平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉

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4話 途方に暮れて立ち尽くす

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 オソロシアが服を着ている時、ポロリと小冊子が落ちた。

 「なんだこれ」

 「なんでもないよ」

 オソロシアはそれを隠そうとする。

 「ちょっと見せて」

 「う~」

 オソロシアはしゅーんと耳を垂れてしょんぼりしながら小冊子を差し出した。

 ー大切な女の子を止む茶化しないためにー

 「ヤムチャカ?」

 オレはクビをひねった。

 内容を読んでいくと、それは一番最初にスタートゲットした女の子を、敵がインフレ化していく中、
 使い続けることができずに、屋敷に放置してしまって見返らなくなってしまう現象を
 止む茶化と呼んでいるようであった。

 たしかに、オレもオンラインゲームをやっている時、一番最初に事前登録でゲットしたキャラクターを
 最初は使い続けようとしながらも、結局あとに出てきたレアリティが高いキャラに頼ってしまって、
 思い入れはありながらも、次第に使わなくなり、最終的にイベントに連れていかなくなった
 経験はあった。

 でも、それは一番最初にゲットした思い出深いキャラに飽きたわけではなく、
 相手が強くなりすぎて、レアリティが高いキャラじゃないとイベントをクリアーできないからだ。
 一番最初に出会った女の子を連れていきたい悔しい気持ちは自分自身ものすごくある。

 今まで、色々な世界を構築してきた神々はこの事実を大いに悲しまれ、そのような事がもう
 起こらないよう、世界観に力を加えたと書いてあった。

 それは、キャラ互換性。

 キャラには
 キャラレベルと装備レベルがある。
 
 キャラには、そもそもレアリティというものが存在せず、レアリティというものは、
 そのキャラが着ている服、装備についてのみだ。

 !?

 たとえ、最初に手に入れたキャラがNであっても使い続ければレベルが上がり、

 たとえ、同じキャラでハイランクの召喚符を引き当てたとしても、今まで育てたキャラの
 レベルは引き継がれる。


 「ん?どういう事だ」

 オレはクビを傾げた。


 「……あ!そうか!?」

 分かった。

 最初に出会ったキャラがレアリティが低くても、そのキャラクターのハイクラスを引き当てて、
 パーティーデッキに入れるキャラを変えても、それは装備を変えただけで、
 キャラ自体は一緒のキャラと旅できるという世界観なんだ。

 しかも、昔使っていた古いレアリティの低い装備をレベルアップしてても、
 それはキャラの背中に貼ってパワーアップに使えるから無駄にはならない。

 すばらしい!

 このシステムを考えた神様は素晴らしい!


 オレは感動した。

 そりゃそうだ。

 どんなレアレティのキャラでも、自分のお気に入りのキャラはお気に入りのキャラだ。

 オレは昔、艦艇を擬人化したゲームで弱い初期鑑ばかりでイベントクリアできず、ヒーヒー
 言ってたころ、眼帯をしたオレッ娘が出てきて、
 大活躍してくれた。

 それ以来、オレはオレッ娘が大好きになったのだが、
 その子も、新しくレアリティが高い娘を引き当てると、次第に
 使わなくなり、ずっと補給作戦にという裏方として使ってたのを思い出した。

 オレがその子を主力戦闘部隊からその子を外した時、

 その子は涙ながらに、

 「おい!オレを主力部隊から外すな!死ぬまで戦わせろ!」と叫んだ。

 「死ぬまで戦わせろ!」という言葉が胸に刺さった。

 友達の少ない引っ込み思案のオレにとっては、ゲームこそ
 リアルの傷を癒す、本当の自分の世界だった。

 その世界で、本当に好きな子とずっと旅をできない経験は
 本当につらかった。

 ああ、この世界が最初に出会った子とずっと一緒でいられるシステムで本当によかった。

 本の最後に

 「どうか、事前登録ガチャで手に入れた女の子を大切にしてあげてください」

 と書いてあった。

 ん!?

 事前登録ガチャ!?


 オレはチラッとオソロシアを見る。

 オソロシアはプイとソッポを向く。


 おかしいぞ、そもそも、オレは事前登録とかしたのか?

 だいたい、事前登録って何だ。

 えーと事前登録、事前登録。


 ぼやーっと本の内容を読んでいたので、事前登録について
 読み飛ばしていた。


 事前登録のページを見つけた。

 そこに最初に書いてあったのは……

 -デスマラ禁止-


 ん?デスマラって何だ?

 内容を読んでいく。

 デスマラとはデスマラソン。

 つまり死に戻りだ。

 神々が構築した世界が始まり、異世界転生者たちが次々と降臨する。

 その中で、最初に出会た女の子のレアリティが低いからといって、
 その世界を放棄して自殺し、死に戻りして新しく世界を始めようとする者は、
 神の怒りによって灰になり、二度とこの世界には戻れないという。


 「うわっ、デスアウトかよ、この世界」

 オレはゾッとした。

 間違って死んでしまっても「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」で
 生き返らせてくれるヌルい世界ではないということだ。

 にしても、デスマラソンなんかしたら、事前登録で得られるレアキャラが得られないよな。
 それを防止するための事前登録ガチャだろ?

 オレはクビをひねりながら文章を読み進める。

 実は、死に戻りは悪魔や災悪の魔女と契約して、フリーソウルをつかって、この世界に
 登録するという裏技があるらしい。

 本来、人間はメインソール、一つの命しかない。

 しかし、悪魔や魔女がフリーソールというものを作れるようにしているらしいのだ。

 そして、異世界転生できるソウルアカウントをいくつも取得して最上の境遇を得た命だけを
 温存して、残りは死んで放置する。

 これは運命の女神に対する冒とくなので、リモートホストを確認して確実に排除すると書いてあった。

 リモートホストって何だ?

 まあ、よくわからないけど、何か難しい神様用語なんだろう。


 その項を読み進めていると、会った!事前登録。

 事前登録とは、自分が生前信仰していた神の神殿を構築することに立ち会うことができた
 者だけが得られる神の加護だそうだ。

 そして、この冊子を渡された者は、事前登録した者にかぎられると書いてあった。

 あれ?

 オレ、事前登録してるの?

 オレはクビをかしげた。

 そんな事した覚えがない。

 記憶をたどっていく。

 神の神殿……

 あ!

 思い出した。

 以前、石垣島でアルバイトしていた時、

 あれはたしか2019年の2月頃だったか、
 沖縄県石垣市桴海大田に魚釣り神社が建立された。

 無人島の魚釣島に古くからあった神社を、人が住んでいる石垣島に移して
 お祀りしたんだった。

 オレはその近所で働いていたので、お手伝いしたんだった。

 ああ、あの神様の御加護で、オレはここにいるのか。

 じゃあ、事前登録ガチャって何だ?

 そんな事した覚えはないぞ。

 その文書を読み進めていくと、

 前世で怒りをこらえて我慢した数だけガチャが引けると書いてあった。

 怒り?

 思い出した。

 サラリーマン時代、女上司に目をつけられて、何度も飲み屋に呼び出され、
 グチグチ悪口を言われつづけて、我慢しつづけたんだった。


 あれは無駄じゃなかった!

 あの時、切れずに我慢してよかった!


 俺の心の奥底い溜っていた何かがキレイに消え去る感じがした。

 ん?

 ちょっと待ってほしい。

 オレがオソロシアを引き当てたのは一回限定スタートアップ有償ガチャだよな。

 オレはチラッとオソロシアを見る。

 オソロシアはプイとソッポを向く。

 オレは事前登録ガチャの召喚符を貰ってない!

 内容を確認する。

 受け取り期間限定じゃないか!!!!!

 7日間受け取らないと消失してしまう。

 今日はえーと……

 6日目じゃねえか!

 やばい!マジでヤバい!

 そうか、オソロシアはオレとずっと二人きりで居たいかし、自分が一番最初に出会ったキャラクターで

 いたかったから、この事前登録ガチャの事を隠していたんだ!

 まあ、その気持ちはうれしいけども。

「いくぞ、オソロシア!」

「え~」

 オソロシアは露骨にイヤな顔をした。

 「これからの旅がイージーモードになるんだから!お前の命を守るためなんだからな!」

 そういうとオソロシアは顔をカーっと赤くして頬っぺたをぷーっと膨らませて横を向いた。

 その冊子にはまず王城に行くよう書かれていた。

 ああ、
 
 「よくきた勇者よ」
 
 って言われて革の盾とヒノキの棒と当面の生活資金くれるやつだな。

 それならそうと、記憶が戻ったら、すぐそこに行けるよう設定しといてくれよ。

 あ!

 思い出した。

 普通、こういう場合、
 王城に行くよう教えてくれるのは、お母さんで、お母さんは自分が13才になった時、
 自分が勇者の血筋だって教えてくれて、王城に行くよう教えてくれるんだった。

 あの女神、戦闘力全振りって言ってたな、勇者の血筋でもないわけだから
 王城に行くイベントも無いわけだ。

 って事は王城に行っても当面の生活資金も革の盾もヒノキの棒もくれないってことか。

  これって、王城に行って意味あんのか。

 オレは自問自答した。

 だんだん不安になってきたぞコレ。

 だけど、事前登録ガチャの召喚符だけはもらわないと。

 たぶん、しばらくの間、オソロシアを除けば最上級のキャラクターが召喚できるはずだ。

 そんな簡単にポンポンLRが出るとも思えない。

 これは絶対ゲットしとかないと。

 王城といったらこっちだな。

 オレはセンターアイランドにあったら大図書館から、川沿いに東に歩いた。

 たぶん、記憶が正しければ、テンマの辺りで南に下るんだった。

 かすかな記憶をたどって歩いていくと大きな石垣に出くわした。

 「あったぞ!」

  オレは記憶をたどりながら城を周囲を歩き、門の前に行き当たる。

 そこには門番がいた。

 「王様に合わせてください」

 「お前頭おかしいのか」

 門番に言われた。

 「王様に合わせてください。事前登録ガチャの期限が迫っているんです。今日貰わないと失効するんです」

 「お前、何言ってんの?一般人が来たからって王様にホイホイ合わせるわけないだろ。
 そのための門番だろ。なんだよ、事前登録ガチャって。王様を見たかったら、正月か
 王様の誕生日に来いよ、その日は王様が庶民の前にお出ましになられ手を振られるから
 遠目で見られるよ」

 「だから、事前登録ガチャが」

 「お前、自分の言ってることがおかしいってわからないの?オレは優しいから怒らないけど、
 普通の門番だったら槍で突くレベルの失礼な事やってんだよ、お前」

 まったく正論である。

 ぐうのねもでない。

 オソロシアがオレの顔を見る。

 「なあ、こいつ殺す?」

 「だめだめだめ!」

 オレは必死にオソロシアを止めた。

 戦闘力にポイント全振りしたばっかりに、
 普通のゲーム的流れだとすべて流れ作業で進んでいく工程を全部
 自分で調べてやらなきゃならない。

 格安住宅を経費削りまくって建てた結果、建物の登記とか行政書士の手配、
 市役所への告知とか全部自分でやらなきゃいけなくなった郊外に家建てた
 貧乏サラリーマンの立場ちょうど今のオレと同じだと思った。


 途方に暮れて立ち尽くすオレ。
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