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二度目は許さない
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「リーナさんはわたくしに勝とうと躍起になっているように思えます」
「は? 勝つ、とは……?」
「貴方がわたくしではなくリーナさんを選んだことにより、彼女の中でわたくしは彼女よりも下の立場と認識されました。そんな下位の存在であるわたくしが、貴方の代わりに次期当主となるジョエル様と婚約を結ぶ。それを知った時、彼女はどう思ったでしょうね?」
「どう思うんだ……?」
「当然“許せない”と思ったことでしょう。下の立場と認識したわたくしが新しい婚約者が出来て再び貴族夫人の座を手にすることが許せなかったはず。だからわざわざわたくしの邸まで来て『絶対にアンタを後悔させてやる』と宣言までしたのですよ。おかしいですよね? 別に彼女が幸福になることに“わたくしの後悔”は不必要ですのに」
「リーナがそんな事を……? う、うそだ……あんなに可憐で大人しいリーナがそんな事を言うはずが……」
「信じる信じないはともかくとして、リーナさんがジョエル様を篭絡しようとしていることは確かです。ジョエル様は素敵な方ですし、彼の愛人になれば贅沢も出来ます。そして二度もわたくしから婚約者を奪うことにより、わたくしに勝ったと優越感に浸れますね。ですが、わたくしがそれを許すとお思いですか……?」
スッと目を細めたカロラインに元婚約者は鳥肌が立った。
冷たく、威圧の込められたその表情は上位者のそれ。
人の上に立つ者特有の他を圧倒する雰囲気に彼は喉を「ヒュッ」と鳴らす。
「一度目は許しましたが、二度目は許しません。これ以上ジョエル様に近づこうものなら容赦はしない」
鈴が鳴るような可憐な声から一転した低く圧の込められた声。
聞いたこともないほどの恐ろしい声音に元婚約者は恐怖で顔を青くする。
「よ、容赦はしないって……まさか、リーナを害するつもりか?」
「まあ! むしろ、どうしてわたくしが一切の危害を加えないと思うのです?」
「ふ……ふざけるな! そんなこと僕が許すと思っているのか!?」
「貴方の許しなんて必要ありません。流石に二度も馬鹿にされては、こちらも堪忍袋の緒が切れるというもの。わたくしが一言命じれば、平民の女性一人始末するなど簡単なことです」
「カロライン! 権力を盾にして恥ずかしくないのか!?」
「二度も馬鹿にされたまま黙っていてはそれこそ恥というもの。それに、本当でしたらリーナさんは一度目の段階で始末されるところでしたのよ?」
「は……? ど、どういうことだ!?」
「どうもこうも……娘の婚約を台無しにされた我が父が怒らないとでも思いました? 父はひどくご立腹で……リーナさんとリーナさんのご家族を全員始末すると仰っておりましたのよ?」
「え………………?」
「そんな父の怒りを宥めたのは誰であろうわたくしです。感謝されこそすれ、罵倒される筋合いはありません」
「え? ど、どうして君がリーナを……?」
「それはわたくしが貴方を愛していなかったからです。リーナさんの存在によりわたくしが受けた損害は貴方との婚約解消のみ。わたくしが貴方の家に嫁ぐという未来は変わりません。損害がその程度なら、別にリーナさんに罰を与える必要もないと思いました」
「は? え……愛していなかった? 嘘だろう?」
「……どうして嘘をつく必要が? 以前にも申し上げたではありませんか、別に貴方を愛してなどいないと」
あれだけ否定したのに、どうして未だに自分が愛されていると思うのか。
元婚約者の思考は相変わらず不明だ。
その自信はどこからくるのだろう。
「帰ってリーナさんにお伝えください。これ以上ジョエル様に付き纏うなら容赦はしない、と。わたくしの愛する人を狙ってただで済むと思わないことですわね……」
地を這うようなカロラインの低い声に元婚約者は「ひいっ!?」と悲鳴を上げた。
そして目に涙を滲ませ、縋るような視線を彼女に向ける。
「愛しているだと……? 君が……ジョエルを?」
元婚約者の質問にカロラインは満面の笑みで「ええ」と答える。
そして隣にいるジョエルに目を遣り、互いに視線を交わし合った。
「嘘だ……! どうしてジョエルに……」
絶望して頭を抱え始めた元婚約者の姿にカロラインは首を傾げた。
どうして自分がジョエルを愛していると告げただけでそんなに悲しむのか意味が分からない。
「そういうわけですので、二度とリーナさんをジョエル様に近づけないよう気を付けてください。ああ、それとリーナさんが貴方以外に余所見しないようしっかり見張っていた方がよろしいですよ」
「は? 余所見……?」
「他の貴族令息に擦り寄るかもしれない、ということです」
「なっ……!? いくら何でも僕がいるのにそんなはしたない真似をするわけないだろう! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「貴方がいるのにジョエル様に擦り寄っていますけど? まあ、とにかくお二人仲睦まじくお過ごしください。それではもう夜も遅いのでお帰りを」
カロラインが手を叩くと護衛騎士が数名部屋へとやって来る。
屈強な体の彼等に両腕を掴まれ、抵抗むなしく元婚約者は力づくで外へと連行されていった。
「は? 勝つ、とは……?」
「貴方がわたくしではなくリーナさんを選んだことにより、彼女の中でわたくしは彼女よりも下の立場と認識されました。そんな下位の存在であるわたくしが、貴方の代わりに次期当主となるジョエル様と婚約を結ぶ。それを知った時、彼女はどう思ったでしょうね?」
「どう思うんだ……?」
「当然“許せない”と思ったことでしょう。下の立場と認識したわたくしが新しい婚約者が出来て再び貴族夫人の座を手にすることが許せなかったはず。だからわざわざわたくしの邸まで来て『絶対にアンタを後悔させてやる』と宣言までしたのですよ。おかしいですよね? 別に彼女が幸福になることに“わたくしの後悔”は不必要ですのに」
「リーナがそんな事を……? う、うそだ……あんなに可憐で大人しいリーナがそんな事を言うはずが……」
「信じる信じないはともかくとして、リーナさんがジョエル様を篭絡しようとしていることは確かです。ジョエル様は素敵な方ですし、彼の愛人になれば贅沢も出来ます。そして二度もわたくしから婚約者を奪うことにより、わたくしに勝ったと優越感に浸れますね。ですが、わたくしがそれを許すとお思いですか……?」
スッと目を細めたカロラインに元婚約者は鳥肌が立った。
冷たく、威圧の込められたその表情は上位者のそれ。
人の上に立つ者特有の他を圧倒する雰囲気に彼は喉を「ヒュッ」と鳴らす。
「一度目は許しましたが、二度目は許しません。これ以上ジョエル様に近づこうものなら容赦はしない」
鈴が鳴るような可憐な声から一転した低く圧の込められた声。
聞いたこともないほどの恐ろしい声音に元婚約者は恐怖で顔を青くする。
「よ、容赦はしないって……まさか、リーナを害するつもりか?」
「まあ! むしろ、どうしてわたくしが一切の危害を加えないと思うのです?」
「ふ……ふざけるな! そんなこと僕が許すと思っているのか!?」
「貴方の許しなんて必要ありません。流石に二度も馬鹿にされては、こちらも堪忍袋の緒が切れるというもの。わたくしが一言命じれば、平民の女性一人始末するなど簡単なことです」
「カロライン! 権力を盾にして恥ずかしくないのか!?」
「二度も馬鹿にされたまま黙っていてはそれこそ恥というもの。それに、本当でしたらリーナさんは一度目の段階で始末されるところでしたのよ?」
「は……? ど、どういうことだ!?」
「どうもこうも……娘の婚約を台無しにされた我が父が怒らないとでも思いました? 父はひどくご立腹で……リーナさんとリーナさんのご家族を全員始末すると仰っておりましたのよ?」
「え………………?」
「そんな父の怒りを宥めたのは誰であろうわたくしです。感謝されこそすれ、罵倒される筋合いはありません」
「え? ど、どうして君がリーナを……?」
「それはわたくしが貴方を愛していなかったからです。リーナさんの存在によりわたくしが受けた損害は貴方との婚約解消のみ。わたくしが貴方の家に嫁ぐという未来は変わりません。損害がその程度なら、別にリーナさんに罰を与える必要もないと思いました」
「は? え……愛していなかった? 嘘だろう?」
「……どうして嘘をつく必要が? 以前にも申し上げたではありませんか、別に貴方を愛してなどいないと」
あれだけ否定したのに、どうして未だに自分が愛されていると思うのか。
元婚約者の思考は相変わらず不明だ。
その自信はどこからくるのだろう。
「帰ってリーナさんにお伝えください。これ以上ジョエル様に付き纏うなら容赦はしない、と。わたくしの愛する人を狙ってただで済むと思わないことですわね……」
地を這うようなカロラインの低い声に元婚約者は「ひいっ!?」と悲鳴を上げた。
そして目に涙を滲ませ、縋るような視線を彼女に向ける。
「愛しているだと……? 君が……ジョエルを?」
元婚約者の質問にカロラインは満面の笑みで「ええ」と答える。
そして隣にいるジョエルに目を遣り、互いに視線を交わし合った。
「嘘だ……! どうしてジョエルに……」
絶望して頭を抱え始めた元婚約者の姿にカロラインは首を傾げた。
どうして自分がジョエルを愛していると告げただけでそんなに悲しむのか意味が分からない。
「そういうわけですので、二度とリーナさんをジョエル様に近づけないよう気を付けてください。ああ、それとリーナさんが貴方以外に余所見しないようしっかり見張っていた方がよろしいですよ」
「は? 余所見……?」
「他の貴族令息に擦り寄るかもしれない、ということです」
「なっ……!? いくら何でも僕がいるのにそんなはしたない真似をするわけないだろう! 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「貴方がいるのにジョエル様に擦り寄っていますけど? まあ、とにかくお二人仲睦まじくお過ごしください。それではもう夜も遅いのでお帰りを」
カロラインが手を叩くと護衛騎士が数名部屋へとやって来る。
屈強な体の彼等に両腕を掴まれ、抵抗むなしく元婚約者は力づくで外へと連行されていった。
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