魔滅術

檸檬牛乳(みるく)

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0魔.黒き者②

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 時は十五年前に遡る。

 「やあっ!」

 掛け声を上げながら、俺は目の前の男へ木刀を振りかぶった。
男はニヤリと笑い、俺の木刀を持つ手を自身の木刀で突いた。

「っ……」

 痛みのあまり、俺は木刀を落とした。
腕をさすりながら、男を睨む。
それを見て、男は高らかに笑う。

「ははははは。グレイ坊もまだまだだなあ。魔術の腕はピカイチなのにな」

 そう言いながら、俺に手を差し伸べたのはグレイシス・イエリン。
この人は父さんの弟であり、俺の叔父だ。
気さくで魔術にも剣術にも長けており、魔術指導と剣術指導をしてくれている。

 手を取り、立ち上がってから俺は赤く腫れ上がった腕に回復魔法をかけた。
腕は一瞬にして元通りになった。

「五歳で、しかも無詠唱でヒールを使えるとか流石だな。剣術なんて習わなくても、お前なら宮廷魔術師長も夢じゃないだろうに」

 叔父さんは木刀を拾って俺に投げた。
木刀を受け取り、再び俺は構えた。

「子供ながらに考えることは色々あるんだよ! それに、俺の夢は冒険者だ!」

 母さんが亡くなり、しばらくして父さんに後妻が嫁いできたのだ。
しかも、お腹には俺の弟がいるというんだから、何も考えない方がおかしい。

 再び叔父さんに向かって走り出した瞬間に、裏山の方から感じたことのない禍々しい魔力を感じた。
叔父さんも感じ取ったようで、真面目な顔をして、俺の方に近付いてきて、耳打ちした。

「こいつはまずそうだな……グレイ坊、俺は使用人達を中に避難させた後、兄貴に連絡してくる。先に避難してろ。絶対裏山には近付くなよ」

 そう言い残し、叔父さんは足早に去っていった。
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