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附録2:上三国志注表

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臣松之言:臣聞智周則萬理自賔,鑒遠則物無遺照。雖盡性窮微,深不可識,至於緒餘所寄,則必接乎麤跡。是以體備之量,猶曰好察邇言;畜德之厚,在於多識往行。伏惟陛下道該淵極,神超妙物,暉光日新,郁哉彌盛。雖一貫墳典,怡心玄賾,猶復降懷近代,博觀興廢。將以總括前蹤,貽誨來世。

 臣松之しょうしが申し上げます。叡智が行き渡ることによりあらゆる理屈が明らかとなり、遙か遠方にまで照らし出しきれぬ者がなくなる、と聞いております。この不才浅識の身であっても、いま接しうる限りの古来の書物に行き当たることにより、多少はその助けとなるものを確保することが叶いましょう。礼記らいき中庸ちゅうようにはしゅんが身近なことより多くのことを察したと述べており、周易しゅうえき大畜だいちくには君子が古の君子らが過去の出来事に多く範をとることにて徳を蓄えた、とも書かれております。伏して思いまするに、陛下の進まれるご政道は深淵の極みにあり、そのお心はあらゆる宝物よりも貴きもの。そのご威光は日にまばゆさを増し、その豊かさをますます盛んとなさっておいでです。ここで古の典籍を通覧なされ、そのお心を豊かになされたとて、一方では近代の興廃にもやはり広く目をお向けになることが求められましょう。ゆえに近代の出来事を総括し、未来への教訓として示すことが求められるのです。


臣前被詔,使采三國異同以注陳壽『國志』。壽書銓敘可觀,事多審正。誠遊覽之苑囿,近世之嘉史。然失在於略,時有所脫漏。臣奉旨尋詳,務在周悉。上搜舊聞,傍摭遺逸。按三國雖歷年不遠,而事關漢、晉。首尾所涉,出入百載。注記紛錯,每多舛互。其壽所不載,事宜存錄者,則罔不畢取以補其闕。或同說一事而辭有乖雜,或出事本異,疑不能判,並皆抄內以備異聞。若乃紕繆顯然,言不附理,則隨違矯正以懲其妄。其時事當否及壽之小失,頗以愚意有所論辯。自就譔集,已垂期月。寫校始訖,謹封上呈。

 先ごろ陛下より「陳寿ちんじゅが著した『国史こくし』についての三国の歴史に関する異同を注釈せよ」との詔勅を賜りました。陳寿が書として残した功績は素晴らしく、記された事象についても正しき内容が数多に上ります。実にかぐわしき庭園を散策するかのような心地にさせてくれる、近世の嘉史であると申せましょう。ただしその簡略さにより多くの欠落を招いてもおります。そこで臣は陛下よりのお志を賜り、当時の事象をより詳細に掘り込めるよう、数多の書籍に当たり尽くしました。可能な限り過去のエピソードにも当たりましたし、手近なところに残っていた異聞にも当たりました。三國の事績はさほど過去のことでもございませんが、その内容は前史の漢《かん》、後史の晋《しん》にも深く接続してございます。その収集する対象の年数も、およそ百年間にわたるものとなりました。様々な注釈には錯綜した内容もあり、多くの矛盾を内包してございます。陳寿が記載しなかった部分を他の書の内容にて補足しようにも、その錯誤のゆえに補完しきれない箇所も多くございました。あるいは陳寿と同じ事績を語るにしてもまるで違った内容を載せていたりもしており、ではどちらが正しいのかを判別しきれぬ箇所も多くございました。ならばそのすべての異聞を併録すべき、と判断致しました。一方で、異聞の理屈が明らかにおかしい場合には、その理屈のおかしさを糾弾する方向でも記しております。様々な事績の内容と当否、あるいは陳寿の些細な過失につきましては、この愚昧をおして敢えて述べさせて頂いた箇所もございます。斯くして記録の収集を始めてより年月を頂戴し、ようやく著述校正が終了致しましたため、ここに謹んで本書を献上致します。


竊惟繢事以眾色成文,蜜蠭以兼采爲味,故能使絢素有章,甘踰本質。臣寔頑乏,顧慚二物。雖自罄勵,分絕藻繢,既謝淮南食時之敏,又微狂簡斐然之作。淹留無成,祇穢翰墨,不足以上酬聖旨,少塞愆責。愧懼之深,若墜淵谷。謹拜表以聞,隨用流汗。臣松之誠惶誠恐,頓首頓首,死罪謹言。元嘉六年七月二十四日,中書侍郎西鄉侯臣裴松之上。

 それにつきましても、多種多彩な書物より事績を編み上げる必要があった関係上、必要以上に本質をきらびやかに飾り立ててしまったのではないか、と思われてなりません。臣の実に頑迷偏乏なること、省みるだに、恥じ入るあまり天地に顔向けもできませぬ。必要以上に文辞が華美とならぬよう全力を尽くしたつもりではございますが、前漢ぜんかん淮南わいなん劉安りゅうあんが早朝に楚辞そじ離騒りそう』に関する注釈するよう詔勅を賜ってから朝食の時には既に提出ができたようなすみやかな仕事もできぬのに、それでいてなおも無駄にきらびやかなくせに粗略な論になってしまったのではないか、と思われてなりませぬ。いつまで時間をかけたところでまともなものもできぬまま、ただただ筆を汚したのみに過ぎず、このようなものでは陛下のご聖旨に到底報いることなぞできておらず、その罪深きには処罰がもたらされてもおかしくないものと感じております。恥じ入り恐れ入ることの深さ、さも渓谷に落下したのごとくでございます。謹んで本書を奉ってのち、陛下よりのお言葉を待つに当たり、我が身の汗が留まることを知りませぬ。臣松之、誠におそれ誠におそれ、この首差し出し差し出し、死罪をも覚悟し、謹んで申し上げます。元嘉げんか六年七月二十四日、中書侍郎・西鄉さいごう侯。臣裴松之はいしょうしが奉ります。
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