ねこのフレンズ

楠乃小玉

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第二章

七話 情けは人のためならず【改訂版】

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 シアンちゃんとサバンちゃんは、やっとの思いで大阪南港にたどり着き、
 愛媛県東予港に向かうミカン汽船に乗り込むことにした。
  「ちょっと!ちゃんと切符も買ったのに船に乗れないってどういう事よ!
 ドカンちゃんの安全を見守ることを条件にお金はたんまり木戸健晴から
 貰ってきてるのよ!」
 
 「あの、ちょっと待ってください、子供だけで乗っちゃけないよ、
 お父さん、お母さんはどうしたの?君たちいくつ?」
 若い船員がシアンちゃんたちを止めた。
 「二千六十五才よ(適当)」
 「一千八百二十一才だよ!(もっと適当)」
 「あーはいはい、帰りましょうね」
 「切符持ってるでしょうが!こっちはお客様よ、お客様は地霊様って
 学校で習わなかったの!?」

 その時である。
 「おい、何してる!そこに置きっ放しにしているお客さんの自転車、
 早く中に入れんか」
 「いや、この子たち、子供だけで乗船しようとしてるんです」
 「は?誰も居ないじゃないか!早くお客さんの自転車を船に入れろ!
 自転車だけ港のおいてけぼりにしたら、あとでお客さんに怒られるぞ」
 「でも……」
 「でももへったくれもない!早くしろ!!」
 「はい……」

 「まあ、かわいそう、ちゃんと真面目に職務を務めようとしただけなのに、
 あんな事いわなくてもいいのにねえ」
 シアンちゃんが言った。
 「私達が原因だよ」
 サバンちゃんが突っ込みを入れる。

 「そういう心がけはいい心がけだはわ」
 「何が?」
 「自分たちが悪いことをしていると自覚しているということよ!
 自分たちも罪を負っているという自覚があるからこそ、
 自分は絶対的な正義だと思って他人を冷酷に断罪したり
 できなくなるのよ!そして人に優しくなれるの!」
  
 「なんか、うまいこと言ってるけど、
 私達、あの船員さんに迷惑かけてるよね」

 「それでもいいの。こうやって、私達がこの船に乗ることによって
 この船の従業員、お客、全員が幸せな加護を受けるのよ」
 「まあ、それはそうなんだけどね~」

 緩い調子でサバンちゃんが答えた。

 シアンちゃんとサバンちゃんは、東予港で降りると、
 そこから今治を目指した。

 今治といったら名城、今治城。
 早速、シアンちゃんとサバンちゃんは行った。

 「うわ~すごいよ、見て!海の魚がいる!あれ、グレだよ!すごい!」
 「ほんとうね、ここの城の堀は海の水を引き入れているのね。すごいわ
 じゃあ、お城の中も見てみましょ」

 「え~お城って人が戦った場所でしょ?幽霊とか出ないかな~」
 「何言ってるの、私達地霊よ、地霊が霊を恐れてどうするのよ」
 「それもそうだね~」

 シアンちゃんとサバンちゃんはお城に入っていく。
 誰もいない。薄暗い。ちょっと薄気味悪い雰囲気だ。

 と、ガラスのケースに入った展示物を見ながら歩いていたサバンちゃんが
 目を見張った。
 
 「うがっ!」
 
 「何変な声だしてるのよ、あがっ!」
 
 目の前に幽霊の掛け軸があった。
 
 「ぎゃー!おばけー!」
 シアンちゃんが逃げ出す。
 おいてかないでよー!」
 サバンちゃんも一緒に逃げ出した。

 「ああ、怖かったわね、これはちょっと気分を晴らす意味でも
 大きな神社にお参りに行かなきゃいけないわね」

 「この辺りにそんな神社あるの?」

 「あたりきしゃりきのこんこんちき よ!
 この近くにはね、日本総鎮守があるのよ!」

 「なに、それすごい!」

 「ここの近所の大三島にバスで行きましょ!」
 「え?島なのにバスで行けるの?」
 「そうよ、島に橋がかかっているのよ。橋をわたって
 広島までも行けるのよ」

 「すごいね~」
 「すごいわよ~」

 二人は前のトラブルを学習して、今治に有料駐輪場に自転車をおいて、
 大三島にバスでお参りにおくお年寄りの連れのふりをして大三島まで行った。
 お金は自分たちで払った。
 

 シアンちゃんとサバンちゃんは、そこの大きな神社を見た後、そこに生えている
 巨大な楠を見物したあと、刀剣博物館を見物した。
 そこに山中鹿之助の刀が展示してあったが、それがもうすごく大きい。
 しかも刃こぼれしていた。実際に戦場で使った刀だ。

 それから、ひときわ小さな鎧があった。
 大祝鶴姫オオホオリツルヒメという女武将の鎧だった。
 「かっこいいね~」
 「そうね~」

 シアンちゃんとサバンちゃんは目を輝かせてそれら刀剣を見物した。

 そして、満足して今治に帰るバスに乗り込む参拝客を物色していた。
 「あらまあ、可愛い子たちだねえ」
 おばあさんが声をかけてきた。
 「あら、私達に気づくとは殊勝な人ね」
 
 「そりゃ、かわいいものさ、あんたらに今治名物のタオルをあげるね」
 そう言っておばあさんがシアンちゃんとサバンちゃんに小さな手ふきタオルをくれた。
 「ありがとうございます。あばさま」
 「ありがとう、バアチャン」
 二人は礼をいった。
 「ここまでどうやって来たんだい」
 おばあちゃんが聞いてきたので、シアンちゃんはこれまでの経緯を話した。
 「そうかい、そうかい、それじゃ、帰りは私が一緒についていってあげるね」
 そのおばあさんはシアンちゃんが自分を地霊だと主張するのに、一切疑問を持たずに
 話を聞いてくれた。
 その事にシアンちゃんは感動したようだった。

 「これは、重ね重ねありがとうございます」
 シアンちゃんは深々と頭をさげた。
 「わ~い!気前のいいバアチャンだな!」
 サバンちゃんが喜んだ。

 「おばさまと言いなさい、失礼でしょ」
 シアンちゃんが叱った。
 「は~い」
 サバンちゃんが言った。
 
 そして、シアンちゃんとサバンちゃんにがま口の財布を買ってくれて、
 その中にそれぞれ、千円ずつ入れてくれた。
 「いや、こんなお金いただけませんわ」
 「ほんの気持ちだから、この私を喜ばすと思って受け取っておくれな」
 おばあさんはニコニコ笑いながら言った。

 「ほんとうに、本当にありがとうございます。
 なんとお礼を言っていいやら」
 シアンちゃんは涙ぐんだ。

 「いえいえ、いいんですよ、神様にお参りに来て人助けができて
 こんな嬉しいことはありませんよ」

 おばあさんは微笑みながらそう言い、行ってしまった。

 「ほんとうに、ほんとうに愛媛の人達っていい人達ね」
 目を真っ赤に泣きはらしながらシアンちゃんがつぶやく。

 「本当に愛媛の連中はちょろいね。」

 「ちょろいじゃないでしょ!善意でしょ!人の善意でしょ!
 感謝なさい!!!」
 「はーい」
 サバンちゃんは返事をした。


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