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危うい彼女

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「彼女がああなったのは元々の性格もあるかもしれませんが、貴方が原因でもあるのでは?」

「は……? 僕が原因だと……?」

「ええ、貴族家嫡男である貴方と恋仲になり、貴族令嬢である婚約者よりも平民の自分を優先し、愛してくれる。年頃の乙女が夢見る恋物語のような話ですわね? ほとんど奇跡に近いですよ、こんな展開。そんな奇跡を味わった自分は特別な人間だと勘違いしてしまうのではなくて?」

「勘違い? 事実だろう、それは……」

「事実は貴族である貴方に選ばれて愛された、という部分だけですよ。けして彼女が他の人間より優れた特別な存在というわけではありません。ですが、少なくとも彼女は貴族であるわたくしよりも自分は優れた存在なのだと思い込んではおりますね」

「はっ……! 実際そうだろう? 僕にとってリーナは君よりも優れた女性なのだから! 負け惜しみは止めろよ、恥ずかしいぞ?」

「いえ、重要なのはそこではありません。わたくしとリーナさんのどちらが優れていて、どちらが上だからとか、そういう問題ではないのです。重要なのは彼女が何が何でもわたくしよりと思っていること。そしてそう思わせたのが貴方ということです」

「え? はあ……? どういう意味だ、それは……」

 意味が分からないと困惑する元婚約者。
 一方でジョエルはカロラインが言わんとしている意味が分かったようだ。

「なるほど。確かに彼女は貴女に対して敵意を持っていましたね。以前教会でたまたま彼女が貴女と居合わせた際も、貴女を見下すような態度をとっておりました。あれは非常に危険ですね……」

「ジョエル、お前までなんだ! リーナの何が危ないというんだ!」

 自分だけ分かっていないことに焦った兄はジョエルに食ってかかる。
 ジョエルはそんな兄を呆れた表情で一瞥した。

「分からないですか? 平民が貴族を見下すなんて普通じゃ有り得ませんよ。平民が貴族に無礼を働けば始末される恐れがある。カロラインが理性的だったから兄上の恋人は無事なのであって、これがもっと気性の激しい貴族であれば簡単に首を切られますよ?」

「え……?」

 身分制度が厳しいこの国で平民が貴族を見下すことは自殺行為だ。
 だからこそ平民は皆貴族を恐れ敬う。もし彼等の怒りを買えば自分達に害が及んでしまうから。

 そんな身分社会でリーナのカロラインに対する態度は有り得ないものだった。
 貴族令嬢を見下すなんて真似をすれば最悪命がとられかねないのだから。

「そんな子供でも分かるような常識を忘れてしまうほど、根拠のない自信を持ってしまったのですよ。兄上の恋人は貴族である兄上に選ばれたことによって、自分は平民だが貴族令嬢よりも優れた存在であると勘違いしております。ああ……だからカロラインにあんなに敵意を剝き出しにしたのか」

「は……? 何のことだ?」

「あの時僕は彼女よりもカロラインを優先しました。それが彼女の怒りに触れたようで、みっともなく喚いておりましたよ。『そんな女どうでもいいでしょう』と」

「嘘だ! あの可憐なリーナがそんな汚い言葉を使うはずが……」

「いえ、事実です。彼女は自覚があるのかないのか分かりませんが、自分がカロラインよりも優先されて当然だと思っているのでは? でもそれをしてくれるのは兄上だけです。それを全く分かっていない」

 唖然とする兄を一瞥した後ジョエルはカロラインの方に目を向けた。
 彼女は小さく頷き再び口を開く。
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