三國志 on 世説新語

ヘツポツ斎

文字の大きさ
51 / 142
魏編4 後半世代編

許允3  結納の日

しおりを挟む
許允婦,是阮衛尉女,德如妹,奇醜;交禮竟,允無復入理,家人深以為憂。會允有客至,婦令婢視之,還答曰:「是桓郎。」桓郎者,桓範也。婦云:「無憂,桓必勸入。」桓果語許云:「阮家既嫁醜女與卿,故當有意,卿宜察之。」許便回入內。既見婦,即欲出。婦料其此出,無復入理,便捉裾停之。許因謂曰:「婦有四德,卿有其幾?」婦曰:「新婦所乏唯容爾。然士有百行,君有幾?」許云:「皆備。」婦曰:「夫百行以德為首,君好色不好德,何謂皆備?」允有慚色,遂相敬重。(賢媛6)


許允きょいんの妻は知の巨人、
阮共《げんきょう》の娘にして阮侃げんかんの妹だが、
とにかく醜い!

なので婚礼の儀が一通り終わっても、
許允さん、オセッセセする気になれない。
これじゃ後継ぎができない、
家の人たちがみんな心配する。

そこに一人の客が来た。
許允の奥さん、側女をやって
様子を見に行かせる。

「お見えになったのは桓氏です」

桓氏とは、桓範かんはんのことだ。
これを聞くと、夫人が言う。

「なるほど、なら心配はありませんね。
 桓氏なら、我が夫を説得するでしょう」

許允と桓範が会うと、夫人の予想通り、
桓範は説くのだった。

「許允、きみな、あの阮家が、
 わざわざ嫁に出すような人だぞ?
 醜さを上回る何かがあるに決まってる。
 きみの仕事は、その何かを見出すことだ」

言われて許允、渋々夫人のもとへ向かう。
一目見た。
やっぱ無理だ、引き返そうとする。

ここを逃したら、多分もうだめだろう。
そう判断した夫人、許允の袖を掴む。

すると許允、夫人に問いかける。

「夫人たるものには四つの徳が求められる。
 貞節、物言い、淑やかさ、機織りの技だ。
 其方には、そのうち幾つがある?」

「淑やかさのみがございません。
 しかしお前さま、ならばお教えください。
 士人は百の行を修めよ、と申します。
 お前さまは、その内の幾つを
 お備えですか?」

「ふざけたことを申すな。皆備えておる」

「それは異なこと。
 百行は徳をその筆頭となしております。
 お前さまは私の外容にのみ関心を向け、
 徳については見向きなさいませんでした。
 斯様な振る舞いのお方が、
 いったいどうして皆備えておられる、
 と仰るのでしょうか?」

この言葉に許允、返す言葉がない。
以降、夫人を尊重するのだった。


 ○


阮共・阮侃
 魏代の文人にして医師の家系。要するに、めっちゃ頭がいい。なにせ建安七子の阮瑀、竹林七賢の阮籍の親戚である。

桓範
 許允と仲良しという事は、やっぱりこの人も司馬氏アンチ。曹爽処刑に伴い、この人も殺された。ただこのひとは曹爽に対し割と諫言をする立場として書かれている。


ちょっと許允の奥さん賢妻過ぎやろ……つーかよくこんな露骨にヘイトをキメる旦那に食い下がったな。現代だったら速攻訴訟もんですよ。まぁ現代じゃないけど。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...