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第二章 牡丹ろうどう編
十三話 天運
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しばらくして金長が病院から帰ってきた。
神無からボコボコにされたのを反省してか、
それからはネットに顔をさらして、真面目に鬼畜村の悪事を告発することに専念した。
伏見はただ、鬼畜村の運営者に淡々と質問しつづけ、いちいち相手の言うことを肯定した。
そうしていくうちに、海賊サイト鬼畜村の運営者は自分が正義のために
海賊サイトを運営していると言い出した。
下等でゴミ以下の価値もない作家を世間に紹介してやってるんだから
作家は感謝すべきだと言い出した。
その言動は益々はげしくなる。
「もうやめなよ、見ていて不愉快になってくる」
さすがに武が伏見を止めた。
「不愉快になってきたかい、それは良いことだ。
それじゃ、今から地元の政治家に、海賊サイトの問題点を訴えて陳情してもらおうかね」
「え?そ、そんな事、ボクにできるわけないじゃん」
「簡単さ、私がいままで蓄積してきた資料を添付して地元の議員に送付するだけでいい。
自分だけじゃない。友達にも頼んで複数を送るんだ。
鬼畜村は巨大化しすぎたために、他の海賊版サイトは圧迫されてつぶれていった。
今や鬼畜村一強時代。
これまで、タダで漫画が読めるので、必死に鬼畜村を応援していた連中も、
あまりの鬼畜村運営の言動が横柄なので、どんどん距離を置くようになっている。
今がチャンスだ。
「え?でも今まで鬼畜村で漫画の海賊版を読んでいた人達って、自分さえ
よければ何でもいいから海賊版を読んでいたんでしょ、そんな
人達が鬼畜村の敵に回るかな」
「人間は感情の生き物だ。不愉快に思えば、たとえ自分の不利益になっても叩く。
それが人間というものさ。理性で考えていたなら、最終的に漫画家が全部つぶれて
漫画がよめなくなる日がくることがわかっているのに、目先の利益に目が くらんで、
海賊版を読んでしまう連中が、目の前の横柄な上から目線のオッサンを潰したいという
感情論を抑えられるわけがないんだよ」
「そ、そうなの?分かったよ、頑張って地元の政治家の人にお手紙書いてみるよ」
「人のために自分の利益にならない事をする人は希だ。だから、そんな事をする人が
出てくれば人は驚く。政治家だってそうさ。ほんの数十人が抗議の手紙を送ってきた
だけで動き出すもんだよ」
武は半信半疑だったが、実際に友達にも協力してもらって、手紙を出してみた。
すると、マスコミでも取り上げられ、政治家も漫画海賊サイトを違法にする法案の
成立に着手した。
一昔前だったら、タダで漫画が読める海賊サイトを擁護する連中がネットに
あふれていたのに、ほとんどの人が鬼畜村を罵倒し、叩いていた。
金長があげた鬼畜村を非難する動画にも多数の応援メッセージがとどき、
金長は一躍、ヒーローとして褒め称えられることとなった。
「オッサンでもヒーローになれるんやなあ」
金長はしみじみとそういった。
そして、あっという間に鬼畜村はインターネットプロバイダーから通信を遮断されて
廃止されてしまった。
あっという間の出来事だった。
「ねえねえ、伏見さん、これもし、鬼畜村が出来たばかりの頃に反対運動はじめてたら
こんなに賛同者が増えたと思う?」
「それはなかっただろうね。多くの人が無視をしただろう。
戦略とは勢いなんだよ。鬼畜村が成功し、調子に乗って増長し、苦しんでいる人を
踏み続けたことで、世間に怒りのストレスが蓄積されていった。そして、
それが一気に爆発した時に燃料投下さ。なんでも物事には順序がある。
これは、学校でイジメをうけていたり、人間性や才能を全否定された人にも言える。
学校で虐められ続けたらもう、人生に楽しいことなんてない。絶望だと思ってしまう。
でも、じつは、時が過ぎれば学校なんてなんでもないことが分かる。
逃げてもいい、ニートでもいい。生きてさえいればチャンスはある。
ネットを活用してイラストレーターでもいい。小説家でもいい。
学歴なんてなくても手に職があれば職人もできる。アルバイトだって
警備員だって、コツコツお金をためて自分の趣味の秘密基地だってつくれる。
実は、人生は楽しみと楽園に満ちあふれている。でも、虐められているときは、
その未来が見えない。そういう時は生きるために逃げちゃっても、ニートになっても
いいのさ。命さえあればいいことはある。
それは、鬼畜村をやっつけるために時期が熟するのを待ったように時間がかかる。
小説学校に行って、「絶対にプロになれない」「まったく才能がない」と言われても、
じつは、ものすごい才能があるのかもしれない。
それは、今までだったらまったく誰の目にも見えなかった。
しかし、インターネットの出現によってそれが可能になった。
人間たちは今の世に生をうけたことに感謝すべきだ。
ほんの一握りの特権階級だけによって支配され、選別される時代は終わった。
真に実力のあるものは、万民によってみいだされるのだ。
だからね、時期を待て。死の危険がせまっているなら、
フトンをかぶって家に引きこもって死が通すぎるのを待ってもいいのさ。
それが天運というものだ」
そう言って伏見はニンマリと笑った。
神無からボコボコにされたのを反省してか、
それからはネットに顔をさらして、真面目に鬼畜村の悪事を告発することに専念した。
伏見はただ、鬼畜村の運営者に淡々と質問しつづけ、いちいち相手の言うことを肯定した。
そうしていくうちに、海賊サイト鬼畜村の運営者は自分が正義のために
海賊サイトを運営していると言い出した。
下等でゴミ以下の価値もない作家を世間に紹介してやってるんだから
作家は感謝すべきだと言い出した。
その言動は益々はげしくなる。
「もうやめなよ、見ていて不愉快になってくる」
さすがに武が伏見を止めた。
「不愉快になってきたかい、それは良いことだ。
それじゃ、今から地元の政治家に、海賊サイトの問題点を訴えて陳情してもらおうかね」
「え?そ、そんな事、ボクにできるわけないじゃん」
「簡単さ、私がいままで蓄積してきた資料を添付して地元の議員に送付するだけでいい。
自分だけじゃない。友達にも頼んで複数を送るんだ。
鬼畜村は巨大化しすぎたために、他の海賊版サイトは圧迫されてつぶれていった。
今や鬼畜村一強時代。
これまで、タダで漫画が読めるので、必死に鬼畜村を応援していた連中も、
あまりの鬼畜村運営の言動が横柄なので、どんどん距離を置くようになっている。
今がチャンスだ。
「え?でも今まで鬼畜村で漫画の海賊版を読んでいた人達って、自分さえ
よければ何でもいいから海賊版を読んでいたんでしょ、そんな
人達が鬼畜村の敵に回るかな」
「人間は感情の生き物だ。不愉快に思えば、たとえ自分の不利益になっても叩く。
それが人間というものさ。理性で考えていたなら、最終的に漫画家が全部つぶれて
漫画がよめなくなる日がくることがわかっているのに、目先の利益に目が くらんで、
海賊版を読んでしまう連中が、目の前の横柄な上から目線のオッサンを潰したいという
感情論を抑えられるわけがないんだよ」
「そ、そうなの?分かったよ、頑張って地元の政治家の人にお手紙書いてみるよ」
「人のために自分の利益にならない事をする人は希だ。だから、そんな事をする人が
出てくれば人は驚く。政治家だってそうさ。ほんの数十人が抗議の手紙を送ってきた
だけで動き出すもんだよ」
武は半信半疑だったが、実際に友達にも協力してもらって、手紙を出してみた。
すると、マスコミでも取り上げられ、政治家も漫画海賊サイトを違法にする法案の
成立に着手した。
一昔前だったら、タダで漫画が読める海賊サイトを擁護する連中がネットに
あふれていたのに、ほとんどの人が鬼畜村を罵倒し、叩いていた。
金長があげた鬼畜村を非難する動画にも多数の応援メッセージがとどき、
金長は一躍、ヒーローとして褒め称えられることとなった。
「オッサンでもヒーローになれるんやなあ」
金長はしみじみとそういった。
そして、あっという間に鬼畜村はインターネットプロバイダーから通信を遮断されて
廃止されてしまった。
あっという間の出来事だった。
「ねえねえ、伏見さん、これもし、鬼畜村が出来たばかりの頃に反対運動はじめてたら
こんなに賛同者が増えたと思う?」
「それはなかっただろうね。多くの人が無視をしただろう。
戦略とは勢いなんだよ。鬼畜村が成功し、調子に乗って増長し、苦しんでいる人を
踏み続けたことで、世間に怒りのストレスが蓄積されていった。そして、
それが一気に爆発した時に燃料投下さ。なんでも物事には順序がある。
これは、学校でイジメをうけていたり、人間性や才能を全否定された人にも言える。
学校で虐められ続けたらもう、人生に楽しいことなんてない。絶望だと思ってしまう。
でも、じつは、時が過ぎれば学校なんてなんでもないことが分かる。
逃げてもいい、ニートでもいい。生きてさえいればチャンスはある。
ネットを活用してイラストレーターでもいい。小説家でもいい。
学歴なんてなくても手に職があれば職人もできる。アルバイトだって
警備員だって、コツコツお金をためて自分の趣味の秘密基地だってつくれる。
実は、人生は楽しみと楽園に満ちあふれている。でも、虐められているときは、
その未来が見えない。そういう時は生きるために逃げちゃっても、ニートになっても
いいのさ。命さえあればいいことはある。
それは、鬼畜村をやっつけるために時期が熟するのを待ったように時間がかかる。
小説学校に行って、「絶対にプロになれない」「まったく才能がない」と言われても、
じつは、ものすごい才能があるのかもしれない。
それは、今までだったらまったく誰の目にも見えなかった。
しかし、インターネットの出現によってそれが可能になった。
人間たちは今の世に生をうけたことに感謝すべきだ。
ほんの一握りの特権階級だけによって支配され、選別される時代は終わった。
真に実力のあるものは、万民によってみいだされるのだ。
だからね、時期を待て。死の危険がせまっているなら、
フトンをかぶって家に引きこもって死が通すぎるのを待ってもいいのさ。
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そう言って伏見はニンマリと笑った。
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