53 / 78
罵詈雑言劇場 蜀編
【巻三七 龐統】近為流宕
しおりを挟む
「やや大げさかなぁ~?」
習鑿齒曰:夫霸王者,必體仁義以為本,仗信順以為宗,一物不具,則其道乖矣。今劉備襲奪璋土,權以濟業,負信違情,德義俱愆,雖功由是隆,宜大傷其敗,譬斷手全軀,何樂之有?龐統懼斯言之泄宣,知其君之必悟,故眾中匡其失,而不脩常謙之道,矯然太當,盡其蹇諤之風。夫上失而能正,是有臣也,納勝而無執,是從理也;有臣則陛隆堂高,從理則羣策畢舉;一言而三善兼明,暫諫而義彰百代,可謂達乎大體矣。若惜其小失而廢其大益,矜此過言,自絕遠讜,能成業濟務者,未之有也。
臣松之以為
謀襲劉璋,計雖出於統,然違義成功,本由詭道,心既內疚,則歡情自戢,故聞備稱樂之言,不覺率爾而對也。備宴酣失時,事同樂禍,自比武王,曾無愧色,此備有非而統無失,其云「君臣俱失」,蓋分謗之言耳。習氏所論,雖大旨無乖,然推演之辭,近為流宕也。
(漢籍電子文献資料庫三國志 956頁 ちくま5-201 批判)
○解説
劉備の蜀討伐にある程度めどが立ったところで、宴会が開かれます。そこで龐統はこの征伐が道義にかなっていないものだと直言、いちどは劉備も「武王の殷討伐の時にだって踊り子がいただろう」とそれを非難するのですが、最終的には確かに道義にかなっていない征伐であると劉備も認め、そして龐統も直言があまりにもあけすけであったことを認めます。そして二人はその後楽しく酒を飲み交わした、と書かれています。
ここに習鑿歯がコメントを寄せています。この龐統の直言は君主が道義に背く戦を前に楽しんでいることを批判するための言葉であった。劉備も最終的にはこの言葉を受け入れている。劉備の蜀討伐は道義心をかなぐり捨ててでも為し遂げるべきたぐいのものであったし、「楽しい」だなどと語る自らの失言に直言を食らったからといって撤回しなかったのであれば、それはもう大業なぞ為し得なかったことだろう。
うーんこの、裴松之先生、やれやれと首を振られます。
そもそも蜀強奪は龐統の提起した作戦。ただこれが邪道のものだとはどちらもわかっていた。だのに劉備は宴を楽しいといったり、道義心ある征伐である周の武王を引き合いに出すとか、もうどう考えても劉備がダメ。にもかかわらず龐統が謝罪しているのは、いわば自身が罪の片棒を担っている、と表明した言葉に当たるのだ。習どのの論は大筋があっているとは言え、やや大げさな語り口になってしまっている。
なんだこいつのこのウエメセ。
習鑿齒曰:夫霸王者,必體仁義以為本,仗信順以為宗,一物不具,則其道乖矣。今劉備襲奪璋土,權以濟業,負信違情,德義俱愆,雖功由是隆,宜大傷其敗,譬斷手全軀,何樂之有?龐統懼斯言之泄宣,知其君之必悟,故眾中匡其失,而不脩常謙之道,矯然太當,盡其蹇諤之風。夫上失而能正,是有臣也,納勝而無執,是從理也;有臣則陛隆堂高,從理則羣策畢舉;一言而三善兼明,暫諫而義彰百代,可謂達乎大體矣。若惜其小失而廢其大益,矜此過言,自絕遠讜,能成業濟務者,未之有也。
臣松之以為
謀襲劉璋,計雖出於統,然違義成功,本由詭道,心既內疚,則歡情自戢,故聞備稱樂之言,不覺率爾而對也。備宴酣失時,事同樂禍,自比武王,曾無愧色,此備有非而統無失,其云「君臣俱失」,蓋分謗之言耳。習氏所論,雖大旨無乖,然推演之辭,近為流宕也。
(漢籍電子文献資料庫三國志 956頁 ちくま5-201 批判)
○解説
劉備の蜀討伐にある程度めどが立ったところで、宴会が開かれます。そこで龐統はこの征伐が道義にかなっていないものだと直言、いちどは劉備も「武王の殷討伐の時にだって踊り子がいただろう」とそれを非難するのですが、最終的には確かに道義にかなっていない征伐であると劉備も認め、そして龐統も直言があまりにもあけすけであったことを認めます。そして二人はその後楽しく酒を飲み交わした、と書かれています。
ここに習鑿歯がコメントを寄せています。この龐統の直言は君主が道義に背く戦を前に楽しんでいることを批判するための言葉であった。劉備も最終的にはこの言葉を受け入れている。劉備の蜀討伐は道義心をかなぐり捨ててでも為し遂げるべきたぐいのものであったし、「楽しい」だなどと語る自らの失言に直言を食らったからといって撤回しなかったのであれば、それはもう大業なぞ為し得なかったことだろう。
うーんこの、裴松之先生、やれやれと首を振られます。
そもそも蜀強奪は龐統の提起した作戦。ただこれが邪道のものだとはどちらもわかっていた。だのに劉備は宴を楽しいといったり、道義心ある征伐である周の武王を引き合いに出すとか、もうどう考えても劉備がダメ。にもかかわらず龐統が謝罪しているのは、いわば自身が罪の片棒を担っている、と表明した言葉に当たるのだ。習どのの論は大筋があっているとは言え、やや大げさな語り口になってしまっている。
なんだこいつのこのウエメセ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
七絃──キンのコト雑記
国香
エッセイ・ノンフィクション
琴をキンと読めないあなた!
コトとごっちゃにしているあなた!
小説『七絃灌頂血脉』シリーズを読んで、意味不明だったという方も、こちらへどうぞ。
本編『七絃灌頂血脉──琴の琴ものがたり』の虎の巻です。
小説中の難解な楽器や音楽等について、解説しています。
これを読めば、本編の???が少しは解消するかもしれません。
西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる