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ソナウ先生の生徒たち 2

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 洞窟の前にはその場の雰囲気に似合わないバーベキュー会場が設営されていた。その中でせっせと肉を焼き、肉を焼き、肉を焼く男が一人。クシャクシャの天然パーマにツナギを着込んだ偉丈夫がそこにいた。
 バーベキュー会場の奥には大きな列車が四両編成で停車している。

「今回は勝ったぁぁ!」

 そう叫びながら洞窟の入り口より出てきたのは、水で出来た盾の上に器用に立ちながら地面を滑るケイトだ。

「おぉケイトが一番か!お帰り!」

「あれ?スタークさん?どうしたんですか?」

 サムズアップで微笑むスタークの姿を見つけたケイトは驚きのあまり問いかける。

「先生から使い魔で連絡が来てな。とりあえず王都からの仕事に巻き込まれたから当面帰れないので、上半期の考査内容として黒色地帯の未発見迷宮を走破してこさせて欲しい、とな」

「げぇ。まじですか。てことは未発見迷宮を探しながらか」

 そうぼやきながら用意されていた椅子に腰掛ける。

「いや、そこについてはソナウ先生から座標をもらってるから大丈夫だ。ほれ、肉食え肉!」

 そういうと串に刺さった脂ののった塊り肉を渡してきた。帰還速度を優先して食事をとってなかったのでお腹がなった。我慢できずにむしゃぶりつく。

「ほれ、ひゃんのにひゅへひゅ?」

「口の中にものを入れて喋るなバカタレ。さっきバーベキューの準備してたらちょっかいかけてきた地竜だな。なかなか美味いだろ?」

 後ろを指差すと骨だけになった無残な残骸が綺麗にならべられていた。

「やーそういやこういう人でしたスタークさんは。そうでしたそうでした。今回は美味いのでありですが」

 そう言って残りの肉にかぶりついていると、残りのメンバーも帰還した。

「「「「「お疲れ様ー!」」」」」

 みんなが飲み物を打ち鳴らし、スタークが用意していた食事に舌鼓をうつ。帰還した時の反応はそれぞれだったが、前期考査の話を聞いたときはみんなが同じ反応をした。

「それではその座標までいかなければなりませんのね?」

「そーだなーウロボロスで4日半てところだな?」

「…眠い」

「そこの迷宮の特徴などご存知ではなかろうか?」

「ばっかオメー未発見だぞ?先生がどこから持ってきた情報か知らねーが、座標以外の情報はもらってねーよ」

「むう。困った。どれほどの道具が必要か目処がたたん」

「そこも含めての考査扱いじゃないかなぁクーロ?」

「そうですわ。黒色地帯の未発見迷宮なんて星の数程あるんですのよ?それを踏破してこいと先生がおっしゃるんですから力尽くで踏破するまでですわ!」

 喧々諤々皆が久しぶりの会話を楽しみながら食事の時間は過ぎていった。その周りで時折スタークが笑いながら寄ってきた魔物を叩き潰す音がしていたがそれもいつものことだった。

「明日は朝一から出発だから運転の役割だけ決めとけよオメーらー。運転しないやつは工房車両で装備の点検、倉庫車両で必要な物の補充と盛り沢山だからな」

「「「「はーい!」」」」

 こうして突然始まった黒色地帯試練型迷宮突破試験は満点で幕を閉じ、前期考査へと時間は流れていった。

 翌朝早く車内アナウンスの音がなり、それぞれの一日が始まろうとしていた。

「皆様、おはようございます。本日第一運転手を務めますシェリー・ミ・アーイケです。良い旅をご堪能下さいませ。」

 運転手のシェリーの声が終わると、車体が揺れ始めゆっくりと進みだす。魔導列車と呼ばれるこの列車はソナウ先生個人の持ち物だ。昔黒色地帯深部の迷宮に眠ってたとだけ聞いている。特徴は多々あるが前方の障害物を材料にレールを作り、通り過ぎると再構成し何事もなかったかのように無限に何処までも進むことからウロボロスと名付けられた。しばらく周りの景色に見惚れていると、不意にアナウンスが鳴った。

「こちらスターク、ケイトはどこだ?早く来やがれ」

 その声に時計を見ると、約束の時間まであと10分もある。

「先輩はこれだからなぁ」

 そうぼやきながらも準備は終わっていたので、荷物を持って工房車両へと歩き出した。
 工房車両からは独特の音と匂いが溢れている。機械の動く音、油の燃える匂い、薬品や素材の匂いなどだ。

「急かして悪かったなぁケイト!」

 ものすごい笑顔でスタークはこちらに向かって手を振ってきた。

「先輩はいつもじゃないですか。」

 苦笑しながらテーブルの前の備え付けの椅子に腰掛けた。

「さぁ、装備の点検からいこうか。ってもオメーので特殊なのっていやぁ短杖だけか」

「そうなんですけど。試練型洞窟の中でもう一本短杖を手に入れたのでそちらも見てもらえたらと」

 机の上に工具を出していたスタークの前に二本の短杖を並べる。それを食い入るように見つめ出したスタークの邪魔をしないように別の机に移動し、防具の点検を始める。ローブは破れや解れもなく、金属の部分鎧も多少の凹みぐらいだったのでそこらへんに置いてあったハンマーで叩いて直す。
 修繕が終わるとすることが無くなったので、スタークが杖を調べている様子を見て時間を潰す。スタークが着けているゴーグルの表面には目まぐるしく色々な文字が流れていく。それを見ながら色々な方向から短杖を調べては手元にあるメモ帳に書いていく。

「ケイト!とりあえず元の短杖は問題ない。んでメインにどちらの短杖を使うんだ?」
「どういうことですか?」

「いや、こりゃあおめぇどちらも今のお前の魔力容量を受け止めるだけの素晴らしい逸品だからよ。どちらかしか使わないなら試作してる新装備に片方流用してぇなと。」

「…それは素晴らしいです。では新しく手に入ったほうを新装備に使ってください。」

 了解とばかりにスタークは杖を提げて奥の工房スペースへと入って行った。
 真剣な顔をしていた兄弟子の横顔に頼もしさと、やりすぎないかの不安を感じたのは間違いではないと過去の記憶が密かに告げていた。
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