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12話 ライダー
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オレは近くの集落でリュックサックを人数分買い求め、山の中に分け入った。
薄暗い山の中に入っていくとクマザサが群生していた。
その中を分け入っていく。
「うわっ」
オソロシアが驚いて声をあげた。
「なんだこれ」
オソロシアが指をさしたほうを見ると錆びて朽ち果てた自動車の残骸があった。
驚くのも無理はない。自動車なんて知らないだろうからな。
「自動車だよ」
オレがそう言ってもオソロシアはクビをかしげた。
「鉄で出来た馬車みたいなもんだ」
オレがそう言うとオソロシアは噴き出しそうになった。
「やっぱ、原始人ってバカだったんだな。鉄の馬車なんて重くて進まないだろう。
木の馬車のほうが軽くてスイスイ走るよ」
「そうだね」
オレは軽くスルーした。
色々説明しても絶対理解してもらえないだろうから。
この辺りには錆びて朽ち果てた放置自動車が散乱していた。
中にはドアが半開きになっているものもあった。
何でドアが開いてんだ?
錆びていて、人間の力ではとうてい開けないだろうに。
その時である。
「ビギャー!」
大きな叫び声がした。
人間の三倍はあろうかとう大きさのオークがいきなり襲い掛かってきた。
オソロシアは襲い掛かってくるオークを軽々避けてハルバードでオークを真っ二つにした。
さすが、すげえ。
オソロシアの戦闘力を再認識した。
どうも、この廃車の中でオークたちが子供を育てているようだ。
途中でオークの赤ん坊も発見したが、それは放置した。
ここがオークの住みかになっているほうが、他の村人がここに近寄らなくて好都合だ。
ただし、オークが村を襲った場合は徹底的に殺すつもりだ。
オークが人間の食べ物の味を憶えないよう、食べ物の残飯は捨てないよう気をつけながら前に進んだ。
時々、襲ってくるオークは倒し、逃げるオークはそのままにした。
しばらく行くと、廃材の不法投棄現場に行き当たった。
そこを掘り返していると、茶色いビール瓶がいっぱい出てきた。
ありふれたビール瓶だがそれでも村に持っていけば多少の値段では売れるだろう。
オレたちは持てるだけのビール瓶を担いで村に帰った。
村では、瓶は一本だけ村長が買った。
しかし、こんな高価なものはこれ以上買えないと言われたので、
イコマーまで行った。
イコマーでは半分くらい売れて莫大な報酬を得た。
みんな、大喜びしていた。
しかし、半分は売れ残った。
買い取り商人にどうして半分は引き取ってくれないのかと聞くと、
口の所が欠けていて鋭利になっていると指摘された。
イコマーの職人の技術では、この欠けた口をちゃんと直せないという。
大金持ちがこれを使って何か飲むとき、口が切れたら責任問題になるので、
それは理解できた。
高額で売れたものの、同じ瓶でも値段に上下があった。
聞いてみると、表面やとくに内側に土とか錆び鉄とか付着物がついているものは
値段が安くなっているようだった。
持って帰ってきたとき、ちゃんと洗っておけばよかった。
「ねえ、残ったぶん、重いからここに捨ててかえろうよう」
アメリカンカールが言った。
「だめだ、また何かに使えるかもしれないから持って帰る」
「だったら、イコマーに倉庫買おうよ」
「いや、こういう都会は土地の値段が高いからもったいない。また田舎に帰ろう」
「え~だるいなあ、ぶ~」
アメリカンカールは不満そうだったがオソロシアと黒足猫は黙ってオレに従った。
倉庫はチェリーブロッサムウイルという街の近郊にあるスリーリングという村に買った。
村人に話を聞くと、近所に世界最古のクニツ教会、ビックユニティーチャーチという教会があると
聞いたので、行ってみた。
きっと、ものすごく荘厳な教会があると思っていったが、
巨大で立派な門はあったが、教会自体は無かった。
なんでも、この教会の裏手にある山自体がスピリチュアルなので、教会の建物はないそうだ。
それでも、そのお山はとても威厳に充ち溢れ、強い力を感じたのでオレは来てよかったと思った。
オレはその山に手を合わせてチェリーブロッサムウイルに帰った。
チェリーブロッサムウイルの街の中心には駅馬車の駅があり、そこからヤマトの中心地に
乗合馬車で行くことができる。
けっこう便利な場所だった。
その割に、スリーリングの辺りには田畑が広がっており、土地も安い。
そのあたりに中古の家を買って、オソロシアや黒足猫、アメリカンカールと暮らすことになった。
「ねえねえ、オッパイ触ってもいいから、もっと私にお金の分け前ちょうだい」
アメリカンカールがそう言いいつつ飛び跳ねた。
けっこう大きいオッパイがボインボイン揺れた。
オレは、その大きなオッパイに思わず見とれてしまった。
「こら!触ったら許さねえからな!」
そう言ってオソロシアがオレにヘットロックをかけた。
腕で頭を包まれたとき、ついでにオソロシアのたわわなオッパイがオレの顔にあたる。
「はい、しましぇん」
そう言いながらオレは幸せだった。
オレはまた宝の山に行くことにした。
オークが住んでいる廃車置き場い行くと、クマザサがガサガサと揺れた。
オークか!?
と思ったら、小さな森の精霊が一匹、ひょっこりと顔をだした。
けっこうかわいい。
「うぱ!うぱ!」
叫んで、スリングショットでドングリをパチンとオレの顔に当てやがった。
やられた!
オレは慌てて山を下り、医者を探したが、この村では治療ができない。
急いでイコマーまで向かったが、途中で高熱が出て動けなくなった。
オソロシアが担いでくれて、なんとかイコマーまで行くことができた。
後で知ったことだが、イコマーまで行かなくても、途中の大都市、ナラーに
治療できる医者はいたそうだ。
かなりの時間がたっているので、オレの体調は最悪だった。
オソロシアはオレの事をとても心配してくれて、献身的に看病してくれた。
黒足猫はチョコレートを食べていた。
アメリカンカールは、いつもニタニタしながら自分の取り分のお金を数えていた。
しばらくしてなんとか熱は引いたが関節が痛い。
ひどい目にあった。
どうも、ヤマトの人たちの話を聞くと、殺したモンスターの肉をそのまま放置しておくと、
その肉が腐敗して森の精霊が湧くらしい。
それは知らなかった。
これからは道を開き、オークの肉は処分しないと。
診療所で気づいたのだが、ヤマトの食事は貧しかった。
基本、大豆が主食で驚いたことに、ふつうは乾燥した豆を焼いて、ボリボリ食べていた。
そんなもの味もそっけもないが、それが、調味料もなく安上がりで食べられる食事だった。
ヤマトにうまいものなし。
近隣でそう言われていることを知ったのは後のことだ。
病人にはさすがに焼いた豆はたべさせられないので、乾燥豆を煮てたべさせていた。
それでも、煮たとしても、けっして消化のよいものではない。
オレは、病人には米のおかゆを食べさせるべきだと主張したが、
ヤマトの医者は、このヤマトには風土病が多く、米のおかゆはすぐに腐るので
病人に食べさせるのは危険だと主張した。
たしかに、米のおかゆは普通のごはんに比べても水分が多くて腐りやすい。
雑菌の餌になるようなものだ。
じゃあ、オレの前世ではどうして病人におかゆをたべさせていたのか。
オレは必死に思い出した。
「あ!」
そうだ、梅干しだ。
オレは、元気になるとイコマー中を探したが、梅は簡単に見つかった。
沢山、梅の木はあったが、それはあくまでも観賞用で、実は食べられてなかった。
街の人にどうして梅の実を食べないのか聞いてみたが、
「とんでもない、こんな毒がある実なんてたべられないよ」
と言っていた。
驚いたことに、オレも知らなかったが、まだ熟していない梅には毒があるらしい。
だから昔の人は梅干しなんて面倒な事をして食べたのか。
それから1年、オレはイコマーにとどまって梅干し作りに専念した。
試しに街の人に食べさせると「おえー!」と言って吐き出した。
こんなもの食べられないという。
しかし、おかゆに入れて煮込むと、すごく香りがよくて美味しいと驚いていた。
それだけではない。
梅干しを入れたおかゆはすごく腐りにくい。
おかげで、病院の病人食として梅干し入りのおかゆが採用されることとなり、
病人の延命率が非常に高まった。
梅干しは瞬く間にイコマーに広まった。
オレは作った梅干しを売りつ尽くしたあとは、街の人に梅干しの作り方を教えて
この街を去ることにした。
「ありがとうございます!」
「この御恩は一生忘れません」
去り際、街の人たちが集まって、オレの事を褒めたたえてくれた。
梅干しの作り方をタダで教えてくれたことに非常に感謝している様子だった。
ヤマトにはまだまだ食材がいっぱいある。
梅干しの漬け方を街の人に教えたことを、アメリカンカールはもったいないと言って
怒っていたが、少しでも早く、少しでも多くの人に梅干しの作り方が普及して
多くの人の命が救われることが先決だった。
俺は、冒険の先には血みどろの生活が待っているかと思っていたけど、
それよりも今の生活のほうが充実していた。
梅干しを大量に運ぶとき、人が担ぐのでは限界があった。
今後ガラス瓶を発掘するのにも人手では限界がある。
俺は馬車を引くライダーを探した。
街中のライダーはすでに定職についているものが多く
得体のしれないよそ者のグループに参加する者はなかった。
結局、新卒を採用するしかない。
あちこち探したが、なり手がない。
どうも、最近は人手不足で人を探すのは大変な時期のようだった。
結局、流れ流れてチェリーブロッサムウイルまで戻ってきてしまった。
村で話を聞いてみると、
村の南側の山の中にあるタンザンチャーチの下働きをしている子がライダーの仕事を
さがしているという噂話があった。
俺たちはさっそく、タンザンチャーチに向かった。
タンザンチャーチは神様というか、神を信仰した聖者を祀る教会だった。
聖者信仰というのは猫族のキャットリック教会独特の慣習だった。
チェリーブロッサムウイルの駅前から駅馬車に乗って、
ずいぶん上の方まで山を登った。
山の一番上のほう終点がタンザンチャーチ駅だった。
そこには売店があり、売店のおばさんにチャーチへの行き方を聞いた。
聞いた通りに石造りの細い急な階段を下りていったが、周囲は鬱蒼とした草むらで、
本当にこの先にチャーチがあるのか不安になった。
階段を下りた場所は急な坂だった。
その坂を上っていくと教会があった。
そこの教会は、なんと入るのにお金がいった。
お金を払ってチャーチの中に入ると、巨大な五重塔があった。
大広間の中に入ることもできて、そこで一休みできた。
銀色の鋭い目が書いたお札を売っていて、
これは神はいつもあなたを見ていますよという意味らしい。
面白いお札だ。
建物はとても美しく、建物の窓から見える紅葉も美しかった。
これは、お金を払って入る価値はあった。
しばらくして教会のシスターに尋ねると、
ライダー希望の子を連れてきてくれた。
「やあ!ボクはアメリカンショートヘアーっていうんだ!」
その子はまだ子供で、女の子だけどボクっ子だった。
名前は長いので、ニックネームはアメショに決まった。
アメショの誇りは、先祖がメイフラワー号に乗って信仰の地に
やってきたことだそうで、父親が伝道師でこの地にやってきたそうだ。
アメショも教会のお掃除など奉仕活動をするのが大好きだそうだ。
俺たちがイコマーで病人たちを助けたと知って、喜んで仲間になることを承諾した。
彼女が扱う馬車は、馬ではなく鹿を使ったもので、このチャーチでは鹿は神獣として
大切に保護されているようであった。
帰りは和気あいあいと笑談しながらアメショの馬車に乗ってチェリーブロッサムウイルの駅前まで
帰って来た。
帰ってくると、大通りの真ん中に完全武装した神官が立っていた。
「あの~ちょっとどいていただけませんか~」
アメショが声をかける。
「黙れ、邪教徒め」
吐き捨てるようにその武装神官の女は言った。
「はあ?!邪教徒だと!」
信仰心の深いアメショはそう言われたら黙っていられないだろう。
「まあまあ、どうなされたんですか、お話を聞かせていただけませんでしょか」
「では、話を聞かせてやろう。お前たちを皆殺しにする!」
神官の女が大声で叫ぶと、ブオーッと巨大な火柱が神官を中心として立ち昇った。
薄暗い山の中に入っていくとクマザサが群生していた。
その中を分け入っていく。
「うわっ」
オソロシアが驚いて声をあげた。
「なんだこれ」
オソロシアが指をさしたほうを見ると錆びて朽ち果てた自動車の残骸があった。
驚くのも無理はない。自動車なんて知らないだろうからな。
「自動車だよ」
オレがそう言ってもオソロシアはクビをかしげた。
「鉄で出来た馬車みたいなもんだ」
オレがそう言うとオソロシアは噴き出しそうになった。
「やっぱ、原始人ってバカだったんだな。鉄の馬車なんて重くて進まないだろう。
木の馬車のほうが軽くてスイスイ走るよ」
「そうだね」
オレは軽くスルーした。
色々説明しても絶対理解してもらえないだろうから。
この辺りには錆びて朽ち果てた放置自動車が散乱していた。
中にはドアが半開きになっているものもあった。
何でドアが開いてんだ?
錆びていて、人間の力ではとうてい開けないだろうに。
その時である。
「ビギャー!」
大きな叫び声がした。
人間の三倍はあろうかとう大きさのオークがいきなり襲い掛かってきた。
オソロシアは襲い掛かってくるオークを軽々避けてハルバードでオークを真っ二つにした。
さすが、すげえ。
オソロシアの戦闘力を再認識した。
どうも、この廃車の中でオークたちが子供を育てているようだ。
途中でオークの赤ん坊も発見したが、それは放置した。
ここがオークの住みかになっているほうが、他の村人がここに近寄らなくて好都合だ。
ただし、オークが村を襲った場合は徹底的に殺すつもりだ。
オークが人間の食べ物の味を憶えないよう、食べ物の残飯は捨てないよう気をつけながら前に進んだ。
時々、襲ってくるオークは倒し、逃げるオークはそのままにした。
しばらく行くと、廃材の不法投棄現場に行き当たった。
そこを掘り返していると、茶色いビール瓶がいっぱい出てきた。
ありふれたビール瓶だがそれでも村に持っていけば多少の値段では売れるだろう。
オレたちは持てるだけのビール瓶を担いで村に帰った。
村では、瓶は一本だけ村長が買った。
しかし、こんな高価なものはこれ以上買えないと言われたので、
イコマーまで行った。
イコマーでは半分くらい売れて莫大な報酬を得た。
みんな、大喜びしていた。
しかし、半分は売れ残った。
買い取り商人にどうして半分は引き取ってくれないのかと聞くと、
口の所が欠けていて鋭利になっていると指摘された。
イコマーの職人の技術では、この欠けた口をちゃんと直せないという。
大金持ちがこれを使って何か飲むとき、口が切れたら責任問題になるので、
それは理解できた。
高額で売れたものの、同じ瓶でも値段に上下があった。
聞いてみると、表面やとくに内側に土とか錆び鉄とか付着物がついているものは
値段が安くなっているようだった。
持って帰ってきたとき、ちゃんと洗っておけばよかった。
「ねえ、残ったぶん、重いからここに捨ててかえろうよう」
アメリカンカールが言った。
「だめだ、また何かに使えるかもしれないから持って帰る」
「だったら、イコマーに倉庫買おうよ」
「いや、こういう都会は土地の値段が高いからもったいない。また田舎に帰ろう」
「え~だるいなあ、ぶ~」
アメリカンカールは不満そうだったがオソロシアと黒足猫は黙ってオレに従った。
倉庫はチェリーブロッサムウイルという街の近郊にあるスリーリングという村に買った。
村人に話を聞くと、近所に世界最古のクニツ教会、ビックユニティーチャーチという教会があると
聞いたので、行ってみた。
きっと、ものすごく荘厳な教会があると思っていったが、
巨大で立派な門はあったが、教会自体は無かった。
なんでも、この教会の裏手にある山自体がスピリチュアルなので、教会の建物はないそうだ。
それでも、そのお山はとても威厳に充ち溢れ、強い力を感じたのでオレは来てよかったと思った。
オレはその山に手を合わせてチェリーブロッサムウイルに帰った。
チェリーブロッサムウイルの街の中心には駅馬車の駅があり、そこからヤマトの中心地に
乗合馬車で行くことができる。
けっこう便利な場所だった。
その割に、スリーリングの辺りには田畑が広がっており、土地も安い。
そのあたりに中古の家を買って、オソロシアや黒足猫、アメリカンカールと暮らすことになった。
「ねえねえ、オッパイ触ってもいいから、もっと私にお金の分け前ちょうだい」
アメリカンカールがそう言いいつつ飛び跳ねた。
けっこう大きいオッパイがボインボイン揺れた。
オレは、その大きなオッパイに思わず見とれてしまった。
「こら!触ったら許さねえからな!」
そう言ってオソロシアがオレにヘットロックをかけた。
腕で頭を包まれたとき、ついでにオソロシアのたわわなオッパイがオレの顔にあたる。
「はい、しましぇん」
そう言いながらオレは幸せだった。
オレはまた宝の山に行くことにした。
オークが住んでいる廃車置き場い行くと、クマザサがガサガサと揺れた。
オークか!?
と思ったら、小さな森の精霊が一匹、ひょっこりと顔をだした。
けっこうかわいい。
「うぱ!うぱ!」
叫んで、スリングショットでドングリをパチンとオレの顔に当てやがった。
やられた!
オレは慌てて山を下り、医者を探したが、この村では治療ができない。
急いでイコマーまで向かったが、途中で高熱が出て動けなくなった。
オソロシアが担いでくれて、なんとかイコマーまで行くことができた。
後で知ったことだが、イコマーまで行かなくても、途中の大都市、ナラーに
治療できる医者はいたそうだ。
かなりの時間がたっているので、オレの体調は最悪だった。
オソロシアはオレの事をとても心配してくれて、献身的に看病してくれた。
黒足猫はチョコレートを食べていた。
アメリカンカールは、いつもニタニタしながら自分の取り分のお金を数えていた。
しばらくしてなんとか熱は引いたが関節が痛い。
ひどい目にあった。
どうも、ヤマトの人たちの話を聞くと、殺したモンスターの肉をそのまま放置しておくと、
その肉が腐敗して森の精霊が湧くらしい。
それは知らなかった。
これからは道を開き、オークの肉は処分しないと。
診療所で気づいたのだが、ヤマトの食事は貧しかった。
基本、大豆が主食で驚いたことに、ふつうは乾燥した豆を焼いて、ボリボリ食べていた。
そんなもの味もそっけもないが、それが、調味料もなく安上がりで食べられる食事だった。
ヤマトにうまいものなし。
近隣でそう言われていることを知ったのは後のことだ。
病人にはさすがに焼いた豆はたべさせられないので、乾燥豆を煮てたべさせていた。
それでも、煮たとしても、けっして消化のよいものではない。
オレは、病人には米のおかゆを食べさせるべきだと主張したが、
ヤマトの医者は、このヤマトには風土病が多く、米のおかゆはすぐに腐るので
病人に食べさせるのは危険だと主張した。
たしかに、米のおかゆは普通のごはんに比べても水分が多くて腐りやすい。
雑菌の餌になるようなものだ。
じゃあ、オレの前世ではどうして病人におかゆをたべさせていたのか。
オレは必死に思い出した。
「あ!」
そうだ、梅干しだ。
オレは、元気になるとイコマー中を探したが、梅は簡単に見つかった。
沢山、梅の木はあったが、それはあくまでも観賞用で、実は食べられてなかった。
街の人にどうして梅の実を食べないのか聞いてみたが、
「とんでもない、こんな毒がある実なんてたべられないよ」
と言っていた。
驚いたことに、オレも知らなかったが、まだ熟していない梅には毒があるらしい。
だから昔の人は梅干しなんて面倒な事をして食べたのか。
それから1年、オレはイコマーにとどまって梅干し作りに専念した。
試しに街の人に食べさせると「おえー!」と言って吐き出した。
こんなもの食べられないという。
しかし、おかゆに入れて煮込むと、すごく香りがよくて美味しいと驚いていた。
それだけではない。
梅干しを入れたおかゆはすごく腐りにくい。
おかげで、病院の病人食として梅干し入りのおかゆが採用されることとなり、
病人の延命率が非常に高まった。
梅干しは瞬く間にイコマーに広まった。
オレは作った梅干しを売りつ尽くしたあとは、街の人に梅干しの作り方を教えて
この街を去ることにした。
「ありがとうございます!」
「この御恩は一生忘れません」
去り際、街の人たちが集まって、オレの事を褒めたたえてくれた。
梅干しの作り方をタダで教えてくれたことに非常に感謝している様子だった。
ヤマトにはまだまだ食材がいっぱいある。
梅干しの漬け方を街の人に教えたことを、アメリカンカールはもったいないと言って
怒っていたが、少しでも早く、少しでも多くの人に梅干しの作り方が普及して
多くの人の命が救われることが先決だった。
俺は、冒険の先には血みどろの生活が待っているかと思っていたけど、
それよりも今の生活のほうが充実していた。
梅干しを大量に運ぶとき、人が担ぐのでは限界があった。
今後ガラス瓶を発掘するのにも人手では限界がある。
俺は馬車を引くライダーを探した。
街中のライダーはすでに定職についているものが多く
得体のしれないよそ者のグループに参加する者はなかった。
結局、新卒を採用するしかない。
あちこち探したが、なり手がない。
どうも、最近は人手不足で人を探すのは大変な時期のようだった。
結局、流れ流れてチェリーブロッサムウイルまで戻ってきてしまった。
村で話を聞いてみると、
村の南側の山の中にあるタンザンチャーチの下働きをしている子がライダーの仕事を
さがしているという噂話があった。
俺たちはさっそく、タンザンチャーチに向かった。
タンザンチャーチは神様というか、神を信仰した聖者を祀る教会だった。
聖者信仰というのは猫族のキャットリック教会独特の慣習だった。
チェリーブロッサムウイルの駅前から駅馬車に乗って、
ずいぶん上の方まで山を登った。
山の一番上のほう終点がタンザンチャーチ駅だった。
そこには売店があり、売店のおばさんにチャーチへの行き方を聞いた。
聞いた通りに石造りの細い急な階段を下りていったが、周囲は鬱蒼とした草むらで、
本当にこの先にチャーチがあるのか不安になった。
階段を下りた場所は急な坂だった。
その坂を上っていくと教会があった。
そこの教会は、なんと入るのにお金がいった。
お金を払ってチャーチの中に入ると、巨大な五重塔があった。
大広間の中に入ることもできて、そこで一休みできた。
銀色の鋭い目が書いたお札を売っていて、
これは神はいつもあなたを見ていますよという意味らしい。
面白いお札だ。
建物はとても美しく、建物の窓から見える紅葉も美しかった。
これは、お金を払って入る価値はあった。
しばらくして教会のシスターに尋ねると、
ライダー希望の子を連れてきてくれた。
「やあ!ボクはアメリカンショートヘアーっていうんだ!」
その子はまだ子供で、女の子だけどボクっ子だった。
名前は長いので、ニックネームはアメショに決まった。
アメショの誇りは、先祖がメイフラワー号に乗って信仰の地に
やってきたことだそうで、父親が伝道師でこの地にやってきたそうだ。
アメショも教会のお掃除など奉仕活動をするのが大好きだそうだ。
俺たちがイコマーで病人たちを助けたと知って、喜んで仲間になることを承諾した。
彼女が扱う馬車は、馬ではなく鹿を使ったもので、このチャーチでは鹿は神獣として
大切に保護されているようであった。
帰りは和気あいあいと笑談しながらアメショの馬車に乗ってチェリーブロッサムウイルの駅前まで
帰って来た。
帰ってくると、大通りの真ん中に完全武装した神官が立っていた。
「あの~ちょっとどいていただけませんか~」
アメショが声をかける。
「黙れ、邪教徒め」
吐き捨てるようにその武装神官の女は言った。
「はあ?!邪教徒だと!」
信仰心の深いアメショはそう言われたら黙っていられないだろう。
「まあまあ、どうなされたんですか、お話を聞かせていただけませんでしょか」
「では、話を聞かせてやろう。お前たちを皆殺しにする!」
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