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十七話
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「良太さん、良太さん」
籠釣瓶は涙を流し、震えながら良太にほおずりをした。
明石霜月は自分の体から刀を抜き取り、手に持った。
「この物騒な刀、預かる」
無表情なまま言った。
「そんなものいらない。私は良太さんさえいればいいの、良太さんさえ」
籠釣瓶は泣きながら良太を抱きしめた。
良太は微笑んで籠釣瓶の頭をなでた。
「良い子、良い子だよ神無は」
「この腐れ外道があああああっ!食らえ、正義の鉄拳!」
南水無月が叫びながら火炎の拳を振りかざし、
籠釣瓶に突進してくる。
すでに籠釣瓶は戦意を喪失している。
「死ねやあああああっっ!」
ドスッ!
鈍い音がした。
明石霜月の氷の拳が南水無月の横腹に食い込む。
「ゲボッ」
声をあげて水無月はその場に倒れ込んだ。
「帰るぞ、クソ狸」
霜月は右手に刀を持ち、左手で水無月の首根っこを掴みズルズルと引っ張りながら帰っていった。
「ギギギギギッ……」
水無月はうめいている。
「ちょっと待ったあっ!この如月彩花がハイヒールでお仕置きよっ!」
巫女装束を着て赤いハイヒールを履いた如月彩花がその場に走り込んできた。
「すんでのところで間に合ったようね」
彩花は額の冷や汗をぬぐった。
「間に合ってません」
武は冷静に言った。
「でも、何で彩花さん巫女さんの格好をしてるの?」
「たぶんこんなこともあろうと思って、
三年前から巫女修行をして、ハイヒールににエネルギー吸収装置を仕掛けておいたのよ」
彩花は胸を張って答えた。
「お前は真田志郎かっ!」
卯月が突っ込みを入れた。
ビュウッと急に突風が吹きつて、白い粉が舞い上がった。
「ああ、そうだ、牧谷さんは白い灰になってしまったんだなあ……」
武は改めて今回の犠牲の大きさを思い知らされた。
奥坂長月が切られた所に行くと、すでに奥坂も白い灰になっていた。
その傍らで、八代師走の死体を抱きしめて弥生が泣いていた。
「私が……私が言われるまま良太くんを離して逃げたから……。
師走さんいい方だったのに。私が死ねばよかったんだ」
卯月は弥生に近づき、悲しげな表情で弥生の頭をなでた。
「弥生が良太くんを離してくれたからみんな命をつないだんだよ。
八代師走最後の知恵でみんな助かった。みんな弥生と師走のおかげだよ」
弥生はただ無言で何度も首を横に振りながら泣いた。
弥生の抱きしめていた八代師走の体は次第に白くなり、
白い灰になって崩れ去ってしまった。
「さあ、帰ろう」
弥生は卯月に手を引かれ、涙を拭きながら歩いた。武もその後に続いた。
「ちょっと待ってよ」
あとから彩花が走ってきて呼び止める。
「何?」
武たちが振り返った。
「あの刀の妖怪、あのまま放置するわけにはいかないわ。なんとかして封印しなくては」
「だが、簡単に封印などさせてくれまい。
こちらも沢山やられているしの。
我ら幽玄の世界の住人が恐れることは、
我らの世界の者らが人間界に影響を与えること。
無理矢理籠釣瓶を封じ込めようとして自暴自棄になった籠釣瓶が
人間を殺戮しはじめたらやっかいな事になる。
かつて、奴はそれをやっておるでな」
いぶかしげな表情で卯月が言った。
「でも、籠釣瓶は良太くんの言うことならよく聞くし、
聞き分けもいいみたいだから、
なんとか良太くんも交えて話し合いをして、
説得してもらえないからしら。
このままだと結局籠釣瓶は討伐してしまわないといけないし、
そうなると良太くんもかわいそう。
なんとか皆が不幸にならない方向で収めることはできないものかしら」
「まあ、やってみる価値はあるかのしれぬの。
では今から良太の所に戻って話を聞くとしようか」
卯月はそう言って良太の居る方へ引き返すべく足を向けた。
武と彩花、弥生もそれに続く。
「あ、そうそう」
卯月は武の処に行って右の小脇に武の頭をかかえる。
武の頬がちょうど卯月の豊満な胸にあたる。
「な、なんだよ」
武は顔を真っ赤にして動揺する。
卯月はやにわに武の頭を抱え込んだあと左手の平を武の頭のてっぺんに乗せる。
「今思い出したのだが、
よくも一千五百年も守り通してきた私のファーストキスを奪おうとしたな。
危ないところであったわ。
お仕置きしてくれる。食らえ、キューティクルハガシー!」
卯月は武の脳天を手のひらでゴシゴシとこすった。
「いたたたた、痛い!熱い!やめろよ、頭のてっぺんがはげるだろ!」
「はげろ!はげろ!はげてしまえ!天罰じゃ!
シャランラシャランラヘイヘヘイイエーイエ シャランラ!」
「痛い!痛い!熱い!熱い!ごめんなさい、もうやらないから許して!」
「いいか、憶えておけ、こちとらダテに一千五百年も処女やってるわけじゃねーんだよ。
『キャッ、武くんステキ!』
とか
『萌え萌えきゅん!』
なんざ最初からやるつもりはねーんだ。
ただただ私強えー!がやりたいだけなんだよっ」
「分かりました、分かりましただからもう許して―!」
武はもがいた。
籠釣瓶は涙を流し、震えながら良太にほおずりをした。
明石霜月は自分の体から刀を抜き取り、手に持った。
「この物騒な刀、預かる」
無表情なまま言った。
「そんなものいらない。私は良太さんさえいればいいの、良太さんさえ」
籠釣瓶は泣きながら良太を抱きしめた。
良太は微笑んで籠釣瓶の頭をなでた。
「良い子、良い子だよ神無は」
「この腐れ外道があああああっ!食らえ、正義の鉄拳!」
南水無月が叫びながら火炎の拳を振りかざし、
籠釣瓶に突進してくる。
すでに籠釣瓶は戦意を喪失している。
「死ねやあああああっっ!」
ドスッ!
鈍い音がした。
明石霜月の氷の拳が南水無月の横腹に食い込む。
「ゲボッ」
声をあげて水無月はその場に倒れ込んだ。
「帰るぞ、クソ狸」
霜月は右手に刀を持ち、左手で水無月の首根っこを掴みズルズルと引っ張りながら帰っていった。
「ギギギギギッ……」
水無月はうめいている。
「ちょっと待ったあっ!この如月彩花がハイヒールでお仕置きよっ!」
巫女装束を着て赤いハイヒールを履いた如月彩花がその場に走り込んできた。
「すんでのところで間に合ったようね」
彩花は額の冷や汗をぬぐった。
「間に合ってません」
武は冷静に言った。
「でも、何で彩花さん巫女さんの格好をしてるの?」
「たぶんこんなこともあろうと思って、
三年前から巫女修行をして、ハイヒールににエネルギー吸収装置を仕掛けておいたのよ」
彩花は胸を張って答えた。
「お前は真田志郎かっ!」
卯月が突っ込みを入れた。
ビュウッと急に突風が吹きつて、白い粉が舞い上がった。
「ああ、そうだ、牧谷さんは白い灰になってしまったんだなあ……」
武は改めて今回の犠牲の大きさを思い知らされた。
奥坂長月が切られた所に行くと、すでに奥坂も白い灰になっていた。
その傍らで、八代師走の死体を抱きしめて弥生が泣いていた。
「私が……私が言われるまま良太くんを離して逃げたから……。
師走さんいい方だったのに。私が死ねばよかったんだ」
卯月は弥生に近づき、悲しげな表情で弥生の頭をなでた。
「弥生が良太くんを離してくれたからみんな命をつないだんだよ。
八代師走最後の知恵でみんな助かった。みんな弥生と師走のおかげだよ」
弥生はただ無言で何度も首を横に振りながら泣いた。
弥生の抱きしめていた八代師走の体は次第に白くなり、
白い灰になって崩れ去ってしまった。
「さあ、帰ろう」
弥生は卯月に手を引かれ、涙を拭きながら歩いた。武もその後に続いた。
「ちょっと待ってよ」
あとから彩花が走ってきて呼び止める。
「何?」
武たちが振り返った。
「あの刀の妖怪、あのまま放置するわけにはいかないわ。なんとかして封印しなくては」
「だが、簡単に封印などさせてくれまい。
こちらも沢山やられているしの。
我ら幽玄の世界の住人が恐れることは、
我らの世界の者らが人間界に影響を与えること。
無理矢理籠釣瓶を封じ込めようとして自暴自棄になった籠釣瓶が
人間を殺戮しはじめたらやっかいな事になる。
かつて、奴はそれをやっておるでな」
いぶかしげな表情で卯月が言った。
「でも、籠釣瓶は良太くんの言うことならよく聞くし、
聞き分けもいいみたいだから、
なんとか良太くんも交えて話し合いをして、
説得してもらえないからしら。
このままだと結局籠釣瓶は討伐してしまわないといけないし、
そうなると良太くんもかわいそう。
なんとか皆が不幸にならない方向で収めることはできないものかしら」
「まあ、やってみる価値はあるかのしれぬの。
では今から良太の所に戻って話を聞くとしようか」
卯月はそう言って良太の居る方へ引き返すべく足を向けた。
武と彩花、弥生もそれに続く。
「あ、そうそう」
卯月は武の処に行って右の小脇に武の頭をかかえる。
武の頬がちょうど卯月の豊満な胸にあたる。
「な、なんだよ」
武は顔を真っ赤にして動揺する。
卯月はやにわに武の頭を抱え込んだあと左手の平を武の頭のてっぺんに乗せる。
「今思い出したのだが、
よくも一千五百年も守り通してきた私のファーストキスを奪おうとしたな。
危ないところであったわ。
お仕置きしてくれる。食らえ、キューティクルハガシー!」
卯月は武の脳天を手のひらでゴシゴシとこすった。
「いたたたた、痛い!熱い!やめろよ、頭のてっぺんがはげるだろ!」
「はげろ!はげろ!はげてしまえ!天罰じゃ!
シャランラシャランラヘイヘヘイイエーイエ シャランラ!」
「痛い!痛い!熱い!熱い!ごめんなさい、もうやらないから許して!」
「いいか、憶えておけ、こちとらダテに一千五百年も処女やってるわけじゃねーんだよ。
『キャッ、武くんステキ!』
とか
『萌え萌えきゅん!』
なんざ最初からやるつもりはねーんだ。
ただただ私強えー!がやりたいだけなんだよっ」
「分かりました、分かりましただからもう許して―!」
武はもがいた。
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