東京ケモミミ学園

楠乃小玉

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十八話 

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 武たちは良太の処までもどると、彩花の提案で、彩花が修行をしている神社に行くことになった。

 武と彩花、良太は神社の鳥居をくぐったが、
 弥生、籠釣瓶らは神社の鳥居をくぐることができない。

 弥生はまださほど霊格が高くないから入ることができず、
 籠釣瓶は過去に人を殺したことがあるから入れない。

 卯月は入ることが出来たが、他の妖怪たちの手前、
 おとなしく鳥居の外で待つことにした。

 武と良太は彩花の紹介で宮司と面会し、籠釣瓶の刀について相談することにした。

「こんにちは~河野水軍の子孫の宮司で~っす」

 宮司は何か軽い感じの美人のお姉さんだった。

 刀は今、明石霜月が預かっており、
 籠釣瓶と別々の場所にあることを説明すると宮司はそれを持ってくるよう指示した。

 武は鳥居の外に出て、卯月に頼み、霜月を呼んで貰うことにした。

 卯月はそれを承知して、すぐさま霜月を連れてきた。

「じゃあ」

 武が刀を受け取ろうとすると卯月が武の手をパチンと叩いた。

「痛てっ、何するんだよ」

「この刀からは妖気が漂っている。霊的防御も知らぬ者が触ってはならぬ。宮司を呼べ」

「そうなの?分かった。呼んでくる」

 武は慌てて宮司を呼び、宮司は御幣をもってきて刀の邪気を払ったのち、
 手に持って神社の中に入った。

 そして刀を神社の神殿の中にもってゆき祝詞をとなえ、御札を貼って封印した。

「この刀は後々は祠を建立し、そこに封印しなければいけないけど、
 今は持ち主の良太君に持っていていただかないとダメだろうね。
 一見したところ、あの籠釣瓶という妖怪は非常に怒気に満ちており、
 無理に良太君と引き離せば、あの妖怪は怒り、
 我を忘れて暴れることになると思うわ。
 良太君に管理してもらっているのが、今のところあの妖怪を一番冷静にさせる方法だと思う」

「この危険な刀を壊して、あの妖怪を消し去ることはできるんですか」

「何言ってるんだ武くん、そんなの絶対だめだからね!」

 武の言葉に良太がいきり立った。

「そうねえ、普通はそう考えるんだろうけど、刀は魂を入れる器にすぎないからね。
 普通の妖怪なら器である体を壊されれば、
 中の魂が拡散してしまい、雲散霧消して消えてしまうものだけど、
 妖刀村正ほどの霊力をもった存在となると、ヘタに壊れてしまえば、
 その魂は塊のままで漂い、何に憑依するか分からなのよ。
 それを探し出すのは至難の業なの。一時は息を潜めていても、
 いつかは騒動を引き起こすことになるだろうし。
 現在は刀に縛って行動を制限しているだけ、
 まだ制御できる余地があるのよね。刀を潰してそれで終わりというわけではないの。
 普通の妖怪なら倒して終わりでも村正ほどの力のある妖怪はそれほど厄介なものなのよ」

「そうですか」

 武は腕を組んで考え込んだ。

「それに……」

「それに?」

「それに、彩花から携帯電話で聞いたんだけど、鬼が斬り殺されたんだってね」

「はい」

「鬼は野に放たれると悪さをするけど、
 神道、仏教に調伏された鬼は神や閻魔の使いとして人の悪事を押さえ込む力を持っている。

 地獄に鬼がいるのもそのためよ。

 ただでさえ金気、つまり義の空気がこの地域で弱ってきているというのに、
 これで完全に籠釣瓶を神社に封じ込めてしまっては、
 この地の社会的治安や正義に悪影響が出るわ。

 連中の総領に連絡を入れて早く新しい義の守りを連れてきてもらうまでは完全な封印はできないわね」


「なるどほ、そこまで考えていませんでした。さっそく卯月に頼みますよ」

「この世は陰陽五行のバランスの上に成り立っているの。
 正義の味方が一方的に誰かを悪者に仕立て上げ、
 皆殺しにしてしまえば、すべて解決がつくというようなものではないのよ。
 そういう解決方法を選べば地域のバランスが崩れ、より大きな不安定が到来する。
 力でねじ伏せて、何でも解決するというものではないの」

「昔からハリウッド映画のヒーローものを良く見て育ったせいか、 
 悪者を強いスーパーヒーローがやっつければそれですべて解決するんだ、
 みたいな思い込みがありましたが、現実はそんなに簡単でもないんですね」

「そうだね、何者にも、ある人から見ればこの世に必要のない存在でも、
  別の人から見れば絶対に無くてはならないものという存在はある。
 人はそういう多角的な見方をすることによって、
 一つずつ知恵を付けていき争いを回避するものなのよ」

「ところで、この刀は良太くんに返すとして、
 誰か悪い妖怪がやってきて御札をはがしてしまったりする心配はないのですか。
 それを狙って妖怪が良太くんを襲ってくることも心配です」

「妖怪に御札をはがすことはできないわよ。
 妖怪というのは、たいがい木火土金水のいずれかの属性に偏って存在するものなの。
 この御札には木火土金水すべての要素の護符が詰まっている。
 よって妖怪はこの札に触ることができないわ。
 けど、人間というものはその体に木火土金水すべての要素を内包している。
 だから人間ははがすことができる。妖怪同士の場合、
 直接攻撃で殺せる相手と殺せない相手があるけど、昔話で語られているように、
 人間は妖怪を刀で切って殺すこともできるし、妖怪も人間を襲って殺すことができるわ。
 人間は妖怪よりも弱い存在だけど、本気になって刀に気を込めて妖怪を切ったら妖怪を殺せるのよ。
 人間というのは妖怪にとってとても危険な存在である反面、
 敵対勢力を倒すためにはとても便利な存在なの。良太君、そういうわけだから、
 どんな妖怪がうまい話をして、御札を剥がすようそそのかしてきても、
 絶対にこの御札を絶対にはがしてはいけないわよ」

「はい、分かりました」

 良太は力強く返事をして頷いた。

「良太くんは綺麗な目をしているね、よし!これなら大丈夫だ」

 宮司は喜ばしげに頷いた。

「ところで、先ほども話したけど、妖怪だっって自然の一部であり、
 その地域の環境の一部なの。それを不用意に潰してしまうと、
 環境のバランスが崩れて異変や災害に繋がる。
 だから、何の危害も加えない妖怪はあえて殺したりしてはいけないのよ」

「でも、昔から妖怪退治の話とかありますよね」

 首をかしげながら武がたずねる。

「それはむしろ、どこかで妖怪が退治されてしまったためにバランスが崩れたか、
 他所から妖怪が流れてきて、妖怪が増えすぎて問題が起ったかだね。
 野生動物でも日頃は目にすることはないけど、
 工事で大量に木が伐採されたりすると、
 飢えた猪とかが街に降りてきて暴れたりするでしょ。
 あいつらだって殺されたいと思って人里に降りてきてるわけじゃないのよ。

 人と対立が起れば倒さなければならない。
 でも、陰陽五行のバランスをとって殺さずとも収められるなら、
 態々殺し合いをする必要もないからね。現実の争いっていうのは、
 悪者が一方的に死ぬわけじゃないからね。相手も死ぬけどこっちも死ぬ可能性がある。
 あっちも殺されれば報復してくる可能性もある。だから安易に殺してはいけない。分かったかい、良太君」

 宮司は良太の目を見据えて言った。

「あ、は、はい」

 良太は目をそらした。

「良太くん……」

 武はいぶかしげに良太を見る。

「何人殺したんだい妖怪を。別に詰問してるわけじゃないが、
 問題をより安全に解決するために聞いておきたいわ」

 宮司に問い詰められて良太は申し訳なさそうに下を向いた。

「ヒーローに……ヒーローになるのがボクの夢だったんです。
 子供の頃から肥っていて運動が苦手で周りの友達からも馬鹿にされてて、
 頼りにされたこともなかったし、友達もあまり居なくて家でゲームしたり、
 DVDみたりして、なんかその、人の役に立ちたいなあって漠然と思っていたんです。
 そんな時、神無が……籠釣瓶神無が目の前に現れて、
 ボクの願いを何でも叶えてくれるって言ったんだ。
 だから、ボクは悪い怪物をやっつけて世の中の役に立ちたいって言いました」

「そうか、ただ、自分が悪いと思ったものを力ずくで
 圧し殺しただけでは何の解決にもならないのが現実の社会ってもんだよ。
 これから成長するにつれ色々と憶えていくといいよ」

宮司は口元に微笑を浮かべた。

「殺したのは……狐みたいな妖怪、犬みたいな妖怪、土で出来た妖怪、あと、
 武くんが襲われたのでしかたなく殺した鬼婆の妖怪。
 そのあとは、神無を殺そうとした火猫婆、カッパ、鬼を殺しました。
 全部神無が切って殺しました。
 最初は自分がヒーローになったみたいで楽しかったけど、
 卯月ちゃんとかを見ていると今では自分がやったことが正しいことだったのか分からなくなってきました」

「そうかい、うーん、前にカッパの妖怪に会って聞いた話と数が合わないなあ。
 その土の妖怪は切ってからビニール袋に入れて、その中に何かの種を入れたりしたかい」

「いいえ、切っただけです」

「じゃあ、火の妖怪を水に突き落としたりして殺したりした?」

「いいえ、全部刀で切りました。水は使っていません」

「そうだねえ、普通金の妖怪は土の妖怪や火の妖怪、水の妖怪は切れないからなあ。

 その火猫婆とかはどうやって殺したの」

 宮司が問うと彩花が宮司に近づいていって、
 自分の目で見た妖怪たちの死に様を宮司に説明した。

「そうか。じゃあ、益々謎が深まるなあ。誰か他に仕掛け人が居て、
 これからも何かしてくるかもしれない。十分に注意してね。
 絶対に刀の封印は外さないこと。封印の御札を外すことは札返しといって、
 剥がした者に壮絶な報いをもたらすから、
 誰が何と言おうと絶対に外してはだめよ。
 絶対外さなければならないような事態になったら私を呼んで。わかったね」

 宮司は何度も言い聞かせた。

「はい」

 良太は背筋を伸ばして答えた。
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