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十七話 スモウ

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 俺に勝ったことで、サーバルは俺を馬鹿にしてくるかと思ったが、
 それはなかった。

 妙になついてきて、一緒にゴハン食べようといったり、遊びに誘ってくる。
 この子にとって戦いはただの遊びのようだった。

 魔法に関して俺は一流だが、体術も勉強しなきゃいけないなと思った。

 俺は体術の実習科目を取ることにした。

 教えてくれる教官は焦げ茶色の髪の毛の鋭い目つきの女性だった。

 とても均整がとれた体つきで筋肉質だがマッチョではなく、とてもスレンダーだった。
 それでも胸はけっこう大きかった。

 「私が教官のジャッカルだ。お前ら口で言っても分からんだろう体で教えてやる」

 かなりスパルタっぽい先生だ。
 
 居並ぶ生徒たちの前でジャッカル先生が質問する。

 「お前ら、もっとも実践的な武術は何だと思う」

 「クンフーです」

 「カラテです」

 「ボクシングです」

  「ふう」

 ジャッカル先生はため息まじりに首を横に振る。

 「違う。スモウだ」

 「えースモウ」
 
 「あのデブがやるやる?」

 「かっこわるい」

 生徒たちがざわつく。

 「いいか、ここでの格闘は実践だ。私が直接相手になってやる、かかってこい」

 そう言うとジャッカル先生はヨロイに着替えた。

 「えーずるいよ~」
 
 「ヨロイを着たら殴れないじゃないですか~」

 生徒たちがぶ~たれる。

 「馬鹿かお前ら、戦場ではみんなヨロイを着ている」

 「じゃあ、ナイフも持ってますよね、使っていいっすか?」

 男子生徒のコボルドがニヤニヤしながら聞いた。

 「かまわん。相手になってやる。お前もヨロイを着ろ」

 「やべえ、先生やっちゃうよ~」

 その生徒はニタニタ笑いながらそう言い、ヨロイに着替えて手にナイフを持った。

 「こい」

 「おりゃああああー!」

 ジャッカル先生の顔に向かってコボルドはナイフを突き出す。

 ジャッカル先生は兜をかぶった頭を少しさげた。
 
 ガツン

 ナイフが兜に当たる。

 「うわっ、インチキ!」

 コボルドが叫ぶそのスキに間合いを詰めたジャッカル先生が、コボルドのアゴを
 張り手で突っ張る。

 「ゲホッ」

 コボルドは昏倒して倒れた。

 「誰か、介護室につれていってやれ」

 「はい」

 犬の男子生徒が複数でコボルドを部屋から担ぎ出していった。

 「いいか、いまのはアゴを狙って、ハイスピードで突いた。そうすることによって、
 脳みそが急激にゆらされて昏倒する。いくら重装備をしていても、首の間接が可動するように
 なっているので、この張り手で倒せる。コブシは、鉄の装甲を殴った瞬間に骨折し、ものが
 つかめなくなる。戦場で武器が持てないことは死を意味する」

 「先生!」

 ある生徒が手をあげた。

 「でもスモウって土俵の外に出したり、投げ飛ばしたりする競技ですよね。円の外に
 人が出ても死なないですよね」

 「攻城戦の時、高い城壁の上から落とされて死なないと思うか?」

 「……」
 
 生徒は沈黙した。

 「いいか、ここでやる格闘技はルールがあるスポーツではない。相手を殺すためなら
 何だって利用する。壁に付きだしている釘に相手の脊髄をうちつけて殺すこともある。
 周囲のあらゆるものを利用して相手を倒すことを想定しているのがスモウだ」

 別の生徒が手をあげる。

 「なんだ」

 「では、スモウに対抗する方法はありますか」

 「ある。柔術だ。突っ張りをしてきたら関節技を使って相手の腕をへし折る。
 いくら武装していても関節の可動域を利用する。反対に言えば、関節の可動域が
 制限されているヨロイだと腕ひしぎなどの技は使えない場合があるから注意だ」

 俺は手をあげた。

 「では、柔術に対抗する技はありますか」

 「捕まれる前に相手のアゴを突っ張りで強打すればいい。ただし、相手も手練れの場合、
  難しいぞ」

 「言葉ではよくわかりません」

 「だろうな、殴ってきてみろ。こい」

 俺はジャッカル先生と対面した。

 十分に警戒して間合いを詰めながら、パンチ!

 俺はクセで思わず先生の顔にパンチを出してしまった。

 ジャッカル先生はそれを素早く避けながら俺の腕を持つ。

 やばい!折られる!

 と思った瞬間、ジャッカル先生は俺を背負い投げした。

 「バシーン!」
 
 俺は道場の床にたたきつけられた。

 「ぐはっ!」

 ものすごく痛かったが、床が緩衝材でできていて助かった。
 
 普通の地面なら肋骨がバラバラになっているところだ。

 「おまえ、自分の何が悪かったか分かるか」

 「はい、あ……いいえ、あの、コブシで殴ってしまったこと……」

 「それは些末な事だ。いいか、突っ張りは足で打つのだ。分かるか?」

 「わかりません」

 「打撃というのは、足の力で打つ。打ち出す力がないから、手に絡まれるのだ。
 足を突き出して、そのバネで打つ!」

 そう言いながらジャッカル先生はブウンと張り手を繰り出す。

 ジャッカル先生の腕の周囲に風が起こり、汗が飛び散った。

 対流したジャッカル先生の甘い女の人の匂いが俺の鼻をくすぐった。

 「どうだ?何か感じるものはあるか?」

 「はい……先生の女の人の甘い香りがします」

 「フン!」
 
 ジャッカル先生は裸足で俺の顔を思いっきり踏んだ」

 「ゲホッ」

 鼻血がでた。


 


 
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