三國志 on 世説新語

ヘツポツ斎

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晋編2 竹林七賢

阮籍1  真人嘯謡

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阮步兵嘯,聞數百步。蘇門山中,忽有真人,樵伐者咸共傳說。阮籍往觀,見其人擁膝巖側。籍登嶺就之,箕踞相對。籍商略終古,上陳黃、農玄寂之道,下考三代盛德之美,以問之,仡然不應。復敘有為之教,棲神導氣之術以觀之,彼猶如前,凝矚不轉。籍因對之長嘯。良久,乃笑曰:「可更作。」籍復嘯。意盡,退,還半嶺許,聞上(口酋)然有聲,如數部鼓吹,林谷傳響。顧看,迺向人嘯也。(棲逸1)


阮籍げんせきの歌はよく通る。
百メートル弱離れたところからも
聞き取れるくらいだ。

そんな阮籍さんの、
歌にまつわるエピソードである。

蘇門そもん山に「真人」、
老子の道の境地を体現した人がいる、と
木こりたちが噂していた。
阮籍、その話を聞き、会いに行った。

そのひとは、いた。
巌の側で膝を抱え、たたずんでいる。

阮籍は岩をよじ登って彼のもとに向かい、
足を放り出し、向き合った。

そして語る。
黄帝こうてい神農じんのうが辿り着いた
玄奥なる境地について。
またいんしゅうの徳高き時代のことを。

これらについて、あなたはどうお考えか?

が、真人は反応しない。

次いで阮籍は語る。
人為ではだめか。それならば、
人知を超越した世界のこと、
気を我が精神に取り込むこと、
などの話をしてみたが、やはりだめ。

そのうつろなまなざしは、
何ものも映さない。

やれやれ、これは困った。
遂に阮籍、歌いだす。

しばらくすると、
真人にようやく反応があった。
阮籍に向け、にっこりと、笑う。

「もっと聞かせてくれ」

よし来た、任せてくれ。
阮籍、求めに応じ、歌う。

そのレパートリーが尽きたところで、
阮籍、腰を上げ、巌を下りた。

帰途の半ば、阮籍の耳に
のびやかな歌声が届く。

それは林に、谷に響き渡り、
まるで大編成の
オーケストラが如き、
豊饒な音楽となっていった。

阮籍は振り返る。
あの真人が、歌っていたのだ。
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