東京ケモミミ学園

楠乃小玉

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四話

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 おかしな事ばかり起こる一日だった。

 良太と別れて家に帰ると、家の前に山伏の格好をした女の子が立っていた。

 頭に頭襟をつけ肩から結袈裟をかけている白装束の女の子だった。

 髪の毛は白銀のショートヘアーで、目の色はグリーンだった。

 「お帰りなさいませ、ご主人様」

 女の子は柔和な笑顔で微笑んで深々と頭をさげた。

 驚く事に頭の上に耳が生えていて、
 ピコピコと動いている。

 そして、何やらパタパタと音がする。

 おしりの方を見ると、真っ白で毛の量の多いフサッとしたしっぽを
 ちぎれんばかりに左右に振っているのだ。

 「あの……君は」

「はい、新しいご主人様がこの弥山弥生ミセンヤヨイに紅鮭を下さるというので、
 臭いを頼りにお探ししておりました。

 あなた様が私に紅鮭を下さるというご主人様ですよね。
 ありがとうございます、ご主人様」

 「あの……それが……」

 「どうなされましたかご主人様」

 犬っぽい山伏な感じの女の子は何の疑いもないつぶらな瞳を輝かせながら
 不思議そうに小首をかしげた。

 「実は紅鮭は学校の池に置いてきちゃったんだ」

 「えーあの紅鮭には法力が込められているんですよ。
 妖怪に食べられでもしたら大変な事になります。
 すぐに取りに行きましょう」

 弥生は急いで、武の手を取った。

 そのあと、慌てて手を離して顔を真っ赤にする。

 「あっ、すいません私、男の人の手を引っ張るなどはしたない。ごめんなさい」

 「いいんだよ、そんな事。それより学校へ急ごう」

 武は走り、弥生はその後を追った。

「ねえ君、ご主人様って言ったよね、前はどんな人に仕えていたんだい」

 「それがその、私は今回が初めての着任だったのですが、
 私が到着する前に殺されてしまったのです。
 それで、急遽新しいご主人様、
 あなた様が着任されることになったのです。
 先だっては私を励ましていただき、
 紅鮭をくれるという暖かいお手紙をいただき、
 この弥生、大変感動したしだいでございます。
 でも私がお約束の場所に行った時にはご主人様はその場には来られず、
 とても心細い思いをしました。
 だけど、そのあと知り合いの妖怪の噂話を聞いたところによると、
 ご主人様が鬼婆を討伐されたと聞き、
 この弥生、とってもご主人様を尊敬してしまいました。
 だって、前のご主人様を殺したほどの手練れをあっというまに
 真っ二つに切り裂いてしまわれたというではありませんか」

 武の背筋にゾクリと悪寒が走った。

 この女の子は完全に勘違いしている。

 武は何の変哲も無い人間なのだ。

 しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。

 法力が込められたという紅鮭を早く回収しなければ。

 その紅鮭が原因で何らかの怪奇現象が起っているとしたら一大事だ。

 しかし反面、こんな事現実ではない、
 もしかして何かのどっきりテレビにでも
 騙されているんじゃないかという不信感が武の心の奥に渦巻いていた。

 学校につくと、学校の池の中に身をきれいにそぎ落とされ、
 骨だけになった紅鮭の死骸が浮いていた。

 「おそかったかっ」

 弥生は歯を食いしばった。

 「あれあれ、こんな処に法力の紅鮭を放置したる輩ありと思いきや、
 お宅様が放置したものでありんしたか。
 据え膳喰わぬは女の恥、
 法力の紅鮭はこの吉原文ヨシワラフミがありがたくゴチになりやんした」

 武が声のする方を見ると、
 そこには体長二メートルほどの金髪ロングヘヤーの女が立っていた。
 首と手足に赤い革ベルトを巻き、
 足には朱塗りの三本歯の大下駄を履き、
 右目には大きな眼帯をしていた。そして……

 「何で妖怪が白黒のメイド服を着てんだよ!」

 武が突っ込みを入れる。

 「あれまあ、流行に疎い殿方もあったもんでありんすね。
 メイド服といえば男の子が好きなコスプレイランキングベスト5の2位でありんすよ」

 「そんな問題じゃない!」

 「あれあれ、泥田坊がコスプレしちゃいけないって法律でも出来たんですかい」

 「泥田坊なのかよ、それにしてもずいぶんと色っぽい泥田坊だな。
 でもランキングにこだわっているなら1位にすればいいだろ」

 「それは色々と版権の問題がござんす」

 「あ……何か悪いこと聞いちゃってごめん」

 武は文に頭を下げた。

「何恐縮しちゃってんですかご主人様!
 こんなへなちょこ妖怪、ちゃっちゃとやっつけちゃって下さいよ」

 弥生が怒鳴った。

「あれ、先代の土守ツチモリ様が殺されやんしたが、
 あんたらが殺した張本人かい。
 って事はあんたら木の者だねえ。
 こりゃあちょうどいい、弔い合戦とまいりましょうか」

 文が武に向かって手のひらをかざすと、そこから突然手裏剣が飛び出して武の顔に直進した。

 「あぶない!」

 弥生が素早く武に体当たりして、
 顔への直撃を避けたが、その手裏剣は弥生の胸元に突き刺さってしまった。

 「うぐっ」

 弥生は胸元を押さえて、倒れ込んだ。

 「大丈夫か」

 武は慌てて弥生に駆け寄った。

 「私の事なんてどうでもいいので、どうか、あの妖怪を退治してください、どうか……」

 消え入りそうな声で弥生がつぶやいた。

「どうしたんですかい、わっちを倒すってんですかい、
 板東妖怪武道大会準優勝のこのわっちに勝てるってんですかい」

 文はうすら笑いを浮かべながらゆっくりと武たちに近づく。

 武は文を睨み付ける。

「ボクはただの人間だ、だからお前には勝てない。
 でも、ボクの息があるうちは弥生ちゃんに指一本触れさせない。
 弥生ちゃんを殺すまえにボクを殺せ!」

 武は両手を横に開き文月の前に立ちはだかった。
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