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八話
しおりを挟む「武くん、何やってるんだよ、授業が始まるよ!」
良太が武を探して体育館の裏まで呼びに来たようだ。
その良太の後ろに長い黒髪美形ののはかなげな少女が居た。
「あれ?その子、うちのクラスに居たっけ?それにどうして制服じゃなくて黒い着物を着てるんだい」
武は良太の後ろの女の子に目をやった。
「あ、あれ?ひょっとして武くん、彼女が制服じゃなくて着物姿に見えるの?」
「そりゃ、見えるよ、だって着物着てるんだもん」
「チッ」
卯月が舌打ちをする。
「うわっ、なにその子、頭から猫みたいな耳が生えてるじゃないか」
卯月を見た良太が驚きの声をあげた。
「こいつの耳が見えるの?」
「ああ、見えるよ。そういう事だったのか。武くんも妖怪を連れていたんだね」
「妖怪ではないわ失礼な。この上坂卯月様は精霊なるぞ」
険しい表情で卯月は良太を睨み付ける。
「ごごめんなさい」
良太は少し萎縮したように目を伏せた。
「そなたらの正体を知って居るぞ」
「え、ボクの名前を知っているの?」
「当然じゃ、そなたらの名前は……シーランとプーヤンであろう」
「いや、ハゼドンには出演してません」
「ななに、その年でハゼドンを知っているとな!?なかなかの手練れ。
実はその方、恋の呪文はスキトキメキトキス!」
「肉丸君と魔子ちゃんでもありません」
「ぬぬぬ……こんな処でそなたのような切れ者と出会うとは。
今回ばかりは見逃してやろう。神風の術!」
言うが早いか小さな竜巻が起り、卯月は風と共に消え去った。
武は何が起ったのか、完全においてきぼりだ。
「え?え?今何話してたの?」
「いや、ただのオタクネタさ。
君の連れの狐さんもかなりのサブカルマニアなんだね、
さあ急ごう、授業に遅刻するよ」
良太は苦笑いした。
授業が終わったあと武は学校の屋上で彩花と待ち合わせして、
彩花の手作りのお弁当を食べた。
良太も良太にくっついてきている女の子が作ったお弁当を食べるというので、
一緒に食べることにした。
「はい、武くん、あ~んして」
彩花は隣に良太が居るのにも拘わらず箸で玉子焼きをつまんで武に食べさせようとする。
「ちょ、隣で良太くんが見てるだろ、みっともないよ」
武は少し顔を赤らめて困惑した。
「あら良太さん、武さんに気を遣わせてはいけないわ、
私も良太さんにたべさせてあげる」
良太にくっついてきた女の子もお弁当をあけて、
俵型のおにぎりを箸で二つに切って食べやすい大きさにして
良太の口の処にもっていこうとする。
「え~そんなあ、恥ずかしいよう」
「だめですよ、良太さん。武さんが気をつかうでしょ、はい、あ~ん」
「う、うん、わかった。あ~ん、はむっ」
良太は女の子がさしだした俵型のおむすびをほおばった。
「ほらっ、あっちでもやってるでしょ、武くんも負けちゃだめよ」
言いながら彩花が玉子焼きをさしだす。
「勝つとか負けるとかじゃないんだけどなあ、まあいいか、はい、あむっ」
武も玉子焼きをほおばった。
「それにしても、良太くんにこんなかわいらしい彼女が居たなんて驚きだなあ」
「きゃっ、彼女だなんて」
女の子は顔を赤らめる。
「うん、そうなんだ、ボクも最初にこの籠釣瓶神無(かごつるべかんな)
が押しかけてきた時は、武くんみたいなモテモテのイケメンの処に行けって追い返したんだけど、
神無は不思議な事にボクみたいな肥っててださい男がいいんだってさ。
まあそういうマニアが居るって事は聞いたことはあるけどさあ」
「イヤ、ボクはイケメンじゃないよ。それより、
籠釣瓶さんて名字なんだ。カゴとか井戸とかお鍋の精霊なのかなあ」
「そうだと思うんだ。だって料理がすごく旨いし、家庭的な性格だし」
神無はずっと一心に良太だけを見つめて微笑んでいる。
よほどぞっこんのようだった。
「あーいいなー、ご主人様にご飯たべさせてる」
屋上に上がってきた弥生が武を発見した。
「明日は弥生がお弁当作ってご主人様に食べさせますからね」
弥生がそう言うと彩花が眉をひそめる。
「あなたは何を作るのかしら。
私は中学生の時から武くんにお弁当を作ってあげてたんですからね。
あなたは作らなくて結構よ」
「えーそんなのずるいです。私もご主人様にお弁当たべさせたいのーっ!」
弥生が頬を膨らませてその場でピョンピョン跳ねる。
「まあ、なれなれしくご主人様、ご主人様って何様のつもりかしら」
彩花も頬をふくらませる。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
武は苦笑しながら二人をなだめた。
「おいコラ、武」
今度は卯月が現れた。
「あら、何なの貴方たち、明日からも武くんのお弁当は私が作りますからね」
彩花が卯月を睨む。
「そんな事、けっこうどうでもいい」
卯月はすんなり彩花をいなしながら武に近づいて手のひらを差し出した。
「喉が渇いた。水買うから金をよこすがよい」
「そんなの水道の蛇口から飲めよ」
「蛇口は金属だから触りたくないのじゃ」
不快そうに卯月は言った。
そういえば木精は金属が苦手であることを武は思い出した。
弥生も胸に手裏剣が刺さったとき、死にそうになった。
そういう不便があることは、人間である武には想像できないものであった。
可哀想になった武は百五十円を卯月にさしだした。
ただし、毎日百五十円請求されたらたまったものではないので、
今後はカラのペットボトルに水道水を入れて、それをあげることにしようと思った。
「何よあの厚かましい女は」
彩花は納得がいかない様子だった。
「うちの居候だよ」
「何であんな女が武の家に居るの?」
「何かの災害で家が無くなったらしいよ」
災害というのは嘘で、本当は祠が工事で壊されてしまっただけだけど、
そんな事を言っても彩花には信じて貰えないだろうから武はあえてこういう説明をした。
「あらそう、それは可哀想ねえ」
災害の話を聞いて彩花は納得したようだった。
「ねえ卯月さん、卯月さんはサブカルが好きみたいだけど今日の放課後、
みんあで本屋さんにいかない?
ボク、今日発売のライトノベルを買いに行くんだ。
みんなもライトノベル好きだよね」
良太は武の方を見た。
「まあ、それなりにね」
武は微笑んだ。
「ライトノベル大好きタヌ~」
会話中にどこから現れたのか水無月が会話に割り込んでくる。
「クソ狸は会話に入ってくんな」
厳しい声で卯月が言った。
「きゃっ、怖いタヌッ」
水無月は怯えて彩花の後ろに隠れる。
「ちょっとお、この子は臆病なんだから脅かさないでくれる?」
彩花が卯月をにらんだ。
「フン、三文芝居をしおって」
卯月は口をへの字に曲げて不愉快そうな表情をして去っていった。
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