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愛弟子?

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「儂はせめてカロリーナの遺体を弔いたいと王籍を外れ神職に就いた。神職者であれば罪人を弔うことも許されるから。カロリーナは自らの意志で消えたのか、それとも誰かにかどわかされたのか、そして彼女の身に何が起こったのか、ずっと分からずじまいだったよ。そしてジョエルからお嬢さんの話を聞いてやっと事実を知れた……」

 教皇はじっとカロラインを見つめた。
 それはまるで彼女を通して違う誰かを見ているようだった。

「カロリーナは……神を自称するに目を付けられ、番として巣に連れ去られたのだな。そしてお嬢さん、君もまた同じ運命を辿ろうとしている」

 同じ運命を、という言葉にカロラインは血の気が引いた。
 自覚はしていたものの、改めて第三者からもそう言われると恐怖が増す。
 そして今、教皇はあの青年を“獣”だと言った。
 それは比喩表現なのか、それとも……。

「お嬢さんが夢で見たという神殿、そこは昔儂も行ったことがある場所だ。カロリーナの遺体のすぐ近くに朽ち果て苔むした神殿があったことを覚えている。そしてそういった場所は盗賊などの根城になることが多い。もしやカロリーナは盗賊に攫われたのかと王家の騎士にそこを捜索させたのだが、それらしき形跡は見当たらなかった。だが、当時捜索にあたっていた騎士が奇妙な事を言っていたのだよ」

「奇妙なこと、ですか?」

「ああ、騎士は何か黒くて大きな獣がいたと言っていたのを覚えている。猿のような熊のような……、とにかく大きくて黄金色の目をした獣が神殿に中にいたと。驚いた彼が剣を向けると獣は慌てて逃げ去ったそうだ」

 黒い毛に黄金色の目?
 あの青年の色と似ている、とカロラインはハッとなった。

「夢に出てきた青年と同じです……。黒い髪に黄金色の瞳をしておりました。まさか……彼の正体は……」

「おそらくはその獣が化けた姿だろう。年経た力を得た獣が人の真似事をして若い女を番として攫う、という話は各地に存在している。情けない話だが、儂はお嬢さんの夢の話を聞くまで気づきもせんかった。カロリーナはあの獣に攫われたのだ……」

 まさか獣がカロリーナを攫ったなどと考えもしなかった、と教皇は哀れな声で呟く。

「こうしてお嬢さんに巡り合えたのも神の思し召しだろう。カロリーナは救えなかったが、お嬢さんは儂が必ず救うと誓う。それがこの老いぼれに出来る唯一の罪滅ぼしだ」

「そんな……教皇猊下自らにそのようなことをしていただくなど、畏れ多いことにございます……!」

「なあに、遠慮なさることはない。それにお嬢さんはとなる女性だ。先達として格好つけさせてほしい」

「え……? え? わたくしが猊下の愛弟子の妻……?」

 いったい何のことだろう、と困惑するカロラインに教皇は目を丸くした。

「なんじゃジョエル、お前さんまだお嬢さんに伝えていなかったのか? 自分がだと」

 教皇は後ろに控える神父ジョエルに呆れた顔を向けた。

「……彼女に伝えるのは、還俗した後でないと……」

「慣習としてはそうかもしれぬが、こんなに顔を突き合わせているのだから伝えないのは失礼にあたるぞ? なあ、お嬢さん」

 同意を求められたカロラインだが、それに頷くことは出来ない。
 彼女は教皇の言葉が耳に入ってこないほどひどく困惑している。

「まさか……神父様が猊下の愛弟子ですか? そして……わたくしの元婚約者の弟君なのですか?」

 カロラインが真っすぐジョエルを見据え、震える声で問いかけた。
 すると彼もカロラインの方に顔を向け、ゆっくりと頭を下げた。

「はい、そうです。不詳の兄が多大なご迷惑をおかけしました……」

 予想外の展開にカロラインは目を見開いて固まってしまった。
 そして徐々に心の内から様々な感情が溢れ、それが外に漏れたかのように涙が零れる。

「ああっ……レディ、すみません! 貴女を驚かせようとか騙そうとしたわけではなく、これには理由が……」

 カロラインの涙を見たジョエルはひどく焦り弁解しようとする。
 そしてそれに呆れた教皇が「話を続ける前に、お前はしっかりとお嬢さんに説明してこい」と二人を部屋から追い出した。
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