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七話
しおりを挟む実際に学校に行ってみると、
先生も周囲の学生も卯月や弥生の存在にまったく違和感を持たない。
これが狐に化かされるという状態なのか。
「武く~ん」
学校の廊下を歩いていると、
一つ年上の近所のお姉さん、
如月彩花が手を振って近づいてきた。
このお姉さんは勉強が出来て運動が出来て昔から武は昔から頭があがらない。
出来の悪い子ほど可愛いのか、
昔から武を贔屓にしてくれている。
ウエストがきゅっと締まっていて髪の毛は紫紺のポニーテール。
ちょっとキツメの性格を表しているかのように目はすこしだけつり目だ。
でも武にはかなり優しい。
「やあ、武くん、よく頑張って私と同じ高校に入れたね」
「彩花さんこそ、頑張れば名門私立女子校とかに入れたんでしょ」
「でも~それじゃあ武くんと同じ高校に入れないしい」
彩花は少し肩をすくめながらいたずらっぽく笑った。
その彩花のお尻に当たりでピコンと狸のしっぽみたいな丸いものが動く。
「な、何だよそれ」
武は驚いて後ろに飛び退いた。
「あ、見つかっちゃった?この子ね、
この間からウチに居候してるの。
何でも災害で家をなくしちゃったそうでね、
可哀想だからウチで居候させてあげてるの」
話をしている彩花の後ろから丸い狸耳が頭からはえ、
お尻から丸い狸しっぽがはえたおかっぱ頭の温厚そうな女の子が顔を出す。
髪の毛はちょっと茶色っぽいが染めたのではなく地毛のようだった。
「こ、こんにちはタヌ」
『うわっ、こいつ語尾にタヌとか付けてるよ』
武は心の中でつぶやいて少し引いたが
武のリアクションを見て狸娘はおびえて彩花の後ろに隠れた。
「脅かしちゃだめだよ、武くんこの子は引っ込み思案で気が弱いんだから」
「ごめんね」
武は少し後悔して狸娘に微笑みかけた。
「こちらこそゴメンですタヌ、私は南水無月と言いますタヌ。
お友達になってくれますタヌ?」
水無月は小首をかしげながらつぶらな瞳で武を見た。
「もちろんさ、ボクの名前は武っていうんだ。よろしく」
武は笑顔で手をさしのべる。
「あ、握手してくれるんでタヌ?」
水無月はパッと表情を明るくし、トコトコと武に歩み寄った。
「きゃうん」
水無月は蹴躓いて前のめりに顔から倒れる。
「うううっ、痛いタヌ~」
水無月の鼻の頭が真っ赤になっている。
「大丈夫かい」
武は驚いて水無月に駆け寄って抱き起こす。
「優しいタヌね」
水無月はポッと顔を赤らめた。
「ダメダメ!武くんは私のなんだからっ!」
そこに彩花が割って入る。
「彩花お姉様ごめんなさいタヌ、ごめんなさいタヌ」
驚いて水無月は飛び退き、なんども彩花に頭を下げた。
「いいのよ、水無月ちゃん、本当にあなたは良い子ね」
彩花は武の方に向き直る。
「今日は武君の分もお弁当作ってきてるから、
昼休みに屋上に来てちょうだい。私が食べさせてあげるから。ねっ」
彩花がウインクをする。
姿勢をさげて武の顔を覗き込むように見る彩花の胸元から
チラリと純白のブラジャーが見えた。
武は顔を赤らめて慌てて目をそらす。
「あ~武くん、私の胸元を覗いたでしょ~、
イヤねえ、男の子ってすぐにエッチな目で女の子の胸とか見るんだから。
女の子はちゃんと見られてること分かってるんですからねっ」
彩花は少し頬を膨らませた。
「ご、ごめんなさい」
武はしょんぼりして頭をさげる。
「いいの、いいの、元気な男の子はみんなそんなもんだからね、ゆるしてあげる」
笑いながら彩花は武の頭をなでた。
「おい、そこの火狸」
武の頭声に卯月の声が聞こえた。
振り返ると制服姿の卯月がいる。
しかも銀髪でしっかり頭から耳が生えている。
でもだれもそのことに気づかない。
『頭から狐耳が生えているのに誰も気にしない。これも狐の妖術のなせる技なのか』
武は思った。
「ちょっと何よあんた、うちの水無月ちゃんを虐めないでくれる?」
彩花が怒って卯月に立ち向かおうとする。
「金縛り!」
卯月が叫ぶと武の体が動かなくなった。周囲の状況が分からなくなる。
「助けてタヌ~」
水無月の叫び声だけが耳に響いた。
「おっと」
金縛りが解けて周囲を見回すとそこに水無月は居なかった。
「あれ、水無月ちゃんは?」
武が周囲を見回す。
「さあ、先に教室に帰ったんでしょ」
平然と彩花が言った。
「何言ってんですか、さっき狐の格好した女の子が水無月ちゃん連れていっちゃったでしょ」
「水無月ちゃんならさっき、先に帰りますって言って帰ったじゃない」
武は愕然とした。彩花の記憶が改ざんされている。
これも狐の術なのか。考えてみれば狐と狸はライバル関係。
水無月ちゃんが危ない。早く助けないと。
「ちょっとゴメン、用を思い出した」
水無月を連れ去った卯月を探して学校中をかけずりまわった。
「おんどれ、ナメた事言うとったら
カーネル人形に結びつけて南港に沈めるぞ、ボケが、ああっ?」
恐ろしく野太い女の怒鳴り声が体育館の裏から聞こえる。
水無月ちゃんが卯月から虐待されているに違いなかった。
武は慌てて体育館の裏に走り込む。
「おどれは事あるごとにワシのシマ荒しよってからに、
ミナミの女王と呼ばれたこの南水無月様をナメとったら寿命が縮むぞコラ」
「何を言っておるか、劇場の新築に伴い、
祀ってあった祠を撤去されたことに腹を立て、
周囲一帯を焼き払ってこちらに逃げてきたのであろうが、
すでに道頓堀界隈にそなたの居る場所などないわ」
「そやから、ここらへん一帯を新たにワシのシマに組み込んだろうちゅうとんやないかい。
せやからワシの傘下に入って杯受け取れや。
おとなしいに従うとったら悪いようにはせんでえ」
「だれが逃亡火狸なんぞの枝になるか」
「それやったらここで死んでもらおうかのお」
「水無月ちゃん助けに来た……あ」
水無月の背後に飛び出した武は一部始終を見てしまった。
ふりかえる水無月の目が皿のように丸くなる。
「ご……あう……、た、武しゃま~水無月は怖かったでしゅタヌ~」
水無月は切なげな表情で目に涙を浮かべて武の方向に駆け寄ってゆく。
「いや、見たから全部」
醒めた声で武が言った。
「見たってどの辺りからタヌ?」
「ミナミの女王の辺りから全部」
「彩花しゃまには内緒にしてほしいタヌ。
内緒にしてくれたらクヌギの葉っぱ三枚とドングリの実二つあげるタヌ」
「そういうわけにはいかないよ、正直に話さないと」
「そんな事をされたら、水無月タヌはお家を追い出されるタヌ~
死ぬタヌ~助けてタヌ~」
「媚びてもだめです」
「おおそうかい、そっちがその気いやったらこっちにも考えがあるわ。
おどれも、家に女狐と犬女引き込んで真夜中にズッコンバッコンやっとること、
彩花さんに告げ口したるわ」
「そんな事やってねえよ!」
武が怒鳴った。
「おいクソ狸」
卯月は体育館の横の排水溝にたまった水に足を付けてから水無月の後頭部を蹴飛ばす。
水無月は「ぶべっ」と声を発して前につんのめる。
「私ら白狐は神聖な巫女であり処女を失ったら
野狐になってこの白銀の髪の色を失うことを知っていてわざと言っておるであろう」
「やかましわい!嘘でも百回言うたら本当になるんじゃボケ!
お前ら絶対この事、彩花様に言うなよ!
言うたら嘘八百ならべたててお前と彩花様の仲裂いたるからな!」
「やめろ!言わないからそれだけは止めろ!」
武が怒鳴った。
「最初からそう言うとけばいいんじゃダボハゼが!
アホ馬鹿まぬけ、ひょっとこナンキンかぼちゃ!」
叫んだあと水無月は猛スピードで逃げていった。
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