東京ケモミミ学園

楠乃小玉

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三話 

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『まあ……最近は金銀プラチナの相場も高くなっているからね。そりゃくれないわな。』

 武は心の中でつぶやいた。

 それはよいとして、この生きた紅鮭の処遇をどうすべきか。

 このまま捨て置いて見殺しにするのはあまりにも可哀想だ。

 武は勢いよく跳ねる紅鮭の尾びれに顔をペチペチと叩かれながら武は学校に急いだ。

 幸い、学校には小さな池があったので、
 そこに紅鮭を放流したが、
 さっきまで元気だった紅鮭は池に入れたとたん腹を上にしてプカーと水面に浮かんだ。

 「それはないよ……」

 せつなげな表情で武はつぶやいた。

 結局、紅鮭に関わり合っていたために入学式には遅刻してしまい、
 先生からチクチクと説教をされるはめになった。

 武が入学した学校は冥府高校メイフコウコウという名の近所の公立高校だった。

 入学式で隣になったのは身長が低くて小太りな男の子。

 気が良さそうな子で武の顔を見ると微笑んできた。

 「ボク、西川良太ニシカワリョウタって言うんだ、君は?」

 「睦月武ですよろしく」

 二人は入学式の帰り、笑談しながら帰路についた。

 家に帰る途中、小柄な和服を着たおばあさんが息を切らしながら
 大きな唐草模様の風呂敷包みを引きずり、
 歩道橋を昇ろうとしているのが見えた。

 良太と武は顔を見合わせて頷く。

 「おばあさ~ん」

 武はそう言いながらおばあさんに駆け寄った。

 「重そうなお荷物ですね、お持ちしますよ」

 武がそう話しかけると老婆は柔和な笑顔を浮かべた。

 「いえいえ、お気になさらず。最近の若い子には重くて持てませんよ」

 「やだなあ、おばあさんに持てるくらいの荷物ならボクにでも持てますよ。
 それよりどちらからいらしたんですか?」

 「福島県から来たんですよ」

 「ああ……そうですか震災で被災されたんですか?」

 「いえいえ、こちらで土地の管理をしていた親戚が殺されてしまいまして、
 管理人が居なくて地主様がお困りになっていたので私に声がかかったんですよ」

 「そうなんですか、それはお気の毒に、
 大変そうですからボクが家まで荷物を持って行きますよ」

 いいながら武は強引に老婆の荷物を持とうとした。

 拍子に老婆の手から風呂敷包が離れる。

 急激にその全重量が武の体にのしかかる。

 武は決してひ弱なほうではない。

 むしろ中学背時代はクラス内の腕相撲で負けたことがなかった。

 が、今、荷物の重みで腕が抜けそうになる。

「う、うわっ」

 武は声をあげながら風呂敷包を歩道橋の階段に落としてしまう。

 その拍子に風呂敷包みがほどける。

 そして、中から大きな青い砥石と出刃包丁が転がり落ちた。

 「す、すいません、落としてしまって」

 慌てて武が老婆の顔を見ると、老婆は体をワナワナと震わせている。

 「よくも……よくも……この二本松長月ニホンマツナガツキに恥をかかせたね」

 「すいません、わざとじゃないんです」

 武は慌てて平謝りした。

 風呂敷包みが落ちた階段のコンクリートを見ると、
 そこにヒビが入っている。

 到底普通の物を落としてヒビができるような階段ではない。

 この異様な状況に驚いて武は老婆の顔を見た。

 すると、老婆の顔はみるみるうちに変化し、目は皿のように丸くなり、
 口は耳まで裂けて犬歯が肥大化して大きな牙となった。

 そして、ゆっくりと武の方向に顔を向けた。

 「み~た~な~」

 言うが早いか老婆は出刃包丁を武に振りかざす。

 「うわっ」

  武は体がすくんでうごけない。

 思わず目をつぶった時、
「ぎゃっ!」
 と短い悲鳴が聞こえた。

 恐る恐る武が目を開けると目の前に真っ二つに切り裂かれた老婆の死体が転がっていた。

 まるでレーザーで切ったかのように綺麗な断面だった。

 そこからジワジワと血がしみ出してくる。

 「人殺しーっ!」

 歩道橋の下の方で女の人が叫んだ。

 「え、ちょ、ボクじゃないよ」

 武は焦った。

 「どうした、どうした」

 制服警官が駆けつけてくる。

 そして歩道橋を昇ってきて武を睨み付けた。

 「おい、悪い冗談はやめろ」

 「何の事ですか?」

 「人殺しなんかないじゃないか。それオモチャの骸骨だろ」

 「え?」

 武が驚いて足下を見ると、灰まみれの小さな白骨死体が足下に転がっている。

 あわててそれを拾い上げようとしたら、
 モロモロと崩れて白い粉になってしまった。

 出刃包丁も砥石も無くなっていた。

 「え、あの」

 「今度こういう事したら学校に通告するからな」

 制服警官は唇を尖らせて去っていった。

 いったいどういう事なのか、武には意味がわからなかった。

 「大丈夫かい、武くん」

 息を切らして良太が歩道橋の階段を上ってくる。

 「あの、良太くん、今の出来事見たよね?」

 「ん?」

 「今の化け物の鬼婆だよ」

 「ちょっと何言ってるんだい、
 君が歩道橋の上に荷物を持ったおばあさんがいるって言って
 走り出したんじゃないか」

 「え?だってさっき、良太くんもボクを見てうなづいたよね」

 「それは武くんがおばあさんを助けるって言うから良いことだなあって思って」

 「じゃあ良太くんはお婆さん見てないの?」

 「見てないよ」

 「あ、そうなの……」

 そんな化け物なんているわけがない。

 今朝、狐の仮装をした変なコスプレイヤーを見たために、
 どうも何か変な妄想にとりつかれているのかもしれないと武は思った。
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