東京ケモミミ学園

楠乃小玉

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十九話 

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 封印された刀は良太に渡され、良太は大事そうにそれを抱えて神社の外に出た。

 武も彩花も一緒に神社を出ると、
 そこでは卯月が眉間に深いシワをよせて不機嫌そうに腕組みをしていた。

「ごめん、ごめん、遅くなったね」

 武がそう言うと卯月は小さく首を横にふって、
 そのあとアゴを前に突き出してなにかを指しているようだった。

 卯月がアゴで指し示す方向を見て武はギョッとした。

 そこには頭が猿で胴が虎手足が人間の妖怪が立っていた。

 虎のパンツを履き、赤いチャンチャンコを着ている。

 尻から尻尾が出ているがこれが蛇で、シャーと声を出して威嚇している。

「あの……こちらは?」

 武は少し気を使いながら卯月に聞く。

「さあね、本人に聞けばよかろう」

 卯月はそっぽを向く。

「あの……」

 武がその猿顔の妖怪に気を遣いながら視線を送ると、
 猿顔の妖怪は穏やかな笑顔をみせた。

「それがしはこのたび、
 こちらの総元締めとなった板屋川師走と申す者でござる。
 今後ともよろしくでござる」

「そんな妖怪聞いたこともねえや。
 先の河童は名の知れた妖怪だった。
 総元締めってのはそんなに簡単になれるものであるかのお」

 嫌味ったらしく卯月が言ったが、板屋川は動じない。

「いやいや、それがしも結構有名な妖怪であるぞ。
 かつて多田源氏源頼政と戦った事もある鵺でござる」

「そいつはおかしいのお、京の都に板屋川など聞いたこともないわ」

「それは貴殿が無知なだけでござるよ」

「この歴史マニアの卯月様を無知といいよったかこいつめ……」

 卯月はやにわにファイティングポーズを取る。

「むっ!」

 板屋川も身構える。

 と、卯月が急に踊り出した。

「おっ魚ぴっちぴち、おー肉もてっかてか、新鮮お野菜しりげや~」

「シリゲではない。シッケでござる!」

 板屋川は赤い猿顔をより一層真っ赤にして怒鳴った。

「ほう、よくしっておるな、地元民か」

 卯月に指摘されて板屋川はビクッと体を揺らす。

「そのような事、博識の拙者なれば知っていて当然でござるよ」

「嘘をつけ。そなた、実は岐阜の妖怪であろう」

「な、なんだと!」

「貴様は鵺などではない。貴様、実は加納水野町のお風呂妖怪だなっ!」

「ちがうわーっ!」

 板屋川が大声で怒鳴った。

「まったくもう、このような地域をこれからまとめていかねばならぬと思うと、胃が痛くなる思いでござる」

「鳥○病院で胃薬もらってこいよ」

「鳥○病院って誰が知ってんだそんなネタ!でござる」

「やっぱり地元民だ」

「だまれでござる。今日はもうお開きでござるよ!」

 板屋川は怒って帰っていった。卯月は手の平をひらひらさせて弥生を呼びつける。

「何ですか」

「あれはたしか永正十四年の事であったか。

 美濃の神社が火災にあい、そこに封印していた妖怪が逃げ出したとの手配書を読んだ記憶がある。
 弥生よ、さきほどの猿顔の風体、しかと憶えておろうな」

「はい」

「されば伏見へ行き、事の次第を話してこちらの状況を説明してきてくれぬか。
 総代の重職がそんな簡単に決まるわけもなく、
 京都からであればかなりの時間がかかるはず。
 いかに霊力が強い妖怪といえども、総代死して即日到着などあり得ぬ」

「心得ました!」

 弥生は一礼して走り去った。

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