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想いが通じ合う
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急遽別室にて話し合いをすることとなったカロラインとジョエル。
向かい合わせで椅子に座った二人の間には沈黙が流れていた。
「レディ、今まで黙っていて申し訳ございませんでした……」
先に沈黙を破ったのはジョエルだった。
彼は申し訳なさそうに眉根を下げ謝罪の言葉を紡ぐ。
「どうして……言ってくれなかったのですか?」
今の今まで許されぬ恋に苦しみ嘆いていたというのに。
それでも折り合いをつけようと己を自制してきたのに。
「すみません……! 全ては僕の浅はかな欲のせいです……。それが貴女を泣かせる結果になるなんて……本当に申し訳ない」
「……え? 浅はかな欲、ですか……?」
「その……貴女の悩みが解決した後、改めて貴女に求婚しようと考えておりました」
「求婚……? ですが、わたくしたちは婚約を交わす予定で……」
「そうです。僕の家と貴女の家との事業提携の為の婚約ですね。だけど、そういった政略で結ばれた関係ではなく……その……」
ジョエルは顔を真っ赤に染め、言い淀む。
やがて決意したように顔を上げ、カロラインをじっと見つめた。
「貴女とは……互いに想い合う関係になりたかったのです。レディ・カロライン、僕は……貴女に恋をしました。貴女がこの教会を訪れたあの日、女神が地上に舞い降りたかと……」
「え……? え? し、神父様……?」
「どうぞ僕の事はジョエルとお呼びください」
ジョエルの真剣な眼差しにカロラインの胸が甘く疼いた。
「はい……ジョエル様」
カロラインが名を呼ぶとジョエルは嬉しそうに笑う。
その屈託のない笑顔が可愛くて、胸の動悸が激しくなる。
「貴女の姿を見た瞬間、体に雷が落ちたかのような衝撃を感じました。一目惚れというのは本当に存在すると実感しましたよ。おまけにその恋した女性が僕の婚約者になる方だと知り、あの時は天にも昇る心地でした……。そして貴女とは想い合う関係になりたいと欲が湧いてしまった。すみません、貴女がひどく悩んでいたにも関わらず、このような邪なことを考えてしまって……」
「いいえ……嬉しい。わたくしも……貴方のことを……」
見つめあう二人は互いの瞳に互いだけを映した。
ここが神聖な教会であることも、隣の部屋に教皇を待たせていることすら忘れ、ただ互いの事だけで頭が一杯になっていく。
「嬉しい……、とても嬉しいです。好きになった人が婚約者だなんて……まるで夢を見ているみたい」
こんな奇跡があるだろうか。
好きになった人が未来の夫になる人だったなんて。
「貴女にそう言ってもらえるなんて……僕も夢を見ているようだ。好きです、愛しています……カロライン」
細く見えるがしっかりと筋肉のついた腕がカロラインを抱きしめる。
好きな男性の温もりにカロラインはうっとりと酔いしれ、ほっそりとした腕を彼の背中へと回す。
「ジョエル様……わたくしも、ずっと貴方をお慕いしておりました」
やっと、言えた。
好きな人に、好きだと伝えられることがこんなにも嬉しいなんて。
涙ぐむカロラインの額にジョエルは優しく口づけを落とした。
「泣かせてしまって申し訳ありません。想いを交わしたうえで求婚したいなどという欲を出したせいでこんな……」
「いいえ、そう思ってくださったことは嬉しいです。でも、今後隠し事は控えてくださいませね?」
「は、はい……約束します」
戯れるように二人は見つめ合い、微笑み合う。
そしてそのまま自然と唇を重ねた。
「ん……ジョエル様……」
「カロライン、好きです……。絶対に貴女を離しません。必ず僕が貴女を守ってみせますから……ずっと傍にいてください」
「嬉しいです……。ずっとお傍においてください……」
こうして触れ合っているだけで心が満ちる。
傍にいるだけでここまでの幸福を感じる人なんて、きっとこの先二度と現れない。
一生に一度の恋が成就し、ずっとその相手と共にいられることはきっと奇跡に近い。
(ジョエル様とこうして結ばれたのは彼等のおかげとも言えるわね……。悔しいけどそこだけは感謝するわ)
元婚約者が不貞を働き、そして神を自称する青年に狙われたことによりジョエルと出会い、結ばれた。
傷ついたし怖かったがそこだけは感謝してもいいとカロラインはジョエルの腕に抱かれながら密かに思う。
こうして想いを確かめ合った二人はしばらく抱き合ったまま離れようとしなかった。
隣の部屋に高貴な身分である教皇を待たせているとは理解していても、互いの温もりを手放せない。
「ジョエル様……そろそろ戻りましょう。これ以上お待たせしては猊下に申し訳ないです」
カロラインがそう告げるとジョエルは名残惜しそうな顔を見せた。
「もう少しこのままでいたいです……。それに貴女に説明をと言ったのは猊下です」
高貴な人に対しての気安い態度にカロラインは唖然としてしまった。
「ジョエル様……猊下に対してそれは……んっ……」
苦言を呈そうとしたカロラインの唇に自分のを重ねるジョエル。
好きな人からの口づけにカロラインはうっとりと酔いしれ、それ以外何も考えられなくなってしまった。
向かい合わせで椅子に座った二人の間には沈黙が流れていた。
「レディ、今まで黙っていて申し訳ございませんでした……」
先に沈黙を破ったのはジョエルだった。
彼は申し訳なさそうに眉根を下げ謝罪の言葉を紡ぐ。
「どうして……言ってくれなかったのですか?」
今の今まで許されぬ恋に苦しみ嘆いていたというのに。
それでも折り合いをつけようと己を自制してきたのに。
「すみません……! 全ては僕の浅はかな欲のせいです……。それが貴女を泣かせる結果になるなんて……本当に申し訳ない」
「……え? 浅はかな欲、ですか……?」
「その……貴女の悩みが解決した後、改めて貴女に求婚しようと考えておりました」
「求婚……? ですが、わたくしたちは婚約を交わす予定で……」
「そうです。僕の家と貴女の家との事業提携の為の婚約ですね。だけど、そういった政略で結ばれた関係ではなく……その……」
ジョエルは顔を真っ赤に染め、言い淀む。
やがて決意したように顔を上げ、カロラインをじっと見つめた。
「貴女とは……互いに想い合う関係になりたかったのです。レディ・カロライン、僕は……貴女に恋をしました。貴女がこの教会を訪れたあの日、女神が地上に舞い降りたかと……」
「え……? え? し、神父様……?」
「どうぞ僕の事はジョエルとお呼びください」
ジョエルの真剣な眼差しにカロラインの胸が甘く疼いた。
「はい……ジョエル様」
カロラインが名を呼ぶとジョエルは嬉しそうに笑う。
その屈託のない笑顔が可愛くて、胸の動悸が激しくなる。
「貴女の姿を見た瞬間、体に雷が落ちたかのような衝撃を感じました。一目惚れというのは本当に存在すると実感しましたよ。おまけにその恋した女性が僕の婚約者になる方だと知り、あの時は天にも昇る心地でした……。そして貴女とは想い合う関係になりたいと欲が湧いてしまった。すみません、貴女がひどく悩んでいたにも関わらず、このような邪なことを考えてしまって……」
「いいえ……嬉しい。わたくしも……貴方のことを……」
見つめあう二人は互いの瞳に互いだけを映した。
ここが神聖な教会であることも、隣の部屋に教皇を待たせていることすら忘れ、ただ互いの事だけで頭が一杯になっていく。
「嬉しい……、とても嬉しいです。好きになった人が婚約者だなんて……まるで夢を見ているみたい」
こんな奇跡があるだろうか。
好きになった人が未来の夫になる人だったなんて。
「貴女にそう言ってもらえるなんて……僕も夢を見ているようだ。好きです、愛しています……カロライン」
細く見えるがしっかりと筋肉のついた腕がカロラインを抱きしめる。
好きな男性の温もりにカロラインはうっとりと酔いしれ、ほっそりとした腕を彼の背中へと回す。
「ジョエル様……わたくしも、ずっと貴方をお慕いしておりました」
やっと、言えた。
好きな人に、好きだと伝えられることがこんなにも嬉しいなんて。
涙ぐむカロラインの額にジョエルは優しく口づけを落とした。
「泣かせてしまって申し訳ありません。想いを交わしたうえで求婚したいなどという欲を出したせいでこんな……」
「いいえ、そう思ってくださったことは嬉しいです。でも、今後隠し事は控えてくださいませね?」
「は、はい……約束します」
戯れるように二人は見つめ合い、微笑み合う。
そしてそのまま自然と唇を重ねた。
「ん……ジョエル様……」
「カロライン、好きです……。絶対に貴女を離しません。必ず僕が貴女を守ってみせますから……ずっと傍にいてください」
「嬉しいです……。ずっとお傍においてください……」
こうして触れ合っているだけで心が満ちる。
傍にいるだけでここまでの幸福を感じる人なんて、きっとこの先二度と現れない。
一生に一度の恋が成就し、ずっとその相手と共にいられることはきっと奇跡に近い。
(ジョエル様とこうして結ばれたのは彼等のおかげとも言えるわね……。悔しいけどそこだけは感謝するわ)
元婚約者が不貞を働き、そして神を自称する青年に狙われたことによりジョエルと出会い、結ばれた。
傷ついたし怖かったがそこだけは感謝してもいいとカロラインはジョエルの腕に抱かれながら密かに思う。
こうして想いを確かめ合った二人はしばらく抱き合ったまま離れようとしなかった。
隣の部屋に高貴な身分である教皇を待たせているとは理解していても、互いの温もりを手放せない。
「ジョエル様……そろそろ戻りましょう。これ以上お待たせしては猊下に申し訳ないです」
カロラインがそう告げるとジョエルは名残惜しそうな顔を見せた。
「もう少しこのままでいたいです……。それに貴女に説明をと言ったのは猊下です」
高貴な人に対しての気安い態度にカロラインは唖然としてしまった。
「ジョエル様……猊下に対してそれは……んっ……」
苦言を呈そうとしたカロラインの唇に自分のを重ねるジョエル。
好きな人からの口づけにカロラインはうっとりと酔いしれ、それ以外何も考えられなくなってしまった。
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