ねこのフレンズ

楠乃小玉

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四十一話 それじゃ、あとは任せたから

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 ドカンちゃんのスマホが鳴った。
 「はい、ドカンです」
 「大変なの!すぐ来てちょうだい!」
 その声はクックさんだった。
 急いでドカンちゃんとチカンちゃんはクックさんの家まで行く。

 話を聞いてみると、アパートを建設する予定の駐車場、
 パパさんが残した貯金、年金、自宅の土地、貴金属、骨董品、車など
 換金できるものは全て担保に入れられてしまって、うごかせないという。

 「だから言ったじゃないですか!
 営業マンが訪問営業してくる会社では絶対アパートは
 建ててはダメなんです。
 それで、メンテナンス三十年不要は確認したんですか?」

 「メンテナンス三十年不要と言ってたわ」
 「それは本社にも確認しましたか?ホームページも確認しましたか?」
 「そんなの、営業さんに聞けば十分じゃない。何十にも聞いたら相手様にご迷惑がかかるわ」
 「それで、本当に、三十年メンテナンス不要だったんですか?」
 「それがね、聞いてよ、契約が終わったあと、本当にメンテナンス三十年不要なのか
 聞いたら、三十年もメンテナンスが不要なマンションなんて無い、あなたは
 騙されているんだって言われたの」
 「ありますよ!騙されているのはクックさんです!」
 「でもね、あの子、本当に思いやりがあって良い子なのよ」
 「良い子がクックさんの全財産を担保に入れますか!」
 「そうよ、それなのよ、私は一度もそんな事、許可した覚えはないんだけど、
 向こうの会社の偉い人も行政書士も、銀行の人も、全員、私が
 お願いだから全財産を担保にしてくれと土下座して頼んだって言うのよ!」
 「そんな事したんですか?」
 「するわけないじゃない。駐車場だけで借りたお金の二倍の価値があるのに」
 
 「でも、ハンコを押してしまったらもうだめです。相手は三人の証拠があるから」
 「でも、なんとかならないかしら、いまから、銀行の阿久間さんがくるから
 ドカンちゃんがちゃんと説明してね」
 
 「えー!ご自分のことでしょ。無理ですよ、ボクは他人なんですから」
 「あら、すいぶんと冷たいのね。友達じゃないの?」
 「ボクは友達だと思ってますけど……」
 「じゃあ、お願い」
 「……」
 
 そうしているうちに阿久間が来た。

 「もう、契約終わってんのに、何ガタガタ言ってんですか」
 阿久間は明かに不機嫌そうだった。
 「あの、クックさん、全財産を担保に入れると承諾したおぼえはないって
 言ってるんですけど」
 「あー、気にしないで、このバアサンぼけてるから。本当は
 自分で土下座して全財産を担保にしてくださいって、
 この人がお願いしてきたから」
 「バアサンですって!私の事、キレイだとか、死んだお母さんにそっくりだとか
 言っていたくせに!」
 「あ?お前みたいな醜いババアとうちの母親一緒にするなよ、だいたい、
 まだ母親生きてるし」
 「ひどい!私を騙したの」
 「うっせえんだよ、こっちが言ってないこと、言うんじゃねえよ、妄想ババア!
 てめえ!土下座しただろうが!あ!全財産担保に入れてくれって頼んだよな!
 こっちはおめえの願いを聞いてやってんだぞ、あーっ!おい!こら!!!ボケが!あ?」
 阿久間は大声でまくしたてた。
 クックさんの体がガクガクと震え出す。
 「も、もしかしたら、お願いしたかもしれない、わからない、全然覚えてない」
 「ほら、てめえ、言質とったからな」
 そう言って阿久間はポケットからICレコーダーを出して来た。
 「こっちは名門大学出たエリートなんだぞ!お前らみたいな低学歴のゴミのために
 時間とらせてんじゃねえぞ、ぼけがあああ!」
 阿久間が大声で怒鳴ると、クックさんは体をガタガタとふるわせた。
 「そんな脅しに屈すると持ってるのか!お前のやってることは脅迫だぞ!」
  ドカンちゃんが怒鳴った。
 「あ?なんだでめえ、ガチは学校いってる時間だろうが、世の中から落伍した
 引きこもりのニートのゴミか?腐った臭いがするからゴミ箱にでも入ってろや、ゴミ!」
 「お前なんかに言われても怖くないや!この悪魔め!」
  その横でクックさんが体をガタガタと震わせている。
 「ねえ、もう止めて、もうたくさんなの」
 クックさんはドカンちゃんの手を強く掴んで揺すった。
 「えー!」
 ドカンちゃんは愕然とする。
 「それじゃ、あとは任せたから、私、わからないから、奥でお茶いれてくるね」
 そう言ってクックさんは家の奥に入っていった。

 「ほらみろ、バーカ!お前の負けだよ。当事者がもう止めろっていってんだ、
 ガイジはすっこんでろや、ゴミ、社会のゴミが!」
 阿久間はあざけり笑った。

 ドカンちゃんは体をガクガクと震わせながら拳を握りしめた。

 「じゃ、もう二度と電話かけてくんじゃねえぞ、ゴミ!ははは、負け犬がー!」
 阿久間はゲラゲラ笑いながら帰っていった。

 

 注意
 解説

 このクックさんの件は私自身が経験した事ではありません。

 有名な事例


 をモデルにしたフィクションです。

 アパート建設会社が資産家から全財産を奪い典型的な手口が、
 財産を全て担保に入れてしまって、まったくお金が動かせない状態にして
 莫大なメンテナンス費用を請求するやり方です。

 
 「じゃあ、あとはまかせたから」
 は実際に私が交渉の場で母からされたことです。
 母は自分で契約書を読まずに判子を押して、
 「私は全然わからないから、あとはあなたがやって」
 と言って私に銀行などとの交渉を丸投げしました。
 
 そして、銀行と口論していると、私の処にやってきて
 後ろで聞いていて、体をガタガタ震わせはじめ
 「もういいの!もうやめて!私が我慢すればいいだけだから」
 とか言い出しました。


  実際、母が我慢しても家族全員が迷惑かかるので、
  ここで交渉をやめてしまうなんてできないんですが、
  そういって建前のきれい事を言いたいんでしょうね。

 実際、いままでの日本社会では、こういうきれい事を言ったら
 相手も「まあまあ、お互い三方一両損でいいじゃないですか」
 とか言って折れてくれていたものですが、
 今の若いエリート、外国でグローバル教育をうけている
 人間はそんなことで容赦はしません。

 実際、近所の地主で首を吊ったとか、一家離散したという話を
 よく聞くのに、ここで話をうやむやにすることなんてできません。

 
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