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二十八話
しおりを挟む「はあ、はあ、はあ、何とか逃げ延びたタヌね、
一時はどうなることかと思ったたぬ……あれ?」
学校の廊下を走って武たちと一緒に逃げていた水無月が首をかしげる。
「ご主人様、ご主人様あ、手に持ってるのは木刀タヌね」
「そうだよ」
武は答えた。
「水鉄砲はどうしたタヌ?」
「美紀に渡したよ」
「……ん?……グヒヒヒヒヒッ」
「何だよ水無月、気持ち悪い」
「水無月やと?誰に口きいとんじゃこのガキゃあ。
南の女王とまで呼ばれたこの南水無月様に対する口の利き方をわきまえろや、ああ?」
水無月は眉をヒョコ歪めてすごんだ。
「何言ってんだよ、早く逃げるぞ」
「別に逃げる必要なんて無い。お前らここで死ぬんやからのお」
「はあ?」
「お前ら、この水無月様に殺されてここで死ぬっちゅーとんじゃボケがあっ!」
「うわっ、逃げろ!」
武と良太は走り出し、理科室に逃げ込んでカギを閉めた。
しかし、カギは外からプスプスと音をたてて焦げて、燃え落ちた。
「アホやのお、こんな教室に逃げ込んで、これで逃げ場はなくなったでえ、
さあ、丸焼きになって死んでもわおか」
慌てた拍子に武はその場に転んでしまった。
「武くんに手を出すな!」
良太が武をかばって木製バット
を振り上げる。
「炎の精にそんなもんは効かんのじゃ、クソがあっ!」
勢いよく走り込んでくる水無月。
ジュウッ
水無月の足下で音がして白い煙があがる。
「おい、何してる」
明石霜月の声がした。
「ぎゃあああああーっ、痛い!いたいー!」
水無月は足をかかえて転げ回った。
理科室のシンクから水があふれて流れ出している。
そこから霜月が這い出してきた。
「ひ、ひいっ、どうかお許しを、この水無月、
今後一生霜月様の下僕として使えてまいります……とでも言うと思ったかあっ!」
水無月は平伏すると見せかけて霜月の顔面めがけて手をかざした。
バフン、ブチュブチュブチュッ
だらしなく水無月の手から少量の泥が流れ出て廊下に落ちた。
霜月は眉をひそめ、眉間に深いシワを寄せて水無月を睨んでいる。
「や、やばいやんけ、さっき天保山の土、全部つこてしもたがな。
これはもう青春18切符つこうて道頓堀まで行って川底のドロすくいでもせなあかんがな、
あ、でもあれ五枚つづりやろ、いつも中途半端に三枚とか二枚とか残ってまうねんなあ、
あ、そや、使うたあと、金券ショップで売ったらええんやがな、水無月ちゃんあったまい~」
「水無月、お前を殺す」
霜月が無表情に言った。
「へへーっ、どうかお許しをーっ!今後一生霜月師匠についてきます。
霜月師匠に尽くして、尽くして、上方芸能界を盛り上げてまいりますタヌ」
水無月は額をドロでよごれた廊下の床にゴリゴリこすりつけて
顔を泥まみれにしながら土下座して謝罪した。
「誰が上方芸人だ」
霜月が冷静に突っ込みを入れた。
「霜月助かったよ」
武が霜月に声をかけた。
「これは武お坊ちゃま、ごきげんうるわしゅう」
水無月は顔を上げ、柔和な笑顔で武にほほえみかけた。
「うるわしゅうないよ」
武が吐き捨てるように言った。
「さて、霜月様、このタヌめはこれから何をすればよろしいでしょう、
きっと霜月様のお役にたってみせますわよタヌ」
「とりあえず、騒動が収まるまでそこで土下座してろ」
「へ?」
「土下座してろ」
霜月はカッと目を見開いた。
「へへーっ」
水無月はふたたび床に額をこすりつけてその場に土下座した。
霜月は武に視線を向ける。
「この狸がこれ以上悪い事しないように、
ここにあるガスバーナー用の耐火ゴムホースでグルグル巻きにふんじばろう」
「よし、分かった!」
武と良太と霜月はガスバーナーのホースで水無月の体をグルグルに縛った。
「むきょー、うごけないたぬ~」
水無月はバタバタあばれた。
「ありがとう、霜月」
武はさわやかに笑った。
霜月はちょっとだけ驚いたように目を見開いたが、
すぐに動揺を隠すように冷静を装いそっぽを向いた。
「行こう、良太くん、霜月」
「うん」
「分かったわ」
武と良太と霜月は先に進んだ。
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