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13話 怨嗟のほむら

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 「ぎゃー!」

 「たすけて!」

 突然街中に巨大な火柱が立ったものだから周囲に居た人々はパニックに陥って逃げ惑った。


 「カイェゥ ナロ・エルクンヤ!」

 アメリカンカールが叫んで神官の女を凝視した。

 「悪魔よ聖なる炎によって灰になれ!セイントフレーム!」

 女神官が叫ぶと、アメリカンカールの体からボッと炎が燃え上がった。

 「ぎゃー!熱い!熱い!熱い!焼け死ぬうううううううう!」

 アメリカンカールは叫びながら転がりまわった。

 「黒足猫、何処でもいいからカールをどっか近くの川に放り込んでくれ!」

 オレが叫ぶと黒足猫は無言で躊躇なく炎に包まれたアメリカンカールをかかえて走り去った。

 これで一気に戦力が二人減ったが、アメリカンカールの命には代えられない。

 憑依した魂ごと焼き払ったのだという事は分かった。

 「この悪魔め!」

 アメリカンショートヘアーが矢を放つが、それは炎の柱に入ったとたん焼き尽くされる。

 「このおおおおおー!」

 オソロシアが女神官に突進する。

 「やめろ!灰になるぞ、さがれ!」

 オレが叫ぶと、オソロシアは素早く後ろに下がった。

 「オレが行く」

 オレは神官にゆっくり歩み寄った。


 「いったいどういうつもりだ」

  「我らプロテスキャットは腐敗したキャットリック教会を糾弾するために反旗の狼煙をあげた。
  しかし、廃物棄釈によって、無実の罪を着せられ、多くのプロレスキャットの神官は
 魔女の烙印を押され、魔女裁判にかけられて殺された。
 キャットリック教会は、またナニワと組んで、我らプロレスキャット教会を弾圧するために
 お前らを送り込んだ。悪は早い段階につぶすにかぎる」

 「いや、オレたちは役立たずだから追い出されてここに来ただけさ」
 
 「それは嘘だ!お前のような最強の戦士を追放するはずがない。国の運命を変えるほどの
 強大な力だ。そんな力を追放するはずがない!追放というのは偽装で、本当は私たち
 プロレスキャット教会を潰しにきたんだろう!」

 「君はどこに教会に所属しているんだい」

 「イーストビックチャーチだ」
 
 「言ったね」

 オレはニヤリと笑って女神官にオレの手のひらを見せた。

 「君はオレの実力を見抜いたほどの力を持っている。だったら、

 この手のひらの中に何が秘められているか分かるだろう」

 オレがそう言うと、女神官は驚愕したように目を見開いた。

 「こ、これは」

 「そう、どうしても君が我々に危害を加えようとするなら、このメテオクライシスを
 イーストビックチャーチの上に打ち込む」

 「やめろ!それだけはやめてくれ!くそーっつ!」

 女神官はギリギリと歯切りしをする。

 「わかった、私は何をされてもいい、イーストビックチャーチにだけた手出ししないでくれ。
 約束してくれるなら、私のすべてをお前にささげよう」

 そう言って、女神官は鎧を脱ぎだした。

 「ん?」

 オレはクビをかしげた。

 それだけではなく服を脱ぎだした。

 「あー!ちょっと、ちょっと、そういう意味じゃないからー!」

 女神官は自分のブラジャーのホックに手をかける。

 女神官の前に、クビから「見せられないよ」の看板をさげたオソロシアが立ちはだかる。

 「やめろって言ってんだろ!やめねえと寺院の上にメテオクライシスぶっぱなすぞ!」

 オレが怒鳴ると、ようやく女神官は慌ててブラジャーをつけて、服を着はじめた。

 「はあ、はあ、はあ、びっくりしたなーもー」
 (ちょっとうれしかったけど)

 「ホントに厄介ばらいされただけなんだってばあ、
 世の中君みたいにレベルが高い奴ばっかじゃないんだからな。
 オレの実力が分かる奴なんてほとんど居ないんだよ」

 オレは事の経緯を説明した。

 「まったく、申し訳ない!」

 女神官は深々と頭をさげた。

 「いやー勘違いにもほどがある。昔ヤマトで何があったか知らないけど、よそ者のオレたちには
 全然関係ないことだから」

 「まったくなんとお詫びしてよいやら。罪滅ぼしに、今後私は貴方たちの部隊の護衛をしたい。
 分かると思うが、私の能力はヤマトの中でも随一だ」

 「はあ……まあね、強いのは分かりますがね……」

 「受け入れてくれぬか」

 「そう言われましても」

 女神官は目に涙をためる。

 「しかたない、私の体で償えというなら、それもいたしかたないことだ」

 女神官はまた服を脱ごうとする。

 「言ってないから!そんな事言ってないから、はいはい、入隊してください、お願いします。
 どうか入ってください、よろしくおねがいしますーっ!」

 「そこまで言うなら仕方がない。私の名前はシャンティー・リー。
 これからお前たちの護衛を務めてやろう」

 シャンティー・リーはふんぞり返って言った。

 しばらくするとずぶ濡れになったアメリカンカールと黒足猫がかえってきた。

 「えー!こいつが仲間になんのー!」

  アメリカンカールが目を丸くして叫んだ。

 アメリカンカールはシャンティー・リーを指さしていった。
 
 「こいつ、嫌い」
 
 まあそうだろうな。

 「まあああ、みんな仲良くしようね」

 俺は二人ともに気をつかいながら、なだめて仕事を先に進めることにした。


 組織運営は数が多くなるほど難しくなる。

 オレは、瓶がある場所に至る道を整備し、荷車が通れるようにした。

 途中でオークを退治したが、アメショが血や生肉を自分の荷車では
 運びたくないと言ったので、村人に頼んで荷車で運ばせた。

 使用人にやがる仕事は無理強いしない。

 怠けや我がままで言っているのではなく、真剣に嫌がっていたので、
 そういうことを無理強いするとあとで酷いトラブルになるものだ。

 部下を軽んじてはならない。

 村人に運ばせたことには利点もあった。

 驚くべきことに、オークが発生する地域ではオークの肉を食べる習慣があるという。

 しかし、よく焼かないと寄生虫がついていたり食中毒になるので、よそ者は食べない。

 この地域は昔から疫病が発生する場所である。

 オレは村人に燻製を教えた。

 燻製は誰でも簡単にできる高温で短時間燻す熱燻と長時間、半日ほどいぶす温燻と
 余熱で数日間いぶす冷燻がある。

 初心者は熱燻か温燻がいい。
 
 殺菌と長期保存を考えるなら半日ほどいぶす温燻がいいだろう。

 温燻の場合は火を焚き続けるのではなく余熱でやる。

 通常、サクラのチップが好まれるが、このチェリーブロッサムウイルは桜の名所であり
 桜の伐採が進むと悲しいので、あえて教えなかった。

 桜の木は枝を切るとそこからばい菌が入って枯れてしまうので、できるだけ切らないほうがいい。

 そうなると肉にあうのは香りがつよく肉の臭みを消してくれるヒノキがよい。

 杉や松はヤニが出るので、素人には向かない。

 やってできないことはないが、やり方がむつかしいのだ。

 ヒノキだけに偏ったら、ヒノキだけ伐採されてしまうので、

 その他に

 ブナ、ナラ、カエデなどこの近辺に生えている木を教えた。

 オニグルミや桃も使えるが、これは実が食糧になるのえ教えなかった。

 容器は、巨大な寸胴鍋を二つかさね、一つの下にスモークチップを入れ、
 もう一つの鍋の底に穴を無数に開け、
 その上に鉄の網を敷いてその上に食材を乗せるようにした。


 燻製にすると独特の風味が付き、殺菌にもなり食糧の長期保存ができるので、
 村人たちはよろこんでいた。

 その他にもこの地方で大量にとれる大根を干して保存食にする千切り大根なども
 教えてやったら喜んでいた。

 この地域での保存食は、主に発酵食品が発達しており、
 ぬか漬けが行われていた。

 ただ、主食になるわけではなく、あくまでもオカズである。

 あとは、なれ鮓。

 オレは、ドロッとしていて酸味があって、あまり好きにはなれなかったが、
 うちの猫娘たちは喜んでたべていた。

 これは高級品らしく、たまにしか食べられないし、買い求めようとすると値段が高い。

 オークの森から先に進んで、土を掘ってガラス瓶を掘り出した。

 そんな中でも高額で売れるのが
 
 エンボスが入った瓶だ。

 エンボスとは瓶に浮きだした形で文字が刻まれているもので、

 瓶を彫って名前を入れることはできても、浮き出して文字を刻印する技術はないので、
 とても高額で売れた。

 とくに、瓶の裏に椿の模様が刻印されているものが人気があったが、

 一番高額で売れるのが神薬だった。

 新薬というエンボスが入っている。

 このエンボスが入っている器に魔導士たちが自分が作った最高の魔法薬を入れて売るのが
 はやっていた。
 
 神薬という瓶に入れて売ったほうが、値段が3倍から5倍で売れるのだから魔導士たちも
 躍起になってこの瓶を買い求めたのだった。

 あと、ラムネの瓶が一本出たが、これは売らずにオレの宝物として取っておいた。

 当然ながら、資源にはかぎりがある。

 大々的に掘り出しているうちに、出る量が少なくなってきた。

 村人に道の整備を任せたため、だいたいの場所も知られるようになり、
 オークも出没しないようになったため、こっそり盗掘してちょろまかす村人も出てきた。

 そのため、オレの宝の山からのガラス瓶の出土もほとんど底をついてきた。

 夢はいつまでも続かないものだ。

 せっかくだから、オレはナニワに瓶を売りに行くことにした。

 ナニワのほうが人口も多いし、ナラーやイコマーで売った瓶がナニワで転売されているという
 ウワサも聞いた。

 生駒を超えて、サウスナニワーに入る。


 馬車で移動しているとアメリカンカールが不審そうな顔で空を見上げる。

 「どうしたんだい」

 「なんか……ほむらが立っている」

 「ほうらって何だよ」

 「なんか、怨嗟のほむらが立ってる」

 「それって、呪いってこと?」

 「イジメられた立場の弱い人たちの怒りの情念が狼煙となって立ち昇っている。
 これは、近々、ナニワで内戦が起こるよ」

 「そうなの」

 「そうなのじゃないよ、今すぐ戦が起こるかもしれないんだよ、行かないほうがいいよ」

 「そうなのか、じゃあ、残念だけど引き返そう。命あってのものだねだからね」

 「それがいいよ」

  俺たちは、イコマーで瓶を売りさばいてチェリーブロッサムウイルに戻った。

 そんな時である。

 ナニワでクーデターが起こったのは。

 状況はややこしかった。

 当時、王女メアリーの提言でゴブリンとアライグマの保護政策と餌付けが行われていて、
 街にあふれ出たゴブリンによって女性や子供がさらわれ、食われる事態が起こっていた。

 しかし、それを非難する者は動物愛護を否定する、非人道的人間として、
 とくにインテリたちから激しい非難を受け、メアリー支持者たちから毎日執拗な
 嫌がらせを受けることにより沈黙せざるおえなくなっていた。

 また、動物愛護課の職員は仕事をせず、動物愛護運動やデモに参加して給与をもらっており、

 その事に民衆の不満が溜っていたが、だれも、運動員が怖くて声をあげられなかった。

 そんな中、メアリーは王政の政治の不備を訴え、不平分子とともに
 国王を非難しつづけた。

 国王はメアリーの母親を事実上追放してしまった良心の呵責からメアリーに謝罪することで
 事をおさめようとした。

 しかし、謝罪すればするほど、メアリーの要求は大きくなり、情けない王を見て、
 宮廷の貴族や巷のインテリたちもメアリーに迎合するようになった。
 
 そして、見かけ上、だれもメアリーを非難しなくなった。

 この状況に増長したメアリーはクーデターを起こして、王を追放し、独裁政権を打ち立てた。

 王は護衛部隊のピエールに守られ、フィリップ王子とともに
 従属国であるヤマトに逃げ込みを図ったが、フィリップ王子はお友達の鷹取師団の3人を
 置き去りにしていることに気づき、御者に命じて王城に引き返してしまったため
 王だけがヤマトに逃げ込むことになった。

 王城にフィリップ王子を送り届けたあと、御者は逃げ、

 残されたのはフィリップ王子とお友達の妖精三人組だけ。


 これで、メアリーのナニワ支配は完成するものと思われた。

 しかし、メアリーの新鋭隊長であったカイトがメアリーに反旗を翻した。
 フィリップ王子が何の権限もない傀儡王となり、自分がナニワの総統になることと
 引き換えにクーデターを起こしたのだ。

 この時、メアリー王子は何の防御もない王城を攻めてフィリップ王子を亡き者にしようとしたが
 何故か、メアリー軍の主力部隊が壊滅し、
 反乱カイト軍に対抗することができずメアリーは逃亡したという情報が流れた。

 しかし、フィリップ王子を守る者は誰もなく、子供の妖精に何ができるわけでもないので、
 これは誤報であるという解釈が近隣諸国でなされた。

 実際は、メアリー軍の主力とカイト軍の主力が激突したにちがいない。

 近隣諸国の軍事評論家たちは、なぜ、無防備のフィリップ王子を先に亡き者にしなかったのかと
 メアリーの戦略的決断を嘲笑するレポートを多数発行した。

 これによって、メアリーの権威は地に落ちた。

 そして、傀儡王フィリップによる立憲民主性国家、ナニワ民国が建国されたのである。

 この政権を王は、カイトによって作られてた飾り物の王国であり、自分こそが正当な支配者であると
 主張。

 メアリー王女の軍と合同でナニワ民国に攻め込んだが、その節操のない呉越同舟ぶりに
 民衆の支持は集まらず、合戦において大敗することとなった。

 旧ナニワ王国軍に駐屯を許してしまったために、ヤマトは自動的にナニワ民国と敵対関係に
 なってしまった。

 「くそっ、戦争なんてしたくないのに」

 オレはその報告を聞いて、言葉を吐き捨てた。

 

 


 

 
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