東京ケモミミ学園

楠乃小玉

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十一話 

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 コンコンと窓ガラスを叩く音がした。

 武の部屋は二階にある。

 武はぞっとして窓の方を見ると、窓の外から雄のカッパが中を覗き込んでいる。

「うわあっ」

 武は驚いて飛び退いた。

「どうしました!」

 声を聞いて弥生が慌てて武の部屋に入ってきた。弥生は窓の方を見る。

「なんだ、#八代師走_ヤシロシワス__#)さんじゃないですか」

 弥生は笑顔で窓に近づいてゆき、窓を開ける。

「久しいのお弥生、卯月、新任早々で悪いがここの地域の妖怪地区会が
 開かれることとなった。悪いが来てもらえぬかな」

「わかりました」

「承知した」

 弥生と卯月が頷いた。

「それと、そこの人間」

 カッパは武の方を向いた。

「人間も一緒に来てくれ」

「何でぼくが?」

「そなた、二本松の婆様が殺された時に現場に居ただろう。
 その時の殺された様子を知りたい。犯人が誰か見極めねばならぬからなあ」

「え~ボクが~」

 武は尻込みした。

「心配いたすな、何があってもこの卯月様が守ってやる」

 卯月が笑顔で武の肩をポンと叩いた。

「ほい、おぶされ」

 卯月が背中を見せ、武に背中に乗るよう催促する。

「え、イヤだよ、女の子の背中に乗るなんて」

「乗らねば精霊の結界は越えられぬ。事は急を要するゆえ早くいたせ」

「そそうなの……」

 武は嫌々ながら卯月の背中におぶさり、首の処に手をかける。

「これ、そんな処に手をかけては首が絞まろうが。
 首がしまってそなたを落としてしまったら何とする。もっと下を持て」

「だって、そんな事したら卯月の胸にさわっちゃうだろ」

「気にするな。そなたが危ない思いをするくらいなら、
 私の乳くらいいくらでも触るがよい」

「うっ……」

 武は渋々卯月の胴に手を回すと豊満な卯月の下乳が手の甲に触れた。

 武は顔を赤らめ、目をつぶる。

「そうれい、いくぞ!」

 卯月は叫んだかと思うと一足飛びに窓の外に飛び出した。
 その後に弥生も続く。
 空を蹴ってとびあがり、そのまた上に飛び跳ねて走り昇っていった。

「さて、ついたぞ」

 武が恐る恐る目を開けてみたら、
 真っ暗な暗闇の中にカッパやら筋肉隆々の巨大な鬼男やら色々な妖怪が居る。

「なんだ文、お前着物に着替えたのか。メイド服はやめか」

 卯月が吉原文を見つけて言った。

「もう流行は追わないことにしたでありんす。
 どうせいつ死ぬか分からぬ人生なら人にあわせず、
 自分らしく生きることにしたでありんすよ」

 卯月は赤地に派手な花柄の着物を着て漆塗りの下駄を履いていた。

 鬼、カッパ、泥田坊、それに小柄で真っ白な髪におかっぱ頭で薄灰色縮の着物を着ている女の子。

 表情は無表情で周囲に冷気が漂っているので、
 恐らく雪女だろう。狸の水無月も来ていた。

 だが、おかしな格好の子供もいる。

 赤いスカートを肩からヒモでつり下げ、
 黄色い学童帽をかぶってランドセルを背負い、
 手にはピンクの巾着袋を持った女の子。

 顔立ちはかわいらしくあどけない表情で周囲を落ち着きなく見回している。

 どう見てもこの場所には場違いな感じだ。ひょっとしてこれが
 妖怪トイレの花子さんってやつだろうか。

 思わず武が凝視していると、その女の子と目が合った。

 女の子は武と目が合うと、にっこりと笑い、
 トコトコと武に駆け寄ってきた。年の頃なら八才くらいだろうか。

「おにいちゃん、こんにちは」

 純真そうな表情で女の子は笑った。

「ねえ、お兄ちゃんって彼氏いるの?」

「え?」

 武はどうも聞き間違いしたようだ。

「あ、彼女はいないよ」

「ねえ、お兄ちゃん彼氏いるの?」

「彼女はいないよ」

「ねえ、お兄ちゃん彼氏はいるの?」

 何度も繰り返し聞いてくる。

 武はだんだん怖くなってきた。やっぱりこいつも妖怪なんだろう。

「おい、八十女葉月(やそめはづき)の婆様、若者をおちょくるのはやめろ」

 葉月が女の子の後ろから声をかける。

「あら、卯月おねえちゃん、何言ってるの、私は八才の女の子よ」

「八千八才な」

「やっだー八千才って人間に例えると八才じゃなーい」

「八才ではないわっ、八十才だ。
 豊後国風土記にお前が大和朝廷と戦っている記述があるぞ、どれだけ古いんだ」

「いやだわー年増ババアの若さへの嫉妬って怖いわね~幼女に嫉妬するなんて怖いわ~」

 葉月は身震いした。

「誰が年増だ。私はまだ一千五百才だぞ」

「まあまあ」

 慌てて弥生が間に入った。
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