三國志 on 世説新語

ヘツポツ斎

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呉編

孫策1  志は果たせず

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陳林道在西岸,都下諸人共要至牛渚會。陳理既佳,人欲共言折。陳以如意拄頰,望雞籠山嘆曰:「孫伯符志業不遂!」於是竟坐不得談。(豪爽11)


東晋の時代、桓温かんおんが乾坤一擲の決戦に敗北し、
失意のうちに亡くなった後ころのこと。

陳逵ちんきと言う人が長江のほとりの町、
歴陽れきようの太守となっていた。
この人が長江を渡ってくるというので、
建康の人たちは歴陽の対岸にある町、
牛渚ぎゅうしょまで出向き、会合を開くのだった。

この陳逵と言う人、すっげえ弁が立つ。
この人と議論を交わして、
勝利できたらヒーローだ。
なので、みんなして
論戦を吹っ掛けようとする。

けど陳逵にしてみりゃ、
そんな気分にはなれない。

牛渚からは、古の英雄、
孫策そんさくが戦ったという雞籠けいろう山が見える。

「孫策も、志を遂げられなかったのだよな」

みんなが静まり返る。

結局会合の間、
誰も議論を吹っ掛けられなかった。


 ○


陳逵
穎川陳氏の人、つまり陳羣ちんぐん陳泰ちんたいの係累。あんまり伝は残ってないが、名太守であったとのこと。祖父の陳淮ちんわいは太尉にまでのぼったと書かれている。たぶん追贈だろうけど。

孫策
三国志の主役の一人ですね。孫堅の息子、孫権の兄。並外れたカリスマと武威でブイブイ言わせまくったが、北伐を仕掛けようとしたところ殺され、後事を孫権に託した。ちなみに歴陽を渡って牛渚に出るってルート、孫策が江南の群雄・劉繇りゅうようを撃破し、覇道を駆け上ったルートでもある。

さて、原文にはどこにも桓温の話は出て来ない。のでここについて触れておく。豪爽編では、しばらく桓温さますげーを綴ったあとにこのエピソードをもってきてる。そして陳逵は桓温よりちょっと後の世代で、謝安しゃあんと比較される口の人(品藻59)。ってことは、桓温シンパが桓温の敗戦、もしくは桓温の逝去にショックを受けていて、お前らに構ってられる気分じゃねえんだよ、と振る舞っていた、と仮定ができそうなのだ。ほんにこの辺の解釈地獄がマゾゲーすぎて心地よいです……。
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