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再び元婚約者

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「ご無沙汰しております、兄上。本日はどのような御用でしょうか?」

 案内された応接室の椅子に座って待つジョエルの兄は見るからに苛々した態度をしていた。ジョエルは兄のそんな様子に白けた目を向ける。

「……は? カロライン? どうして君がここにいる!?」

 ジョエルに寄り添うように立っていたカロラインに気付き、兄は驚愕した顔で彼女を指差した。その無礼な態度にジョエルは顔から表情を消し、冷めた声音で言い放つ。

「僕の婚約者に無礼な態度はおやめください。それにもうカロラインは兄上とは無関係なのですから気安く名前を呼ぶのもおやめください」
 
 庇う様に前に立つジョエルをカロラインはうっとりとした目で見つめた。
 そんな彼女の様子を見た兄は椅子から立ち上がり喚き始める。

「なっ……なんだ、その目! 僕にそんな目を向けたことないのに……どうしてジョエルにだけ……!」

 訳の分からないことを騒ぎ始めた兄にジョエルは唖然としてしまった。
 今は自分と話しているはずなのに、どうして急にカロラインに意味不明の難癖をつけたのか不思議でならない。

「あらあら……相も変わらず会話が出来ない御方ですこと。わたくしがジョエル様を見つめる目が気に入らないとでも?」

 意味不明な発言をする兄に冷静な対応をし始めたカロライン。
 ジョエルは彼女の落ち着いた態度に少しだけ驚いた。

「だ、だって……僕にそんな目を向けたことなかったじゃないか! なのに、どうしてジョエルには……」

「わたくしの目つきがジョエル様と貴方で違うのであれば、それは愛情が有るか無いかの違いですわね」

「愛情だと……? 君はジョエルを愛しているというのか!?」

「ええ、そうですわ。わたくしはジョエル様を心から愛しております。そして貴方様のことはこれっぽっちも愛しておりません」

 きっぱりと拒絶され、兄は分かりやすく落胆した様子を見せた。
 力なく倒れるように椅子に座り顔面蒼白で俯く。
 それを見たジョエルは心底呆れた顔を兄へと向けた。

「兄上は一体何がしたいのです? そもそも僕に用事があったのではないのですか?」

「……そうだが、だってカロラインがここにいるとは思わなくて……」

「彼女は僕の婚約者です。だから僕と一緒にいても何もおかしくありません。で、一体何の用事ですか? 特に用もないのでしたらもうお帰り頂きたいのですけど……」

 まだ正式な婚約は交わしていないし、ここにカロラインはいるのは別の理由がある。だがそれをわざわざ兄に伝える必要もないだろうとジョエルは判断した。

「ま、まて! 用事ならある! 最近リーナがここに来ているのだろう!?」

「リーナ……? ああ、もしかして兄上の恋人のことですか? ええ、はい、最近よくここへ来ますね。迷惑ですから兄上の方から来ないように言って頂きたいのですけど……」

「なっ……お前その言い方は何だ! 折角リーナがお前と仲良くしようと足を運んでやっているのに、お前はいつも冷たい態度しかとらないそうだな? リーナはいつも泣いているんだぞ!?」

「仲良くする必要あります? 兄の恋人と必要以上に交流を図る意味って何ですか?」

「それは……義理の姉弟になるのだし、仲良くなりたいと思うのは普通だろう?」

「……あまり言いたくないですけどね、兄上の恋人が僕に望んでいるのは義理の姉弟の仲ではないと思いますよ」

「はあ!? お前……リーナが色目を使っているとでも言いたいのか!?」

「はい、その通りです。兄上が傷つくだろうと思い今まで黙って参りましたが、そんな『義理の姉弟になるのだから仲良くしてやれ』などと強要するのでしたら話は別です」

「ふざけるな! リーナはそんなふしだらな女ではない!」

「何を根拠にそんなことが言えるのです? 彼女は兄上に婚約者がいながら平然と恋仲になるような非道徳的でふしだらな女性ではないですか」

「違う! 婚約が決まる前からリーナとは恋仲だった! だから彼女は何も悪くない!」

「いや、悪いでしょう。兄上に婚約者が出来ても平然と付き合い、あまつさえその婚約者の前に堂々と姿を現すような人ですよ? どう考えても悪気があるし、性格も悪いですよ」

 平然とリーナを罵るジョエルに兄は顔を真っ赤にして喚き散らす。
 その様子を黙って見ていたカロラインは、ふとあることを思い出した。

(あら……? もしかして以前教会でジョエル様に擦り寄っていた女性って……リーナさんだったの?)

 以前教会で目にした服装も化粧も派手な女性。
 あの時は分からなかったが、もしかしてあの女性はリーナだったのかと今更ながら気づいた。
  
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