東京ケモミミ学園

楠乃小玉

文字の大きさ
上 下
29 / 55

二十九話 

しおりを挟む
「おーい武よおーい」

 前から卯月が走ってくる。

「どこ行ってたんだよ」

「すまん、文を追いかけていたのだが運動場の土の中に逃げられての。
 それから、先ほどは言い忘れていたのだが、プリンを食べに家に帰ると言ったのは嘘だ」

「なんだ、お前は妖怪より格上の精霊なんだろ。それが嘘ついてもいいのかよ」

「いやいや、嘘も方便といっての、そもそも木精は水の智を得て火の礼を発し、
 土の信を剋する。つまり木精はそもそも嘘をつくものなのじゃ。
 その嘘が害のないものか、害のあるものかによって善悪の差が出る」

「じゃあ何してたんだよ」

「学校から如月彩花を助け出して家に連れて帰り、
 土の護符を作ってもらっていた。
 今回の黒幕は恐らく板屋川師走であろうと私は最初から思っていたからな。
 木の力でも火の力でも水は倒せないのでな。ピピルマピピルマプリリンパ!」

 卯月は豊満な胸の谷間からビニール袋に包んだ御札を取り出した。

「何でビニール袋に入れてんだよ」

「それは土符。木精の私が触れたらたちまち養分を吸って符が力をなくしてしまうからだ。
 これは武に使ってもらう」

「でも、どうやって近づくんだい。ボクが近づこうとしても先に板屋川にやられちゃうよ」

「それは、私が前みたいにお前をおぶってやる」

「えーいやだよ、良太くんにやってもらえよ」

「バカッ、お腹に手を回されたら手に下乳が当たって恥ずかしいではないか」

「何言ってんだ、この前は平気だったくせに」

「そ、それはお前だから平気なのだ!
 私を軽い女だと思うなよ!お前だから背中に乗るのを許したのだからなっ!
 お前だけなんだからなっ!ふん」

 卯月は鼻の頭を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「フーッ、まったくもう」

 武はため息をつく。

「緊急事態だから卯月さんの言うとおりにしよう、武くん」

 真剣な顔で良太が言った。

「う、うんそうだね、わかった。板屋川と出会ったら卯月の背中に乗るよ」

「分かればそれでよし」

 卯月はビニール袋に入れた符を武に渡した。符を渡されて武はふと我に返った。

「そうだ、水無月の攻撃が効かなかったんだ」

「何?」

「板屋川師走と吉原文が居たところを水無月に土で攻撃させたんだけど、通じなかった」

「文は土故通じるわけがあるまい」

「そうじゃなくて」

 ズドドドドッ

 校舎を揺るがす地響きがして武たちの背後から板屋川師走が走り寄って来た。

「こんな処におったか、命もらい受けるでござる!」

「あ、それから霜月さんが卯月に伝えてほしいと言ってたんだけど」

「話は後じゃ、乗れ」

 武は卯月の上に乗った。

「この御札効かないかもしれない」

「彩花を信じよ!」

「そうじゃなくて」

「行くぞ!」

 卯月は板屋川師走に突進した。武は符のビニールをはずし、手に握る。
 卯月は絶妙のタイミングで板屋川に接近し、体をかがめる。

「いまじゃ!」

「よし!」

 武は板屋川の顔に御札を貼り付けた。
 すると板屋川の体の筋肉は盛り上がり、強靱な腕をふるって卯月の腹に拳をねじ込んだ。

「ゲホッ」

 卯月は少し口から血を吐いて後方の飛び退いた。

「クククッ、こうでなければならぬ、こうでなければ面白くない。良き退屈しのぎになるわ」

 卯月はうすら笑いを浮かべ口からしたたる血をぬぐった。

「ふん、負け惜しみを。我が力は強大であり、
 陰陽五行の理など超越しているのでござるよ。
 土の攻撃など無駄、無駄」

 板屋川は見下したように腕を組んだ。
 体は土の符を貼ってもまったく弱ることなく、むしろ強靱になっている。

「これぞ好機なり!わっちが先代様の仇を討つでありんす!」

 叫びながら文が板屋川の後ろから突進し、
 板屋川の背中ごしに手をかざして手から手裏剣を発射した。

「ギャーッ!」

 板屋川の背中に手裏剣が刺さる。

「な、何をするでござる」

 激怒して板屋川が叫ぶ。文はその場に呆然と立ち尽くした。

「何をするもなにも、板屋川様は水精であるが故に刃物は体をすり抜けるはずではありんせんか。
 何故、刃物が刺さるのじゃ」

「そ、それは、体を鍛えているので、筋肉の隙間に刺さったのでござる。
 我が体は陰陽五行の理を超越しておる」

「それなら、刃物が刺さっても平気なはずでありんす」

 卯月は額に巻いた天下御免の鉢巻きをするりと外した。

「ふははははっ、この痴れ者め、他の者は欺けても、
 天下御免の向こう傷、この東京退屈狐、上坂卯月様の目は欺けぬわっ!
 その方、木精であるのをたばかって水精になりすましていたのであろう!」

「何を言うでござる!拙者は水精でござる!」

 怒鳴る板屋川の背後から弥生が走り込んできた。

「伏見で聞いて参りました。
 そいつが師走殿であるとは真っ赤な嘘。
 本当は無位無冠の猿虎蛇という妖怪ですっ!」

「はははっ、こうなったら木対木、霊力が強い方が勝つということじゃ」

「拙者はすでに大量の土の栄養を体に吸収した上、
 土の護符で体を強化した。貴様ごときには負けぬでござるわっ!」
「武おりろ」

 卯月が指示したので武は急いで卯月の背中から飛び退いた。


しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

夏の出来事

ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。

ライオン転校生

散々人
青春
ライオン頭の転校生がやって来た! 力も頭の中身もライオンのトンデモ高校生が、学園で大暴れ。 ライオン転校生のハチャメチャぶりに周りもてんやわんやのギャグ小説!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...