鬼嫁物語

楠乃小玉

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十話 藤八

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 西加藤家の嫁の弟、前田藤八まえだとうはちが、かつて室町幕府奉公衆であった名門、佐脇氏に養子に入ることになった。
 佐脇氏は前田氏よりも名門であり、前田家五男という地位からすれば破格の
 大出世である。

 これも、前田藤八が織田家嫡男、織田信長から目をかけられているからであった。

 織田信長の周囲には岩室長門守、加藤弥三郎、長谷川橋介、山口飛騨守、前田藤八などが居たが、
 前田家以外はすべて神道の系列の人脈であった。
 前田家は特殊で、神道といっても菅原道真を崇敬していた。
 それが室町幕府奉公衆の中でも神事と関わりの深い佐脇家に入ったことにより、
 織田信長の人脈はガチガチに神道で固められていた。
 それに、世話役として常に大橋家の一門である川口氏の一族が
 付き従っていた。
 川口氏も津島神社の神官の一族であり、
 本当に神道の人脈が信長を支配しているような状況であった。

 この状況を最も警戒しているのが織田信秀の筆頭家老である林秀貞であり、
 均衡を保つために信長の弟の信勝が一向宗と入魂にしているのも
 許すよう信秀に助言していた。

 信長は一向宗を嫌っていたので、これが兄弟の仲を余計に悪くさせる原因にもなっていた。

 神道、仏教といっても、何が問題があろうかと思われるかもしれないが、
 神道は物品販売、仏教は人材派遣というすみわけができており、
 仏教と疎遠となるということは、人材を活用する分野での動員が疎かになるということだった。

 人材派遣といっても、運送、土木のほかに、加世者かせものといって、
 傭兵部隊の派遣も関わってくるので、
 仏教と疎遠となると軍隊の動員もままならなくなってくる。

 そこが大きな問題であった。

 織田信秀の筆頭家老林秀貞は伊賀衆の柘植玄蕃頭らを使って
 津島大橋氏を探らせ、
 大橋氏の一族である祖父江氏の子飼いの女に信長が入魂であることを
 突き止める。
 この者は祖父江氏の養女という形をとっているが、
 高位の者に側室として差し出す貢ぎ物として育てられた者だった。
 それは、佐脇藤八と似た境遇の女だった。

 その女と信長が結婚したいと願っているという報を得た。
 このため、林秀貞はこの事を織田信秀に直訴し、
 信長はこの女との仲を裂かれた。

 このため、信長と林秀貞との仲は益々悪くなっているようであった。

 そんな中での前田藤八の佐脇氏への嫡子としての養子入りである。
 信長が己の発言権を増すために林秀貞の与力である前田家から
 前田藤八とその郎党の兵力を引きはがすことが目的とも思える行動であった。

 この婿入りの儀には信長も出席して、藤八は大喜びであった。

 加藤家の親戚である左京亮もこの儀に出席することになった。

 嫁の多紀は日頃、左京亮に接するときは気高く、近寄りがたい威圧感を出していたが、
 多数人の集まる寄り合いでは物腰穏やかであった。

 加藤家に前田家から嫁入りした加藤隼人の嫁とも和やかに笑談している。

 「ほんとうに、勝手知らぬ他人の家に嫁入りするほど気を遣うことはございませんわ。
  明け方に、コトリと音がするだけでも、お姑様が来られたのではないかと、
 驚いて飛び起きるくらいでございまする。生きた心地がいたしませんわ」

 多紀がそんな事を言う。
 加藤家の嫁は心得たもので、微笑んで、頷きもしない。
 頷いたら、自分も姑に気をつかっているということになり、それが姑の耳に入れば
 不興の種になりかねない。

 「何を言っておる、我が家は次男坊にて、母上とは別居ではないか」
 「お前様は黙っておいであそばせ」

 多紀は微笑みながら左京亮を見て、一瞬だけ真顔になった。
 その目の鋭い事といったら、まるで暗闇の中で獲物を狙う餓狼のようであった。

 「あ、はい、すいません」

 左京亮は頭をさげた。

  新婚でこれでは先が思いやられる。
 でも、多紀は美しかった。
 それだけが救いである。

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