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 朧げな意識の中、気が付けば自分の部屋の寝台に横たわっており、そのままウトウトと再び夢の中へと落ちてゆく。

(あら……? この場所、さっきの……!)

 夢の中でカロラインは先ほど青年と出会った石造りの神殿の場所に立っていた。
 いや、立っていたというよりも浮いていると言った方が正しいかもしれない。
 何故なら視点が丁度天井付近から内部を見ているような、例えるなら蝶のようにふわふわと宙に浮いて下界を眺めているような感覚だったからだ。

 そしてよく周囲を見渡すと、苔むした石しかなかった神殿には何処から調達したのか質のいい調度品が置かれていた。

 壁や天井はむき出しの石ではあるものの、地面には緋色に金の刺繡が施されたカーペットが敷かれ、その上に豪華な調度品が置かれている。おまけに天蓋付きの大きなベッドまであり、神殿というより宮殿だと錯覚してしまいそう。

(でも、随分とおかしな配置ね? まるで”とりあえずそこに置いた”よう……)

 バランスなどまるで無視した家具の配置にカロラインは違和感を覚えた。
 中央にタンスが置いてあったり、段差のある部分にテーブルを置いていたりとどうにも使いにくそう。

 その時、室内にいつの間にかあの青年がいた。傍らに山百合を髪に差した令嬢を携えて。

(え……誰かしらあの女性? なんだかわたくしに似ているような……)

 青年が大切そうに肩を抱く令嬢はカロラインによく似ていた。
 髪の色も瞳の色も違うのだが、顔の造りや雰囲気が何となく似ている。

 だがよく見るとその令嬢が着ている服のデザインは大分古い。
 シンプルが主流の今とは違って、重たいほどにフリルやリボンをたっぷりつけたドレス。
 確か何十年も前にこういうものが流行っていたと書物で見たことがある。

『カロリーナ』

 青年の甘く優しい声が聞こえる。
 カロリーナ、と隣に侍る令嬢の耳に囁き、その令嬢はくすぐったそうに微笑んだ。

『ベリル様、お慕いしております……』
 
 互いに見つめあい、互いの名を紡ぐ様子はどう見ても相思相愛の恋人の姿。
 カロラインはその光景に、もしやあの女性が自分の前世『カロリーナ』なのではと考えた。

(それにしても幸せそう……。お互いしか見えていないというのは、ああいう状態を言うのね)

 まるで恋愛物語のワンシーンのよう。
 美しい男性に一心に愛を注がれる乙女の姿にカロラインは憧れを抱いた。

(羨ましいわ…………)

 カロラインも年頃の女として殿方と愛し愛される関係に憧れていた。
 婚約者とそういう関係になれたらいいなとそう願っていたのに、よりにもよって堂々と浮気をする無神経で非常識な相手だった。

 これから先、婚約者と良好な関係を築いていくことはかなり困難だ。
 別の女を侍らせてデートに現れる非常識な輩とどうやって愛し愛される関係になれるというのか。

(わたくしも彼の花嫁になれば『カロリーナ』のように愛してもらえるのかしら……?)

 貴族の義務を全て捨てて、彼を選び、彼の花嫁となる。
 そうすれば彼と二人きりで蕩けるような時間を過ごせるのだろうか。
 
 そう考えているうちにいきなり視界が真っ暗になり、場面が切り替わった。
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