火の玉が落下した。
ドシン!
「赤羊主!」
オレは叫んだがもう遅かった。
「ははは、もう手遅れだよ、みんな死んだ。君しか残ってないよ、さあどうするんだい」
紅蓮の炎に照らされながら江戸主水がゆっくりと歩いてくる。
「悪いな、前回は見逃したが今回は見逃せない。主水君は人を殺しすぎた」
「やってみなよ、出来るならね」
江戸主水はニヤリと笑った。
その直後、
バウン!
炎の玉が砕け散った。
驚いて後ろを振り返る江戸主水。
そこいは平然とした赤羊主が立っていた。
「バケモンなめんなよ」
「ば、ばかな!」
バコッツ!
赤羊主は江戸主水を殴り倒した。
「ぐはっ!」
江戸主水は鼻から血を飛ばして倒れた。
「弱っ!なんだこいつ」
「まあ、生身の人間だからね」
「はーっ、すまないねえ、アンタの軍を全滅させちまった」
「赤羊主が悪いわけじゃないよ、こんなの予測できないもん」
が、遠くから変な音が聞こえてくる。
「パフ!パフ!」
そのあとから変な声が聞こえてくる。
「ぱらりらぱらりら~ぶるんぶるん」
キコキコちょっと錆びかかった自転車のような音が聞こえてくる。
燃え盛る炎に照らされる、ちっさな三輪車。
そこにオレンジ色の中国服を着て頭に二つシニオンをつけた女の子が乗っていた。
パフパフ。
三輪車に金属製で後ろに黒いゴムがついているラッパをつけていて、それを手で揉んでいる。
揉むたびに、パフ!パフ!と間抜けな音がする。
「ふほほ~弱い者イジメはいけませんなあ、慶タン激おこプンプン丸だじょ~!」
なんかそんな事を言っている。
慶ちゃんは赤羊主のところまでやってきた。
「なんだ、このガキは」
「おい、すぐに降参しろ、三下」
慶ちゃんは言った。
「誰が三下だ、コラ!」
怒鳴りながら赤羊主は剣を横に振った。
剣の切っ先が慶ちゃんの三輪車のハンドルの上に付けてある金属製のラッパに当たって、
ガチンと音がした。
金属製のラッパはへしゃげた。
「ぴょーっ!」
慶ちゃんは目を丸くした。
「分かったか、クソガキ、ここはおめえみたいなガキが来るところじゃねえんだ。
とっとと帰って、ママのオッパイでも吸ってろ」
「ムカ着火ボルケーノ!」
慶ちゃんが平手をふりあげる。
「危ない!よけろ!」
「え?」
ブウン!
慶ちゃんが平手で張り倒すと赤羊主は粉々に砕け散った。
辺りに細かい肉片が紙吹雪のように舞い散る。
「よくも赤羊主をおおおおおお!」
オレは頭が真っ白になっていた。
オレは慶ちゃんに突進して殴りかかった。
「ドスコーイ!」
バコッツ!
慶ちゃんの突っ張りがオレの腹に食い込む。
ぐはっ!息ができねえ。
オレ、最強じゃなかったのかよ、
いや、無防備に敵のパンチ喰らっちゃまずい、
油断した、傲慢だった。
頭の中で思考が走馬灯のようにぐるぐる回った。
気がつけば、オレは空中に飛ばされていた。
「あ!うああああああああー!」
ドスン!
オレは地面に墜落した。
まだ生きている。
最強でよかった。
最強でなければ死んでいたような気がする。
ここはどこだ。
周囲を見回す。
シャクドという場所だった。
カシワラーやヤギーよりチェリーブロッサムウイルから遠い。
かなり遠い。
とにかく走って近くに軍の施設が無いか探して、
タカダーという町の軍の施設に駆け込んで馬を借りた。
そしてチェリーブロッサムウイルを目指す。
チェリーブロッサムウイルの軍関係者に聞くと、病院に
瀕死の重傷のアメリカンカールと茶虎が運び込まれたと聞いた。
アメショの馬車に乗せ、シャンティーリーが護衛を務めてここまで運んだらしい。
病院に行くと、病院の前でシャンティーリーが立ちすくんでいた。
オレの顔を見ると、無表情のままボソッと言った。
「ミルセラを見殺しんして自分たちだけで逃げた」
すると、そこにアメショが駆け寄ってきた。
「違うよ、ミルセラの命令でけが人を後方に運ぶ護衛を命令されたんだ。命令だよ!」
「一緒だ」
「一緒じゃない」
シャンティーリーとアメショが口論となった。
「そんな事してる場合か!」
オレが怒鳴ると二人ともシュンとなった。
「ごめん」
オレは頭をさげた。
「どうすればいい」
シャンティーリーがオレに問うた。
「まだミルセラは生きている。オレはそう信じている。
ミルセラを助けに行こう」
「うん、そうだね」
アメショが頷いた。
本当は、まだ子供のアメショを一緒に連れていきたくない。
しかし、ミルセラが負傷している場合、馬車で運びたい。
「すまない、一緒に来てくれ、アメショ、シャンテリーリー」
「うん」
「わかった」
二人はうなづいた。
タッカークーラーからハッセー教会へ。
ハッセー教会の上にある山道を登っていくと、血が川のように
流れていた。
その先に信じられないものを見た。
真っ二つに切り裂かれている龍公女の死体だった。
オレの一撃で貫けなかった鎧もキレイに切られている。
その先に進むと、異様な光景があった。
人間の死体がサラミのように薄切りにされて散乱している。
それが無数にあった。
これじゃ、誰が誰かわからない。
しばらく行くと、森の奥から声が聞こえてくる。
「うんしょ、うんしょ」
子供の声だ。
金色の鎧を着た子供が何か白い塊を運んでいる。
その子供は俺達を見ると目が真っ赤になった。
「忍ちゃんはボクが守る」
「その白い塊が忍ちゃんなのか」
「だまれ」
子供がそう言うと剣を横の振るう。
すると、ビュンと風が起こって、杉林の杉の上が合わせて数十本切れて吹っ飛んだ。
「まて!忍ちゃんを助けたくないのか!」
オレが怒鳴ると金色の鎧の子供の目から赤みが消えた。
「え?」
「オレは助けられる。この馬車を切り裂いたら助けられないぞ!」
「助けてくれるの?」
「ああ、まず事情を聞かせてくれ」
「ボクと忍ちゃんは戦ってたんだけど、金髪のオバちゃんが忍ちゃんをマホウで吹っ飛ばしたんだけど、
忍ちゃんが元にもどって、おばちゃんが怒って、食料倉庫の小麦粉を投げつけたんだ。
忍ちゃんは水分を吸収されて、ネチャネチャなカタマリになっちゃんったんだ。だから、
ボクはナニワのお国に忍ちゃんを連れてかえるんだ」
「わかった。オレたちの馬車で忍ちゃんをナニワまで連れてってあげるよ。」
「ありがちょー!」
金色の鎧の子供は喜んだ。
「正気か!こいつはアメリカンカールや茶虎に大怪我をさせ、ミルセラにも!」
シャンティーリーが怒鳴ったので、子供は身構える。
「冷静になれ。もし、ここでこいつと戦っても勝つとはかぎらない。
こいつが勝って、街に出てみろ。
ここからナニワまで大量の人を切り刻みながら、ゆっくりと歩いて帰っていくんだぞ。
罪もない民衆を殺戮することになる。それは、避けなければならないんだ」
「くそっ」
シャンティーリーは歯を食いしばった。
オレは金色の鎧の子に近づく。
金色の鎧の子は警戒してあとずさりする。
「大丈夫だよ、忍ちゃんを助けるためなんだ」
「う、うん」
オドオドしながら子供はうなづいた。
オレはベタベタする小麦粉の塊を担いで、馬車までもっていく。
「こいつ、怖いから置いてって」
子供はシャンティーリーを指さす。
「なんだと!」
シャンティーリーはイキり立つ。
「お願い!ヤマトの民衆を救うためなんだ!」
おれは平身低頭してシャンティーリーに謝罪した。
「仕方ないなあ」
シャンティーリーは馬車から降りた。
「申し訳ない、ふもとの村まで下りたら軍の馬に拾ってもらってくれ。
オレはそこにシャンティーリーを置き去りにしてアメショと小麦粉の塊と金色の鎧の子を
馬車に乗せ、またゴットハッピーマウンテンまで向かった。
そこには、慶ちゃんと年老いたナニワの兵たちがいた。
みんな年老いてくたびれていた。
「慶ちゃ~ん」
鎧の子は泣きながら馬車を飛び降り、慶ちゃんに駆け寄っていった。
「剣ちゃん!忍ちゃんは?」
「あれ」
剣ちゃんは馬車に乗っている小麦粉の塊を指さす。
「ぴょーっ!こいつらぶっ殺すよー!」
慶ちゃんは俺達に走り寄る。
「待って慶ちゃん!その人は忍ちゃんを助けてくれたんだよ!」
「マジで!?」
慶ちゃんは振り返る。
「うん」
「ほ~ん」
慶ちゃんはハナクソをほじってピンと指ではじく。
オレの服にそのハナクソが付く。
このガキ。
「ジイちゃんたち忍ちゃんを連れて帰るお」
「はい」
老人たちが忍ちゃんを馬車から運び出してかついで、自分たちの陣営に運んだ。
老人たちはみんな弓を持っていた。
弓を引いてオレ達に狙いをさだめている。
「手出し無用だよ!」
慶ちゃんがそう言うと老人たちは弓を下ろした。
「おんぶ~」
慶ちゃんが叫ぶと、
一人の老人が鎧を脱いで、慶ちゃんの前に後ろを向いてしゃがむ。
慶ちゃんはその背中にピトッと乗ると、すぐ「クカ~」とイビキをかいて寝てしまった。
「ばいばい」
剣ちゃんが手を振る。
オレとアメショは手を振って、その場を離れた。
三輪車も兵士たちが運んでもっていった。
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
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