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1話 異世界転生かよ……

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 毎日、毎日、不動産会社の営業回りの仕事。
 
 地主さんの家を回って、頭をさげて土地を売ってもらい、新築マンションの建売をする会社。

 もうすぐ消費税増税が来る。

 しかも、オリンピック建設需要もなくなることから、日本史上最悪の景気悪化が来ることは
 確実だった。

 ここはマンションの建設を差し控え、賃貸駐車場に切り替えるなり、
 土地の購入を差し控え、内部留保を溜めるべきだとオレは判断していた。

 俺でなくてもバカでも分かる。

 これ以上、この高値で高騰した土地を買い続けるのは危ない。

 景気が悪化すれば土地は大暴落し、高いコストで建てた建売マンションは、
 地下の大暴落以降に建てられた格安マンションに価格面で太刀打ちできない。

 俺は、女上司に「ここは一旦、土地を売り抜けて、内部留保を増やすべき」

 というレポートを提出した。

 次の日から交流会というイジメが始まった。


 飲み屋に誘われ、
 いかに自分が無能か言わされる。

 「どうしてあんなは無能なんでしょうか」

 「あ、はい、部長と違い、物事を見る先見性がないからです」

 「ぶぶー、アンタは無能で価値がない人間だから」

 「はい、そうです。申し訳ございません」

 「その無能のバカがどうして、会社を潰すようなレポートを出すのかな~」

 「すいません、レポートは出しません、廃棄いたします」

 「あれれ~おかしいな~、そんな無価値なレポートだと分かっていて、
 どうして提出しちゃたかなあ、もしかして、私の事バカにしてる?
 三流大学出身のアンタが、このエリートで名門大学出身の私をバカにしてる?」

 「いえ、とんでもありません」

 「ぶぶー、はずれ~アンタは価値のない三流大学出身なのに、有能でエリートの
 私をバカにしてます~、じゃないと、あんなレポート提出できないよね。
 レポート提出するってことは、ゴミでクズで何の価値もないアンタでも
 分かることを、私が分かってないって意味だよねえ」

 「いえ、とんでもございません。部長は最高に素晴らしいお方だと思い
 尊敬しております」

 「言えよ、ゲロっちゃえよ、私をバカしてたんだろ」

 「いえ、とんでもございません」

 「バカにしてたって、言え!命令だ!このゴミくず!」

 そういって上司の女はオレの顔に飲みかけのビールをぶちまけた。


 「申し訳ございません!申し訳ございません!」

 何度も謝罪して、とにかく、その場をやりすごし、
 飲み屋を出た。


 「ふう、逃げ切れた」


 また明日会社に行ったらイジメを受けるなろうなと思ったらうんざりした。


 でも、就職氷河期にやっと見つけて就職できた会社、おめおめと辞められない。


 一時のプチバブルに乗って、ヘットハンティングで他社に移った同僚もいた。

 しかし、これから確実に景気が悪化する。

 経費節減で最初にクビを切られるのは他所から来た外様だ。

 やはり、就職は一度したら一生同じ会社に居続けるのが安全だ。

 会社はまず、他所から高額で引き抜いた社員から切る。

 それは今まで何度も見てきた。


 我慢だ我慢。

 俺は自分にそう言い聞かせた。

 俺の名前は友内健詞。

 どこにでも居る平凡なサラリーマンだ。

 上司い嫌味をいわれて、憂さ晴らしに罵倒されながら、
 それでも、なんとか今の会社にしがみ付いている。

 会社もけっこう大きいデベロッパーだし、仕事もそんなにきつくない。

 土地の買い入れだから、人の好いお年寄りを騙して全財産奪うような仕事でもない。

 ある程度、土地が売れれば、仕事の合間に映画館で映画見たり、漫画喫茶でアニメ見たりできる。

 仕事上の苦痛は99%人間関係だった。

 それでも、同級生の話とか聞いていると、まだマシなほうだ。

 毎日会社に行ってタイムカード押して、市役所に行って地主さがして、訪問。
 それの繰り返し。

 仕事の8時に出勤して夜の10時には退社、
 上司に酒に誘われなければ12時まえには家に帰られる。

 1週間に一度の休み、正月5日盆3日の休み。

 まあ、こんなもんだ。

 毎日同じ仕事の繰り返し。

 今日は酒飲まされてイジメられて、気分が悪い、胸ヤケがする。

 いつも通る道とは違い、コンビニがある道に入った。

 とにかく酒だけ飲んで、説教だけ聞いてたので、
 何か食べといたほうがいいと思って納豆巻きとハロルチョコという四角い手のひらサイズの
 チョコレートを買ってコンビニのイートインで食べた。

 しかし、気分が悪くて納豆巻きを食べただけでハロルチョコは食べずにポケットに入れた。
 どうにも胸ヤケがする。食べなきゃよかった。

 もう一度、店を回って胃腸薬を探す。

 茶色い小瓶の液体胃腸薬があったので、それをグビッと飲んで、空き瓶を背広のポケットに入れる。

 店の外に出た。

 そこでは小太りのオタクを不良が三人ほどで寄ってたかって殴ったり蹴ったりしていた。

 周囲の人たちは何も無かったかのように無視して通り過ぎる。

 三人のうち二人は木製のバットと鉄パイプを持っている。
 それを大きく振りかぶって、オタクの頭の上に振り下ろそうとしていた。

 これはヒットしたら確実に死ぬ。

 目の前で人が死ぬ。

 「や、やめろよ!」


 俺は本能的に叫んでしまった。

 やばい、と思った時には遅かった。

 「なんだ、てめえ、このオッサンはよ」

 不良たちがオレに向かってきた。

 「クソが!」


  顔を殴られゴキッと音がする。

 鮮血が飛び散る。


 「なめてんじゃねえぞ」

 一人の不良がバットを振り上げる。

 「や、やめろおおおお!」

 ゴキッ

 やばい音がして目の前が真っ暗になった。


 あー

 「もしもーし、もしもーし、聞こえますかー」


 女の人の声だ。

 看護婦さんかな、ああ、助かったんだ。

 病院か、どうしよう、明日会社行けるなか。

 「起きろよこのクソ野郎」

 ゴンと蹴っ飛ばされた。

 「うおっ!」


 起きて周囲を見回す。

 あれ?

 目の前に派手なヒラヒラなゲームの女神みたいなコスプレをした
 若い女の子がいた。

 あれ?コスプレ?

 コミケの救護室?

 ああ、そうか、俺はコミケに来てて、熱中症で倒れたんだって、違う!

 ちがうぞ!


 俺は慌てて周囲を見回す。

 そこは雲の上、天空のかなた。


 目の前に女神のコスプレの女の子が立っている。


 「な、なに、君」

 「君じゃねえよ、まったくよお、最近は猫の杓子も異世界転生でさあ、
 いい加減忙しくてうんざりだわ。私は上級女神の管理職だから残業手当もでないしさあ。

 今日、お前がこなけりゃ、定時で帰れたんだよ、いいかげんにしろ、お前」

 「え?異世界転生?ギャグじゃなくて?」

 「そうだよ、お前、死んだんだよ」

 「えええええええええ!オレはまだ何もやっちゃあいないんだよおおおおお!あああああ!」

 「泣くな、ボーナスポイント付きで異世界転生してやっからよ、そこれ良い思いして元とれ」


 「え?え?また新しい人生送れるの?」

 「おう、何が望みだ」

 「女神さまのオッパイ揉みたい」

 女神様は健詞の顔を蹴り倒す。

 「殺すぞ、てめえ」

 「もう死んでます」

 「で、何になりたい。わかんねえならさあ、ここにお任せパックの書類があるから、
 そこにサインしろよ、十中八九、日本人はこれにサインするんだよ。何になりたい?
 勇者か?魔王か?」

 「あーそうだ、俺は何になりたいんだったっけ?自分が何者か知りたくて、
 大学の夏休みい石垣島でバイトしたり、九州一周自転車旅行したけど、けっきょく、
 何もわからなかった」

 「うわっ、自主性のない凡人だよ、キタコレ。そんなフラフラしてっから、簡単いおっ死ぬんだよ」

 「そんな事いわれてもねえ、まあ、くいっぱぐれのないように何か最強の力を欲しいなあ、
 何の世界でも一流だとくいっぱぐれないからね。今まで、そういうレアものを指くわえながら
 横目で見続けてきたよ。妄想でもいいから、そういう一流になって周囲に一目置かれたいなって
 思ってた。何をやりたいじゃなくて、そういう、人から尊敬されてチヤホヤされる一流になりたい」

 「おう、いいねえ、私はね、実はけっこう名の知れたバトル系構築の職人女神なんだ。
 それがよお、最近の若い者はよお、やれ、女にチヤホヤされたいだの、家来に褒めたたえられたいだの、
 貴族に生まれたいだの、他力本願ばっかり。ほんと、うんざりしてたんだよ。
 そのくせ、転生したら、私がやった能力で、どやり顔しまくるしさあ。見ててムカつくんだよね。
 そういうの」

 「どうでもいいから、早くしてくれませんか」

 「てめえ、女神様のご説法大人しく聞きやがれ、潰すぞごらっ!」

 女神様は健詞の胸倉をつかむ。

 「ごめんなさい、ごめんなさい」

 それから3時間ほど、健詞は女神の愚痴を聞かされた。

 女神様は同じ事を何度も繰り返し、繰り返し、グチグチ言ってくる。

 最初は愛想笑いしていたが、しだいにうざくなってくる。

 ボケジジイかよ。

 仕事柄年寄の愚痴を聞く耐性はあるが、さすがに眠たい。
 
 こっくり、こっくり、半分寝ながら頷いて、相手の言うことは全肯定。

 「そうですね~」

 と言いながらニッコリ笑う。

 話の内容なんて全然聞いていない。

 ふっと気づくと、女神様が目を真っ赤に泣きはらしている。

 やばい!寝てることがバレた!!!

 と思った瞬間、泣きながら女神様が抱き着いてきた。

 「うわあああああーん!こんなに親身になって私の話聞いてくれて、
 しかも善行的してくれる子はじめてだよ~!君っていい子だね。君みたいないい子めったにいないよ!」

 いや、話の内容とか全然聞いてなかったんですけど。

 「いや~こんな難しい話聞いて理解できるなんて、君は頭がいい子なんだね~」
 
 いや、内容聞いてなくて、適当に相槌うってただけだら、内容なんて全然理解してません。
 
 「わかったよ、わかったよ、どうして君がここに来たか、
 さすが、上の神様は分かってるねえ、私みたいな優秀な神様には
 こういう心のキレイな男の子を回してくれたんだねえ~」

 いや、平均的普通のサラリーマンですけど。

 「えー鉄砲って弾切れたらヤバいんじゃないですか、抵抗手段無いじゃないですか」

 オレは適当に答えた。
 実際は弾とかいちいち調達するのが面倒くさいので、簡単なのがよかっただけだった。

 「さすが!よくこの短期間で、私の言った事理解したねえ、もしかして、理解してなくて、
 頷いているだけじゃないかって、ちょっとテストしたんだ。本当に理解してたんだ!
 最高だね、あんた!」

 いや、適当でまぐれ当たりです。でも、いちいち言うと面倒なので、適当に話を合わせとこう。

 「じゃあ、何がいい?何がいい?魔法戦士?勇者?」

 まあ、勇者とかよさそうなんだけど、名門の家系って名前が知れてるじゃん。
 エロ本とか買いに行ったとき、近所のウワサになったりするのイヤなんだよね。
 魔法戦士はなあ、某RPGでその職種選んだら中途半端で地獄みたからなあ、
 普通に考えて戦士だろ。ただ、打撃系全然効かない奴とかいるので、魔法耐性があって、
 なんか、その打撃効かない奴にも有効な奴がいいなあ。

 「勇者とか魔法戦士はいいです。戦士が良いです。ただし、魔法耐性があって、打撃攻撃が
 効かない奴も攻撃できるのがいいです」

 「うっ!」

 女神様は言葉に詰まった。

 やばい、適当な事言っててウソがばれたか?全然話を聞いてなかったことがバレてしまったのか?

 「そうなんだよ……私さ、浸透系専攻で神学校卒業したのにさ、そんなの使い道無いって
 いわれて、総合職でコピーとお茶くみばっかさせられてさ、上司のバッカスは酒くせえ
 オヤジでケツ触ってくるしさ、ぶっ殺してやろうかと思ったよ、そんでさあ、
 その上の神様に相談したらさあ、お前は世の中が分かってない、辛抱してこそ花が咲くんだとか
 説教されてさ、そのあとはクラーケン退治したときの自慢話とかダラダラすんの。
 相談してんのはこっちなんだよ!てめえの自慢話なんて聞きたかねーよ!ばーか!わかるよね」
 
 「はいはい、わかります、わかりますとも」

 よくわかんないけどオレは適当に相槌を打った。


 「じゃあ、浸透系でいいよね東洋では発勁はっけいって言うんだよ」

 

 「シーパラダイス」

 「は?」

 「発勁シーパラダイス」

 「やめた」

 「ごめんなさい!わかりました!」

 「分かればよろしい。つまり、武器を使わず、波動を相手に打ち込む。
 ここまでは普通の発勁だ。だがな、私の発勁は本人の筋組織に完全魔法無効化を付加して、
 敵から受けた攻撃を皮膚上で滞留させて、それを相手の内面に打ち込むシステムを構築する」

 「はいはい、分かりますよ」
 オレは適当に相槌を打つ。
 全然何言ってるかわかんねえけどな。

 
「相手の魔法攻撃や気功砲は通じねえがただ跳ね返すのではなく、皮膚に滞留させて、
 その滞留させた力を一点収集させて相手に打ち込む。まさに職人技さね。
 いままで、この説明を聞いた奴は誰もいねえ。みんな、適当なお任せパックを
 選んじまうんだ。ここまで説明を聞いたのはあんたがはじめてだよ」

 「素晴らしいですね、さすがです、ぜひそれでお願いします!」
 
 いや、全然よくわからないけど、ここまで盛り上がって拒否したら、
 この女神様に八つ裂きにされるだろ。


 「おう、分かったぞ、だが、この浸透系、ポイントを極限まで使うので、
 貴族の家に生まれるとか特別なマジックアイテムを装備して転生するとか、
 赤ちゃんから転生するとか、名門の血筋とか、そういう付加価値は一切付けられないからな。 
 それでもいいか?」

 「はい、わかりました!ただし、先にも言ったように、打撃系が効かない敵もぜったいいるんでえ、
 なにか、最強魔法、一つだけ付けといてくれませんかねえ、一つだけでいいんで」

 「おう、まかせとけ!気持ちいがいいねえ。よし、それじゃあ、いっぞおおおおおおー!」

 女神様が振り上げた手を大きく開くと、そこからまばゆい光が溢れ出た。


 
 
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