三國志 on 世説新語

ヘツポツ斎

文字の大きさ
上 下
49 / 142
魏編4 後半世代編

許允1  貴方の為に粟粥を

しおりを挟む
戦意を喪失した兵士達を見てダルクとナオトは表面上は落ち着いていたが、内心は彼等が襲ってこないのかと不安を抱く。どうにかハッタリで誤魔化す事は出来たが、流石に1万の兵士を相手にするのはダルク達でも不可能である。こちらにユニコーンが居たとしてもそれを操るダルクは只の人間のため、彼女が狙われたらひとたまりもない。


(な、ナオ様……この後はどうするのですか?)
(えっと……ちょっと待って、カンペ見ますから)


ダルクが若干涙目でナオトに次の行動を尋ねると、掌に事前に書き込んでいた文字を確認し、ナオトは兵士達に指示を与えた。


「お前達の探している将軍と隊長達は我々が捕縛している!!もしも街の住民や他の村の人間に危害を加えれば彼等を殺す!!」
「な、何だと!?」
「これがその証拠の将軍の兜だ!!確かめろ!!」


空間魔法を発動させてナオトは兜を放り投げると、慌てて兵士達はギルス将軍の装備している兜だと気づき、顔色を青くさせる。まさか本当に将軍が捕まっているとは思わず、よりにもよって自分達を指揮する立場の人物を人質に取られた事を理解した。

彼等は将軍の指示を受けてここまで行動してきたが、その指示を与える将軍が居なくなれば自分達はどのように行動すればよいのか分からない。普通ならば将軍の次に偉い役職の人間が役目を引き継ぐのだが、一般兵以外の上の立場の人間は全員が先にダルクとナオトが捕獲している。


「さあ、お前達は自分の国へ帰れ!!このまま退散するというのならば我々も危害は加えない!!将軍達も国へ送り返そう!!」
「そ、それは無理だ!!このままみすみすと引き返せば俺達は処罰されるんだ!!」
「そうだ!!将軍が捕まって逃げ帰ったなんて報告すれば俺達は殺されちまう!!」


流石に将軍を人質に取られてもこのまま引き返す事は巨人軍も出来ず、何の成果も上げないうちに国へ引き返せば厳罰は免れない。そんな彼等の返答は予想済みなのでナオトはリーリスから教えて貰った対処法を行う。


「ならばお前達の協力者であるノーズ公爵の元へ戻るがいい!!そしてこう伝えろ、帝国は全てお前達の行動をお見通しだとな!!」
「な、何だって!?」
「どうしてノーズ公爵の事まで……」
「ノーズ公爵が帝国を裏切り、貴方達を引き寄せたのは既に調査済みです。後日、この地に100万の帝国兵が押し寄せるでしょう!!」
「ひゃ、百万だって!?」


ダルクの言葉に巨人軍は震えあがり、いくら自分達が最強の軍隊だと自覚していても流石に100万人という言葉を聞けば焦りを隠せない。実際には今の帝国にそれほど数の兵士を動かす余裕はないが、既にノーズ公爵の存在が知られている事を知った巨人軍はダルクとナオトの言葉が真実だと信じた。


「ど、どうすればいいんだよ……100万なんて数、俺達だけでどうしようも出来ねえぞ?」
「う、うろたえるな!!そんな数の兵士が現れるはずがないだろ!?」
「でも、こいつらはノーズ公爵が俺達に手を貸している事を知ってるぞ?それにこんな得体の知れない魔法使いやユニコーンを操る女騎士がいるなんて聞いてねえぞ……」
「そこ!!聞こえてますよ!!口を慎みなさい!!」
「ひいっ!?すいません!!」


こそこそと内緒話を行う兵士達にダルクが注意すると、ナオトは彼等が素直に従ってくれない事に焦り、反対の掌に書いていたリーリスの考えた対処法を実行する。


「ノーズ公爵の元に戻るというのであれば我々は街へ引き返そう。だが、もしも約束を破って街に攻め入ろうとしたら将軍を含めた捕虜を全員処刑する!!そうなればお前達は国へ戻っても厳罰は免れないぞ!!」
「そ、それだけは……!!」
「頼む、止めてくれ!!あの人に俺達は一生ついて行く事を誓ったんだ!?」


将軍が処刑されるかもしれないという不安に駆られた忠誠心の厚い兵士達は跪く。この軍隊の中には長年の間、ギルスの元で働いていた兵士も多く、ギルスの人望を利用してナオトは指示に従う様に命じた。


「ならばさっさと公爵の元へ戻れ!!そして公爵に伝えろ、大人しく降伏するのならば今回限りはお前の首だけで許してやる。但し、これ以上に反抗する気ならば一族郎党全員を処刑するとな!!」
「ナオト様、流石にそれは酷いのでは……」
「いや、書いてあるのを呼んでいるだけですから……ごほんっ!!さ、さあ、早く行動しろ!!」
『…………』


ナオトの発言にダルクの方が不安を抱いてしまうが、あくまでもナオトの言葉はリーリスが考えた作戦であるため、彼の本意ではない。ナオトに命令された兵士達は黙り込み、やがて一人の兵士が前に出る。


「分かった……お前の指示に従う。そうすれば将軍達は解放してくれるのか?」
「約束しよう。但し、お前達の行動は我々が常に監視している事を忘れるな。もしも街や村に近付こうとすれば捕まえた捕虜を処刑するぞ!!その事を忘れるな!!」


兵士の承諾を得たナオは即座に空間魔法を発動させ、黒渦の中に魔獣達を移動させる。最後にユニコーンに乗ったままダルクと共にナオトも姿を消すと、残された兵士達は自分達の目の前で消えてしまった彼等を見て呆然とした表情を浮かべる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

鉄と草の血脈――天神編

藍染 迅
歴史・時代
日本史上最大の怨霊と恐れられた菅原道真。 何故それほどに恐れられ、天神として祀られたのか? その活躍の陰には、「鉄と草」をアイデンティティとする一族の暗躍があった。 二人の酔っぱらいが安酒を呷りながら、歴史と伝説に隠された謎に迫る。 吞むほどに謎は深まる——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

音速雷撃隊

黒いテレキャス
歴史・時代
アメリカ海軍戦闘機パイロットと日本海軍航空隊桜花搭乗員が沖縄の空で見た物は…

女の首を所望いたす

陸 理明
歴史・時代
織田信長亡きあと、天下を狙う秀吉と家康の激突がついに始まろうとしていた。 その先兵となった鬼武蔵こと森長可は三河への中入りを目論み、大軍を率いて丹羽家の居城である岩崎城の傍を通り抜けようとしていた。 「敵の軍を素通りさせて武士といえるのか!」 若き城代・丹羽氏重は死を覚悟する!

処理中です...