bun's Boys Love N collection 男同士文集

bun

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episode A アイとヒューゴ カロンとユアン

003. LOVE / 悪戯

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最愛の兄は愛故の憎悪で壊す寸前に
消えてしまった

今思えばそれで良かったのだ
鳥が籠から逃げなければ
あのときの僕は羽根を毟ってしまっていただろう
最悪の結末をむかえていたかも知れない


あれから数ヶ月が経っていた

赦されぬ行為、兄への愛と罪悪感で断ち切れぬ苦しさを紛らわすためにヒューゴは自分を多忙に追い込むことにした

勉強の傍らアルバイトを始めた魔法庁での勤務を終え家路に向かう途中、


車輪と砂利が擦れる雑音に振り向くと

馬車がのろのろとこちらへやって来るのが見えた。

粗末な造りの荷台に乗せられていたのは荷物や家畜、農作物ではなく
数人の人

それは奴隷商人の馬車だった

枷で繋がれた哀れな人々を顔を歪め眺め、積まれた人のうちのひとりの顔に
ヒューゴは、雷に打たれたようにギクリとした

「ユアン………!!!」

思わず叫んだ

ボサボサの髪、薄汚れた体、質素極まりない服
だが、顔立ちは兄のユアン、いや
ユアンの少年時代に瓜二つだったのだ

数ヶ月、後悔とともに忘れようとすればするほど
恋い焦がれた顔だ

居ても立っても居られるわけがなかった


:
:
:
:
:

「アー…アー…ウー…」
「腕をこちらへ」

「ギャウッ…!!」

「ああ、怯えないで…薬を塗るんだよ、これを放っておくと全身疾患になりかねない」

「フゥッ…う~~~」

「染みるかい?でも我慢しておくれ
……次は足首だ…」



居ても立っても居られない衝動にまかせて、ヒューゴは奴隷商人に財布ごと渡し

体臭も髪からとぶシラミもそれすらも愛おしいと言わんばかりに
しっかりと抱き抱え連れて帰りその体を浴室に押し込んだ。

怯え震える体を宥めながら、熱い湯と石鹸で全身を幾度も洗い流し
ユアンが少年時代に着ていた寝巻と蜂蜜入のミルクを母に用意させ
今は
長椅子で彼を膝に抱きながら
枷で傷付き化膿しかけていた手首足首に軟膏をすり込んでやっていた

「う~…ッ…う~」

「ほら終わったよ。良い子だなぁ」

清潔で柔らかな包帯を巻き終えたヒューゴは満足し
そっと彼の顔を包み込み覗き込む

「あー…」
「…本当に可愛らしいな






ユアンは」


ヒューゴは少年に兄と同じ名前を与え
それはそれはもう、溺愛した

美味しい食事のおかげで
少しづつ肉づきと血色が良くなり
毎晩ベッドで愛を囁くことで
少しづつ表情の種類が増える
少年は日に日に美しくなっていった

ヒューゴも兄に対する過ちなど無かったかのように自尊心を取り戻し
勉学と魔法庁でのアルバイトに励み
時々彼に甘いものや洋服を買って帰り
夜はユアンを抱きしめて眠った

大事に
大事に
もう二度と間違えないように…

スキンシップはゆっくりとだが確実に濃いものになっていった

ある嵐の夜
雷に怯えるユアンの柔らかな頬に初めて口づけをし
寝かしつけ…

ある朝、成長の兆しで大きくなった彼のデリケートな部分を唇でやさしく包み込み吐精させてやった

「あ~… …ッ、ん~…ッひゅ…ご…」

「かわいい、ユアン…」

思春期の少年はわけも分からぬ刺激にすぐに夢中になった

「グスッ…ひゅ…ご…うぇっ…ッ」

またある朝には甘い夢から覚めシーツを汚してしまった彼の涙を舐めとりながら抱きしめてやったりもした

(急いでは駄目だ ゆっくりゆっくり愛でて育てよう
この青いトマトが真っ赤に熟してしまわぬよう
ゆっくりゆっくり)

だけど
それは脆くも崩れる儚いゆめ

少年の中に微かな自我が芽吹き始めたことに夢見心地のヒューゴは気がつくことができなかった


ある夜のこの部屋の可愛らしいひめごと
鼻にかかった鳴き声とリップ音が響く

感じやすい場所とこれから感じやすくさせてやりたい場所を交互に愛撫していく唇と舌と指先

「ひゅ…ゴ…ッ…ァ、あんッ~ん~~」
「いい子だ ユアン
もっと鳴いてごらん」

鳴いてごらん…

下着の中に手を忍ばせたそのとき
少年のマスカットのような大きな瞳から
ボロリとしずくが溢れおち

「ゔーぁー…ッ…」

鳴き声ではなく泣き声が迸った

ギョッとしたヒューゴはすぐに手をとめ
少年の頰を包み

「ユアン…!ユア…どうした?どこか苦しかったかい」

「ひぅぅう…ッ…アーーッ…ひゅ…ッ」

「ユアン…!!」

少年の瞳の揺らめきは言葉を知らぬ彼の心を饒舌につたえた

-------- ぼくはユアンじゃない

「ひぅッ…ひぐ…ッ…ヒューゴ」

-------- ぼくはだれなの

さめざめと泣き続ける少年に手を伸ばす。

「く…ッ、ユア…  おいで」

ヒューゴは今まで感じたことのない、兄のユアンが消えてしまったあのときとは違う種類の遣る瀬無さごと
少年を抱きしめることしかできなかった



翌日、少年は消えた

ヒューゴがわざとドアの鍵をあけておいたのだ

「どうしてうまくあいせないんだろう」
「どうしてこわしてしまうんだろう」
「どうしてぼくはこんなにもふじつなのだろう」

消えてしまいたいが自分を消せる魔法は知らないし姿を消す勇気もない

そんな思いで過ごす
あさひるよる
あさひるよる
あさひる…

よるに
小鳥は籠に舞い戻ってきた


ドンッ!!

蹴り飛ばす勢いでドアを開け
裸足で泥まみれになった彼が
胸に飛び込んできたときには
安堵のあまりヒューゴも泣いた


「ウゥゥ…ぅ…ヒュ…ゴ…ッ」
(ぼくをすてないで)
「うん」
「ん~…ン、ヒュ…ゴ」
(ぼくにはヒューゴしか頼れる人がいないんだ)
「うん、わかってる。わかってるよ」



何十分も互いに縋りつくように抱きしめあったあと
ヒューゴは少年を
初めて出会ったあの日のように熱い風呂に入れてやり、たらふく食わせ
あたたかなベッドに運んでやった


月の無い夜は星がたくさんまたたく


「おまえ、この3日間どこを冒険してきたんだい?」
「……う~…あ~…」

ヒューゴは腕枕に少年を抱きながらため息まじりの声でつづけた

「明日から言葉と読み書きを教えてやる。話しができるようになったら
いずれ聞かせておくれ」
「あ~…?…」

「それから学校にも行かせてやる。友だちを沢山つくって好きな仕事に就くんだ
それまでは側に居てくれ」
「あー…あー…。うー…。」
「お前を、育てたいんだ」

今にも舟をこぎだしそうな少年の黄金色の髪の毛を撫でていた手をとめ、少し真剣味を増した声で、

「俺が知ってること何でも教えてやるから


お前は俺に愛し方を教えてくれ」

「あー…?いー…?」

「そうだ『アイ』だ。上手に言えたな。


…愛してる。」




「お前の名前は今日から、アイだ」


いくつもの星がこぞって輝きを増すころに
アイの小さな寝息を聞きながら
ヒューゴはずっとその髪をすきつづけた


 


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